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液晶で有機EL相当ってホント? ソニー新マスモニ「BVM-HX310」の驚異の画を観た

「Inter BEE 2018」のソニーブース

昨年11月、幕張メッセで開催された国内最大の放送/映像機器展「Inter BEE 2018」で、来場者らの話題を集めた製品があった。全白1,000nitsという輝度性能を持ち、100万:1のコントラスト表示を実現したソニーの新しい4Kマスターモニター「BVM-HX310」(以下HX310)だ。

液晶ながら有機EL並みの暗部と、高い輝度を両立したハイコントラストな映像を一目見ようと、多くの来場者が足を止め、ブース一角には大きな人集りができていた。本機はその後、’19年1月に398万円で発売された。

ソニーの業務用マスターモニター「BVM-HX310」

ソニーの4Kマスターモニター(マスモニ)と言えば、放送や映画製作の現場はもちろん、品質管理や研究、民生用テレビの開発現場において、絶対無二の“ものさし”として使われる「BVM-X300」(428万円・以下X300)が存在するが、HX310はそれに匹敵する画質性能を備えた新モデルという。

新型のマスターモニターHX310とは、一体どのような製品なのか? なぜ有機ELではなく液晶なのか? 液晶で100万:1のコントラストはどのように実現しているのか、その映像は? などの疑問を尋ねるべく、業務用機器の開発拠点を置くソニー厚木テクノロジーセンターを訪ねた。

厚木テクノロジーセンター

マスターモニターはありのまま、信号を正確に表示する“基準器”

街の電気店や量販店に足を運べば見ることができる一般的なテレビやPCディスプレイとは異なり、業務用ディスプレイ、とくにマスターモニターを気軽に視聴できる機会はほぼ無い。そのため、“そもそもマスターモニターとは?”という素朴な疑問を持つ方もいるかもしれない。

マスターモニターとは、映像や信号の品質確認・評価を目視で行なうために使われる専用の映像装置だ。

色域や色温度、輝度やガンマなど、各種パラメータを正確に表示でき、映像が規格に収まっているか、クリエイターの映像演出やその効果が意図通りであるかが一目で確認できる。また長期にわたって性能と精度を維持し、なおかつ同型のモニターを2台、3台組み合わせた場合でも、それら全てで同じ画が出せるよう設計されている。入力された信号をありのまま、高精度に、長期に安定して映すことがマスターモニターの役割、というわけだ。

ソニーではこのマスターモニターを、1979年からBVM(Broadcast Video Monitor)シリーズとして展開。トリニトロン方式のCRT(ブラウン管)を皮切りに、平面ブラウン管、液晶、そして有機ELと、その時々で最適と判断したディスプレイデバイスをセレクトして、市場に投入してきた。

マスターモニターという名の製品は、他の業務用機器メーカーからも発売されてはいるが、BVMの性能と信頼は絶対的なものがあり「マスモニ=BVM」というイメージが定着するほどに、業界のデファクトスタンダードになっている。

ちなみに、ソニーの業務用モニターには、BVMの他にPVM(Picture Video Monitor)シリーズと、LMD(LCD Multi-input Display)シリーズがある。

PVMは、ある程度の安定性と一貫性は担保した上で、精度のレベルと機能をBVMよりも抑えるなどして経済性を考慮したモデルだ。決して“マスター”ではないが、スタジオや中継車、編集室などの標準モニターとして高いシェアを誇り、また映像制作に関心のあるハイアマチュアや業務用機器に憧れる一部のコアなAVファンが自宅に導入する場合もあるなど、BVM同様に高い人気を持つ。

55型の有機ELモニター「PVM-X550」

LMDは、BVM/PVMの設計思想を継承しつつ、機能や操作性、使いやすさを重視したシリーズだ。中でもLMD-Aは、2K機、しかも2013年発売モデルでありながら、S-Log2/S-Log3/HLG/PQなどの各種EOTFをサポート('19年7月4日にリリースされた「Ver3.0アップデート」で対応)するなど、撮影現場の簡易モニターとして重宝されている。

24型の液晶モニター「LMD-A240」。Ver3.0で各種EOTFをサポートした
LMD-A/LMD-B設計者インタビュー動画

HDR制作のために用意された新世代の4K“液晶”マスターモニター

冒頭でも触れたとおり「BVM-HX310」は、マスターモニター・BVMシリーズの最新モデルだ。画面サイズは31.1型(型番の310は31型を指す)で、アスペクト比は17:9。4,096✕2,160ドットの解像度を持ち、UHD 4Kはもちろん、デジタルシネマ規格「DCI 4K」のフルピクセル表示が行なえる。

X300にも搭載されていた、ソニー業務用モニターの基幹技術「TRIMASTER(トライマスター)」を継承。カラーマネージメントシステムや高解像度・高階調表示、動画改善技術、信号処理、キャリブレーションシステムなど、業務用モニターに不可欠な3要素(正確な色・正確な画像・高い信頼性)を実現するための技術や知見を本機にも惜しみなく投入する。

機能としては、X300や55型有機ELモニター「PVM-X550」に搭載されていたものをベースにしつつ、4K/60p信号をBNCケーブル1本で伝送できる「12G-SDI入力」や、最大30個までのLUTを登録・保存できる「ユーザーLUT」機能、SDI重畳のメタデータに応じてモニターを最適化する「VPID自動設定」などを新たに搭載。HDRコンテンツ制作における使いやすさを更に高めた。

PVM-X550に搭載されていたQuad Viewモード。4画面それぞれに異なる設定値を適用でき、各映像を同じ画面内で比較できる

HX310が他のBVM、PVMシリーズと根本的に異なるのがパネルだ。現行のBVM、PVMシリーズは全て有機ELを使用しているが、HX310では“液晶”を採用している。

民生用テレビのハイエンドモデルは、液晶から有機ELへのシフトが主流になりつつあり「なぜいま有機ELではなく液晶なのか?」と不思議に思う方も多いだろう。

この点について、HX310の商品企画を務めた國原氏は「デバイスを変更した大きな理由は、X300ユーザーから寄せられた要望“輝度性能”を確保するためでした」と話す。

「X300は独自の4K有機ELパネルを搭載し、卓越した描画性能を実現する業界トップクラスのモニターです。発売以降、国内外のスタジオに採用され、今でも数多くのコンテンツ制作に携わっています。ただその一方で、X300を使う現場からは“HDR素材の高輝度信号も再現できるようにしてほしい”、“ピーク輝度のエリア制限を無くして欲しい”といった輝度に関わる要望が挙がっていました。X300ではピーク輝度が一定の面積を超えた場合、パネルの保護機能が働き光量を強制的に下げていたからです。そこで我々はクリエイターらの要望に応えるべく、“新型液晶パネル”を用いて、HDR制作により適した新しいマスターモニターを企画しました」(國原氏)。

表示のイメージ図。写真左が全白輝度。写真中央がX300のピーク輝度表示。写真右もX300で、ピーク輝度エリアが大きくなったことでパネル保護機能が動作し、輝度が下がった状態

2枚の液晶セルで調光。ローカルディミング無しでコントラスト100万:1

新型液晶パネルとは何物か。

同社はこのパネルに関する情報を公開していないが、使われているのは'16年11月にパナソニック液晶ディスプレイが開発・発表した「新型IPS液晶パネル」といわれている。

液晶パネル(コントラスト1,800:1の場合)と、新型IPS液晶パネル(100万:1)の映像表示イメージ

この液晶パネルの最大の特長は、バックライトと表示セルの間に、もう1枚のセルを挟み込んだ“2枚構造”になっていることだ。

通常の液晶パネルは、1枚の表示セルにカラーフィルターを組み合わせ、画素ごとに光の強さと色を制御することで画を作る。液晶はいわば“シャッター”の役割で、電圧によって液晶分子が動く(配向する)ことで透過する光の強度をコントロールする。

しかしバックライトが強すぎると“シャッター”で防ぎきれず、光が漏れて暗部が浮く。逆に光量を弱めると、今度は明部の煌めきが再現できない。結果、液晶は「コントラストが浅く、平坦でメリハリのない画になりやすい」という構造上の弱点を持つ。

そのためパネルメーカーやテレビメーカーは、液晶の配向や部材を工夫したり、光源のLED化や小型化などの改善を行なってきた。パネルそのもののコントラスト向上に加え、映像信号と連動したブロックごとの光源制御、電力を再分配してピーク輝度を更に高めるといった様々なバックライト制御を併用することで、今では“液晶の高コントラスト化”はさほど難しいことではなくなった。よほど画質にうるさい方でない限り、最新液晶のコントラストを「不足」と考える方は少ないはずだ。

ソニーBRAVIAの一部モデルで採用する「直下型LED部分駆動」(ローカルディミング)
電流をコントロールしてコントラストを高める、ソニーBRAVIAの技術「X-tended Dynamic Range PRO」

とはいえ、“ものさし”であるマスターモニターの場合、民生ディスプレイとは別次元の高い精度が要求される。ローカルディミングなどのバックライト制御で発生しがちなフレア(光のにじみ)は許されず、また光のコントロールもブロックではなく画素単位でなければならない。そこで開発陣が目を付けたのが、前述の新型液晶パネルだった。

新型液晶パネルにおける高コントラストの原理自体は、非常にシンプルだ。従来であれば表示セル1枚で行なっている光のコントロール(調光)を、もう1枚のセル(内蔵セル)にも実行させる。互いのセルがそれぞれ独立して光をコントロールすることで、表示セル(カラー)と内蔵セル(モノクロ)のコントラスト性能が“掛け算”され、結果、全画素で100万:1というコントラストが可能となる。

従来の液晶パネルと新型IPS液晶パネルの構造比較

この2枚セルによる液晶の高コントラスト化は、アイデアや試作機レベルで10年以上も前から存在していたものだが、量産化に成功したのはパナソニック液晶ディスプレイが初めてだ。同社では強力なバックライトを浴びても変化しにくい液晶材料を内蔵セルに用いたことや、透過特性や視野角性能、画像処理など、様々な課題をクリアすることで業務用途にも展開できる高性能パネルを実用化できたとしている。

BVMの開発陣は、この新型液晶パネルの採用に合わせて、専用の駆動アルゴリズムで低輝度から高輝度まで一貫した高精度な色再現と階調表現を実現する、“肝”となる制御技術を開発。業務用モニターの要素技術であるTRIMASTERに、新型液晶パネルと独自の制御技術を融合させた新たな技術体系「TRIMASTER HX」を作り上げ、「たとえ他社が同じ新型液晶パネルを使っても、HX310と同じ画は絶対に出せない」(遠藤氏)という、最高品質のマスターモニターHX310を完成させた。

不要な反射を抑え解像感とコントラストを保つ独自のARコート

端正でミニマムな外観デザインは、歴代モデルをほぼ踏襲する。ただ、エッジが鋭角なX300に比べると、HX310は一段と業務用らしいというか、やや角張った無骨な印象だ。

パッと見、サイズなどはX300と変わらないようにも見えるが、インチサイズやパネル方式の違いもあり、筐体サイズは一回り大きくなり重量も約1.8倍(約29kg)に増量した。とはいえ、グレーディングルームなどに設置される用途を考えれば、サイズや重量の変化はほとんど問題にならないだろう。

BVM-HX310の側面。パネル部の奥行きは203.7mmで、スタンドを含めると230mm

パネル表面には、独自のAR(アンチ・リフレクション)コーティングを採用する。パネルを前にすると、その表面はグレア加工でありながら、過度なギラツキを感じさせない程よい光沢感になっていた。「液晶パネルはノングレア加工が多いのですが、HX310で想定される使用環境と画質を考慮し、ARコートを選択しました。内部・外光の不要な反射を抑えつつも、解像感やコントラスト感は最大限キープできます」(上村氏)。

背面上部には、運搬用のハンドルを装備。背面左側には12G対応のSDI入出力端子、右側には3G対応のSDI入出力、4K/60p & HDCP 2.2対応のHDMI入力端子ほか、別売のコントロールユニット「BKM-17R」接続用のLAN端子を用意している。

なお、型名にも使われているHXとは「“HDR”と、液晶を表す“liquid Xtal(crystal) display”から取った略称」(國原氏)だという。

BVM-HX310の背面。新モデルでは、12G SDIの入出力端子を搭載した

この画が本当に液晶ですか? ここまで“黒い液晶”は見たことがない

同社の4Kメモリープレーヤー「PMW-PZ1」を3G-SDIで接続(BNCケーブル4本)して、4K/24pや4K/60pの映像素材(8Kダウンコン素材含む)を視聴することができた。

何よりも驚いたのは、HX310が表示した0nitsの全黒信号だ。

「この画が本当に液晶ですか?」と自身の目を疑いたくなるほどに、画面全体が黒く沈み込んでいる。前述した通り、本機にはローカルディミング機能は無いため、全黒信号を入力している状態でもLEDが背面で煌々と光っているはずなのだが、黒浮きが皆無なのだ。ここまで“黒い液晶”は見たことがない。

HX310の全黒画面。左上のテキスト「0nits」以外は、有機EL並みに黒い。しかもテキスト周辺にはフレアが全く無い!

画面左上には“ちゃんと信号が流れてますよ”というメッセージも兼ねた「0nits」のテロップが入っているが、文字そのものは白く輝きながらも周辺には光漏れが一切見られない。フォントのエッジも滲みなくクッキリ立っている。この部分だけでも、一般的な液晶ではあり得ないコントラスト感だ。

0nitsから120nitsまで、輝度が徐々に遷移する途中の低輝度シーンでは、輝度ムラが全く見られず、フラットで美しい“無地のキャンバス”を表示する。しばらくするとテスト映像の輝度がまた上昇を始め、やがて全白300nitsになり、そして最終的には全白1,000nitsに達した。デモとはいえ、全白1,000nitsは映像というより、もはや強力な照明で、目をすぼめなければ長時間直視できないほど明るい。

全白1,000nits

「X300はピーク輝度1,000nitsを実現していますが、全白は最大150nits程度が限界でした。このため、一部のポスプロでは編集ツールで画面を縮小させて高輝度シーンを確認することもあったそうです。ご覧の通り、HX310では、有機ELに迫る深い黒から全白1,000nitsまでの高輝度信号を安定的に表示できるようになりました」(國原氏)。

高輝度性能だけでなく、色再現に関してもHX310ならではのアドバンテージがあるという。「一般的な液晶は、低輝度になるほど色域が狭まるため、色のコントロールが難しくなります。一方、OLED(有機EL)を用いたディスプレイでも白色OLEDの方式では、高輝度領域の色域が狭まる傾向にあります。HX310においては高輝度はもちろん、低輝度時でも広い色域を表示できますので、いかなる条件でも正確な色を描写できます。緻密で高精度な信号処理と独自のパネル制御技術が無ければ、このクオリティは実現できません」(遠藤氏)。

“X300の画質性能、深い黒と正確な色再現を継承”との謳い文句は本当だった

「平均輝度が高く、X300では制限がかかっていた」という、デモコンテンツをいくつか見せてもらった。雪原を疾走するスノーモービル映像は輝度が落ちることも無く、地面に積もった雪が白く輝く様子や、背景の木々や雲、マシンのディテール、レーサーのビビッドなウェアなどが生々しく表示されていた。視野角や動画解像度も全く気にならない。

また白鳥が休む安曇野の湖畔と山を映した夕景のショットでも、ハイライトから暗部までしっかり描写されていて、白飛びや黒つぶれは見られない。空と雲を淡く染める茜色の微妙な変化も、バンディングが発生すること無く、グラデーションは滑らか。手前にある湖から、背景の山、そして抜けるような空へとつながる奥行きも自然だ。

上村氏は「いま再生した雪のシーンや夕焼けの空などは何気ないシーンに見えますが、実は平均輝度が高く、X300では信号通りの輝度を再現できませんでした。HX310ではカメラが捉えた信号通りの輝度が再現できますから、より正確なグレーディングが可能になります。最初にお見せしたような全白1,000nitsが実際の作品に出てくることはありませんが、モニター側で正確に表示できる範囲が拡がることで、HDR制作における表現や演出の幅も拡がると考えています」と話す。

明暗の対比が激しいリオのカーニバルも、HX310のコントラスト性能がひと目で分かる映像だ。シネスコの黒帯部分はしっかり沈み込みながらも、ライトに照らされて、うっすらと浮かび上がる観衆の様子は、階調が潰れることなくはっきり見て取れる。その一方で、ダンサーが身にまとう煌びやかな衣装や山車のネオン、宙を舞う銀の紙吹雪などはピークの輝きも色もしっかり出ていた。“X300の画質性能、深い黒と正確な色再現を継承”との謳い文句は、てっきり誇大と決めつけていたが、その思い込みは間違いだった……

ただX300とHX310とではデバイスが異なるため、同じ信号を表示しても見え方や感じ方に差があるのは事実だ。その一番の違いがHX310が持つ映像の“柔らかさ”だろう。最暗部は確かに沈むが階調は穏やかで温かく、X300のような強烈で冷たい黒とは見え方がだいぶ異なる。またレーザー光のような尖ったピーク感や、強いコントラストから生まれる鮮鋭感もX300に比べると少し控えめに感じる。

上村氏は「どちらのモデルの画が優れるということではなく、これは好みだと思います。“トーンが穏やかで見やすい”“CRTのBVMに質感が近くグレーディングし易い”などの理由からHX310を選択するカラリストも非常に多いです」という。

取材中、HX310の映像技術やエッセンスがもしも民生のAV機器に搭載されたら……などと淡い期待を抱いてしまったが「マスターモニターはあくまで基準器であり、測定器。映像を如何に美しく見せるかが命題のテレビとは用途も目的も全く異なります」(國原氏)とのこと。やはり本物のBVMの画を手に入れたいAVファンは、コツコツと“貯金”をするしか方法は無さそうだ。

ちなみに。セル2枚による高コントラスト液晶パネルは、中国ハイセンスも製品化を目指している模様だ。'19年1月のCESに続き、5月に米国で開催された「SID Display Week 2019」で高コントラスト液晶テレビ「ULED XD」を展示し、'20年のリリースを目指すとアナウンスした。もしかしたら来年以降、有機ELに迫るコントラスト性能を秘めた“次世代液晶テレビ”が出てくるかもしれない。

ハイセンスはCES2019で、液晶セル2重構造(4Kカラー+2Kモノクロ+LEDバックライト)の「ULED XD」を発表した

また会う日まで? ありがとうさようなら、BVM-X300

さて、HX310という新世代のマスターモニターの登場と引き換えに、残念な報告をしなければならない。実はHX310の本格展開により、'15年2月から発売を続けてきたX300が近く販売を終了するという。

30型の4K有機ELマスターモニター「BVM-X300」

前述したとおり、HX310はX300の数少ない弱点をカバーした最高性能のマスターモニターだ。それを裏付けるように「製品の発表以降、反響が大きく、国内外で予想を上回るペースで売れています」(戸梶氏)という。今後はHX310でグレーディングされた放送や映画作品が増えるだろうし、これまでX300を基準にモニターライクな画を目指してきた民生テレビの“プロモード”も、HX310の画を基準とするメーカーが出てくるかも知れない。

とはいえ、X300には他機では出せない唯一無二の画力を備えていた。あの強烈なハイコントラストと目の覚めるような精細さ、高純度な発色を一度体感すると、通常の画ではもう満足出来ない身体になってしまう。サイズと輝度性能に制限はあったにせよ、X300ほど見惚れるディスプレイはこの世に存在しなかった。

そんな巨星的存在がラインナップから消えてしまうのは、かなり残念というか、業界における損失であり、もはや罪とさえ感じるのは決して筆者だけではないはずだ。X300のような、有機ELを使ったマスターモニターはもう登場しないのだろうか?

「マスターモニターはX300からHX310へ世代交代しますが、決して有機ELを捨てて液晶にシフトしたわけではありません。これまでも、素性に優れ、ユーザーの要望や我々の条件にマッチしたデバイスを取捨選択して、業務用モニターは製品化を行なってきました。残念ながら、将来のロードマップをお話しすることはできませんが、どのようなデバイスを使っても我々の本質は変わりません。業務用モニターに求められる高い画質と信頼性を、これからも引き続き提供して参ります」(國原氏)。

(写真左から)ソニーイメージングプロダクツ&ソリューションズ プロフェッショナル・プロダクツ本部 商品企画第2部門 企画1部・1課 統括課長 遠藤一雄氏
ソニービジネスソリューション バリュー・クリエイション部門 マーケティング部 MK4課 戸梶真弓氏
ソニーイメージングプロダクツ&ソリューションズ プロフェッショナル・プロダクツ本部 商品企画第2部門 企画1部・1課 プロダクトプランナー 國原慎司氏、プロダクトプランニングマネージャー 上村泰行氏

阿部邦弘