左)ATH-IM50 カラーはホワイトとブラック。右)ATH-IM70 カラーはレッド。デュアル・シンフォニックドライバーを搭載

 オーディオアクセサリメーカーの草分けであり、国産ヘッドホンメーカーの代表格ともいえる存在のオーディオテクニカ。そのオーディオテクニカが満を持してイヤーモニター向けに開発した製品が「IM」シリーズだ。

 シリーズは大きくふたつに分かれており、ダイナミック型ドライバーユニットを搭載したシリーズと、バランスド・アーマチュア(BA)型ドライバーユニットを搭載するシリーズに分類される。

 主力はBA型ドライバー搭載シリーズとのことだが、まずはダイナミック型ドライバー搭載シリーズについても触れておきたい。

 昨今、高音質イヤーモニターといえば、BA型ドライバー搭載と判で押したようによく似たスペックが各社で採用されるが、動かす空気の量を物理的に大きく取れるダイナミック型にも、また別のよさがある。とりわけ新発売の2モデルは、同一方向にふたつのダイナミック型ユニットを並べ、同時にダイアフラムを駆動することでリニアリティを高めるデュアル・シンフォニックドライバーという方式を採用している。

 スピーカーでいうところのアイソバリック方式に類似するアイデアだが、確かにATH-IM70はダイナミック型らしい、量感たっぷりとゆったりした低音が音域全体を支えつつ、高域の歪み感が少ない伸びやかな音を実現している。おそらく、共振周波数が異なる硬質樹脂とアルミを組み合わせた筐体を用いることで、共振点を分散させていることも、歪み感の少なさに寄与しているのだろう。

 ひとつずつの音像を解析的に聴いてしまうと、BA型ドライバーの繊細な描写力には及ばないものの、価格帯を考えれば一聴の価値アリの音だ。BA型の鳴り方がやや神経質に感じるという方は、ぜひ試してみるといいだろう。

 さて、今回のメインテーマはもうひとつの方、BA型ドライバー搭載シリーズについてである。このシリーズにはIM01からIM04までの4製品がラインアップされており、それぞれの数字が内蔵するBA型ドライバーの数と一致する。すなわち、ATH-IM04ならば内蔵されるBAユニット数は4基だ。従来、オーディオテクニカのBA型ドライバー採用イヤーモニターはユニット3基。4基採用モデルは今回が初となる。

 もちろん、“ユニット数が多ければよい”という単純なものではない。全モデルの開発を担当した技術本部 技術部6課の田久保陽介氏の話を交えながら、本シリーズについて掘り下げていこう。

BA型ドライバー搭載のIMシリーズのラインアップ。IM04はオーディオテクニカ初のBA型ドライバー4基搭載モデルだ

BA型ドライバーの弱点をどう克服したか

 筆者がBA型ドライバー採用のイヤーモニターに初めて触れたのは、補聴器メーカーであるEtymotic Researchが発売していたER-4、ER-4Sが最初だった。ヴォーカル、特に女性ヴォーカルの表現力のすばらしさと遮音性の高さからくる電車内利用での快適さに驚き、しばらくメインで使っていた。

 BA型ドライバーが普及するまでには、それからまだ数年かかったが、大手メーカーがBA型ドライバーを積極的に採用しなかったのはコスト高だけが理由ではない。BA型ドライバーにはダイナミック型にはない弱点があるからだ。

 BA型ドライバーはユニットを動かす力に比して、可動部の質量が小さいため追従性がよく、そのために繊細な音が表現できるが、一方でその再生帯域は狭い。特に低域の再生能力が問題で、1基のユニットではトータルの音楽表現でダイナミック型に及ばないことがある。

 もちろん、聴き方や目的によってはシングルユニットでも具合はよく、ダイナミック型では得られない質の高い音を出せる上、年々改良も進んでいるが、1ドライバーでの広帯域再生が難しいことは変わっていない。

 そこでBA型ドライバーを採用する製品は、なんとか再生帯域が広くなるよう工夫をするとともに、音域ごとに異なる設計のBA型ドライバーを組み合わせるマルチウェイ再生へと舵を切ってきたわけだ。

 しかし、“複数のBA型ドライバーで再生帯域を分割する”と書くのは簡単だが、実際に繊細なBA型ドライバーの音質をキープしながらマルチウェイ化するのは難しく、またコスト面での制約もつきまとってくる。これだけ多くのBA型ドライバー採用イヤホンがありながら、それぞれに個性や品位の差があるのは、そこにハードルがあるからである。

 言い換えれば、“難しい”部分であるだけに、徹底的にこだわることで差異化ポイントとすることもできる。オーディオテクニカのアプローチも、まさにそこだった。

 シングルドライバーのIM01には帯域分割するネットワーク回路は搭載していないが、デュアルドライバーのIM02はネットワークを使い、いずれも中低域のパンチ力に寄せたチューニングがなされていた。こうした設計では、BA型ドライバー特有の中高域から高域にかけての解像力にやや不満が出るものだが、内部形状やユニット配置を工夫することで高域減衰を抑え、全体のバランスを整えたようだ。

フルレンジのドライバーを搭載する「ATH-IM01」。1万5000円前後 ATH-IM01の分解図
中高域×1、低域×1の2基のドライバーを搭載する「ATH-IM02」。2万円前後 ATH-IM02の分解図

 田久保氏によると、4製品に採用されているBA型ドライバーは、すべて別設計のユニット。それぞれに得意な再生帯域が異なるという。筐体デザインを変えているのも、その形状やユニット配置によって音質が変化するからである。

 そしてこのこだわりは、帯域分割を行う回路を内蔵するIM03、IM04でさらに深いものになっている。BA型ドライバーの弱点を補完するためのマルチドライバーユニット設計だが、一方でマルチドライバーであること自体がイヤーモニターとしての弱点となる場合が多いからである。

クロスオーバー周辺の音域を徹底して整えた

 マルチウェイ再生のポイントはいくつかあるが、ひとつは担当する再生帯域以外の信号をカットすることで、応答性が悪い(つまり歪みが大きい)帯域の音をドライバーユニットから出させないことが大前提だが、さらに異なるドライバー間の再生帯域をつなぐ部分で、いかに自然な違和感のない聴こえ方にするか。そしてユニットごとの音の質感、位相特性などを揃えるのが難しい。

 田久保氏はここで奇をてらうのではなく、正面から腰をすえてチューニングする道を選んだ。

 すなわち、多様なBA型ドライバーを聴き比べ、それぞれのモデルに使うBA型ドライバーを個々に選んだのだ。たとえばIM02の低域+中高域ドライバーに帯域制限をかけてIM03の中域ユニットとして使ったり、IM03の高域ドライバーとIM04の高域ドライバーを共通にするといった選び方はしていない。

 IM03は高域、中域、低域をそれぞれ異なるドライバーで再生し、IM04は低域ユニットを2基とすることで低域の量感(物理的なエアの大きさ)を出しているが、クロスオーバー周波数やネットワークのフィルター係数も変えている。となれば、当然最適なドライバーユニットも異なる。

高域×1、中域×1、低域×1の3基のドライバーを搭載する「ATH-IM03」。4万円前後 ATH-IM03の分解図
音質だけでなく、品質にも徹底的にこだわっている。IMシリーズの金型は国内で製造され、それを職人がひとつずつ丁寧に磨き上げて仕上げる(写真左がIM03の磨き上げる前のハウジング。右が完成品のIM04)。また、医療用グレードの樹脂を使用するなど安全面も配慮されている

 田久保氏は「クロスオーバー周辺の周波数帯域はもちろん、ドライバーが切り替わることで音の質感が変わって聴こえるところが、従来のマルチウェイドライバーのBA型イヤーモニターでは気になっていました。とりわけヴォーカルの場合、人の声の高いところと低いところで質感が変わると気になりやすいものです。特に気をつけたのは、まるでひとつのドライバーユニットから鳴っているように、質感を整えることでした」と振り返った。

IM04の完成度に刮目

 さて、もちろんどんなにつくり込んだとしても、“結果として好みの音でなければ意味が無い”と思っている方も多いだろう。もちろんその通りだが、IM04の完成度の高さには正直、驚かされた。よい意味で自然な聴こえ方であり、気になるところが見つからない。

 イヤホンやヘッドホンには、極端に低域がブーストされていたり、あるいは音像や解像感を重視してか高域のエネルギー感や、アタックの鋭さばかりが耳に付くといったキャラクターの強い製品も少なくない。ユニット数の多いBA型ドライバー採用モデルではその傾向が強いが、IM04はいたってニュートラル。まるでシングルドライバーのダイナミック型ドライバー採用モデルが、その解像力や表現力をBA型のレベルにまで研ぎ澄ましたかのようだ。

高域×1、中域×1、低域×2の4基のドライバーを搭載する、シリーズ最高峰モデルの「ATH-IM04」。6万円前後 ATH-IM04の分解図

 試聴はiPhone 5SとHDP-R10で行ったが、とりわけiPhone 5Sとの相性がよい。iPhoneのエネルギー感の乏しさや情報量の少なさをある程度は補ってくれる。かといって何かを強調しすぎて歪み感を増大させるようなところもない。もちろん、デジタル接続のヘッドホンアンプ内蔵ポータブルDACと組み合わせれば、BA型ドライバーらしい解像力、情報量も味わえる。

 広帯域再生という面では、セルジオ・メンデスがファーギーとコラボレーションしたLook of loveのボサノババージョンが、異様に低い周波数まで入っている上、録音もなかなか秀逸なのだが、この冒頭の強烈な低域のドライブ感を、BA型ドライバーで表現できているのに驚いた。

 ローエンドまでしっかりと再生帯域が伸びているので、クラシック音楽、特に大編成のオーケストラでもそのスケール感をきちんと味わえる。声楽や室内楽などは、もとよりBA型ドライバーの得意とするところだが、ストコウスキーが100人編成のオーケストラで録音したハンガリー狂詩曲の厚みある音までしっかりと再現する。

 ミッドバスをややプッシュした上でローエンドをカットし、低域の「出ている感」を演出した製品もある中、しっかりとしたつくり込みがされている。音場もBA型ドライバーを採用したイヤーモニターの中では広い方だろう。普段はスピーカーで聴く音楽に慣れているので、カナル型のイヤーモニターはちょっと……という方にも、一度聴いてもらいたい。

コネクター部はシリーズ共通のつくりとなっている。今後はリケーブル製品への対応も期待できる IMシリーズの付属品はポーチ、シリコンイヤピース(S・M・L)、コンプライTMフォームイヤピース(Mサイズ)

 IM03も、やはりユニットのつなぎにおける濁り感がなく、IM04と同じくしっかりとしたつくり込みを感じるが、低域ユニットがひとつだからだろうか。IM04よりも中低域のエネルギー感を重視した音づくりだ。では、その中低域とのバランスを取る形で中高域から高域にかけて華やかさを与えているか?といえば、それはなく、歪み感のないバランスよい高域へと繋がっていくのはIM04と同じだ。

 “微かに”だが、低域の出し方に演出が施されたIM03は、一般的なポピュラー音楽を聴く上では充分と思うかもしれない。しかし、ハイレゾ音源が流行している昨今、音楽ソースの方も、もっと高音質な音源を出そうという動きが強まっている。ローエンドの伸びが音楽性そのものに影響することも、これまで以上に出てくるだろう。

 “聴き込み、そしてつくり込む”ことで、ここまでマルチウェイ再生のBA型イヤーモニターも広帯域で清廉なる音を出すものか。ものづくりを突き詰めたひとつの形として、ぜひとも試聴することを薦めたい。

(本田雅一)

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