小寺信良の週刊 Electric Zooma!

第877回

Zooma!:ズームレンズ、ズームすること、ズームする人、ズズーンの造語

Lightroom現像にめっちゃ便利! Premiereにも対応した手頃なコンソール「Loupedeck+」

専用コントローラの世界

現代では、あらゆる画像編集をコンピュータ上で扱えるようになった。一部には未だ専用ワークステーションも生き残ってはいるが、プロフェッショナルの現場でもプラットフォームはWindowsかMac OSが主力となり、多くはソフトウェア処理となった。

写真・映像編集コンソールデバイス「Loupedeck+」

ソフトウェアは誰でも触れるが、作業効率は使う人に依存する。よく使う機能はショートカットで切り換えは基本中の基本だが、実際にパラメータを動かすのはマウス操作だったりして、その部分だけ効率が落ちるところである。

なぜならば、多くの調整はパラメータを一つ一つ順番にいじっているだけでは済まず、複数のパラメータのバランスの上に成り立つケースが多いからだ。一方コンピュータのUIはポインタが1つしかないため、複数のパラメータを同時に調整することができない。これは、キーボードを使っても同じである。

そこでプロフェッショナルの現場では、専用のコントローラが用いられる。スイッチャーやカメラコントローラー、カラーグレーディング装置などは、ボタンとつまみの塊になっているが、これは効率性を追求した結果である。

ビデオスイッチャーはボタンの塊
カメラコントローラはつまみの塊

ビデオ編集という点については、これまでジョグシャトルコントローラを別に付けたり、ショートカットごとに色分けされたキーボードを繋いだりという例はあった。だが専用コントローラを繋いだ例は、BlackMagic DesignのDaVinci Resolve用コントロールパネルぐらいだろう。

価格を見ていただければお分かりだが、一番小さいコントローラでも113,800円、ハイエンドなものになると3,408,000円となる。それだけコントローラというのは、値の張る物なのである。

しかしクラウドファンディングで成功したフィンランドのLoupedeckは、AdobeのLightroomに特化した廉価な同名のコントローラを昨年リリース、注目を集めた。その第2弾として、コントローラを増やし、写真以外のアプリケーションにも対応する「Loupedeck+」を今年11月より新たにリリースした。今回はクラウドファンディングではなく、Aamzon等で日本からも普通に買える。価格は34,000円(税込)となっている。なお旧モデルも平行して売られているので、購入時は+かどうか、よく確認していただきたい。

対応OSはWindows 7/8.1/10と、macOS 10.12以降。現在はAdobe Lightroom Classic CCと、Premiere Pro CC、SkylumのAurora HDR、Phase OneのCapture Oneに対応するようだ(Capture Oneにはベータ版対応)。今回はこのLoupedeck+をお借りすることができたので、早速試してみたい。

値段以上に綺麗な作り

Loupedeck+は、一般的なUSBキーボードとほぼ同じサイズのボード上に、14個のつまみ、8つのホイールコントロール、40個のボタンを配したコントローラだ。

サイズ的には普通のUSBキーボード程度の大きさ
Thinkpad X1 Extreamとの組み合わせ

ボタンやつまみにはあらかじめ機能名が書かれているが、これはLightroomでの使用を想定したものとなっている。つまりそれ以外のソフトウェアで使う際には、必ずしも名前と機能が一致しない可能性が出てくる。

数字キーやアルファベットキーはなく、それらはコンピュータ側のキーボードで行なう。つまり、キーボードをこれに差し替えるのではなく、追加して使うものである。

キーの押し具合はやや固めのカサカサした感じで、一般的なメンブレンスイッチのように感じられる。ストロークは5mm程度だ。

キーはやや固めのタッチ

左側のひときわ大きなコントロールダイヤルは、回転させるとクリック感がある。数値を段階的に1つずつ動かすような調整に割り当てると便利だろう。ただこれだけダイヤルが大きいと、ぐらつき感も多少感じる。

クリック付きのコントロールダイヤル

他のつまみはクリックなしでかなり軽く回るが、押し込むとパラメータリセットできるようになっており、間違えて触ってしまっても簡単に元に戻せるようになっているのは心強い。

押し込むとリセットされるつまみ類

8つの小さなホイールは、マウスホイールによくあるような感触で、これも回すと細かいクリック感を感じる。押し込むとリセットがかかるのは、他のつまみ類と同じ動作だ。

色分けされた8つのホイール

接続はUSB Type-Aで、機能割り当てのために専用アプリをインストールする必要がある。

機能割り当ての専用アプリ

Lightroom Classicでは最高のパフォーマンス

では早速使ってみたい。まずはLoupedeck+の標準とも言えるLightroom Classicでテストしてみた。LightroomはAdobe Creative Cloudに対応するLightroomもあるが、アプリの作りがかなり違う。現在のところLightroom Classicのほうが高機能だが、そのうちクラウド連携を追加して一つのアプリに統合されるものと思われる。

今回使用するマシンは、レノボのThinkpad X1 Extreamだ。高いグラフィックス性能と携帯性を両立した、映像作業向けの15インチノートである。ソフトはWindows 10向けのLightroom Classic 8.0を使用する。

画像の読み込みなどは通常のキーボードとトラックパッドで行なうが、それ以降はほぼLoupedeck+だけで作業可能だ。Lightroom Classicの場合、細かい色補正は現像モードで行なうことになる。以降は現像モードでの動作だと思っていただきたい。

画像のブラウズは左右の矢印キーを使う。Fnキーを押しながら左右キーでマルチ選択も可能だ。沢山の写真からOKを選ぶ際にはレーティング機能を使うが、レーティングには数字モードとカラーモードがある。この切り換えも専用ボタンで行なえる。レーティングはその下に横並びで5つあるボタンで行なっていく。

レーティングはShift~などのカラーボタンを使う

大きなコントロールダイヤルは、デフォルトでは画像のローテーションに割り付けられている。一度押し込むとクロップモードに入り、この時は隣のD1がクロップサイズとなる。また矢印キーでクロップ位置の移動ができる。

中央左側のブロックは、輝度に関するパラメータだ。Contrast、Clarity、Exposureはそれぞれコントラスト、明瞭度、露光量を調整できる。D1やD2つまみはその時々で役割が変わり、コントラストをいじっているときはD1つまみは「かすみの除去」、Fn+D1で「切り抜き後の周辺光量」の調整となる。

コントラストに関するつまみは一箇所に固まっている

右側ブロックのTenperature、Tint、Brilliance、Saturationは、色に関するパラメータだ。それぞれ色温度、色かぶり除去、自然な彩度、彩度を担当している。D2はシャープネスの適用量、Fn+D2でノイズ軽減の「輝度」を調整できる。

カラー関係のコントロールは右上に

ざっとこれらのつまみを操作するだけで、絵柄的にはかなりいじれる。最後にヒストグラムを見ながらHighlightsとShadowsをいじって破綻がないように押し込めば、30秒ぐらいでHDR風の画像に仕上げることができる。オリジナル画像と比べたければ、「Before After」ボタン一発で比較画像となる。Screen Modeボタンで全画面表示など、確認作業もスピーディだ。

カラー調整前と後の比較。これぐらいの調整まで慣れれば30秒ぐらいで完了する

カラーグレーディングした結果は、左下にあるCopyおよびPasteボタンで、パラメータを別の写真に適用することができる。同じ補正をいくつかの写真に適用したい際に便利だろう。

また8色に色分けされたホイールは、それぞれのカラーを調整することができる。コントローラの色といじる色が同じなので、感覚的に動かして調整することができる。

ホイールの上部にあるP1から8までのボタンは、Loupedeckが提供するプリセットだ。ちょっと印象を良くしたいという程度なら、まずはプリセットから試してみるのも手だろう。

一方Premiereでは……

では次にPremiere Proでテストしてみよう。Premiereの場合はLightroomと違い、Premiere内からコントロールサーフェスの割り当てが必要になる。10月中旬にレビューした新しい編集ソフト「Premiere Rush」にはこの割り当て機能がないので、使用できなかった。

Premiere Proで使用するにはコントロールサーフェスの割り当てが必要

Premiere Proはアセンブリモード、編集モード、カラーモードなど、作業の段取りに合わせてUIが変化する。一般的に編集と言われる作業は、アセンブリモードか編集モードで行なう作業となる。

一方Loupedeck+としては、デフォルトパネル、Fnキーを押したときのパネル、さらにカスタムモードとしてのパネルがfnキーとの組み合わせで2つと、合計4枚のパネル動作を切り換えて使用できる。例えばデフォルトのパネルでは、映像の再生停止、早送り・巻き戻し等はShift、Ctrl、Commandキーに割り当てられている。多彩な機能をつまみ等で操れる一方で、パネルに書いてある表示と全く関係ない動作となるので、かなり混乱する。

Premiere Proのデフォルトの機能。ボタン表示と全然関係ない動作を割り当てるしかない

よく使う機能としては、映像のIN・OUT設定はC3・C4ボタン、編集点の移動がControl Dial、5フレームごとの移動がD2と、わかりやすくはあるが、タイムラインをこまかく切った貼ったするにはやはりマウス操作が必要になり、Loupedeck+だけで基本的な編集がすべてできるわけではない。

単に編集するといっても、その方法論は素材数や編集の目的に応じていくつもあり、それをデフォルトのプリセットだけでやれるとは考えない方がいいだろう。自分の作業スタイルに合わせてカスタマイズするのがいいとは思う。ただ、一般的な編集機とは違ったタイプのコントローラなので、必ずしも使いやすくなるのかは疑問も残るところだ。

各ボタンの機能割り当ては変更可能

ところがカラーモードになると話が変わる。Premiereのカラー調整のパラメータはLightroomとほぼ同じなので、ボタンやつまみの機能もそれとそっくり同じになる。つまり、ほぼ同じレベルでのカラー調整が可能になるわけだ。PremiereはRAWファイルも扱えるので、グレーディングが必須の編集を行う際には、Loupedeck+はかなり役に立つだろう。

Premiere ProのカラーモードではLightroomとほぼ同じ機能が使える

総論

Loupedeck+は、1つの仕事でかなりの数のRAW現像を行なう必要があるプロユーザーや、RAW撮影を頻繁に行なうカメラ好きは、持っておいて損はないだろう。Lightroomを使うというのが前提にはなるのだが、自分の印象どおりに色をいじって仕上げていく効率は、マウスやトラックパッドでチクチクやっていくのとは全然効率が違う。価格的にもプロからすれば1回でペイできる程度であり、使わない手はないだろう。

一方動画ユーザーの場合、編集作業で役に立つかというと、パネルに書いてある文字と機能が全然リンクしない時点で、ミスが起こりやすく、足手まといになりかねない。しかし全カットになんらかのカラー調整が必要な作品であれば、これは持っておいて損はない。

今後は対応アプリを増やしていくという事だが、動画編集機能そのものにこのパネルを当てはめるのには無理がある。やはりカラーグレーディング機能に特化したコントローラと言えそうだ。そうであれば、現在カラーグレーディングとしては独占的な地位を占めるDaVinci Resolveへの対抗となり得る。

一方で純粋な編集作業向けとして、そろそろ専用のハードウェアコントローラも欲しいところだ。すでにスタンダードと呼べるようなハードウェアの編集機は現場でも滅んでしまって久しいので、まったく新しい設計のコントローラでも受け入れられる素地はあるだろう。

Loupedeck+には、新しい世代のコントローラメーカーとしてぜひ頑張って欲しいところである。

小寺 信良

テレビ番組、CM、プロモーションビデオのテクニカルディレクターとして10数年のキャリアを持ち、「難しい話を簡単に、簡単な話を難しく」をモットーに、ビデオ・オーディオとコンテンツのフィールドで幅広く執筆を行なう。メールマガジン「金曜ランチビュッフェ」(http://yakan-hiko.com/kodera.html)も好評配信中。