小寺信良の週刊 Electric Zooma!

第925回

Zooma!:ズームレンズ、ズームすること、ズームする人、ズズーンの造語

Electric Zooma! 2019年総集編。4K/HDRが当たり前になったカメラ、ソニーなど完全ワイヤレスに注目

流れが変わった2019年

今年もまた1年の総まとめを書くタイミングとなった。2001年から始まった本連載も、今年で19年目を終えようとしている。来年からはいよいよ20年目に突入だ。

ここ数年は、4K技術の登場で多くの製品が4K対応を謳ってきたわけだが、今年はそれも一段落して、4Kは当然としてプラス何か、という時代になったのかなと思う。加えて今年は、オーディオが元気な年だった。ここまで盛り上がった年は、海外ストリーミングサービスが一斉に上陸した2015年以来ではないかと思う。

今年1年、本連載が取り上げた製品をジャンル分けすると、カメラ×16、オーディオ×13、ライフスタイル×8、分析・レポート×3、撮影ガジェット×2となる。スマートスピーカーは、純粋にオーディオ製品かと言われると微妙なところではあるが、筆者の切り口がオーディオ機能なので、オーディオ製品としてカウントしている。

では早速ジャンル別に、今年のトレンドを分析してみよう。

カメラ篇

動画カメラ今年のトレンドは、4Kが撮れるだけ、という時代ではなくなったという事だろう。4K/HDRは半ば当たり前になってきており、むしろHDRではない4Kを撮ってどうするの、といった勢いである。

昨年のフォトキナで、ライカ、パナソニック、シグマの3社が「Lマウント」でアライアンスを組んだのをご記憶の方も多いと思うが、今年はそれらの最初の製品が出そろった年だった。

パナソニックの「LUMIX S1」

ついに来た! パナソニックのフルサイズミラーレス「LUMIX S1」で4K動画を撮る

パナソニックの「LUMIX DC-S1H」

もはやシネマカメラ。ついに6Kに到達!「LUMIX DC-S1H」が凄い

「SIGMA fp」

世界最小フルサイズミラーレス「SIGMA fp」が凄かった。動画の実力をチェック!

特にパナソニックは、年内に2モデルをリリースするハイペースで、フルサイズに賭ける強い意気込みを感じさせる。ただシグマもそうだが、フルサイズというと、どうしてもシネマテイストへ偏ってしまう。確かに業務としてのシネマ市場は大きいが、コンシューマーユーザーはあまり自分の手でシネマの絵が撮れることに興味がないのではないか。今のところフルサイズは、動画よりも静止画ユーザーのほうが関心が高いように見える。

一方で4Kはいらないから面白い絵を、という形でアクションカメラや360度カメラが台頭してきたのは今年のトレンドと言えるだろう。

特にGoProは、HEROシリーズの正常進化に加えてGoPro Fusionの後継機、GoPro MAXもリリースするなど、元気なところを見せた。360度カメラの元祖とも言えるリコーは、ハイエンドモデルTHETA Z1を投入、業務ユースにも対応できるところを見せた意欲作だった。

GoPro HERO8 Black

別物に生まれ変わった「GoPro HERO8 Black」、HyperSmooth 2.0や静止画もスゴイ

GoPro HERO8 Black

驚異の手ブレ補正、360度とアクションカメラのハイブリッド「GoPro MAX」

一方ジンバルやドローンで好調のDJIだが、アクションカメラは狙いがはっきりせず、パッとしなかった。同じ中国勢としてInsta360も好調な企業だが、アクションカム的なポジションの「Insta360 GO」は価格も25,000円以下で買いやすく、360度にこだわらない新しい使い方を提案してきた。ある意味、カメラ文化のリセットが起こったのが今年だったのだろう。

DJI「Osmo Action」

DJI「Osmo Action」は「GoPro HERO7 Black」に勝てたか

リコー「THETA Z1」

撮影者が写らない360度カメラ実現! 1型センサーの驚き、リコー「THETA Z1」

「Insta360 GO」

親指サイズでも凄い!「Insta360 GO」、アクションカメラの世代交代!?

小型ハイエンドカメラは、ソニーRX100シリーズが年内で2モデルもリリースするなど、好調なところを見せた。特にAFや連写機能をα9と遜色ないところまで昇華させた「RX100 VII」は、カメラ系の記事ではトップのページビューとなった。

スマートフォンも、カメラの進化をレビューするという意味でここに入れてある。今年話題をさらったのは、3カメラを装備したソニーの「Xperia 1」だった。同年に低価格なXperia 5も投入されたが、インパクトはXperia 1のほうが大きかった。

iPhone 11 Pro Maxも同じく3カメラを搭載したモデルで、歪み補正を標準化し、逆にOFFにできない仕様にするなど、処理能力の高いプロセッサを搭載するスマホならではの考え方を示した。

「Xperia 1」

ソニーのAV技術を結集、“物語”が撮れるスマホ「Xperia 1」

「iPhone 11 Pro Max」

超広角撮影が楽しい!「iPhone 11 Pro Max」の実力をチェックする|n@@
・@@link|https://av.watch.impress.co.jp/docs/series/zooma/1213089.html|

オーディオ篇

オーディオ製品も、ここ数年意欲的な製品が登場している。めちゃくちゃバズってぶっちぎりのビュー数で本連載全体で今年のトップを飾ったのが、ソニーの「WF-1000XM3」であった。今年後半にはAppleからノイズキャンセリング付きの「AirPods Pro」が発売され、ネット上ではWF-1000XM3 v.s. AirPods Proの記事が溢れたことは記憶に新しい。

従来であればApple製品なら単品のレビュー記事で十分なはずだが、やはりそれだけ先行ヒット商品であるWF-1000XM3のインパクトは大きかったという事であろう。

ソニー完全ワイヤレス「WF-1000XM3」

こんなの出されたらどこも勝てないじゃん、ソニー完全ワイヤレス「WF-1000XM3」

左右別々にペアリングするタイプの製品も登場。音質的に十分ながら低価格の商品が出てきたのも、うれしいところだ。電車の中を見渡しても、完全ワイヤレスイヤフォンを目にする機会は確実に増えた。

その一方で、女性はまだまだワイヤードのイヤフォンで音楽を聴いている率は高いように思う。ワイヤレスになることの費用対効果が合わないのか、設定が難しそうに見えるのか。

NUARL「NT01AX」

途切れない“究極の左右分離イヤフォン”を目指して、NUARL「NT01AX」を試す

「Soundcore Liberty 2 Pro」(左)と「FALCON」

買いやすくて音がいい! 完全ワイヤレス注目機を聴く。Ankerの自信作とNoble Audio「FALCON」

実は先日、妻のために某著名メーカーの左右別々ペアリング型のイヤフォンの購入したのだが、iPhoneに対しては筆者が設定してもどちらか片側ずつしかペアリングできず、ステレオで音が出ない。試しに筆者のiPhoneにペアリングしたところ、1ペアのイヤフォンなのに、右は筆者のiPhone、左は妻のiPhoneの音楽が鳴ってしまうというひどい結果となった。左右独立ペアリング型については、初期設定の課題が増えたように思える。

今年日本市場で大きく勢力を伸ばしたのが、Amazon Echoシリーズだ。第3世代に突入したEchoの正常進化に加え、矢継ぎ早のシリーズの投入で市場を賑わせた。価格と音質のバランスを考えると、スマートスピーカーもGoogleはちょっと厳しくなってきたといわざるを得ない。

左から「Echo Link」、「Echo Dot」、「Echo Link Amp」

“Amazonが作ったオーディオアンプ”はひと味違う!「Echo Link Amp」

第3世代Echo(左)とEcho Dot with clock

第3世代に入ったAmazon Echo、「Amazon Music HD」は我々の音楽生活を変えるか!?

個人的に一番インパクトが大きかったのが、Amazon Musicのハイレゾ/3D音源配信開始と「Echo Studio」の発売開始だ。これまでこうしたサービスやハードウェアは、米国に遅れること1年、といった具合のものが多かったが、指をくわえて待つことなく次世代への切符を手に入れることができたのは、大変喜ばしい。

3Dミュージックについては、今後の広がりを期待したいところだが、映画はすでに多くの作品が3D化している。動画配信に対応する3Dスピーカーシステムも、Echo Studioのようなワンボックス型が主流になるのかもしれない。

Echo Studio

でっかいアレクサ、Amazon「Echo Studio」を自腹購入。3Dオーディオを聴く

ライフスタイル篇

ライフスタイルとはいささか抽象的なくくりだが、今年大きく躍進したのは小型プロジェクタだろう。Ankerがやけに力を入れて商品開発を行なっており、市場も徐々にできてきているのかなという手応えを感じる。これまで業務的な見え方しかしてこなかったコンパクトプロジェクタだが、パーソナルなお手軽大画面装置としての方向性は確かにアリだ。

Anker「Nebula Capsule II」

Ankerのどこでもシアターがパワーアップ! 小型プロジェクター「Nebula Capsule II」

Anker「Nebula Mars II」

明るいは正義! 大容量バッテリも搭載で“使い出”があるプロジェクタAnker「Nebula Mars II」

加えてVRで一躍身近なものとなったHMDも、パーソナルなシアター用途としての方向性も出てきた。大画面のニーズはあるが、デカいテレビを常設したいわけじゃないという隙間を縫う製品は、日本では伸びしろがあるのかもしれない。

「DPVRパーソナルシネマ」

実はこれで十分!? 29,800円の“受動的HMD“「DPVRパーソナルシネマ」

意外なことに反響が大きかったのが、ドライブレコーダの記事だ。これまでも2年に1回ぐらいドライブレコーダを取り上げてきたのだが、やはりあおり運転死亡事故を機に、後ろまで撮れるドライブレコーダへの買い換えを検討している人がかなりいるようだ。

筆者もその1人なのだが、やはり前後のドライブレコーダは安心感があるとともに、自分の運転もより慎重になる。運転支援機能が付いているものもあり、しかも古い車にも後付けできるアフターマーケット向け製品は、まだまだ開拓の余地があるのではないだろうか。

サンコー「5インチ 360度ドライブレコーダーー&リアカメラ」

19,800円で360度撮影できるドラレコを使ってみた。リアカメラまでセット

一方で、夜間のヘッドライトなど、撮影には不向きなシチュエーションが多いのも事実だ。こういうところにHDR技術が入っていけば、かなり良い製品となりそうである。

総論

以上駆け足であるが、2019年のトレンドを振り返った。4K・HDRに湧いた昨年から市場は落ち付きを取り戻し、一ひねりある製品の注目度が高まったのが、今年の傾向かと思う。

4KやHDR、VRといった既存技術を組み合わせ、面白いカメラが沢山登場したのは、レビューしていてあーなるほどと感心もしたし、楽しかった。新しい映像表現を使って、何を撮ろうか、どう撮ろうかといった創意工夫が試される。ネットという発表の場もある。だれもがクリエイティブになれる世界がようやく訪れたように思える。

オーディオも近年元気の良い分野だが、音楽鑑賞の中心がいわゆるオーディオシステムとしてのスピーカーから、スマートスピーカーに転換していく時代の境目に立ち会ったのかなという感じがしている。受け答えできれば十分な時代から、音楽配信サービスを聴くためのプラットフォームも兼ねるようになった。単品のスピーカーと違って数が出るので、低価格ながら音質的にもこなれている。

スマートフォンのカメラも、画角のバリエーションを出すために、単焦点レンズのカメラ数を増やすという方向は、しばらく続きそうだ。できれば複数のカメラで同時に撮影する事の旨みが、もう少し欲しいところではある。

そんなわけで今年のElectronic Zooma!も、今号で最後となる。それでは皆様、よいお年を。

小寺 信良

テレビ番組、CM、プロモーションビデオのテクニカルディレクターとして10数年のキャリアを持ち、「難しい話を簡単に、簡単な話を難しく」をモットーに、ビデオ・オーディオとコンテンツのフィールドで幅広く執筆を行なう。メールマガジン「小寺・西田のマンデーランチビュッフェ」( http://yakan-hiko.com/kodera.html )も好評配信中。