シャープの視聴室にてインプレッションを行なった

4K放送、ついに開始。業界初の4Kチューナー「TU-UD1000」も登場

UD20の視聴レポート記事なのに冒頭から脱線する。必要な脱線だと思うのであえてすることにしたい。

6月2日より、デジタル4K番組の試験放送がスタートした。ブラジルで開催されているサッカーW杯の一部の試合の模様もこの試験放送期間中に放送される予定なので、楽しみしている人もいることだろう。

シャープは、この4K放送に対応するデジタル4Kチューナー、「AQUOS 4Kレコーダー TU-UD1000」を6月25日より発売する。

TU-UD1000

デジタル4Kチューナーは、4Kテレビであれば全ての製品に接続できるわけではなく、そのための「要件」が定められている。その要件とは「HDCP2.2対応であること」だ。HDCP2.2とはHDMI端子から伝送される映像信号に適用させる著作権保護機構の最新バージョン番号のこと。4K映像を機器から伝送するにはHDCP2.2の適用が必須なのだ。

昨年、各メーカーから発売された4Kテレビ製品の多くはHDCP2.2への対応に間に合わなかったという背景がある。シャープ製品でいうと「AQUOS XL10」はHDCP2.2対応なのだが、「AQUOS UD1」はHDCP2.2に対応できていない。シャープによれば「AQUOS UD1」のHDCP2.2への対応についてはアップデートで実践されるとのことである。

なお、4Kデジタルチューナーからの4K映像出力は、コンテンツによっては毎秒60コマの4K/60Hz映像となる場合がある。これをHDMI端子経由で4Kテレビと接続して4K/60Hz映像のまま表示するためには、そのHDMI端子が4K/60Hz映像伝送に対応したHDMI2.0規格でなければならない。「AQUOS UD1」はこの部分については既に対応済みだ。「AQUOS XL10」はHDMI2.0未対応だが、元々の仕様が毎秒30コマまでの4K入力対応なので、4K/60Hz映像は4K/30Hz映像として表示される。

まとめると、
・「AQUOS UD1」はHDCP2.2アップデート後、4Kデジタルチューナーと接続して4K/60Hz映像表示が可能
・「AQUOS XL10」はHDCP2.2対応なので、そのまま4Kデジタルチューナーと接続できるが、その映像表示は4K/30Hzまで
ということになる。

ちなみに、今回評価した最新のAQUOS UD20は、最初からHDCP2.2に対応し、HDMI2.0にも対応しているので、購入直後から4K/60Hzの4KコンテンツをTU-UD1000と接続して楽しめる。TU-UD1000は、1TBのハードディスクドライブ(HDD)を内蔵しており、40Mbpsの4K番組を最大で53時間ほど録画することも可能だ。TU-UD1000は、外付けUSB-HDDの接続にも対応しているが、こちらには4K放送は録画ができないとのこと。従来のデジタル放送のダブル録画にも対応しており、これらについては外付けUSB-HDDへの録画に対応する。

TU-UD1000は、2014年上半期では唯一の4Kデジタルチューナー(兼録画機)で、競合製品は今秋まで出てこない。これを踏まえると、AQUOS UD20を購入検討中であれば、合わせてTU-UD1000の同時購入も検討してもいいかもしれない。

なお、この他、注目の4K放送関連の最新動向として、秋から始まる「ひかりTV4K」による4Kのビデオオンデマンド(VOD)サービスがある。いわゆる4K映像コンテンツのネット配信だ。このVODサービスの視聴には、テレビ側にH.265(HEVC)デコーダの搭載が必要要件になってくるのだが、AQUOS UD20はひかりTVのチューナーに加え、このデコーダも標準搭載するので問題がない。

AQUOS UD20は、さすがシャープ製4Kテレビの第二世代モデルだけあって、4K放送への対応に死角はないのだ。

狭額縁スリークデザインと高音質性能の両立〜総出力65W、3ウェイ8スピーカーの実力は伊達じゃない!?

話が前後したが、話題を主役のAQUOS UD20に戻すとしたい。

AQUOS UD20を目の前にして、まず感じたのは、デザインが洗練されているところだ。

狭額縁デザインが採用されており、背景が黒い視聴室だったこともあり、ほとんど映像だけが中空に浮かんで見えているような錯覚が得られていた。上下左右の四辺が全て狭額縁で、となればスピーカーが一瞬どこにあるのか…ということになるのだが、実は、スピーカーは隠されているわけでもなく、最初から画面の下側に「でん」と別体風に備え付けられていた。

下にスピーカーを付けると、たとえ上、左右の額縁が狭くても、スピーカーが内蔵される下側の額縁は広くなってしまうものだ。しかし、AQUOS UD20では、スピーカー部をあえて切り離して別体風にして、画面下辺の額縁も上左右の額縁幅と合わせることで、視覚的に四辺を狭額縁に見せているのだ。これはうまいデザインである。

この別体型風スピーカー部は、見かけだけでなく、最近のテレビ製品としてはめずらしい全スピーカーユニットを前向きにレイアウトしているこだわり仕様になっている。スピーカーユニットは2.1ch仕様の3ウェイ8スピーカー構成。しかも総出力65Wで、別売りのサウンドバー並の高音質性能を与えているのだ。

今回の視聴体験では、UD20によるライブ映像ブルーレイディスクによるデモがあったのだが、バスドラムの超低音輪郭もはっきり聞こえ、同時にハイハットやシンバルの高音も切れが良い。かなり大きな音量での視聴だったのだが、びびり音もなく、高音や低音が丸められた感じもなく、普通のオーディオ機器で再生している聴感が得られていた。UD20の別体風スピーカーの総出力65Wはスペック表記だけの値ではなく、音楽コンテンツ視聴に耐えうる出力ポテンシャルを備えている。この別売りサウンドバー並の出力ポテンシャルは、スピーカーユニットの振幅限界や耐熱限界などを事前解析し、このデータにもとづいて最大入力レベルでの駆動する新開発の「インテリジェントドライブ」による効果が大きいと見られる。

AQUOS UD20の高画質機能(1)
「リッチカラーテクノロジー」によるリアルな色再現

他社製テレビが海外生産の液晶パネルを採用し続ける中で、シャープAQUOSは唯一、国産液晶パネルを採用している。なかでもAQUOS UD20では、画素開口率の高さで定評があるUV²Aパネルを採用。また、液晶パネル表面には、シャープと大日本印刷との共同開発で生まれた外光映り込み低減技術「モスアイ」を適用。AQUOS UD20は、まさに、国産テレビの名にふさわしいモデルだといえる。

映り込みを低減するモスアイパネルを採用

実際の画質だが、デモの内容が、AQUOS UD20に搭載された2つの新高画質機能を紹介するものだったので、それぞれのインプレッションを書き記すこととしたい。

まず、1つは「リッチカラーテクノロジー」だ。

AQUOS UD20では、新開発の発光材を組み合わせた広色域LEDバックライトを組み合わせたことで、従来モデルよりもより豊かな色再現が可能になっている。

ただ、一般的なデジタル放送やブルーレイソフトなどで採用されている色域は「ITU-R BT.709」というもので、sRGBと同等の色域だ。いくら液晶パネルが広色域だからといって、このITU-R BT.709色域の映像を、広色域に単純に線形補間するようにマッピングしてしまうと、全体的に色の濃い、彩度の高い映像になってしまったり、カラーグラデーションに歪みが出てしまったりして逆に不自然に見えてしまう。

そこで、AQUOS UD20では、ITU-R BT.709の淡い色の部分はそのままITU-R BT.709で出力するようにし、濃い色の部分についてはデジタルシネマ規格(DCI)の色域に広げるような非線形な色域変換マップを制作したのだ。

この非線形色域変換マップはかなりの自信作のようで、自然な見映えのままITU-R BT.709の色域を広げ、かなりの正解率でリアリティを向上させる方向での色彩表現ができるようになったとしている。これが「リッチカラーテクノロジー」の正体というわけだ。

リッチカラーテクノロジーのイメージ

色域を自然に広げ、質感をよりリアルに表現する「リッチカラーテクノロジー」

実際に映像を見せて頂いたが、野菜、果物のような自然物は、その質感がかなりリアルに見えていた。RGB-LEDを採用したモデルなど、かつて広色域をウリにしたテレビは存在したが、色味が濃いだけで野菜や果物が毒々しく見えていた。AQUOS UD20の場合は、彩度が上がるだけでなく色深度にも伸びが出たように見えて、自然かつ立体的に見えていた。

一方で、色鮮やかに染め上げられた衣服、鮮烈な色あいの屋内調度品などは、ほどよく純度の高い色味で表現され、失われていた色味が蘇ったように見えて、これもまたリアルであった。自然物と人工物、その対象的な両方を「これこそが正しい色なのかも」と思わせてくれるのは、独自開発の非線形色域変換マップの恩恵によるものなのだろう。

最近は、他社も色情報の復元に力を入れ始めているが、AQUOS UD20もかなりの実力を秘めていることを確認できた。もう少し評価の時間があれば、自分の見慣れた映画などを見てみたかったところだ。

AQUOS UD20の高画質機能(2)
進化した「AQUOS 4K-Master Engine PRO」

2つ目は「AQUOS 4K-Master Engine PRO」の進化だ。

「AQUOS 4K-Master Engine PRO」とは、一言でいうならば、高画質化映像エンジンのこと。これが、AQUOS UD20でさらに進化したというのだ。

進化した「AQUOS 4K-Master Engine PRO」には2つほど特別な新機能が搭載されている。

1つは「アダプティブアップコンバート」だ。

これは一言で言えばフルHD映像から4K映像に変換する超解像処理のアルゴリズムの適正化だ。超解像は「失われた解像度を復元する」という処理系のはずだが、もともと低解像度な領域と、元は高解像度だった領域を同じ超解像処理を適用してしまってはギラギラとした不自然な映像になってしまう。

「アダプティブアップコンバート」では、映像中の各画素がどういう周波数の解像度表現の構成画素なのかを適応(アダプティブ)処理して超解像処理を施す。

映像の周波数解析で、帯域毎に適正な4Kアップコンバートをおこなうアダプティブアップコンバート

今回の評価デモでは、古代遺跡と周辺の森林をロングショットで捉えた映像を見せてもらったが、空や雲のようなグラデーション表現はほとんどいじられず、森林の葉、一枚一枚の形状や、石製の古代建造物のディテール表現だけが浮き出るような映像表現となり、かなり説得力の高い4K映像化が実現できていた。

ディテールが浮き上がりつつも、画面全体の自然さを崩さない。設定画面で高域/中域/低域ごとに細かい適用パラーメタが設定可能(画像はイメージです)

もう一つは「ピクセルディミング」機能だ。

AQUOS UD20のバックライトは下辺にエッジライトを内蔵する方式となっている。なので、映像中の暗所と明所とでバックライト輝度を可変駆動させるローカルディミングには対応していない。シャープとしては、UV²A液晶パネルは、もともと迷光が少ない特性があるため、ローカルディミングがなくても優秀なコントラスト性能が実現できている…という持論を展開してきていたのだが、今回、AQUOS UD20では、バックライトではなく、画素駆動を工夫することでローカルディミング的な効果を実現しようとするユニークな機能を開発した。これが「ピクセルディミング」機能だ。

これは、映像中のある一定以上の輝度を持つ画素に対して、その画素の輝きがさらに鋭く見えるようにブーストを掛ける効果をもたらすものだ。いうなれば「画素駆動で行うローカルディミング」といった機能だ。実際には、輝いている画素の方の輝度を維持させて、周辺画素の方をディミングさせる(暗くさせる)処理を行っているようだが、効果としては、高輝度の輝きを際立たせると共に、暗部表現のリニアリティや黒浮き低減の副次効果もあるとされる。

ピクセル単位の映像解析で、明るさを再配置して輝度コントロールする「ピクセルディミング」

デモでは宇宙空間に浮かぶ星々の映像を見せてもらったが、「ピクセルディミング」をオンにすることで、漆黒の宇宙空間がググっと黒く締まり、なおかつ、それまで黒浮きの影響で見えにくかった薄明るい星までが鮮明に見えるようになった。たとえるならば、都心では星もまばらな夜空が、山奥にいくことで満天の星空になるような感覚だ。これは、決してオーバーな表現ではない。また、16:9アスペクトのテレビでシネスコサイズ(2.35:1)の映画を視聴すると上下に黒帯が出てしまうことがあり、ここに黒浮きを感じてしまうことがあるが、「ピクセルディミング」をオンにすると図らずもこの現象を低減させることができていた。

ピクセルディミングをオンにすることで黒が引き締まり、逆に星の光輝などはより輝いて見える

シャープによれば、この「ピクセルディミング」機能は、2011年モデルのAQUOS X5に「メガブライトネス」技術と呼ばれる機能を転用したものだそうだ。AQUOS X5の「メガブライトネス」は、最近の液晶テレビで流行し始めている「ハイダイナミックレンジ復元」的な機能で、通常は最大500cd/m²で光らせているところを、局所的に高輝度な表現を検知したときにはその領域を1300cd/m²で光らせるものだった。このアルゴリズムを画素駆動に転用したのが「ピクセルディミング」機能ということのようだ。

おわりに

AQUOS UD20は「THX 4K DISPLAY」規格認証を取得したことがアピールされている。

THXとは、「スターウォーズ」シリーズなどで知られるSF映画の巨匠、ジョージ・ルーカス氏が提唱し始めた映画鑑賞をするための環境品質を認証する取り組みだ。厳しいTHX社の審査を経て、THX認証を受けたテレビは名実共に「映画視聴に最適なテレビ」という称号を与えられたことに値する。シャープは、このTHX認証取得に関しては、2007年モデルのAQUOS Tシリーズから取り組んでおり、日本メーカーとしては草分け的存在であり、他メーカーも最近になって追従してきたという状況だ。

■ AQUOSの「THXディスプレイ規格」認証について THX社Jon Cielo氏からのメッセージ

「THK 4K DISPLAY」認証を取得

筆者は、毎年、数多くの液晶テレビを評価しているが、AQUOSに対しては「一貫して画面の輝度ムラが少ない液晶テレビ」という印象を持っている。今回のAQUOS UD20も、まさしく同じ印象を持つが、THX認証を取得していないモデルにもその傾向があるのは、このTHX認証取得への取り組みが早かったからではないか…と勝手に想像している。

さて、このAQUOS UD20だが、製品ラインナップは52インチ、60インチ、70インチの3モデルから成り立っている。実勢価格としてはそれぞれ約43万円、約50万円、約70万円となっていて、インチ単価的には60インチと52インチがほぼ同等でお買い得だ。4K映像は大画面で、視距離を近めに取ってみるのが醍醐味なので画面サイズはなるべく大きい方がいい。となれば、筆者的には60インチモデルあたりがベストバイではないか…と思っている。

もし、競合他社製品と悩んだときには、4Kテレビとしては競合他社同クラス製品よりも消費電力が小さいこと、3D立体視は赤外線方式ではなくBluetooth方式の電波式を採用していること、AQUOS MX1直系の便利なスマートフォン連携機能搭載、Bluetoothオーディオ機能搭載、無線映像伝送のMiracast機能搭載と言った部分をプラスαに考えてみるといいかもしれない。

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執筆: 西川善司

大画面映像機器評論家兼テクニカルジャーナリスト。大画面マニアで映画マニア。本誌ではInternational CES他をレポート。僚誌「GAME Watch」でもPCゲーム、3Dグラフィックス、海外イベントを中心にレポートしている。映画DVDのタイトル所持数は1,000を超え、現在はBDのコレクションが増加中。ブログはこちら