小寺信良の週刊 Electric Zooma!

第900回

Zooma!:ズームレンズ、ズームすること、ズームする人、ズズーンの造語

DJI「Osmo Action」は「GoPro HERO7 Black」に勝てたか

全方位で勝ちに行くDJI

ドローンにおいてもジンバルにおいても、DJIは名実共にトップブランドと言っても過言ではない。加えて昨年末に発売されたOsmo Pocketでは、超小型ジンバル搭載カメラという、これまでにないジャンルを開拓した。さすがにここまで来ると、もう他のメーカーは太刀打ちできない。

Osmo Action。パッと見た印象はGoProサイズ

そんなDJIが、カメラメーカーとしての足場を固めてきた。5月17日より発売が開始されたOsmo Actionは、GoProに近いルックスのアクションカメラである。公式ストアでの価格は44,820円(税込)で、GoPro HERO7 Black(直販税込53,460円)より1万円近く安いことになる。

Osmoは元々ジンバル付きカメラからスタートしたネーミングで、継続製品もジンバル単体だったりしたが、ついにジンバルのないOsmoが登場したことで一気にややこしくなった。DJIとしては、空を飛ばないコンシューマ製品はみんなOsmoということなのだろう。

しかしながらアクションカメラとしては、すでにGoPro HERO7 Blackは完成の領域にあり、競合製品の2歩も3歩も先に行った印象だ。はたして後発のDJIに勝機はあるだろうか。

今回はGoPro HERO7 Blackと比較しながら、Osmo Actionの魅力を探っていこう。

GOPROと似て非なるボティ

ではまずボディからチェックしていこう。見た目からわかると思うが、だいたいGoProと同じぐらいのサイズ感だと思って頂いていいだろう。高さは数ミリ低いが、幅・厚みともに数ミリ大きいといった程度だ。したがってGoPro用のハウジングに入れられるわけではない。

最大のポイントは、大きなフロントディスプレイだろう。GoProにも前面にディスプレイはあるが、ステータスを表示するだけで、カメラアングルは確認できない。一方Osmo Actionのフロントディスプレイは、カメラアングルが確認できる液晶ディスプレイだ。

前からも画角が確認できる

ただし、フロントはタッチスクリーンではないので、メニュー操作はできない。また背面のメインディスプレイとフロントディスプレイは同時に点灯するわけではなく、切り換えである。切り換え方法は、メインディスプレイを2本指で2回タップするか、左サイドのQSボタンを長押しだ。

ボタン類は、GoProがシャッターと電源の2ボタンしかないのに対し、こちらは電源、録画ボタン、前出のQSボタンも加えて3つだ。電源ボタンは長押しでON・OFF、短く押すと省電力モードへの切り換えとなる。QSはQuick Switchの略で、撮影モード切り換えだ。

上部に電源兼省電力ボタンとシャッター
横にはQSボタン
QSボタンを押すと、撮影モードの変更ができる

レンズは145度F2.8の単焦点で、センサーは有効画素数1,200万画素の1/2.3インチ CMOS。円形のレンズカバーが付けられており、別売のNDフィルターと簡単に交換できる。実はGoProもレンズカバー部が外せるのだが、ものすごく取り外しづらいので、ここが交換できることを知らないユーザーは多いだろう。

レンズカバーは簡単に外せる

最大静止画サイズは4,000×3,000で、動画は最大4K/60pまで対応する。ハイスピード撮影は最大1080p/240fpsで撮影でき、8倍速スローとなる。ビットレートは最大100Mbpsで、動画フォーマットはMOVかMP4(MPEG-4 AVC/H.264)から選択できる。

背面のメインディスプレイは2.25インチ/640×360で、325ppiとなる。フロントディスプレイは1.4インチ、アスペクトは正方形で、画素数は不明だが、300ppiという表記がある。恐らく300×300という事だろう。

GoProより大型の背面ディスプレイ

本体左側に端子カバーがあり、ここを開けるとmicroSDカードスロットと、USB Type-C端子がある。バッテリーは底部にあるが、2箇所のツメでロックされてあり、両方のロックを外さないと取り外せないようになっている。バッテリーはフタ部分と一体化しているので、しっかりシーリングするためにそういう機構になっているのだろう。

カバー内にmicroSDカードスロットとUSB Type-C端子
バッテリーの取り外しは2箇所のロックを同時に外す必要がある
フタと一体化した専用バッテリー

付属品も見ておこう。GoProと同じように、マウント用フレームが付属する。フレーム底部のアクセサリーマウント部はGoPro互換となっており、フレームに入れればあとはGoProのアクセサリーが利用できる。そこをオリジナル規格で展開するというのは、エコシステムとして無駄だという事だろう。ベースマウントは、ヘルメット固定用のラウンドしたものと平たいもの2タイプが付属する。

マウント用フレーム等が付属
アクセサリを装着すると、ますますGoProっぽい

撮影の前に、メニュー操作系も見ておこう。画面を上から下にスワイプすると、メインメニューが出てくる。右上の6角形ボタンが、一般設定を含む設定メニューだ。下から上にスワイプすると、解像度設定にアクセスできる。右から左スワイプでカメラの露出設定、左から右で再生画面だ。4方向スワイプという操作性も、GoProに近いものがある。

メインメニュー。音声操作や上下反転などのショートカットもある
解像度設定メニュー

素性の良い動画特性

では早速撮影してみよう。まず気になるのは、画角である。4K/60p撮影を前提で考えると、GoProでは広角モードしか使えず、魚眼無効(フィッシュアイ補正)が使えない。補正モードを使うためには、2.7Kまで解像度を下げる必要がある。一方Osmo Actionでは、4K撮影時も「歪み補正」が使える。

Osmo Action 歪み補正なし
GoPro HERO7 Black 歪み補正なし
Osmo Action 歪み補正あり

なお両方とも、手ブレ補正はONだ。Osmo Actionのほうが、手ブレ補正による画角の減少が大きい。ただ、4Kで歪み補正が使えるメリットはかなり大きい。以下の動画は手ブレ補正の効き具合を比較したものだが、鳥居の画像で歪み補正の威力がわかるだろう。

手ブレ補正の比較
stab.mov(69.61MB)
※編集部注:編集部では掲載した動画の再生の保証はいたしかねます。また、再生環境についての個別のご質問にはお答えいたしかねますのでご了承下さい

GoProも、2.7K以下に解像度を下げれば歪み補正が使える。2カット目の画像は、GoProのみHD解像度に落として、どちらも歪み補正をONにした状態だ。

歩行によるブレ補正は、どちらもかなり広角ということもあって、あまり差を感じない。だが後半の走りながらの撮影では、Osmo Actionもかなり健闘しているとは思うが、GoProのほうがZ回転方向の補正力が大きい。手ブレ補正に関しては、GoProを超える事はできなかったようだ。

なおこの動画は、他にも色々な示唆に富む。朱色というのはカメラで発色がばらつく色だが、こと朱色の発色に関しては、GoProのほうが鳥居の色を正確に表現している。

ついでに発色モードも比較しておこう。Osmo Actionでは、デフォルトではノーマル、設定を変えればD-Cinelikeへ変更が可能だ。一方GoProでは、デフォルトはGoProカラー修正プロファイル、設定を変えれば「フラット」を選ぶ事ができる。

Osmo Action「ノーマル」
Osmo Action「D-Cinelike」
GoPro HERO7「GoPro」
GoPro HERO7「フラット」

トーンとしては、Osmo Actionは若干寒色寄りの傾向があるように見える。

動画モードには、通常の動画とHDR動画の2モードがある。HDRといってもHDR10やHLGで撮影できるわけではなく、SDRレンジの中で白飛びを押さえるガンマカーブで撮影できるという意味である。

通常動画とHDR動画を撮り比べてみたところ、HDRのほうがコントラスト感は下がるが、通常動画よりも発色がよく、白飛びも抑制されている。ただしHDR動画モードでは手ブレ補正がOFFになってしまうのが残念だ。カメラを固定してライブステージを狙うといった使い方なら、OKだろう。

通常動画モードとHDR動画モードの比較
HDR.mov(57.32MB)
※編集部注:編集部では掲載した動画の再生の保証はいたしかねます。また、再生環境についての個別のご質問にはお答えいたしかねますのでご了承下さい

オーディオおよび暗部特性

スポーツやアクションにおいて、映像もさることながら、そこでしか録れない音というのもある。GoProもHERO7 Blackになって、オーディオの集音特性が飛躍的に向上したのは記憶に新しいところだ。

Osmo ActionとGoProでしゃべりを録り比べてみた。風ノイズ低減機能がOFFの状態では、Osmo Actionは高域の特性がやや鈍く、明瞭度に欠ける。逆にGoProのほうは高域が立ちすぎて、S/Nとしては低下しているように聞こえる。双方とも、いわゆる「フカレ」に弱い点は共通している。

音声収録によるマイク特性の違い
Audio.mov(126.06MB)
※編集部注:編集部では掲載した動画の再生の保証はいたしかねます。また、再生環境についての個別のご質問にはお答えいたしかねますのでご了承下さい

一方風ノイズ低減をONにすると、印象がかなり変わる。Osmo Actionのほうが音声に関しては明瞭さがあり、聞き取りやすい。GoProは、特性がかなり低域に寄っており、声の基音部分が立ってボリューミーな感じにはなるが、明瞭さは若干後退する。

続いてナイトシーンを比べてみよう。GoProは暗部に弱いと言われている。それの意味するところは、明るく撮れないという事ではなく、無理に明るくするのでS/Nが悪いということだ。

ISO感度の上限は、Osmo Actionが3200まで、GoProは6400まである。今回はシャッタースピード1/60固定で、順にISO感度を上げている。Osmo ActionはレンズのF値が2.8だが、GoProは情報非公開だ。だがOsmo Actionより1段ぐらい明るいように見える。ただ、レンズが明るいというより、センサー側で増感しているように見える。

夜間撮影比較
Night.mov(63.97MB)
※編集部注:編集部では掲載した動画の再生の保証はいたしかねます。また、再生環境についての個別のご質問にはお答えいたしかねますのでご了承下さい

Osmo ActionはISO3200までしかないので、夜間撮影では多少光量がないと厳しいことは厳しいのだが、無理に増感しておらず、S/Nとしては悪くない。また色のバランスも自然で、使い勝手のよい絵に仕上がっている。

総論

今、このタイミングで、アクションカメラ市場に旨みがあるようには思えないが、Osmo Actionの登場で、DJIがカメラメーカーという見え方になるというところは、将来の布石として大きいところなのかなと思う。下手にフルサイズミラーレスやシネマカメラに参入するよりも、最初の一手としてはなかなか手堅く決めてきた印象だ。

正面にもモニターを付けたのは、なかなか良いアイデアである。ほとんどのアスリートは、風景よりも自分のかっこいいところを撮りたがるものだからだ。ただ実際にアクションカメラとして、GoPro HERO7 Blackを倒せるレベルかというと、手ブレ補正や発色の面で、まだ経験不足の面は否めない。

ただ、今やこうした小型カメラは、スポーツやアクションを撮影するに留まらず、もっと広い使われ方をしている。例えばネット中継であれば、近接のワイドカメラとして固定で使ったり、全然違うジャンルではタフネス仕様のカメラとして建築・測量の現場で使われたりといった例がある。広角で撮れるのに湾曲補正も使えるので、建物や土地の境界線などがまっすぐ撮影できるという点で大きなメリットがある。

アクセサリは互換性があるということで、GoProと2台持ちしても融通が利くのもメリットだ。またGoProの弱点、例えばレンズカバーが死ぬほど外しづらいとか、夜間が汚いとか、慣れないと電源OFFもままならないとかいったところをクリアしてきており、使い勝手はGoProよりもいいのは確かだ。

価格も1万円程度安い事もあり、今から買うのであればOsmo Action、待てるのであれば次期GoProを見てから判断、というところではないだろうか。

小寺 信良

テレビ番組、CM、プロモーションビデオのテクニカルディレクターとして10数年のキャリアを持ち、「難しい話を簡単に、簡単な話を難しく」をモットーに、ビデオ・オーディオとコンテンツのフィールドで幅広く執筆を行なう。メールマガジン「小寺・西田のマンデーランチビュッフェ」( http://yakan-hiko.com/kodera.html )も好評配信中。