プレイバック2015

はじめてのサラウンド以来の衝撃。Dolby Atmosを楽しみ続けた1年 by 鳥居一豊

 今年は、Dolby Atmos(ドルビーアトモス)に明け暮れた1年だった。1年前の秋頃には、Dolby Atmos対応のAVアンプやソフトの発売があり、そのときには自宅でも導入を決めていた。その理由はいろいろとあるが、自宅でドルビー・デジタルのサラウンドシステムをはじめて導入したときの感動が蘇ったから。サラウンド再生の革命と言っていいほど、飛躍的な進歩を果たしていたからだ。

2015年鳥居家最大のトピックがDolby Atmos導入

 まず、感心したのは、ベースとなる5.1/7.1chのスピーカーの音のつながりが劇的に向上すること。サラウンドシステムは多くの場合、ステレオ再生を兼ねることもあってフロントの2本を立派なスピーカーとし、センターやサラウンドなどのスピーカーは設置や置き場所などの理由もあってコンパクトなスピーカーを組み合わせることが多い。自宅のシステムも似たようなものだが、6畳間というけっして広いとは言えないスペースということもあって、AVアンプの自動音場補正機能を駆使しても、フロントとサラウンドのスピーカーの音色の違いに気付いてしまう。つまり音のつながりの悪さが気になっていた。

 音のつながりが悪いと、本来ならばフロントとサラウンドの間に定位するはずの音が、フロントあるいはサラウンド側に片寄ってしまう。つまりフロントとサラウンドの真ん中の空間(視聴位置の真横!!)が音が聞こえないエリアになってしまうのだ。前後に通り抜ける音も、前で聞こえた直後に後ろに瞬間移動してしまう。この問題をなんとか解決できないものかと試行錯誤を繰り返していたのだ。

 結局、これは防音された視聴室を備えた新居でも解決はできず、結局のところフロントとサラウンドは同じスピーカーで揃えないと解決できない問題なのかと思っていた。しかし、その問題がDolby Atmosでほぼ解消されてしまったのには驚いた。フロントからサラウンドへの前後の音も自分を貫くような感じで移動していくし、自分の真横に明瞭な音像が現れる。Dolby Atmosの大きな特徴は高さを伴う3次元的な音場と言われるが、自分としては、スピーカーのつながりが劇的に向上することこそ、最大の特徴だと思っている。

 これに期待して、僕はDolby Atmos導入を決意し、計画は順調に遅延したが7月半ばにはDolby Atmos対応のシステムが実現できた。その意味でも今年の最大の買い物は、そのシステムの核であるAVアンプ、デノン「AVR-X7200WA」だ。

デノン「AVR-X7200WA」

 Dolby Atmosに対応した9chパワーアンプ内蔵のモデルで、Dolby Atmosの7.1.2ch、あるいは5.1.4ch構成が選択可能。2チャンネル分のパワーアンプを追加することで、7.1.4chに発展させることができる(信号処理に関しては11chの信号を生成している)。同社の最上位モデルでもあるだけに機能面でも、ネットワーク機能はもちろん、ハイレゾ音声の対応、4K/60pやHDCP2.2対応など最新鋭となっている。

 肝心なのは、HDCP2.2対応はAVR-X7200WAで新採用となったものだが、旧モデルであるAVR-X7200Wも基板交換によるアップデートで、AVR-W7200WAにグレードアップできるサービスが行なわれたこと。

 また、Dolby Atmosのライバルとなるオブジェクトオーディオ技術「DTS:X」については、各社ともアップデートによる対応を予定しているが、デノンとマランツは来年1月から順次アップデート用の新ファームを公開していくと12月18日に発表。他社に先駈けて、アップデートが開始される。所有するAVR-X7200WAがアップデートされる1月28日時点でDTS:X対応の日本盤のソフトは間に合わないと思うが、海外盤は2タイトルほどすでに発売されているので、国内でいち早くDTS:Xの音を体験できるというのは、ユーザーとしてはちょっと誇らしい。

 デジタル機器は進化のスピードが速く、しかも同等の機能を持った安価なモデルが登場するのも早いため、製品の陳腐化が激しい。製品の機能アップデートをきちんと行なうことで、より長く製品を愛用できるようにするデノンの姿勢はユーザーの安心感にもつながると思う。DTS:X対応アップデートのニュースを見て、デノンを選んで良かったと改めて思った。

 AVR-X7200WAは、こうした機能面ばかりでなく音の良さでも満足度は高い。Dolby Atmos対応が予定していた春から夏へずれこんだ理由でもあるが、サラウンドスピーカーとして中古のB&W Matrix801 S3が幸運にも入手できたため、ほぼ同じタイミングでフロントおよびサラウンドの4台を Matrix801 S3で統一できた。

 理想であったフロントとサラウンドの統一は、サラウンド音場の劇的なグレードアップになったが、大変なのはアンプである。以前のモデルは7chのパワーアンプで4台のスピーカーを駆動していたため、余ったパワーアンプを使って鳴らしにくいMatrix801 S3はバイアンプ駆動としていた。しかし、今回はDolby Atmos対応のため天井にも4つのスピーカー(イクリプス「TD-508MK3」)を追加しているので、バイアンプ駆動をする余裕はない。しかもMatrix801 S3を4台も鳴らすというのはとても負担が大きいだろう。

イクリプス TD-508MK3

 ところが、AVR-X7200WAはしっかりとMatrix801 S3×4台を鳴らしてくれた。以前と変わらない十分な音圧で鳴るし、低音の再現も実用上は十分。低音の制動感など物足りない点もなくはないが、これ以上を求めるならば実力の高いパワーアンプを追加すべきだろう。

 天井に吊るしたイクリプス「TD508MK3」も音質的には大満足。8cmのフルレンジユニットを独特の卵形エンクロージャーに収めたデザインは、正確な音の再現性に優れ、ステレオ再生では抜群の定位の良さを発揮する。それがDolby Atmosのドーム状のサラウンド音場にも十全に寄与しており、高さ方向の明瞭な定位感と部屋の四方の壁と天井がスピーカーで埋め尽くされたようなシームレスなサラウンド空間が実現できた(天井に吊す位置に関しては念入りな調整を繰り返している)。

 唯一心配だったのは、8cmのフルレンジユニットでは低音が足りないこと。AVR-X7200WAの自動音場補正の測定によるとスモール判定され、本来ならばサブウーファーで低音を補助する鳴らし方をするところだが、スペック上の再生周波数帯域は52Hz~27kHz(-10dB)とまずまずの数値が出ているので、手動でラージ設定としてみると、思ったほど低音感の不足もないしサラウンド空間の明瞭度が良好だった。この点に関しては期待以上の結果だった。

作り手の新しい試みがよくわかるDolby Atmosの音。新ドルビーサラウンドも有効

 こうしてDolby Atmosのシステムが完成し、あとはこの日のために買い貯めていたDolby Atmos音声のBDソフトを見まくり、セッティングを煮詰めていく日々が始まった。Dolby Atmosのタイトルはまだ決して豊富とはいえず、普通に好きな映画ソフトを買っているだけで、実際国内版のDolby Atmosのタイトルが8割方揃ってしまったくらいだ。そんなDolby Atmos音声の映画作品を見ていくと、映画の音を作っているサウンドエンジニアたちの試みがよくわかる。

Atmos対応ソフトが続々

 Dolby AtmosやDTS:Xが採用したオブジェクトオーディオとは、これまでのようなチャンネルベースとは異なり、映画で使われる音をあらかじめ各チャンネルに振り分けてミックスダウンするのではなく、音の信号とその音が空間のどこから発せられるかのデータであるオブジェクト情報として記録する。それらをAVアンプが接続されたスピーカーに対して最適に振り分けていく。

 つまり、今までのチャンネルベースの収録では、家庭でのスピーカー配置の問題により作り手が狙った音の出る位置とは違うかたちで音が再生されてしまうことがあった。これがサラウンドのスピーカーセッティングを難しくしていた要因だ。映画館や映画の音を作るスタジオでの配置(つまり理想的なスピーカー配置)をした場合、スピーカーが邪魔になって生活空間との同居が困難になる。しかし生活空間に合わせると、サラウンド空間が歪んで正しい再生にならないわけだ。

 オブジェクトオーディオの場合は、AVアンプが接続されたスピーカーを使って、オブジェクト情報に記録された音が出るべき場所から音を出すという仕組みなので、家庭の生活に合わせたスピーカー配置でも、かなり狙い通りのサラウンド空間を再現できる。AVアンプは少なくとも視聴位置からのスピーカーの距離と大まかな配置は把握しているので、極端に推奨位置を外した場所にスピーカーを置かなければ、大きな失敗はないと考えていい(もちろん、セッティングを追い込めばより優れた効果が得られるのは同じ)。

 話を映画作品の音作りに戻すと、作り手が自分の狙った通りのサラウンド効果を家庭でも再現できるならば、よりリアルな、あるいは幻想的な空間を音で再現できるはず。おそらくは先行して普及が進んだ映画館での成果で、サウンドエンジニアたちがかなり自由なサウンドデザインができることに気付いてきたのだと思う。

 Dolby Atmos初期の作品は画面の上から何かが現れてくるときは上のスピーカーを鳴らすとか、雨が降ったら天井スピーカーから雨の音が出るなど、かなりわかりやすいDolby Atmosの音が多かった。これはユーザーとしてもわかりやすいし、苦労して設置した天井スピーカーがよく働いていると満足できるという効果もあって、決して悪いことではない。サラウンドの初心者としても天井にあるスピーカーから音が鳴っているのは、わかりやすい。これはドルビー・デジタルの初期にもあった。とかく後ろのスピーカーが存在を主張するような音作りだ。

 だが、Dolby Atmosの本来の目的は設置したスピーカーの存在を消すことだ。スピーカーのある場所から音が出るのではなく、あらゆる場所から音が聴こえる。このあたりを意識したサラウンド音場の作品が増えてきている。今年の後半に登場してきているDolby Atmos音声のソフトは多くがシームレスなサラウンド空間を楽しめるものになっているが、一番象徴的なのが「マッドマックス 怒りのデスロード」だ。

 爆音中の爆音映画だから意外かもしれないが、最近Dolby Atmosを実現した知人がこの映画を見て、「天井から音がしない。スピーカーから音は出ているのだけれど」と言っていたのが印象的だ。そう、本作は荒野を駆ける自動車のアクションが中心なので、ヘリコプターが上空から銃弾をばらまくこともないし、雨も降らない。いわゆるわかりやすい高さ方向の音があまりないのだ。

 では、Dolby Atmosの意味がないかというとそんなことはなく、大きなタンクローリーと、併走する小さな改造車の爆音に高さ感がある。つまり現実に聞こえる音がそうであるように、画面に見えるモノはもちろん、画面から見えないモノも、あるべきところから音が出ている。サラウンド音場のデザインにはいろいろなアプローチがあるが、「マッドマックス 怒りのデスロード」の場合はサウンドのリアリティーを追求することで、荒唐無稽とも言える世紀末アクションをリアルに体感できるように仕組んでいるわけだ。

 「ゼロ・グラヴィティ」のDolby Atmos盤は、まさに自由自在で、上下も左右もない宇宙空間を再現するために、音の配置もこれまでの常識を打ち破る手法が採り入れられていることがよくわかる。最初に発売されたDTS-HD MasterAudio5.1ch盤では滅茶苦茶な音の配置と感じていたシーンがいくつかあるが、Dolby Atmos盤でその意図がよくわかるようになっている。

 その他、「アメリカン・スナイパー」や「ミッション:インポッシブル ローグ・ネイション」など、それぞれについて語っていくキリがなくなってしまうほど、新しい作品ほどより表現が豊かになっている。

映画が好きならば、ぜひともDolby AtmosやDTS:Xにも挑戦を!!

 また、通常の5.1/7.1chに組み合わせて使う「新ドルビーサラウンド」もその効果は大きい。基本的にはスピーカー間の音のつながりが良好になるので、サラウンド感が豊かになる。高さ方向の再現も加わるが、それは決して過剰ではないので不自然さは少なく、常時ドルビーサラウンドを付加して聴いた方が良好と感じるほど。自分の5.1chサラウンドのシステムで、音のつながりやシームレスな空間の再現に不満を感じている人は、新ドルビーサラウンドでその不満がかなりのレベルで解消できるかと思うほどだ。

 ともあれ、我が家は仕事での必要もあって予想以上に大げさな構成になってしまったが、手の届く予算でDolby Atmosを実現してもその効果はかなり大きい。これはスピーカーやAVアンプの試聴でさまざまなDolby Atmosの音を聴いた経験からも断言できる。天井はスピーカーは吊り下げが容易な小さなものでもきちんと効果は得られる。吊り下げ式はDIYでも十分実現できるので思ったほど困難ではないと思う。また、DTS:Xは、5.1ch/7.1ch構成でもDTS:Xの再生が可能なので、近い将来には天井設置が不可能な環境でもオブジェクトオーディオを楽しめるようになる。高さ方向の再現は少々差が出るだろうが、賃貸住宅など家屋へ手を加えるのが難しい人にとっては朗報だ。

 最初からムリだと決めつけて諦めていたら何もできない。もしも映画が好きでサラウンドにも興味があるならば、この機会にDolby Atmosを体験してみてほしい。

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鳥居一豊

1968年東京生まれの千葉育ち。AV系の専門誌で編集スタッフとして勤務後、フリーのAVライターとして独立。薄型テレビやBDレコーダからヘッドホンやAVアンプ、スピーカーまでAV系のジャンル全般をカバーする。モノ情報誌「GetNavi」(学研パブリッシング)や「特選街」(マキノ出版)、AV専門誌「HiVi」(ステレオサウンド社)のほか、Web系情報サイト「ASCII.jp」などで、AV機器の製品紹介記事や取材記事を執筆。最近、シアター専用の防音室を備える新居への引越が完了し、オーディオ&ビジュアルのための環境がさらに充実した。待望の大型スピーカー(B&W MATRIX801S3)を導入し、幸せな日々を過ごしている(システムに関してはまだまだ発展途上だが)。映画やアニメを愛好し、週に40~60本程度の番組を録画する生活は相変わらず。深夜でもかなりの大音量で映画を見られるので、むしろ悪化している。