バッファローのテレビ録画専用外付けHDD「HDV-SQU3/Vシリーズ」

PCデータのバックアップをはじめ多様な機器や場面で活用されている、USB接続タイプの外付けHDD。USBケーブルでつなぐだけなので手軽に導入しやすく、大容量でもリーズナブルな価格で普及しているが、最近では、多くのテレビ製品が外付けHDDをUSBケーブルでつなげるだけで簡単に録画できるようになっていることもあり、大きな需要が生まれている。そんな中生まれたのが「テレビ録画用」といわれる外付けHDDだ。

PCや周辺機器に少し詳しい人なら、最近のHDDであれば性能面で大差はないと考え、価格容量比を優先してできるだけ安価なものを選びがちかもしれない。まして、PC用として販売されているものより若干高額な場合もある「テレビ録画用」といわれる製品を、わざわざ選択することは少ないのではないだろうか。

その判断はある意味で正しく、ある意味で間違っているとも言える。実際、PC用とされている外付けHDDとほとんど差異がない「テレビ録画用」も市場には存在する。しかし、バッファローが2016年1月にリリースした「HDV-SQU3/Vシリーズ」と「HDV-SAU3/Vシリーズ」は、ずばり「テレビ録画用」と銘打たれており、そこらの「テレビ録画用」とは違うスタンスであることを暗に主張している。果たして、「録画専用」は通常のものとはどのように違うのか。同製品の開発に携わったバッファローのエンジニアに話を伺いながら、新しいテレビ録画専用HDDの“中身”に迫ってみた。

バッファローのテレビ録画専用外付けHDD「HDV-SQU3/Vシリーズ」

株式会社バッファロー 周辺機器事業部 開発課長の市川文彦氏

株式会社バッファロー 製品技術部の齋藤 賢太朗氏

株式会社バッファロー 周辺機器事業部 開発担当の伊藤 司氏

株式会社バッファロー 周辺機器事業部 開発担当の浜武 大輔氏

バッファローはこれまでにも「テレビ録画」に適した外付けHDDを開発してきた。あえてテレビ録画に絞った製品を出している理由は、同社が外付けHDD(3.5インチおよび2.5インチ)の市場において4割のメーカーシェアを占めるなか、ユーザーの3~4割がテレビ録画用途として活用しているというニーズの高さがあるからだ。テレビ録画用途の需要は増え続ける傾向にあり、その流れで今回新たに「HDV-SQU3/Vシリーズ」と「HDV-SAU3/Vシリーズ」を発売したということになる。

「HDV-SQU3/Vシリーズ」は、録画したものとは異なる別の機器でも録画番組を視聴できるようにするコンテンツ保護技術「SeeQVault」に対応した製品で、「HDV-SAU3/Vシリーズ」はSeeQVaultに対応しない製品。2016年3月時点の実勢価格は、1TBモデルがそれぞれ1万8000円前後と1万6000円前後。対して、同じくUSB 3.0に対応する同社のPC向けUSB HDD「HD-LX」シリーズの1TBモデルが、だいたい1万6000円ほどとなっている。

PC向け製品と比べて大きな値段差があるわけではない。しかし、それらとテレビ録画専用HDDでは決定的に異なる部分があるという。同社周辺機器事業部 開発課長の市川氏によれば、テレビ録画専用HDDのコンセプトは「静音性と外観のデザイン性を高めて使い勝手を向上させた製品」。大きなポイントとしては、「騒音と振動を減らす工夫」や「24時間録画対応の排熱設計」および「テレビとの互換性を高める仕組み」を取り入れているところだ。

寝静まった部屋でもまず聞こえない、騒音レベル16dBを達成

まず最初の「騒音と振動を減らす工夫」については、テレビ録画専用HDDで徹底的にこだわり抜いたところだと、同社製品技術部の齋藤氏は言う。同社の従来型のテレビ録画向けHDDでも、HDDの筐体外に漏れ出る騒音レベルを18dBとかなり低い値に抑えていたが、テレビ録画専用HDDでは、それをさらに下回る16dBを実現した。

「20dBで、静かな図書館でようやく“さらっと”聞こえるような音」(齋藤氏)であり、そこから理論上半分以下の音量となる16dBは、自宅でも耳をすまして聞こえるかどうか、というレベルになるだろう。事実、16dBという音量は一般的なマイクでは計測できず、今回のために特殊な精密マイクを導入し、名古屋市工業研究所の協力を仰いで無響室で検証したほどだという。さらに、HDD特有の騒音の周波数帯を検出し、その周波数帯の音を効果的に低減するのに結び付く情報収集も行った。

なぜここまで低い騒音レベルに抑える必要があったのか。齋藤氏は「従来製品の18dBを超えないと」という思いがあったことを明かしつつ、24時間録画対応をうたうためにも、騒音は可能な限り減らす必要があったと話す。主に騒音が大きくなるのはHDDへの書き込みが発生する録画のタイミングだが、テレビの予約録画機能によって深夜の就寝時にもHDDが稼働する可能性がある。24時間録画対応とは、すなわち24時間稼働し続けられる耐久性をもつだけでなく、24時間騒音が気にならないレベルであることも意味するわけだ。

16dBを目指すに当たっては、「HDDの音を外に伝えない、中の音を漏らさない」を合言葉に、ファンレスとするのはもちろんのこと、内蔵するドライブを筐体に固定するための素材選定や構造設計についても検討に検討を重ねたという。まず、「HDDの音を外に伝えない」ため、ドライブ側面にドーナツ状のゴム脚を4つ取り付け、その脚がちょうど収まるよう半円に形作られた筐体内側の支持点にマウント。「中でドライブをフローティングさせる」(齋藤氏)構造とした。

ファンレスの筐体内部

ドーナツ状のゴム脚で振動を抑える

受けとなる筐体内側の支持点

ゴム脚はドライブの側面に4つ設けられている

このゴム脚の素材について詳細は明かされなかったが、齋藤氏によれば、通常用いられるシリコン系ゴムとは違い、より経年劣化で硬化しにくく、長期間に渡って低騒音を維持できるものを選んでいるという。また、筐体の外側、底面に備えた接地部分となる5つの脚にも、また別のゴム素材を用いている。

この脚には、単純にHDDのモーターによる振動が伝わりにくい素材を選ぶだけでなく、「材質の特性を見たうえで、想定される荷重が加わった時に、脚のゴム素材をどの面積にすれば、どの周波数帯の音を効果的に消せるか」を解析して決定したと齋藤氏。接地しているところから共振が発生しにくいよう、素材、面積、厚み、配置などを何度も試作しながら調整したという。

底面のゴム脚にも緻密な工夫が重ねられた

他のHDD製品(右)の脚と比べるとその違いは一目瞭然

また、当然ながら内蔵するドライブ自体の品質や性能も騒音の大小に直接的に関わってくる。テレビ録画専用HDDでは、最大6000rpm以下の回転数で動作する、同社基準ではオーディオ向けとして採用されるレベルの信頼性の高いブランドの製品を採用。騒音レベルについてはもちろんわずかな個体差もあるが、最大でも16dBに収まる品質を担保できる製品としているため、場合によっては16dB以下の超静音モデルをユーザーが手にする可能性もゼロではない、とのこと。

エアフローと放射の工夫で、ファンレスでも熱対策は万全

静音化を進める一方で、同社は熱対策にも力を入れた。静音と熱は、いわばトレードオフの関係にあり、例えば排熱用のファンを設ければ冷却しやすく動作を安定させられるが、モーターの騒音は増えてしまう。かといって単純にファンレスにすれば、筐体内部のエアフローが悪化し、熱がこもってハードウェアの故障や動作不良の原因ともなりうる。耐久性の面で24時間録画対応も危うくなるだろう。

先述の通り、16dBという極端な静音を目指すうえでは、必然的にファンレスにせざるをえず、その分筐体の構造の工夫でカバーしなければならない。そのため、テレビ録画専用HDDにおいては筐体の樹脂ケースによって熱を電磁波に変えて外に伝える構造とし、齋藤氏いわく「内部のドライブとケースとの隙間の距離を適切に保つとともに、中が熱で飽和した時にどこからでも放射するように」設計。40度という高温環境で検証し、筐体表面温度45度、内部温度55度という状況でも問題なく稼働し続けることを確認した。「スペックシート上の性能よりもマージンが取れている」と齋藤氏は自信を見せる。

十分なエアフローを確保できる内部構造とした

底面に設けられた通気孔

メーカーとの製品相互評価で最大の互換性を実現

こうした自信の裏には、テレビメーカーやレコーダーメーカー各社との間で、製品の相互評価の取り組みが進んでいることもあるのかもしれない。「HDV-SQU3/Vシリーズ」と「HDV-SAU3/Vシリーズ」をサンプル提供し、メーカー各社が独自の試験を行って評価するだけでなく、バッファロー自身もメーカー各社のテレビやレコーダーで本モデルが正常に動作するかを、メーカーの試験評価項目も元にしながら幅広く検証を行っているのだという。

この検証は互換性のチェックが主な目的となっている。例えばテレビ製品によっては一定以上の容量をもつHDDを認識できなかったり、一定容量以上の部分のみを認識できない機種がある。USBハブを介して接続すると動作しない機種も存在する。録画や再生などの各種操作を機種ごとに数十回から多いものは数千回、繰り返し行って常に正常に動作するかも確認する。「絶対に録画に失敗してはいけない」(齋藤氏)という厳しい態度で開発に臨み、その甲斐もあってか、パナソニック製のビエラとディーガにおいては、メーカー推奨HDDとして認定されるに至った。

検証結果は、もちろん製品の動作環境や使用条件に反映されることになる。パッケージ上ではテレビのメーカーや製品ブランドごと、もしくは機種ごとに対応しているかどうかが細かく区別されて記載される。同じメーカーの同じブランドのテレビでも、機種によっては外付けHDDの対応状況が異なる場合もあるかもしれない。「必ず自分のテレビが対応するHDDかどうかをパッケージなどで確認したうえで、購入していただきたい」と市川氏は注意を促す。

LEDランプ1つ、ケーブル1本にもテレビ録画専用に適した配慮

ここまで、テレビ録画専用の外付けHDDに求められる性能をいかにして実現しているかを解説してきたが、ユーザーが接することになる外観や使い勝手の面でも、テレビ録画専用にふさわしいさまざまな気配りがある。

1つはその特徴的なフォルムとデザインだ。大きく分けて2つの角張った“ブロック”から構成されているかのような筐体デザインは、これまでの同社製品に多く見られた丸みを帯びたフォルムから大きく変化したところ。ソリッドなデザインが採用される傾向にある昨今のテレビ製品にマッチするよう「エッジの利いた」デザインに仕立てられた。背面がえぐれているように見えるのも、USBケーブルとACアダプターを接続した時に、コネクターの根元が筐体から飛び出さず、収まりが良くなるよう配慮したためだ。

ブロックが2つくっついたようなフォルム

すっきりした背面

えぐれている部分があるおかげで、ケーブルのコネクタが出っ張らず、壁際にも設置しやすい

正面のLEDアクセスランプは、“録画=赤”という一般的なイメージに沿うよう録画時は赤に光らせることで、直感的に動作状況を把握できるようにした。また、PC向けではアクセスに合わせて点滅するが、「HDV-SQU3/Vシリーズ」と「HDV-SAU3/Vシリーズ」では常に点灯となり、その明るさも通常よりやや控えめに調整されている。LEDランプはテレビ視聴中に視界に入りやすいものだが、可能な限り目にうるさくなく、それでいて必要最小限の情報量で動作状況を素早く知ることができる、細かな工夫がなされているわけだ。

録画時(書き込み時)は赤く点灯するLED

さらに付属のUSBケーブルも通常と異なる。PC向けのHDDでは1メートルのUSBケーブルが同梱されるが、テレビ録画専用HDDでは引き回しがしやすいよう2メートルの、しかもエラーに強い高品質なケーブルを同梱しているという。PCではデータ転送時に随時エラー訂正がなされるが、テレビ録画ではいわばリアルタイムストリーミング状態で映像データを記録していくため、エラー訂正できず、そのエラーは映像にノイズとなって現れる場合がある。高品質ケーブルを最初から使えるようにすることで、映像劣化の要因をできるだけ減らせるようにという、これもまたうれしい心遣いだ。

PC向けより長く、高品質な付属USBケーブル

テレビ録画専用HDDで得られた知見は、PC向けにも還元

以上のように、PC向けの外付けHDDとテレビ録画専用のHDDとでは、その設計思想から、性能や騒音に対する考え方、ユーザビリティに至るまで、さまざまな点で異なることがお分かりいただけたと思う。「テレビ録画専用のHDD」が意味するところは、これまであまり明確でなかった、もしくは広く知られていなかったかもしれない。PC向けとテレビ録画用の根本的な違いを、静音レベルや稼働時間、録画時の信頼性にあると考えるならば、それらの点で極限まで性能を突き詰めた「録画専用HDD」である「HDV-SQU3/Vシリーズ」と「HDV-SAU3/Vシリーズ」は、テレビ録画用HDDというものを“再定義した”、と言ってもいいのではないだろうか。

とはいえ、PC向けとテレビ録画専用のHDD製品が今後それぞれ独自の進化をたどっていくかというと、そういうわけでもなさそうだ。齋藤氏は、本モデルの開発を通じて、特に騒音の周波数特性を分析した経験から、「騒音とはなんぞや、というのが理解できてきた」と話し、得られた知見はより低コストでPC向けHDDの静音化を実現することにもつなげられるだろうと見ている。

究極の静音化を目指すのであれば、モーターで動作するHDDではなく、一切の駆動部品がないSSDをテレビ録画専用にも採用するという考え方もあるだろう。SSDの低価格化が進んでいることもあり、将来的にはテレビ録画専用の外付けストレージにもSSDを採用する動きが出てくるかもしれない。が、コストパフォーマンスにおいてHDDに分がある現状では、「HDV-SQU3/Vシリーズ」と「HDV-SAU3/Vシリーズ」は「テレビ録画専用」として、最も「考えて」作られた機器の1つであることは間違いないだろう。