トピック

PCオーディオでも「ラックスマンの音を」

DA-06開発現場で聴く“ラックストーン”の秘密

 ブーム的な盛り上がりを経て、オーディオ業界で1つのソースとして確固たる地位を築いたPCオーディオ。どこまでハイサンプリングなハイレゾファイルが再生できるか競争するように各社から新製品が投入されたが、24bit/192kHzまでサポートし、DSD再生も可能な機種が増加した事で、スペック的な面の競争はひとまず沈静化しつつあるように見える。

 これは、スペック的な数値だけではない“音作り”が重要視されるフェーズに入ったと言い換える事もできるだろう。そこで注目したいのは、ピュアオーディオメーカーが手掛けるPCオーディオ機器だ。以前はマランツにDAC「NA-11S1」の話を伺ったが、今回は2010年にUSB DAC「DA-200」(155,400円)でPCオーディオに参入したラックスマンに話を聞く。DA-200の翌年に71,400円という価格も話題となった「DA-100」、さらに今年2月からは32bit/384kHzやDSDにも対応した「DA-06」(315,000円)を投入するなど、PCオーディオに積極的な姿勢を見せている。

「DA-200」
「DA-100」
「DA-06」

 同社は創業1925年、実に90年近い歴史を持つ老舗オーディオメーカーだが、最新のPCオーディオに取り組む一方で、現在でも真空管アンプやアナログプレーヤーなど、趣味性の高い製品も含め、幅広くラインナップしている。サウンド面では、俗に“ラックストーン”と呼ばれる女性ヴォーカルなどの艶やな表現を特徴として語られる事が多いメーカーだ。

 今回は、PCでも貫かれるこの“ラックストーン”の秘密も垣間見える、興味深いインタビュー&試聴となった。お話を伺ったのは、商品企画室の小島康氏、開発部の長妻雅一部長だ(以下敬称略)。

新しい市場に、“自分たちの音”を持ち込む

――PCオーディオ系で最初の製品というと、2010年の11月に発売された、24bit/96kHz対応のUSB DAC「DA-200」ですよね。これはそもそも、どういった経緯で作られたモデルなのですか?

商品企画室の小島康氏

小島:2010年頃から、PCオーディオはどんどん盛り上がって来てはいました。これからもっと盛り上がるだろうなと予想はしていましたが、参入するにあたっては社内はもちろん、いろいろな声がありましたね。ただ、新規に全く新しいジャンルの製品を開発する、というイメージは無かったんですよね。入力インターフェイスの1つとしてUSBが入って来るというのが初めてのチャレンジだったとも言えます。

 私達はカーオーディオも手がけていますが、カーオーディオのメーカーさんが既に沢山いる市場に1999年に新規参入した時と、PCオーディオの状況は似ていたんです。カーオーディオの時も、何か新しい技術を持ち込んだかと言うと、決してそうではありませんでした。しかし、ある意味でガラパゴス的に進化していた(カーオーディオの)マーケットに、自分たちの価値観をそのまま持ち込んだところ、凄く“特異”に見られたんです。自分たちにとっては、長年やり続けている音を持ち込んだだけなのですが、それまでのカーオーディオ市場では、ちょっと違う音と受け止められた。これが“武器になる場合もある”と凄く感じました。

 「DA-200」の時もまさにそうでして、当時はピュアオーディオメーカーが今ほど多くは参入しておらず、どちらかというとPC周辺機器メーカーさんが、スペック中心で作られた製品が多かった。例えば、数万円で24bit/192kHz対応などの製品もある中で、DA-200は96kHzまでの対応で、価格も我々としては頑張りましたが148,000円です。やはり当初は「高い」という反応でしたが、聴いてみて「良かった」というユーザーさんの口コミが広がり、評価していただけました。

――確かにピュアオーディオ機器で148,000円はそれほど高価ではありませんが、PC周辺機器という感覚だと、高く感じますよね……。

「秋のヘッドホン祭 2011」で展示されたDA-200。薄型ステレオパワーアンプ「M-200」と組み合わせたところ

小島:ラックスマンは“高価な製品のブランド”と思われているかもしれませんね。しかし、我々としてはブランドそのものに対して、何かお金を頂こうという商売は一切やっていません。我々はやはりアナログの物量メーカーですので、物(パーツなど)を減らさない限り、安くはならないんですよ。しかし、シンプルにするというのは、“自分たちの音作り”を反映しづらい構成になるという事ですので、二律背反で難しいバランスになってくるわけです。

――その翌年に発売した「DA-100」は、71,400円という価格にインパクトがありました。御社のコンポとしては破格と言っていいですよね。

2011東京インターナショナルオーディオショウで展示された「DA-100」

小島:単一のコンポで10万円を切るのはほとんどありませんね。DA-100が作れたのは、単純な理由でして、バーブラウンさんから良いDACチップ(PCM5102)が出たからです。デモを聴いた時に、リーズナブルなチップですが、凄く音が良かった。DA-100は光/同軸/USB DAC機能とヘッドフォンアンプを備えていますが、プリアンプやアナログ入力を省略した仕様であれば、コンパクトで価格を抑えつつ、高音質な製品が作れそうだと考えました。

――DA-100の価格帯ですと、若いユーザーさんが増えたのではないですか?

小島:そうですね。これまでは平均年齢が40代後半で、ユーザーさんの新陳代謝が無ければ毎年1歳ずつ年をとっていくわけですが、それがDA-100の投入で、初めて上げ止まりました(笑)。学生さんにも買っていただいています。

 DA-100にはライン出力も搭載されていますが、やはりヘッドフォンで聴いている人が多いんでしょうか?

小島:かなり割合は高いと思います。複合機ですと、必ず「ヘッドフォンは使わないから外して価格を下げて欲しい」という声も出てくるのですが、DA-100に関しては無く、ヘッドフォン機能もありきで選ばれている人が多いですね。

――そしていよいよ32bit/384kHzやDSD対応のDAC「DA-06」(31万5,000円)が2月に発売されました。

小島:従来のピュアオーディオのユーザーさんから、「低価格なモデルばかり出して」、「(DA-100のような小さなサイズだと)ラックに合わない」など、ずっと言われていたのですが(笑)、準備を進め、満を持して出す事ができました。DA-200からのステップアップとして上位モデルが欲しいというユーザーさんも多くいらっしゃいました。また、ヘッドフォンアンプも搭載しているDA-200を、セパレート化するという意味合いもDA-06には持たせてあります。

 ヘッドフォンユーザーさんからも反響が大きく、「P-700u」(バランス駆動対応のヘッドフォン専用アンプ)と「DA-06」を重ねて、「これがDA-200からステップアップした、俺の答えだ!」という感じで、写真を撮って送ってくださる方も多く、嬉しいです。

「DA-06」
「DA-06」と「P-700u」を組み合わせたところ

PCオーディオでも“ラックスマンの音”を

――「DA-06」には、DACにPCMとDSDの両対応のバーブラウン「PCM1792A」が、デュアルモノで2基使われています。このチップは、どういった経緯で選ばれたのでしょう?

長妻:テキサス・インスツルメンツ(TI)さんと話をして、当初は別のDACを使おうと計画していました。しかし、チップのアナログ部分が、これ以上のものは今の技術ではできないと言う話になり、PCM1792Aを使う事になりました。そこで、これまでと同じ使い方をするのではなく、PCM1792Aのデジタルフィルタを外し、単体DACとして使おうと考えました。

 デジタルフィルタは、TIのDSP「TAS3152」を用いて、そこで最大384kHzにアップサンプリングし、処理しています。DACは、マルチビット系のものを使うと、1bit系の音色が好きなお客様からは遠ざけられてしまう事があります。しかし、今回の1792Aは、マルチビットの良さを備えながら、1bitらしい細やかな側面も持っておりますので、色々なお客様の好みに応えられたんじゃないかと思っています。

DA-06はDSD再生にも対応している

――DSDは、最近PCオーディオで非常に注目されていますが、DA-06開発当初は、まだ盛り上がるかどうか判断が難しい時期だったと思いますが……。

小島:そうですね、今年の2月に発売したら、対応が国内で一番最初のモデルになるんじゃないかと、皆が思っていました(笑)。

長妻:当初はDoP(DSD Audio over PCM Flames)で対応しようと思っていましたが、ノイズが出るなどの問題もあり、どうしようかと悩んでいました。これからどうなっていくのか、光が見えない時期に“やろう”と決めましたので心配でしたね。

小島:ただ、DSDには、PCオーディオというか、“デジタルの音が苦手”という人にも受け入れられる側面がありますね。“アナログ的なデジタル”というニュアンスで受け取られる方が多いんですよ。もともとアナログマスターのアーカイブ向けに作られたフォーマットですから、実際に音を聴いてみて、CDの音が嫌いだという方も、これだったら良いねと言っていただけるのが面白いですね。

――PCオーディオ機器を開発するにあたって、音作りを変えたりはするのでしょうか?

開発部の長妻雅一部長

長妻:いいえ、基本路線は変えていませんね。“ラックスマンの音”を、PCオーディオでもそのまま貫いています。

――先ほど“デジタルの音が苦手”という話もありましたが、初期のPCオーディオ製品は、デジタルっぽい、無機質な音が多かったですよね。

長妻:そうですね。せっかく盛り上がり始めたPCオーディオにとって、買って聴いてみても“楽しくない”というのは良くないなと思いました。そんな製品が増えると、マーケットそのものが無くなってしまうのではという危機感もありました。

――“ラックスマンの音”というのは、具体的にはどんな音なのでしょう?

長妻:簡単に言うと、“楽しい音、聴いていて気持ちの良い音”です。もう少し詳しくお話すると、店頭効果などを狙って誇張するのではなく、永く使っていただける音です。例えば、低域がふっくらして、高域がキツ目な音は、喜ばれる音ではありますが、長時間聴くと疲れてしまう。“ああ良かった、もう一回聴きたい”と思えて初めて本物だという思いがあります。音場もそうですね。やたらと広がって、気持ちいい音もありますが、実物以上に広がったとしたら、やはりそれは偽物ですよね。情報量も、単に多いだけでなく、ピアノのタッチで、指をどうすべらせているのか、その様子が伝わって初めて情報量が多いと言えます。

ラックスマンの試聴室で話を伺った

 例えば、開発時の試聴でJennifer Warnesのアルバム「Well」を良く使います。本当にもう、何回聴いたのかわからないくらい聴くわけですが、それなのに開発していくと“聴き惚れる瞬間”があります。そういった音に向けて、各パーツの選定やセッティングを、細かく合わせていきます。

 オーディオは、何をやっても音が変わりますが、もういじって変わる所は全てコントロールしようと思っています。メーカーとしての音の哲学みたいなものがあるのですが、そこに、全てのチューニングがキチンと向いた時、その機械が持てる能力が全て発揮できると考えています。“これだから音が良い”、“この部品を入れたから音が良い”と言いがちなのですが、実際には一箇所良いだけでは全然ダメなんです。

――概念としては理解できますが、具体的にどんな事をしているんでしょう?

長妻:そうですね。実際に体験していただくのが一番ですね。では、ラックスマンならではと言いますか、他のメーカーさんではあまりやらない工夫のポイントを、いくつか聴いてみてください。

細かすぎ!? 音質チューニングを体験する

 ここで、実際に開発で使われている試聴室にお邪魔し、聴き比べを行なった。まずはDA-100。基板やパーツが“むき出し”状態だが、これは製品の中身をそのまま展開したもので、開発時にはパーツ交換などの作業がしやすいように、このようにして、試聴を行なうのだという。

 ちなみに開発部の試聴室は、直接音を厳密にチェックするため、6畳程度の小さめの部屋で、そこに30年来使われているというJBL 4343が設置(内部配線などはカスタム済み)されている。

天板が外されたDA-100
その中身を展開したのがこのボード

 まず、製品版の状態で、USB DAC機能でJennifer Warnesの「And So It Goes」を聴く。DA-100は10万円を切る製品とは思えないポテンシャルで、ヴォーカルの伸びやかさ、音像の厚み、低域のシッカリとした沈み込みが好印象。ある種の“余裕”を感じさせるサウンドだ。

 ここで長妻氏は、電源付近に搭載されているヒューズの“向き”を入れ替え始めた。別のヒューズに交換するのではなく、同じヒューズの“向き”を変えるだけだ。それだけで音が変化するという。

中央にある透明で横長のパーツがヒューズだ
ヒューズの向きを変えてみる

 ぶっちゃけ「音の変化がわからなかったらどうしよう」と冷や汗が浮かぶが、音が出た瞬間、その心配は杞憂に終わる。先ほど感じた、中低域のゆったりとした量感が少なくなり、心地よかった響きが、硬質で、固い音になったのだ。唸りながら「そう言われてみると……」というレベルではなく、冒頭のピアノの音が出た瞬間にわかる。違いがわかりやすい試聴室で聴いているというのもあるが、オーディオ機器の比較に慣れていなくても、恐らく誰にでもわかるほど違う。

 よく見ると、ヒューズホルダの下部が、片方が白くなっている。これが方向を示しており、その向きに合わせてヒューズを取り付けるよう、工場で量産する際に指定しているという。長妻氏によれば「向きだけでなく、片側に寄ってしまっても音が悪くなるので、必ず真ん中に来るよう指示しています」とのこと。

 続いて、電源のラインフィルタ。コイルとコンデンサでノイズを除去しているが、このコンデンサの内部構造は、2つのフィルムを合わせて、それをグルグル巻いて作られている。そのため、どちらをインピーダンスの低い方に接続するかで外来ノイズの飛び込み量が変わる。それゆえ、コンデンサを取り付ける向きを逆にしても、音が変わるという。

 実際に聴き比べると、逆にした音は、背景のサーッというホワイトノイズが目立つようになり、ヴォーカルのサ行が荒れ気味になり、全体的に粉っぽい質感になる。このコンデンサも、量産時のラインでインピーダンスを測定し、決められた向きで取り付けられるという。それにしても、向きだけでここまで音が変わるのは驚きだ。

 続いて長妻氏が取り出した上位機種のDA-06には、横に大きな抵抗の切り替えボックスが接続されている。これは、DA-06の回路に流す電流の電流値を、自由に変えるためのモノで、長妻氏の自作。抵抗を変える事で、音にも変化が起きるが、抵抗を1つ1つハンダ付けしていたのでは膨大な時間がかかる。そこで、ダイヤルを回すことで、電流値を微妙にコントロールして、一番良いところを見つけ、最後に実際の抵抗を接続。最終的に音を確認しているという。

DA-06。横にあるツマミの付いた箱が抵抗の切り替えボックスだ

 製品の抵抗値は56kΩだが、これを62kΩに変化させると、音の響きが短くなり、試聴室が狭くなったように感じる。さらに変化させていくと、どんどん短くなり、音が硬質に変化。伸びやかさが無くなり、パツパツと切れるような音になってしまう。まるで、ステージが鉄の檻に入れられたような、不自然なサウンドだ。

 逆方向にダイヤルを回し、47kΩなどに設定すると、これまでよりはマシになるが、高域の抜けが悪く、圧迫感はまだある。昔のMP3を聴いているような息苦しさだ。元の設定に戻すと、ヴォーカルの声が自然で、余韻が気持よく部屋の壁の向こうまで広がっていくのが見え、ホッと安心する。「高域が不自然だ」とか「響きが詰まる」といった細部の違和感に気をとられず、音楽と気持よく向き合える。

 試聴にはWindows PCを使っているが、USB DAC部分の電源に使われているコンデンサを交換しても、音は激変するという。製品版には470μFのコンデンサが2個、100μFが1個、合計3個使われているが、これを470μF×1個に減らしてみる。すると、低域の厚みが無くなり、沈み込みも浅くなる。470μF×2個だけにすると、だいぶ元の音には近づくが、まだ厚みが足りない。高域寄りであるため、音楽に安定感が出ず、聴いていて落ち着かない。

 そこで、元の構成(470μF×2+100μF×1)を通り越して、470μF×3個にしてもらう。すると、低域はパワフルになった。だが、パワフル過ぎたのか、中低域がダンゴのようにモワッとくっつき、解像度が低下。沈み込みも、期待したほど深くはならない。製品版の構成に戻すと「やっぱりこれだわ」という音になる。

USB DAC部の電源のコンデンサを交換してみる
基板全体

 ただ、これはあくまで製品版という“正解”が出ているから、比較試聴が楽しめるわけで、正解の組み合わせがわからない状態で、1つ1つのパーツや設定を吟味しながら、理想とする音に近づけていく作業を想像するだけでクラクラしてくる。こうした「法則がわかっている部分」(長妻氏)は、それを踏まえた上で設計も行なうのだという。こうした積み重ねが、いわゆる“オーディオメーカーのノウハウ”なのだろう。

 それにしても、あれこれ比較していると、何が正解かわからなくなったりしないのだろうか? 長妻氏に聞いてみると「確かに迷うことはあります」と笑う。しかし、「そんな時は低音がどうの、高音がどうのというよりも、力を抜いて聴いてみて、音楽に引き込まれるかどうか、意識が自然に入っていけるかどうか、思わず聴き惚れるかどうかが重要な指標になる」という。

ラックストーンとは?

長妻氏

 長妻氏によれば、さらに“とっておき”とも言える、ラックスマンならではのこだわりがあるという。それが、内部配線のケーブル。「他社さんと大きく違うのは、ケーブルを“よじっていない”事」だという。言われてみれば、各基板を繋ぐケーブルなどがストレートに配線されており、スッキリとした印象だ。

 「電流が沢山流れますと、磁界を出します。けれど、ケーブルをよじるとそれがキャンセルされて、ノイズが減るんです。しかし、音を聴いてみると、必ずしも良い方向に向かうとは限りません。確かによじると、“音を作り込んだような感じ”は出てきます。“何回ねじると、パワフルになって良い”みたなテクニックもあるのですが、やはりストレートにすると、もっと素直な感じが出てくるんです。電気的には、よじると先がコイルになり、それゆえ、必要な時に瞬時に電流が流れにくい方向になってしまう。それをストレートにすると、音もスッと出て来るようになるんです」。

 半信半疑な状態で、電源トランス手前のケーブルを何回かねじった音と、ねじらない音を聴かせてもらうと、確かに違う。ねじった方は、低域の描写が深くなったような感じはあるのだが、帯域がうねるような不自然さがあり、中高域のフォーカスも若干甘くなる。元に戻すと、サーッと見通しが良くなり、開放感が出る。長妻氏は「グラフィックイコライザを少しいじって好ましい音にセッティングした後で、イコライザ自体をOFFにしたら、やっぱりこれが一番良いなという感じ」と表現していたが、まさにその通りだ。

これが通常の状態
他のケーブルを見ても確かにねじられていない
ケーブルを何回かねじると、音が変化する

 こうした試聴を通して感じたのは、ストレスの無い、見通しが良い音場に、ストレートなサウンドが広がり、その中で女性ヴォーカルの表現などが、どこまで心地よく豊かに、楽しく聴けるか、という点が、ラックスマンの音作りの1つの指標になっているという事だ。おそらくこれが“ラックストーン”の本質なのではないだろうか。

 「よく中域に色をつけているように言われるんですが、そういう事は全然ありません。我々としては、音を素直に出して、音楽の表情が良く出るように調整しているだけなんです。歌手のニュアンスがそのまま伝わる事が大切で、これがラックストーンと言われれば、確かにそうかもしれません」(長妻氏)。

個性があるという事

――今後のPCオーディオ製品開発で、注力したいポイントなどはありますか?

小島氏

小島:PCオーディオの盛り上がりは、従来の大手企業主導の提案ジャンルと違って、我々も含めて、小さなハードメーカーがまずは対応機器を出して、インディーズがソースを出して、そういったところから生まれた珍しいムーブメントだと思いますので、中にいる自分たちもメンバーの1人として、ハードウェアとしてはなるべくお客様に扱いやすいものを提供していきたいですね。

 DA-200やDA-100は、Windowsでもドライバが不要な、プラグアンドプレイで動く製品でしたので、ユーザーサポート面では想定したより楽でした。しかし、DA-06ではWindowsでドライバが必須になり、DA-06と一緒に初めてPCを買ったという年配の方もいらっしゃいます。すると、やはり難しいという方もいらっしゃいますので、電話でPCの起動からお手伝いしたりという事はありますね。

LUXMAN Audio Player

――foobar2000のようなソフトを使おうとすると、DSDの設定などはより難しいですが、DA-06には「LUXMAN Audio Player」というプレーヤーが付属していますよね。あれはインストーラーも無くて、非常に設定もシンプルで使いやすかったです。

小島:複雑な設定をしなくても良い音が最初から出ますし、純正が一番良いだろうと思ってくださる方も多いようで、多くの方に使っていただいています。このソフトはDA-06専用に開発したものですが、DA-200やDA-100のお客様からのご要望も多く、そちらの方々にも使っていただけるようにしたバージョンを、7月に公開予定です。Webサイトからダウンロードできる形で考えています。

――今後USB DACだけでなく、ネットワークプレーヤーなどを出される予定はありますか?

小島:現時点では自社でそれを用意するかわかりませんが、アダプタのようなものでネットワークに対応し、そこからのデータをS/PDIFではなく、しっかりと送受信できるようなインターフェイスをDAC側にも用意して、アダプタを含めたトータルソリューションとしてネットワークプレーヤーと同等のものになる……という流れが、我々としては自然ではないかと考えています。

――PCオーディオが盛り上がる事で、ラックスマンの音を、これまでとは違った層のユーザーに聴いてもらえる機会が今後も増えそうですね。

小島:そうですね。DA-100で、新しいお客様との関わりあいが初めてできたという感じはあります。PCユーザーやガジェット好きな方は、どちらかと言うとコストパフォーマンスを重視される方が多いと感じています。

 趣味の製品ですから、我々は付加価値にどれだけコストをかけるかという、大量生産の工業製品とは違うアプローチでものづくりをしています。'70年代、'80年代のオーディオメーカーは皆そうやっていたのですが、やめてしまったメーカーさんも多く、結局残ったメーカーが際立って、特殊化して見えるというはあると思います。自分たちとしては、同じやり方をずっと続けているだけなんです(笑)。

 自分達は頑張って材料やコストをかけ、こだわって作っていても、それがお客様に伝わらないと、単に“高い”とか“無駄”だと言われてしまいます。ヘッドフォン祭のような新しいお客様が多くいらっしゃるイベントなどの機会を通して、我々の価値観をもっと伝えていきたいですね。

 “趣味のオーディオ”と言う面では、ラックスマンは純A級アンプや真空管など、デバイスや構成的に特徴のある機器も扱っていますが、お客様からそういった個性のある機器を求められる傾向は、年々強くなっていると感じています。

 よく、長年オーディオをやられている詳しい方が、これからオーディオを買おうという人に、ラックスマンを薦めてくださる時に、「個性が強いから気をつけて、(自分に)合うか合わないか、じっくり聴いてみたほうがいい」と言われたりするのですが、個性があるほど、より明確に選んでもらえるので、我々としては逆に嬉しかったりします(笑)。やっぱりオーディオは、趣味の製品ですからね。

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 (協力:ラックスマン)

(山崎健太郎)