次なる8K時代を迎えるための液晶テレビ、登場
本物を感じさせる映像美。
AQUOS 4K NEXTXU30ライン LC-80XU30

先日発表された、シャープの液晶テレビ、AQUOSのハイエンドモデル「XU30ライン LC-80XU30」(実売価格181万4400円 7/10発売。以下、XU30)。その最大の特徴は、同社の誇る4原色技術「クアトロン・プロ」を採用し、4K解像度(3840×2160画素)でありながら「8K相当」の高精細表示を実現したこと。4K解像度パネルとして4原色技術が採用されたのも初で、80型という画面サイズも、シャープとしては初のもの。8K相当の表示が世界初であることだけでなく、初物づくしの製品なのだ。

1画素で4つの輝度ピークを作り
擬似的に4倍の解像度を再現

まずは「8K相当」の表示を可能にしたシャープ独自の4原色技術を、その歴史から振り返ってみよう。RGBの三原色にY(黄色)を加えた4つのサブピクセルにより豊かな色を再現する4原色技術は、2010年に発売された「AQUOS クアトロン LV3」で初めて採用された。このときは、色域の拡大に加え、比較的輝度の高い色である黄が加わることで、画面の明るさにも有利な技術とされていた。2013年に登場した「AQUOS クアトロン・プロ XL10」では、4原色サブピクセルを用いて表示映像の解像度向上を実現し、フルHD解像度でありながら4K相当の高精細表示を実現した。

そして、2015年、4原色技術採用の液晶パネルが4K化され、今度は8K相当の表示が可能になったというわけだ。

まずは、1つの画素で4倍の解像度を表示する仕組みを紹介しよう。4原色液晶パネルは、R/G/B/Yの4つの色のサブピクセルで構成されているが、RGBをセットにした組み合わせと、B/Yと(隣の画素のR)の組み合わせで、2つの輝度ピークを作り出す。これで、ヨコ方向に2つの輝点が表示できる。タテ方向は視野角を向上するためにもともとRGBYともに2つのサブピクセルで構成されている。これで、タテ方向、ヨコ方向それぞれ2つ、計4つの輝点が表示できることになる。

1画素を8つのサブピクセルに分けることで4つの輝度ピークを保持する

この4つの輝点を2つずつ交互に発光させることで、4倍相当の解像度表示となる。4K/30pの映像2つを高速で切り替えることで8K/60pの映像を表示していると考えていい。ただしインターレース走査のようにタテ/ヨコの列を交互に表示しているわけではなく、4つの輝点の対角にあるもの同士をペアとしているので、インターレース走査で目立ちやすいフリッカーが発生しにくいように配慮されている。

そして、入力された映像信号を8K化するアップコンバート技術も新開発の「X8-Master Engine PRO」を採用。4原色液晶技術によって8K相当の表示を行う「超解像 分割駆動回路」と合わせて、より精密で自然な映像を再現する。

8K相当の高精細だけじゃない。
色域、高輝度表示なども次世代放送に対応

XL10ラインは、まったく新しい技術で8K相当の表示を実現したわけではない。だが、逆に言えばこれは2010年からの「4原色」の継続開発の成果とも言える。いずれにしても、他社がおいそれと追従できる技術というわけでもないし、その先進性と独創性はシャープならではのものだ。

しかも、XL10ラインはただ解像度だけを8K相当としたわけではない。4原色技術が得意とする広色域再現は、「高演色リッチカラーテクノロジー」によってさらに洗練された。新蛍光体を採用したLEDバックライトシステムの搭載に加え、原色だけでなく補色も制御する色復元回路を使用し、豊かな色域を実現した。現行のハイビジョン放送の色域規格であるBT.709をはるかに超え、次世代放送用の色域規格であるBT.2020に迫るものとなっている。

緑の色域を拡大することにより、シアンの色域も拡大。その分黄色の色域は縮小するが、4原色技術の黄色でそれをカバー

さらに、HDR(ハイ・ダイナミック・レンジ)などで知られる高輝度表示にも対応。XU30のLEDバックライトは、直下型でエリア駆動にも対応しており、高コントラスト化を実現。

直下型LEDバックライトを採用

また、撮影時にカメラ側で輝度ピークを抑えてしまったような映像に対しても、独自の「輝き検出」により、太陽光や強いライトの輝きを力強く再現する。ユニークなのは、独自のアルゴリズムで自ら発光している物の光だけを伸張すること。別の光源からの反射光は強く伸張しないので、ギラギラとした不自然な高輝度表示にはならないようになっている。

「輝いている部分」を検出する独自アルゴリズムを用いて、その部分の輝度だけを伸張

このほかにも、AQUOSの頂点に立つテレビとして、AQUOSならではの技術が惜しみなく投入されている。パネルの表面処理は、「低反射N-Blackパネル」を採用。同社には「モスアイパネル」という、低反射という点ではもっとも優れたパネル技術もあるが、手入れの面で取り扱いが難しい面があったため、より使い勝手の良い「低反射N-Blackパネル」としたとのこと。こちらは、反射率の異なる表面パネルを複数重ねることで、外光の反射を低減するもの。液晶パネル側からの光は散乱させずに透過するので、クリアで鮮明な映像と低映り込みを両立できる。

周囲情景の映り込みの少なさと高画質表示、そして取り回しの良さを兼ね備えるN-BLACKパネル
通常の体反射パネルとN-BLACKパネルの比較

そして、内蔵スピーカーは、2.1ch構成の3ウェイ6スピーカーシステムを内蔵。画面の下側にトゥイーターとミッドレンジスピーカーを配し、背面に2つのウーファーで構成されるDuoBassを内蔵。音声処理用のLSI「新・AudioEngine」と、総合出力65Wの大出力アンプにより、80V型の大画面にふさわしい迫力ある音を実現している。

80V型ながら威圧感のない
インテリアに溶け込むデザイン

XU30のデザインは、画面周囲のフレームを極限まで狭めたノイズレスデザインだ。鮮やかな映像だけが目の前にあるという印象で、メタリックに仕上げられた細身のスタンドも含めてシンプルに徹している。そのため、80V型という大きさのわりには、良い意味で存在感がない。80V型というと、そんな大きなテレビは家に入らないと思われがちだが、最近はテレビの大画面化が進んでいることもあり、納入時の設置を行う業者も慣れてきていて、設置可能なスペースさえ確保できていれば、驚くほど簡単に設置が済んでしまう。

フレームや台座の主張を控えめにしたノイズレスデザイン

映画や高品質な映像コンテンツを積極的に楽しんでいる人なら、テレビの最適視聴距離はご存じだろうが、シャープでは独自の提案として、「視聴距離3mならば80V型」というものを推奨している。ちなみに視聴距離2mならば52V型、視聴距離2.3mなら60V型だ。

だからこその省スペースのデザインだ。個人的には同社の高級機で備えるような独立したエンクロージャーを備えたスピーカーでないのは少し残念だ。だが、それによるサイズの拡大で、導入をあきらめてしまうのでは本末転倒とも言える。シャープとしても初になる80V型では、だから一般的な家庭でも導入しやすいように省スペースを優先したのだろう。

明らかに4Kを超えた精細感。
しかしそれ以上に「映像の清潔さ」に感心

いよいよ、XU30の映像を体験した印象に触れよう。視聴したXU30はまだ画質のチューニングを追い込んでいる最中だったことはお断りしておく。

まず、地上デジタル放送を視聴。XU30側で8Kアップコンバート映像では、映像の緻密さが高まっていることに気付く。肌の質感や髪の毛の艶やかさなど、元が地デジとは思えない精細感だ。興味深かったのは、テロップ文字などで目立ちやすいジャギーが抑えられていたこと。アップコンバート処理で、こうしたジャギー感の低減もきちんと処理しているそうだ。

次にBDソフトを視聴した。8Kアップコンバートにより、元の情報量が豊かになるため、精細感が大幅に向上する。この高精細感は4K以上のものだと感じる。80V型やそれ以上のサイズでBDを4K表示すると、解像感を高め過ぎて細かい部分でノイズのチラつきが目立ちやすくなることがあるが、XU30の8K相当の表示はその細かい部分が実になめらかで緻密な再現になっているためだ。人物の肌や深く刻まれた皺などもよりはっきりと再現されるのに、4Kテレビで解像感を強めすぎたときのような「強調感」がまったくないのだ。実に自然な映像だと感じる。

シャープとしては、高画質のキーワードとして「映像の本物感を高める」ということを強くアピールしている。テレビジョンの語源でもあるが、「遠くのものを間近で見られる」ことがテレビの意義ならば、本物に近い映像が再現できなければ意味がないということだ。そのために、ただ8K相当の高精細化をしただけでは満足せず、高コントラスト化、広色域化まで含めて映像を「本物に近づける」ためのブラッシュアップを行なっている。

そのことがはっきりと実感できたのは、4K撮影したデモ用の映像を見たときだ。精細感は最高レベルのものであり、その意味では大きなインパクトは少ないのだが、明らかに映像の力強さ、まさに本物感と言えるような説得力を感じた。それは、深く締まった黒からまぶしい白まで描き出す広色域、色の再現、そして高輝度ゆえだとわかる。美しい自然を映したパノラマ的な映像では、自然な立体感が再現されていて、遠くになるほど空気の加減で色が浅くなり、またわずかにピントが甘くなっている様子までよくわかるし、対照的に、目の前にある建物の質感のリアリティは漆喰の感触が伝わるほどだ。

これは4Kテレビが登場したとき以上のインパクトだ。当時は、フルHDテレビで進んでいた10ビット表示や高色域などが4Kパネルでは追いついておらず、ひとまず4K解像度の表示だけを実現して製品化されたものが多かった。しかし、今にして思うと高精細ではあるが、なにか物足りなさがあった。高精細さと色と輝度、これらがバランスよく進化してはじめて説得力のある画質になるとよくわかる。

正直なところ、最新の4Kテレビも完成度が高まってきている現在、8Kネイティブの映像ではなく、4K映像をアップコンバートした8K表示ではそれほど驚くようなことはないだろうと、タカをくくっていた。XU30がこんな迫真性に満ちた映像になっている理由をずっと考えていて、思い当たったのが、白の均一性だ。シャープは高級モデルではTHX認証を取得することが多く、4Kテレビの多くでも4KディスプレイのTHX認証を取得したモデルもあるが、そこで厳しく問われていた性能のひとつが白の均一性だった。

周辺部の輝度が落ちていると、同じ明るさや色のはずのものがすっと横に動いて画面から消えていくとき、明るさや色が変化してしまう。これが結構気になるのだ。しかも、最近はHDRなどの高輝度化もあり、高級機では直下型LEDバックライトのエリア駆動を採用するモデルが増えているが、エリア駆動をする場合、LEDの分割数が少ないとエリアごとに周辺部の輝度落ちが生じ、極端に言うと格子状に輝度ムラが出てしまう。画面の輝度が変化すると色の鮮やかさも変化するし、均一なはずの物の色や質感にムラが出るのは不自然だ。そのあたりが、ちょっと気になっていただけに、XU30でも厳しく見ていたのだが、白一色の画面はまさに清潔な純白で、映像を見ていても輝度ムラや色ムラを感じることがなかった。

シャープによれば「白の均一性は言わば映像のキャンバス。XU30では90%以上の均一性を実現しています」とのことだ。大画面になるほど輝度ムラは目立ちやすくなるので、これはとてもありがたい。シャープとしては初の80V型パネルでありながら、そのあたりの基本もしっかりとおさえているのは液晶パネルメーカーならではと言えるだろう。

8Kテレビ時代を先取りする、「次世代テレビ」

フルHDで4K相当の解像度を実現した「クアトロン・プロ」は、その画期性とは裏腹に、すでにリアル4Kテレビが一般化していたこともあり、「安価に4Kを実現するための技術」という評価になってしまっていたのが残念だった。しかし、リアル8K解像度のパネルを持ったテレビが家庭用として登場するのはまだ当分先だと思われるし、4Kコンテンツを8K相当の表示をするだけでもこれだけの表現力を実現したというのは、高画質にこだわる人にとっては嬉しいニュースだ。8Kコンテンツも今後は登場してくるとは思うが、今現在、放送や配信などで続々とコンテンツが増えてきている4Kコンテンツを、驚くような映像で楽しめるテレビは大きな価値があると思う。まさに、これからのテレビ時代を一足先に体験できる次世代テレビの登場なのだ。

(鳥居一豊)

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