“Zooma!:ズームレンズ、ズームすること、ズームする人、ズズーンの造語”

 

第494回:【CES】JVCの二眼3DカムコーダとEverio新戦略

~4K2K撮影など、新プロセッサを使った技術展示も~



 2011 CES、2日目の今日は、少し寒さも和らいで穏やかな1日となった。しかし相変わらず来場者の出足はとどまるところを知らず、午前11時頃までモノレールは入場制限が続く大混雑である。

 本日はJVC(ビクター)の新カムコーダラインナップと、新プロセッサを使った技術展示の内容をお伝えする。


■JVCも3Dを加速

他社とはひと味違った3D技術を持つJVCブース

 会期前日のプレスデイではなく、会期初日にプレスカンファレンスを行なったJVC。そこで大きくフィーチャーされていたのが、二眼3Dのカムコーダである。ソニーも同コンセプトのカムコーダを一日早く発表したが、実際の発売はJVCのほうが1カ月ほど早くなりそうだ。

 JVCの「GS-TD1」は、2レンズ、2イメージャを搭載した3Dカムコーダ。ボディの高さを低く抑えて、すっきりしたデザインが魅力的だ。かなりの数の実働モデルがブース内のあちこちに展示されており、完成度の高さを伺わせる。


平たいデザインが魅力的な二眼3Dカムコーダ「GS-TD1」

 画像処理プロセッサは昨年末に発表した次世代ハイスピード・プロセッサ、「FALCONBRID」。このプロセッサは、「フルHDの3D映像」、「4K2K映像」、「高速静止画」の撮影を可能にする。この3D処理機能を使っているというわけだ。

 レンズの画角は公表されていないが、F1.2の明るいレンズを搭載したのがポイント。3Dでの光学ズーム倍率は5倍で、ズームと連動した視差調整を行なう。またマニュアルでの視差調整も可能だ。3Dで破綻しない最近接距離は約80cm程度だという。2D撮影時の光学ズーム倍率は10倍。

 撮像素子は1/4.1インチ、3.32メガピクセルの裏面照射CMOSを、単板で2枚使用している。手ぶれ補正は電子式で、ONにすると多少画角が狭くなる。

 レンズの脇に大きく出っ張っているのはステレオマイクで、LRのマイク間を85mmと広く取った。この設計により、同社がこれまで進めてきた「バイフォニックサウンド」技術と相まって、2chながら高品位な3Dサウンドが楽しめるという。


レンズ両脇にマイクを設けるという設計

 3Dの記録方式は2つあり、Full HD 3Dモードでは左右それぞれ1,920×1,080/60iの映像を、H.264/MVCフォーマットで収録する。これはソニーの「HDR-TD10」と同仕様だが、双方で互換性があるかはまだわからない。

 もう一つはサイドバイサイドモードで、1,920×1,080/60iのAVCHDフォーマットに記録する。実質、横方向の解像度は960ドットとなるが、AVCHDフォーマットとして扱えるため、再生や編集でのベネフィットがある。

 すごいのはボディ構造で、グリップ部を開けてバッテリを横から挿入するスタイル。ボディの中央部が大きくえぐれており、実質ボディ内部にはほとんど何もないような状態だ。モックアップではなく、これが本物の実動機である。よくこれだけ容積を削ってプロセッサなど基板部全体が収まったものだ。ちなみに内蔵メモリ64GBのほか、SDXCスロットを1つ備える。


ボディの中身はほとんどがバッテリのための空間背面のデザインもかっこいい

 液晶モニタは3.5インチ92万画素のタッチパネルで、パララックスバリア方式の裸眼3D表示に切り替え可能。3D表示では解像度と輝度が落ちるが、3D撮影中に2D表示に切り替えることもできる。

 背面のデザインもプロ用デジタルシネマカメラ「RED ONE」を彷彿とさせて、なかなかかっこいい。中央の3Dボタンで3Dと2D撮影モードを切り替える。今年3月の発売予定で、価格は2,000ドル。


 Everioシリーズの新ハイエンド「GZ-HM960」は2Dのカムコーダだが、カメラに2D-3D変換機能を搭載した、ユニークなモデルである。2D-3D変換機能は、業務用変換プロセッサとして業界で評価が高い、「IF-2D3D1」のアルゴリズムをそのまま搭載したという。これもまたすごい話である。

2D-3D変換機能を内蔵した新Everio「GZ-HM960」業界御用達の2D-3Dコンバータ「IF-2D3D1」(写真上)のアルゴリズムをそのまま搭載

 レンズは29.5mm/F1.2の光学10倍ズームレンズで、8角形虹彩絞りを搭載。ソニー、キヤノンに続いてJVCが虹彩絞りを採用したことで、いよいよカムコーダも本格的に虹彩絞り時代が到来したことになる。えーとあと搭載していないメーカーはどこでしたっけねー?

 撮像素子は1/2.3インチ、10.6メガピクセルの裏面照射CMOSを搭載。液晶モニタは3.5インチ92万画素のタッチパネルで、こちらも裸眼3D表示が可能。鏡筒部を小さくして、大きな液晶モニタを強調したデザインがポイントだ。

大きな液晶モニタを象徴的にデザインボディ上部に3Dボタンを配置

 Bluetoothも搭載し、スマートフォンと組み合わせることで、撮影時に位置情報を記録できる。またファイル再生時には逆にスマートフォンに位置情報を飛ばして、Google Map上に撮影地点をポイントするといった機能も備えている。

 内蔵メモリは16GBで、SDXCカードスロットは1つ。元々デュアルカードスロットはJVCが始めたソリューションだが、いつの間にかJVCは一部の機種のみになり、キヤノンが大々的に採用するようになった。2月発売予定で、価格は950ドル。

 GZ-HM860は、スペック的にはHM960とほぼ同じで、2D-3D変換機能を搭載しないモデル。変換ボタンのところがAF切り替えボタンに変更されている。こちらも2月発売で、価格は750ドル。

 GZ-HD520は、今回の新製品の中では唯一のHDDモデル。デザイン的には現行モデルのHD620とほぼ同じだ。コニカミノルタ製の光学40倍ズームレンズを備え、120GB HDD搭載。マイクロSDHCカードスロットも備えている。こちらは1月発売で、価格は550ドル。

同スペックの2D-3Dコンバータなしモデル「GZ-HM860」今回発表の中では唯一のHDDモデル、「GZ-HD520」

 これ以下GZ-HM690などは、米国では新モデルだが、日本ではすでに発売済み。一部HM650、HM440といった日本未発売モデルもあるが、ハードウェアスペックは同じで内部メモリ容量違いとなっている。

 エントリー商品としてGZ-HM50、HM30も面白い。ハイビジョンモデルではあるが、AVCHD-Lite対応、すなわち720/60pモデルである。ただしHDMI出力は1080/60pにアップコンバートして出力可能。光学40倍のコニカミノルタレンズを搭載し、1.5MピクセルのCMOSセンサーを採用。

エントリー製品ながらハイビジョン機「GZ-HM50」同スペックで内蔵メモリーなしモデル「GZ-HM30」

 JVCではこの春モデルから、米国でスタンダードディフィニションモデルを全廃し、エントリーに720pを置いた。他社に比べていち早いレベルシフトを行なったことになる。

 HM50が内蔵メモリ8GBで、HM30が内蔵メモリなしのSDXC記録のみとなる。なおカラーはHM50がブラック、ブルー、レッドの3色で、HM30がこの3色に加えてシルバーの4色展開。発売時期は今年1月で、価格はそれぞれ270ドルと230ドル。


■意欲的な技術展示も見所

 JVCブースでは、カムコーダの実写コーナーの裏側で、新プロセッサ「FALCONBRID」の機能を生かした技術展示も行なっている。

普通のデジカメっぽい外見にダマされそうな「GC-PX1」

 コンシューマとして特に面白そうなのが、参考展示されていた「GC-PX1」。一見するとデジカメのようなルックスだが、動画と静止画の両方が撮れるマルチパーパスカメラとなっている。

 光学手ぶれ補正を備えた光学10倍ズームレンズを搭載し、10Mピクセルの裏面照射CMOSを採用。FALCONBRIDの特性を生かして、1,920×1,080/60pの動画を36Mbpsで記録するというとんでもない化け物。また6Mピクセルの静止画を秒間60枚連射できる。さらに640×360/300fpsのハイスピード撮影をリアルタイムで処理。すなわちこれまでのようにバッファに数秒間撮影し、後処理でしこしことエンコードするのではなく、時間無制限で撮影可能になる。


シルバーモデルのほうは撮影動画の再生デモを行なっていた

 内蔵メモリは32GBで、SDXCカードスロットも備えている。価格、発売時期ともに未定だが、3月を目処に製品化予定だという。

 もう一つ、こちらはどちらかというとプロフェッショナル向けだが、4K/2K撮影可能なカムコーダの試作機が展示されていた。現状のスペックは、3,840×2,160/60pの動画を144MbpsのH.264で記録するという、こちらも化け物スペック。


4K/2Kカムコーダの試作機。型番はなし

 実際にこのカムコーダで撮影した4Kの映像を、アストロデザインの4K/2Kモニタで表示していた。ここまでの画素数になるとそんじょそこらのレンズでは特性が追いついて来ないため、周辺部の色収差が気になったが、中央部分では特に破綻なく、ハイビジョンを超える高精細な映像を見ることができた。これもFALCONBRIDの威力である。

 今回の試作機では、従来の4Kカムコーダよりも大幅に小さく、普通の業務用カムコーダとほとんど同じサイズで実現していた。製品化するときにはもう少しレンズをがんばらないとダメだろうが、新しい映像文化の可能性を感じさせる。こちらは発売時期、価格ともに未定。



(2011年 1月 8日)

= 小寺信良 = テレビ番組、CM、プロモーションビデオのテクニカルディレクターとして10数年のキャリアを持ち、「ややこしい話を簡単に、簡単な話をそのままに」をモットーに、ビデオ・オーディオとコンピュータのフィールドで幅広く執筆を行なう。性格は温厚かつ粘着質で、日常会話では主にボケ役。

[Reported by 小寺信良]