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映画のような映像が撮りたい! 初心者も要注目な「LUMIX S1H」の真価

パナソニックが昨年発売した「LUMIX DC-S1H」は、フルサイズのミラーレスカメラとして高い静止画性能を持ちながら、最大6K/24p、5.9K/30p、4K/60pの動画撮影ができ、外部レコーダー無しで10bitの内部記録もできるなど「もうシネマカメラじゃん」と言える圧倒的な動画撮影能力を備えている。ただ、“凄すぎる”ため、逆に「あれって映画撮る人用のカメラでしょ?」とか「難しそうで自分に必要なのかわからない」という印象を持っている人も多いだろう。

「LUMIX DC-S1H」

ただ、YouTuberの人気や、一眼レフ顔負けの静止画/動画が撮れる最新スマホが話題となっているように、「映画みたいなカッコいい映像を撮って、SNSやYouTubeで公開してみたい」という願望を持つ人が増えているのも事実だ。

DC-S1H(以降S1H)は、そうした「基本は静止画撮影だけど、キレイな動画も撮ってみたい」というライトなユーザーから、映像制作を職業としている人まで幅広くカバーできるカメラとも言える。また、映像制作にハマったユーザーが、「もっとこんな映像が撮りたい」と考えた時に、そのステップアップに段階的に、なおかつ“青天井でついていけるカメラ”だという。それはどういう事なのか?

開発したパナソニック イメージングビジネスユニット 商品企画の香山正憲主幹、イメージング商品マーケティングの中西智紀主務に話を伺った。そこからは“マニアックで難しそう”という今までのS1Hのイメージとは違う姿が見えてくる。

“もはやシネマカメラ”なスペックにプロが注目

S1Hが発売されたのは、昨年2019年の9月末。発売から約4カ月が経過した。予約するなど、発売当初に買い求めたのはいわゆるアーリーアダプタ、仕事で活用しようというプロが多かったという。例えば、比較的小規模で、企画・撮影から納品まで全部手掛けるプロダクションなどで活躍している、機材にも詳しい人だ。

中西氏は、発売前に銀座で開催したセミナーを振り返る。「来場された方の半分がビデオグラファーの方で、既に映像のお仕事をされていて、ミラーレスなので1人で撮影できるので、ワンマンでちゃんと(撮影の仕事が)まわせるかどうか、本格的な映像に仕上げる際にも、それに耐えられる画が撮れるかどうか、そういった点を評価していただきました」(中西氏)。

S1H発売に伴い、そうしたプロが多く集まる放送機材の展示会「InterBEE」にも、LUMIXとして初めて出展。「プロ用の映像制作機器をずっと使ってこられた方で、今までLUMIXは検討した事もないという方も、『S1Hは本当にシネマカメラみたいなレベルらしい、という噂を聞いて、興味を持った』と、沢山来ていただきました。プロの方なので、会場でも露出を変えながらS1Hを横に振って、画の安定感とか、ローリングの具合とかをチェックされていました(笑)」(中西氏)

パナソニック イメージング商品マーケティング担当の中西智紀主務

S1Hの実売は約50万円。各社のミラーレスカメラの最上位モデルらしい価格だが、一般のカメラファンからすると“高価なハイエンドモデル”と感じる。だが、100万円オーバーは当然、数百万円が当たり前なシネマカメラで仕事をしている人にとっては、S1Hのスペックで50万円は“激安”と言っていい。つまり「ホントにこれで仕事ができるか?」をガチにチェックして、「いけそうだ」と判断したプロが買い求めたというわけだ。

そのため、映画やウエディング撮影、そしてCMや各種プロモーションビデオなどにS1Hはどんどん使われはじめている。具体的な作品名を出すのは難しいが、その数はかなり多い。機材面でパナソニックが協力した一例としては、6月5日に全国公開される「奥様は、取り扱い注意」映画版の現場でも活躍中とのこと。

[NEW] LUMIX S | LUMIX S1H Sizzle Reel

また、最近話題の映像配信サービスのNetflixは、配信作品を撮影する時の認定カメラとして、レンズ交換式デジタルカメラとして初めてS1Hを認定している。そうとは知らずに、S1Hで撮影した作品をすでに目にしていた、というケースも多いだろう。

……ここまでは「プロも仕事で使える動画性能を持つS1H」という話だが、発売から1カ月半ほど経って、これとは別の変化が起こったと香山氏は語る。場所はYouTubeだ。

「その頃になると、YouTubeに全世界のユーザーがS1Hの映像クオリティや、使い勝手を紹介する動画がアップされはじめました。中には説明のコメントは無く、S1Hで撮影したキレイな映像だけを沢山アップされて、高評価が沢山つくなどしていました。そうした、S1Hの魅力を発信してくれる方達のおかげで、趣味で映像を作りたいという人達にも徐々に広まっています。それが、販売台数のカーブにも現れています」(香山氏)。

パナソニック イメージングビジネスユニット 商品企画の香山正憲主幹

中西氏も「映画作りの勉強をしたい、映像の勉強がしたいという、映像の仕事を目指す学生さんに、買っていただくというケースも増えていますね」と続ける。

つまり、プロが映像制作の現場で活用しているカメラと同じモノを、映像にこだわる一般のユーザーも手にしはじめているというわけだ。これはS1Hが100万円オーバーな値段では、起こらなかった現象といえるだろう。

映像制作の現場で活躍するS1H

では、実際にプロの撮影現場でS1Hはどのように評価されているのだろうか? 決まって挙がるのが「撮れる“画”の良さ」だという。

香山:ロケの現場ではVARICAMなど、複数のカメラと共にS1Hが使われますが、他のシネマカメラで撮影した映像とも、親和性が高いという声が多いです。情報量の多さ、カラーグレーディング時の耐性が高いといった点も、評価していただいています。

また、『高感度で撮影した時でも、色が退色しない』と、よく言われます。しっかりと色が残っているので、暗所撮影でも安心して使えるという声が本当に多いです。これはデュアルネイティブISOテクノロジーのおかげですね。

デュアルネイティブISOテクノロジーとは、シネマカメラのVARICAMにも導入されている技術だ。一般的なイメージセンサーは、単一の感度・ゲイン回路構成であるため、高感度になるほどノイズも同時に増幅されてしまう。一方でデュアルネイティブISOは、低ISO感度用と低ノイズ・高ISO感度用の2系統の専用回路をイメージセンサーの各画素に装備するリッチな技術で、高ISO感度設定時でもノイズの増加を抑えられる。ユーザーはLOW(ISO 640-5000)とHIGH(ISO 4000-51200)の設定を切り替え可能だ。

香山:画質面では、『映像に変な癖が無い』という点が喜ばれています。民生機ですと、”メーカー独自の色”に対してどうしても好みが生まれてしまうものですが、S1Hでは、当社シネマカメラの思想である”VARICAMルック”の再現にこだわり、開発をしました。センサーから読み出した映像をどれだけナチュラルに、持っている情報を、色味を含めてしっかり残せるかをとにかく追求しました。

中西:10bit記録ができるところも喜ばれています。一般的なミラーレスカメラの動画は8bit記録がほとんどですので、例えば、空撮シーンでミラーレスをドローンに搭載すると、他のカメラで撮影した10bitの映像と、ドローンの8bit空撮映像で、明らかに(画質の面で)違いが出てしまいます。仕方がないので、作品もコンテの段階で“ここからはドローンの映像ですよ”とわかるような表現をしたりするケースもあるくらいです。しかし、S1Hはドローンに搭載できるミラーレスのサイズながら、10bit記録ができ、他のシネマカメラで撮影した映像とルックを合わせられる。“クリエイターの表現の邪魔をしないカメラ”として、評価していただいています。

画質だけでなく、シネマカメラと比べると大幅に小型なボディと、そのボディ内に搭載した手ブレ補正(B.I.S.)機能も、現場では重宝されているようだ。

中西:“B.I.S.の効果が秀逸だ”という声も多いです。屋外から狭い室内に入るようなシーンでは、小型なボディが活きますし、B.I.S.でブレを抑えて撮影できます。例えば、被写体のモデルさんがカメラに向かって歩いてきて、カメラが後ずさりながら撮影するカットでも、従来はカメラをジンバルに搭載して撮影する必要があった。しかし、S1HでB.I.S.を効かせて、手持ちでテスト撮影したら、それでいけちゃって、ジンバル出さなくていいじゃん(笑)という話になったという体験談も伺いました。

香山:現場に重機を入れなくても、本格的な設備を組まなくても撮影できてしまうので、サクッとシーンの撮影が終えられ、現場の撤収も速くて助かったという声も多いです。B.I.S.は“ジンバルいらず”を目指して開発していますので、我々としても嬉しい反響です。

プロの現場では、“ちゃんと撮れているか”、“いつでも確実に撮れるか”という使い勝手や信頼性も重要となる。S1Hはその点にも注力して作られているという。

香山:背面の液晶が動くので、HDMI接続の外部モニターをカメラに取り付けた状態でも、モニターがケーブルに干渉しなくて使いやすいと皆さん言っていただいてます。

稼働する背面モニターが好評だ

中西:タリーランプも備えていますが、さらに、モニターに録画中である事を示す赤枠を表示する機能を持っています。これがわかりやすいと好評ですね。

現場では“逆REC”と言うのですが、録画を止めたと思っていたら止まっていなかったとか、撮っているつもりだったのに撮れていなかった、というミスですね。プロの皆さんは現場で誰しも、1回くらいその手の失敗をされているそうで、モニターを見た時に録画しているとフレームが赤くなるというのは、必ず目に入るのでわかりやすくて安心すると言っていただいています。これを赤いアイコンにすると、映像の邪魔になってしまいますので、赤い枠にこだわりました。

録画中、モニターに表示されている映像の周囲に赤い枠が表示される。モニターを見れば、録画しているかどうか確実にわかるわけだ

ボディの使いやすさも好評だという。特に注目は録画ボタン。シャッターの近くに大きく、赤く目立つ録画ボタンが配置されているだけでなく、同じボタンがレンズマウントの右下にも配置されている。静止画用カメラではなかなか見ない録画ボタン配置だ。

香山:これは、GH5にショルダーリグを取り付けて撮影されている海外のお客様から、使い勝手をヒアリングした時に伺った意見を反映させています。ショルダーリグを取付けて、右肩に乗せて撮影すると、録画ボタンを左手で押さなければならない。その時に、録画ボタンがシャッターの近くにあると、左手をうんと伸ばして、取り付けたリグやモニターを避けながら録画ボタンを押さなければならない。『カメラボディの左側にも録画ボタンをつけて欲しい』と言われ、最初は悩んだのですが、ボディを見ながら、あれ? ここ(レンズマウントの右下)いけるんじゃね? と思ったのです(笑)。

S1Hは“スチルカメラの顔”をしていますので、赤い録画ボタンをここに配置してもいいのかという葛藤はありました。ただ、S1Rなど、S1シリーズは各モデルに特徴があり、S1Hは“動画に振り切ったモデル”ですので、専用モデルなのだから、それくらいやってもいいと、勇気を持ってここに配置しました。結果的には良かったと思っています。

シャッターボタンの手前にある赤いボタンが録画用ボタン
マウントの右下にも録画用ボタンがある

細かな使い勝手はもちろんだが、動画撮影カメラとしての基本的な部分にもこだわっている。それは“時間無制限で撮影できる事”だ。ミラーレス一眼やスマホで長時間動画を撮影した事がある人はわかるかもしれないが、4K動画など、高解像度で処理が重い動画撮影をすると、本体の温度が上昇。10分くらいで撮影が停止してしまう機種が少なくない。

中西:S1Hに、そのような制限はありません。長時間、安定して撮影できるようにファンなどの冷却機構も作り込んでいます。大切なのは、長く撮影できる事だけではありません。例えば、温度が上昇して撮影できなくなるカメラの場合、撮影を一度止めても、本体を冷却しなければ再び撮影できません。

香山:冷却時間ですと言って、演者を休ませるわけにもいきませんし、大事なシーンで飛行機が飛んできているのに『冷却中で撮影できません』ではダメです。-10度~40度までの環境では、ボタンを押せば、必ず撮影できる。“いつでも確実に撮れる”という点に、最もこだわりました。これはGHシリーズからずっと、こだわっている部分で、ユーザーの皆様からも求められている部分です。

本体に強力な冷却機構を搭載。側面には排気用のスリットが見える
[NEW] LUMIX S | Behind-the-scenes of filming with LUMIX S1H

誰でも簡単にシネマライクな映像が撮れる

ここまでは「プロの現場でも好評」という話だが、S1Hは“機材に詳しいプロだけが使いこなせるカメラ”ではない。「シネマライクな映像が撮ってみたいけど、どうしたらいいかわからない」という一般のユーザーにとって便利な機能も搭載している。

その1つが「シネライクD2/V2」だ。プロの現場では、V-Log撮影をして、後から色味などを作るカラーグレーディングという工程を経るのが一般的だ。ただ、普通のユーザーにとってはハードルが高い部分でもあるし、必ずしもV-Log撮影が必要でない人もいる。

そこで、フォトスタイルとして選ぶだけで、映画のように暖かなスキントーンや印象的な陰影の表現を実現してくれるのが「シネライク」だ。ダイナミックレンジを優先した「シネライクD2」と、コントラストを重視した「シネライクV2」から選べる。どちらかを選んで撮影すれば、カラーグレーディングをしなくても、VARICAMシリーズの絵作り思想を反映したルックを容易に再現できる。つまり、難しい事をしなくても“最初っから映画っぽい映像が撮れる”わけだ。

香山:ライト層のお客様には、シネライクD2/V2は本当にオススメです。ぶっちゃけ、フレームレートで24pを選び、シネライクD2/V2を選んで、カメラを構えて、脇を締めてスーッとパンするだけで、映画のようなワンシーンが撮れちゃいます。B.I.S.があるので、手ブレ補正は任せてください。これだけでも本当に“映画っぽい絵”になるのでとても楽しいと思います。

まず、サポート機能を使って映画のような映像撮影の楽しさを味わう。もっと色味を変えたいなど、欲求が出てきたら、V-Log撮影にチャレンジする、という流れにも対応できるカメラというわけだ。

ちなみにV-Log撮影時は“味気ない色”になってしまうが、LUT(ルックアップテーブル)を適用した後の映像をファインダーやモニターに表示する「V-Logビューアシスト機能」も備えている。これを使うと、映像完成時のルックを確認しながら撮影できる。プリセットのLUT(Vlog_709)だけでなく、カスタムLUTを読み込んで適用できるのが利点だ。

中西:簡単に使おうと思えば使えるカメラです。そして、もっとこだわりたいと思ったら、グレーディングにも対応できます。また、一般的なカメラの場合、グレーディングをしようと思うと、カメラに外部レコーダーを取り付けて、そのレコーダーで録画するというカタチになります。しかし、S1Hは本体だけで、10bitのLog動画が収録可能です。しかも、カメラのファインダーやモニターにLUTが当たった状態で表示できるため、専用機器で表示アシストする必要もない。つまり、何か別の機材を追加で買わなくても、カメラだけで簡単にLogを撮り切れてしまうのです。

さらにそこから、Apple ProResフォーマットベースに変換しようとか、そういう段階になったら外部レコーダーを取り付けてそこでフォーマットを変えて……となりますが、基本的な部分はS1Hだけで対応できる。ユーザーが成長した時に、カメラ側で機材を買い換える必要がないというのが、重要なポイントです。

香山:編集にこだわると、フレーミングを変えたいという話にもなります。S1Hの場合、6Kや5.9Kで撮影できます。ですので、4Kの映像を作る時も、それよりも高解像度で撮影しておいて、編集で切り取るというテクニックが使えます。そういった面でも、ユーザーのやりたい事が増えた時に、それにも対応できるカメラになっています。

動画に適したSレンズ。LUMIX S PRO 16-35mm F4がオススメ

S1Hが採用しているのはライカ、パナソニック、シグマがレンズを手掛けるLマウントだ。「ボディに興味はあるけど、Lマウントレンズ持ってないから新たに何本も揃えるのはツライ」という人もいるだろう。

ただ、中西氏は「まず、『LUMIX S PRO 16-35mm F4 S-R1635』を買っていただければ、S1Hと組み合わせてほとんどの撮影に対応できます」と語る。

LUMIX S PRO 16-35mm F4 S-R1635を取り付けたところ

中西:S1Hは、ほとんどの映像記録モードにおいて、フルサイズとスーパー35mmをシームレスで切り替えられます。スーパー35mmにすると、フルサイズと比べて焦点距離は約1.5倍になります。16-35mmレンズの場合、テレ端は35mmですが、スーパー35mmでは約50mm相当になります。もちろん、6Kフル画素で撮影したい時はセンサーのフルエリアを使うしかないのですが、4Kまでなら画素を減らすことなくフルエリアでもスーパー35mmエリアでも撮影可能です。

フルサイズを選んだところ
スーパー35mmを選ぶと、焦点距離は約1.5倍に

確かに、16mmの広角から約50mmまで撮れれば、たいていの撮影はクリアできる。ただ、焦点距離が16-35mmだという理由だけで、S-R1635をオススメしているのではないという。キーワードは“LUMIX Sシリーズ”だ。

フォーカスを合わせる際に、レンズの中でフォーカスレンズが移動する。Sシリーズのレンズでは、フォーカスレンズを保持するフレームが、ガイド軸に沿ってリニアモーターで駆動する。その際に、ガイド軸との間に生じる摩擦でガタついたり、フォーカスレンズがピタッと精度良く停止しない事がないよう、超音波振動子によりガイド軸を超音波振動させ、フレームとの摩擦を低減。高精度かつなめらかなフォーカシングを実現。ズーム時のオートフォーカス性能も高めている。

香山:スチルの撮影では、画角を変えるだけの作業ですが、動画撮影の場合は“変えているあいだ”も全て(演出の)効果と言えます。フォーカスレンズが移動中にガタつかないとか、フォーカシング時に、ピント位置の移動に伴い画角が変化するブリージングも起きないように、意識して作っています。

絞り羽根にもこだわっています。スチル用のレンズでは、絞りを一段一段変える際に、変化の幅が大きく、なだらかではありません。Sシリーズでは絞りをマイクロステップ制御する事で、じわっと変化させています。露出のパカつきも防いでいるほか、パンニング時する時も安定した露出変化制御をサポートしています。純正のSシリーズのレンズは、こうした動画撮影用の配慮をきちんとしたレンズですので、S1Hを使う際は、ぜひ組み合わせて使っていただきたいです。

LUMIX Sシリーズは、レンズに赤い「S」マーク

さらにマニアックな機能なのですが(笑)、S1Hではカスタムセットアップメニューの中で、フォーカスリングを回した時に、何度回したらどのくらいフォーカスが動くかを、角度を指定して決められるようになっています。回転速度に応じて、加速度をつけてピントを移動させるか、つけないかを、リニア/ノンリニアから選ぶことも可能です。

確かに超マニアックな機能だが、このあたりの設定を最適化する事で、動画撮影で大切な、なめらかかつ、狙った位置に確実にピントを合わせる事が可能になる。フィーリングが合わず、回しすぎて最後だけピント外れていた……なんて事が防げるわけだ。

香山:発売から約4カ月が経っていますが、このフォーカスリング制御が便利だという声を最近よく耳にします。みなさんがS1Hを本当に使い込んでいただいて、深い階層の設定メニューまで使いこなしていただいているんだなと感じて、非常に嬉しいです。

中西:機能が豊富すぎて、なかなか一気にお伝えできないのが心苦しいのですが(笑)

香山:レンズの話では、アナモフィックレンズを使った撮影にも対応しています。アナモフィックレンズは、独特のフレア感など、味わい深い描写が魅力ですが、それをデジタルで楽しめる。お好きな方は、映画の撮影でもその味わいを活用されています。

具体的にS1Hは、4:3のアナモフィックレンズに対応。アナモフィックデスクイーズ表示機能も備えており、シネマスコープサイズ相当に引き伸ばした状態をモニターにシミュレーション表示できる。つまり、仕上がった最終的な映像をイメージしながら撮影ができるわけだ。アナモフィックレンズへの対応はGHシリーズからだが、S1HではGH5/GH5Sで搭載していた2.0倍、1.33倍に加え、1.8倍、1.5倍、1.3倍のデスクイーズ表示にも対応するなど、機能が進化している。

香山:LUMIXには、決定的瞬間をあとから静止画で残す「4Kフォト」や「6Kフォト」機能があります。あの機能は、カメラの中に動画データとして保存しておき、そこから一枚の静止画を切り出しています。静止画の写真用に動画を記録しているので、アスペクト比は動画の16:9ではなく、スチル用の3:2、4:3、1:1といった動画なのです。『その中の4:3動画って、アナモフィック状態でしょ?』というところから、この機能はスタートしています。GHやS1Hはミラーレスでフランジバックも短く、アナモフィックレンズも取り付けられますので。

中西:映画だけでなく、CMでも使われていますね。特に化粧品など、美容系のCMで女性を幻想的に撮影するようなケースが多いです。

一緒に成長していけるカメラ

デジタルカメラの方角からS1Hを見ると、「動画撮影機能を猛烈に追求したモンスターカメラ」に見える。が、映像制作のプロから見れば「シネマカメラとしては安価で、小さくて取り回しが良く、信頼性も高い。サブカメラとして使えるだけでなく、狭い場所や移動撮影などではメインにもなる」という“使い勝手の良いシネマカメラ”と扱われている。

一方でS1Hは、プロやマニアしか使えないのではなく、S1ゆずりの静止画撮影能力や、YouTuberデビューしてみたいというような映像初心者をサポートしてくれる民生用カメラとしての機能も備わっている。そして“これらの要素が一眼ボディ1つに収まっている事”が最も重要なポイントだ。つまり、そこまでこだわらない人も、メチャクチャこだわる人も受け止められる事が、S1Hの真価と言っていい。

中西:個人的には“1台あればメシが食えるカメラ”だと思っています。一人で撮影する事もできますし、予算がつきそうだからフォーカス担当スタッフをつけたり、周辺機器を取り付けたり……個人的な作品から、映画祭を目指すような作品まで。ユーザーさんのやりたい事に対して、答えを返せるカメラですね。

香山:そういった意味で、プロダクションにとりあえず1台置いて欲しいですね。スチルカメラとしてもS1と同等の高性能を持っていますので、スチルやイメージ映像の撮影をしながらロケハンをして、本番でもS1Hを使えば、ロケハンでつかんだイメージに沿って撮影できます。

一方で、ハイスペックなカメラですが、そんなに身構えなくても使えるカメラです。このスペックが“ミラーレスのボディに入っている”事が、『このカメラで映像制作を初めて欲しい』という我々からのメッセージでもあります。

中西:ユーザーがステップアップすると、機材の性能の限界が足かせになるのはよくある事です。ユーザーのクリエイティビティに機材が追いつかなくなるわけですが、S1Hの場合は青天井でついていけます。今は趣味で撮影しているけれど、いずれはNetflixで世界に配信される作品の撮影監督をやるんだ! といった夢を持っていても、そこまで対応できる。ユーザーと共に、一緒に成長していけるカメラ。“永遠のパートナー”にしていただきたいと思っています。

山崎健太郎