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4K放送をダビングしたBDの“再生”と“互換性”の話。ユーザーが涙する前に統一を

シャープは15日、4K放送をダビングしたBD(4K録画BD)の再生機能を搭載するレコーダー「BT3」シリーズを発表した。BT3は、'18年に発売された同社4Kレコーダー「AT3」シリーズで作成した4K録画BDを、4K画質のまま再生することができる。4Kチューナーを搭載しないBD機において、同機能を備えるモデルはBT3が初めてとなる。

シャープのBDレコーダー「2B-C20BT3」

“4K録画BD”を再生するには、市販されている4K Ultra HD Blu-ray(UHD BD)の再生とは異なる仕組みが必要になる。4Kを処理する性能は最低条件だが、それとは別に、著作権でプロテクトされた4Kコンテンツを開ける「AACS2のデバイス鍵」(UHD BDの再生鍵と共有可能)と、2つの録画用規格(BD-RE Part 3 V5.x規格とAACS2 Recordable規格)の対応が求められる。

4Kを処理するための性能とデバイス鍵を持っているにもかかわらず、既存のUHD BDプレーヤーやUHD BD再生対応のBDレコーダーで4K録画BDが再生できない理由は、前述した2つの録画規格に対応していないためだ。

シャープのBDレコーダー・BT3シリーズは、この録画規格に対応することで、市販のUHD BDに加えて4K録画BDの再生をサポートした。シャープ開発者は「AT3でダビングした4K録画BDの再生環境が拡がり、より多くのAQUOSブルーレイユーザーで4Kが楽しめるようになる」と話す。

シャープのBT3では、4K録画BDの再生に対応

“規格の対応”であれば、ファームウェアアップデートで既存のUHD BDプレーヤーを「4K録画BD再生対応」させることもできるのではないか? と思われるが、4KレコーダーやUHD BDプレーヤーを発売するメーカーに確認したところ、ソフトウェアの変更が必要であること、さらに著作権保護に関わる部分であることから「アップデート対応はデリケートであり、極めてハードルが高い」という回答が複数返ってきた。

残念ながら、4K録画BDの再生対応は、今後発売される機器に期待するしかなさそうだ。

4K放送をダビングしたBDの“互換性”の話

4K録画BDの再生可否に関して、もう1つ考慮しなければならないのが「互換性」の問題だ。

'19年2月現在、4K放送を録画・ダビングできるレコーダーは、シャープのAQUOSブルーレイ「4B-C40AT3」と「4B-C20AT3」、そしてパナソニックのDIGA「DMR-SUZ2060(または同仕様の量販店型名SCZ2060)」の合計3モデル。しかし、昨年のレビュー記事でも記した通り、両社の4K録画BDには互換性がない。

正確に言うと、シャープ機でダビングした4K録画BDはパナソニック機で再生できるのだが、その逆ができないのだ。

パナソニック機でダビングした4K録画BDは、シャープ機で再生できない

一方で再生できて、もう一方で再生できない理由は、4K番組をダビングする際に採用している両社の記録方式が関係している。

少しややこしい話になるが、'18年12月1日に始まった新4K8K衛星放送には、これまでのデジタル放送とは異なる伝送方式(多重化)が使われている。「MMT/TLV」と呼ばれている新しい伝送方式で、既存の伝送方式MPEG-2 TSの次世代規格として、以前からNHKが開発・標準化を進めてきたものだ。

映像・音声・データなどを1つにまとめて伝送するMPEG-2 TSと違って、MMT/TLVはそれぞれを個別に伝送でき、受信側も必要な素材だけを個別に受信できるため、多彩でより高度なサービスが提供できるとされている(現在、同伝送方式は国際規格として承認済み)。

これがどうして4K録画BDの再生に関係してくるかというと、パナソニック機はMMT/TLV方式で送られてきた新4K8K衛星放送の番組を、そのままBDにストリームで記録する方法を採るが、シャープ機はレコーダーでMMT/TLV→MPEG-2 TSに変換して記録する方法を採っているのだ。

では「記録方式が違うのに、シャープ機でダビングした4K録画BDはなぜパナソニック機で再生できたのか?」というと、パナソニックは「スカパー! 4Kでは既存のMPEGー2 TS方式で放送されていること。加えて録画用規格には、MMT/TLV→MPEG-2 TSへの変換記録も方法の1つに盛り込まれていることから、MMT/TLVとMPEG-2 TS両方の再生に対応。SUZ2060では自己録再に加えて、できるだけ様々な4K録画BDをサポートできる仕様にした」と話す。また「MMT/TLVのストリーム記録は変換が不要で、ハード・ソフトウェアの負担も軽い」という。

一方のシャープは、MMT/TLV→MPEG-2 TSへの変換記録を採用したことについて「TS記録したディスクの方が再生互換の幅が広い」と説明する。

パナソニック機はMMT/TLV方式に加えて、MPEGー2 TS方式の再生にも対応。結果、シャープ機でダビングした4K録画BDの再生が行なえる

4K番組をMMT/TLVで記録するか、MPEGー2 TSに変換して記録するかは、メーカー側に委ねられている。また、MMT/TLVの再生に対応するか、MPEG-2 TSの再生に対応するか、それとも両方の再生に対応するか、という仕様もメーカー次第という。

シャープ機もパナソニック機も規格通りなのだが、結果的にMPEGー2 TS再生のみ対応したシャープ機は、パナソニック機で作成されたMMT/TLVの4K録画BDを再生できない、という現象が起きてしまったわけだ。

あくまで仮定を前提に「もし他社から、自社と同じ記録方式を採用する4Kレコーダーが発売された場合、そのレコーダーで作成された4K録画BDは再生できるか?」との質問に対し、シャープ、パナソニック共に「(検証は必要だが)再生できる可能性が高い」と回答する。

いまや2K放送をダビングした録画BDは、どのメーカーで作成されたか関係無しに再生できるようになっている(※)。

4K放送はまだ始まったばかりで対応機器の進化はこれから、と言われてしまえばそれまでだが、4K録画BDの再生機能は積極的に盛り込んで欲しいし、「録画したディスクが他の機器で再生できない」とユーザーが互換の問題で涙する前に、レコーダー、そしてプレーヤーのメーカーらで、記録・再生に関する方式の統一に取り組んでもらいたい。

※ディスク自体の品質や、記録ドライブの品質、書き込み時のエラーなど、ディスクの再生に関しては様々な要因でエラーが起こりうるため、メーカーはあくまで“自己録再”が基本的なスタンス。しかし実際には、2K録画BDにおいてはメーカー間での再生互換の問題はほぼ解消されている。

阿部邦弘