いま、ポータブルヘッドホンアンプ、通称ポタアンに大きな注目が集まっている。

 高級ヘッドホンなど、鳴りやすさよりも音質を重視した製品の場合、(付属品レベルのイヤホンをメインターゲットに据えている)ポータブルオーディオプレーヤーやスマートフォンなどの内蔵ヘッドホン出力では、パワーもクオリティも不足してしまう場合がある。そんな時、ポタアンを組み合わせてあげると、迫力も音質も格段に向上して、ヘッドホンが本来の実力を発揮してくれるようになる。加えて、最新のポタアンは、スマホやiPod touchなどとデジタル接続でき、さらなる高音質を発揮してくれるモデルも登場。スペース効率よりも音質を重視したボディサイズを持つものが多いため、多少かさ張る傾向はあるものの、それを補ってあまりある“音の良さ”によって、多くのオーディオファンから支持されている。

 そんな、過去最大の盛り上がりを迎えつつある最新ポタアンのなかにあって、特徴的なスタイルとサウンドを持つ注目モデルが登場した。何を隠そう、それがJVCの「SU-AX7」である。

メタリックの入ったブラウンカラーのアルミ製ボディを採用。なかなか上品なイメージを纏っている。   フロントパネルは5mmのアルミプレートから削りだしたもの。場所によって角の落とし方が異なっていて、こういった部分からも作りの丁寧さがうかがえる。

高級オーディオアンプの質感・操作感

 ユーザビリティに配慮してか、オーソドックスなスクエアボディを持つ「SU-AX7」だが、そのディテールを見るとかなりのこだわりがうかがえる。ダークブラウンメタリックに彩られたアルミ製ボディは、センター部分にスリットが刻まれていたり、前後のアルミ削り出しパネルは角が落とされ、同じくアルミ削り出しのボリュームノブは適度な重さを持つスムーズな操作感が与えられているなど、実際に製品を手に取ってみるとなかなかの上質さ、上品さが感じられる。とかく機能優先のデザインセンスに偏りがちなポタアンのなかにあって、ひと味違う存在感を持ち合わせているのは確かだ。こういった作りきめ細やかさは、ジャパンメーカーならではの特徴といえる。

 一方で、機能面においてもかなり充実した内容となっている。入力はアナログのステレオミニ端子のほか、光デジタル入力、iPodデジタル接続用のUSB A端子、PC接続用と充電用を兼ねたUSB MicroB端子を用意。iPhoneやiPad、iPod touchなどのiOSデバイスが高品位なサウンドで再生できるだけでなく、「AK120」など光デジタル出力を持つポータブルプレーヤーやパソコンなど、幅広い機器に活用することもできる。ちなみに、USB DAC機能としては、最高192kHz/24bitまでのリニアPCM音源に対応している。

 とはいえ、「SU-AX7」最大の特徴といえば、やはりサウンドクオリティに対するこだわりだろう。なかでも、ポタアンとしては初採用となる、JVC独自の技術New「K2テクノロジー」の搭載は要注目だ。

フロントパネルにはボリュームのほか、ヘッドホン出力、USB2系統の入力端子がレイアウトされている。   フロントパネルのボリュームノブはアルミ削り出し素材を採用。回したときの感触にもこだわっている。   リアパネルには光デジタル/アナログ入力のほか、New「K2テクノロジー」のオンオフ、ヘッドホン出力のハイロー、入力切替のスイッチが配置されている。
開発者にも話を伺った

 ビクタースタジオとの協力体制によって生み出されたNew「K2テクノロジー」は、アナログ信号からデジタル信号への変換時や、信号圧縮処理の際に欠落する音楽情報を、膨大なデータや経験により培ったノウハウを元に変換前の波形を想定、再生成するというもの。実際に、ビクターのスタジオでも使われている技術だが、こちらが「SU-AX7」にも採用されているのだ。圧縮音源を補完しようとする技術は他にもあるが、CDも含め本来の“音”を取り戻そうとするものは数少ない。こういった唯一無二の技術をポタアンにも搭載してくれるのは、ありがたい限りだ。

 もちろん、「SU-AX7」の音質的なこだわりはNew「K2テクノロジー」だけではない。このほかにも、随所に音質最優先のマテリアルや設計思想が盛り込まれている。

 たとえばボディは、外観だけ見るとごく一般的な“アルミケースに基板を固定”しているタイプに見えるが、実は内部シャーシが使われており、基板をこちらに固定するフローティング構造を採用しているのだ。これによって、外部の振動による影響をシャットアウト、設置環境による音質変化を排除している。また、この内部シャーシには素材に非磁性ステンレスを使用。軽量さと高剛性を両立し、よりピュアなサウンドを実現したという。

 さらに嬉しいのが、この内部シャーシに空けられた“fホール”の存在だ。ヴァイオリンなどのボディに空けられているホールを模したこの“fホール”、音響的には豊かで自然な響きを作り出すために用いられるものだが、その一方で、古くからのポータブルオーディオファンにとっては憧れの存在だった、ケンウッド製の高級ポータブルオーディオプレーヤーを彷彿とさせてくれるもの。しかも、最新の“fホール”はさらなる進化を遂げ、直線部分のいっさいない正真正銘のfホールデザインを、コンピュータを使った振動解析によって生み出したという。とてもマニアックな話題ながら、分かる人には大いに魅力的なオマージュといえる。

JVCケンウッド伝統の“fホール”が採用された内部シャーシ。素材は非磁性ステンレスを採用する。   メイン基板は内部シャーシに固定、外部からの振動による影響をシャットアウトしている。

 さらに、基板構成にもかなりのこだわりが見られる。「SU-AX7」は正面右にボリュームノブとヘッドホン出力が、入力端子はフロントパネル左側にUSB(A、MicroB)の2つ、リアパネル右側に光デジタル(OPTICAL IN)、アナログ(LINE IN)が配置されているという、個性的なレイアウトが採用されている。実はこれ、前面にUSBとアナログ、後方にデジタルと、1枚基板ながらも各パートにきっちりセパレートされていることから、こういった端子の配置となっているのだ。特にアナログ部には相当のこだわりを持っていて、USBやデジタル部とセパレートされているだけでなく、アナログインのときにはデジタル回路がスリープ状態になり、よりピュアなサウンドを実現できるという仕組みになっている。ボリュームも、アナログインのときにはアナログボリュームとして、デジタルインのときにはデジタルボリュームとして動作する(自動で切り替わる)というから、とても興味深い。そういった、ポータブル製品だから、という妥協の一切ない、徹底的な音質重視の姿勢が「SU-AX7」ならではの特徴といえる。

 さて、実際のサウンドクオリティを確認すべく、この「SU-AX7」にJVC製のウッドドームイヤホン「HA-FX850」やスタジオモニターヘッドホン「HA-MX10-B」を含む、いくつかのヘッドホンで試聴させてもらった。なお、再生側のプレーヤーに関してはハイレゾ音源を確認するためアップル「MacBookAir」とiriver「AK120」と、最も利用頻度が高いと思われるiPhoneとの接続を試してみた。

USB、デジタル部、アナログ部をセパレーションすることでさらなる音質追求を行った基板。   音質と使い勝手を両立させた回路レイアウト
音質の要となるDACは、音質を最優先してAKM製「AK4390」をチョイス。DSD対応は見送られた。   ヘッドホンアンプは音質を重視してTI製「TPA6120」が採用されている。   LR独立パターンに加えて1mm径の金メッキジャンパーを採用するなど、細部にまで音質についての徹底追求が為されている。

「SU-AX7」試聴レポート

 まずは「MacBookAir」を付属品のUSBケーブルで前面のPC/充電兼用端子につなぎ、「HA-MX10-B」で試聴。背面端子のINPUT切替スイッチをiPodに切り替える。感想は、とにかく音数の多い、それでいてキレの良いダイナミックなサウンド。低域のフォーカス感が高く、ベースがリアルな音色を聴かせてくれるのと、スネアがはねるようなキレの良いリズムを刻んでいるため、とてもノリの良い、グルーブ感の高いサウンドを楽しむことができる。ヴォーカルはややカスレたイメージだが、これは「HA-MX10-B」もともとのキャラクターとして、分解能や解像度感の高さに支えられたリアルさに目がひかれる。スタジオモニターヘッドホン「HA-MX10-B」ならではの良さが十分に発揮されているイメージだ。ここまで元気で、勢いのある音をポータブル環境で聴かせてもらえるのは、嬉しい限りだ。

 続いて、プレーヤーを「AK120」に変更。入力切替スイッチを切り替えて、OPTICAL IN(角型光)端子に接続する。なんと、こちらの相性もかなり良かった。セパレーションは「MacBookAir」に比べるとやや下がるが、解像度の高さ、音数の多さは変わらず良好なため、リアリティの高いメリハリに富んだサウンドを堪能させてくれる。空間的な広がり感も良好。ライブ演奏を聴くと、プレーヤーの立ち位置がしっかりと感じられることに加え、ライブスペースの大きさもしっかり感じ取ることができる。会場の盛り上がりもしっかりと伝わってくる、“熱い”サウンドだ。

 さて、プレーヤーは「AK120」のまま、ヘッドホンをウッドドームイヤホンのフラッグシップモデル「HA-FX850」に変更する。こちらの組み合わせは抜群。タップリとした量感を持つ低域がパワフルなベースを奏で、ノリの良い演奏を堪能させてくれる。さらに素晴らしいのが、ヴォーカルの力強さだ。ジャズの女性ヴォーカルを聴くと、まるでマイク無しのダイレクトな声そのものを聴いているかのようなきめ細やかさを持つ、伸びやかで張りのある歌声が楽しめる。特に「HA-FX850」との組み合わせはさすがのクオリティで、音質を優先してやや低域の駆動量を求めるイヤホンに対して、十分なパワー感とともに、ベストプロポーションな帯域バランスをもたらしてくれる。「HA-FX850」ならではのサウンドを存分に楽しみたい人には、これ以上はない“ポタアン”といえる。

 続いて、プレーヤー/イヤホンはそのままに、(個人的にはとても気になっていた)アナログ接続も試してみる。こちらは、かなり上質感漂うピュアオーディオライクなサウンドキャラクター。表現が丁寧で細やか、嫌なピークがほとんど感じらない、まとまりの良いサウンドだ。アナログ接続のため、デジタル接続に比べると解像度感は落ちるものの、ダイナミックな表現、グルーブ感の高さはしっかりと保持されているため、聴いていて楽しいのは変わらず。「AK120」でも勢いの増した、それでいて聴きやすい音になるのだから、アナログ部に関してもかなりのクオリティだといえる。

 最後に、一番手軽に利用できる「iPhone 5s」を接続して試聴する。お手持ちのiPhoneに付属品のLightningケーブルで「SU-AX7」前面のiPod/iPhone/iPad接続用端子につなぐだけで、これまで楽しんでいた音楽が全く別物と思えるくらい、音質も迫力も異なってくる。また、付属品の傷付き防止スペーサーを使えばかなりの粘着力のため、iPhoneとぴったり固定することができるので安心だ。iPhone5sにピッタリサイズのシートだが、お手持ちのプレーヤーサイズに切って使うことも考えられている。

最適な長さのショートケーブルが付属されているのがうれしい。確かに市販のケーブルでは若干長すぎる。細やかなこだわり具合だ。   スマートフォンにマッチした奥行きサイズとなっているため、iPhoneの収まりが非常に良い。粘着機能付きの傷付き防止スペーサーも心憎いサービス。

 そして、実際のサウンドはというと、内蔵ヘッドホン出力と比べてしまうのがかわいそうなくらい圧倒的。音の解像感、クリアさが圧倒的に異なり、ステージが全体的にグッとせり出してきたかのような、ダイレクトなサウンドへと生まれ変わっている。特にヴォーカルは、目の前で歌ってくれているかのように、詳細まで聴き取れるようになる。その一方で、高域の伸びやかさもかなり違う。ハイハットの音などが、かなり聴きやすくなっているのに、一段と印象的に感じられるのだ。これに対して内蔵のヘッドホン出力は、メリハリをブーストして印象度を高めているといったイメージ。インパクトの強さはさほど変わらないものの、ずいぶんと濁った、荒い音だということに気がつく。この違いこそポタアンならではのハイクオリティさが存分に発揮されている部分だ。

 なお、New 「K2テクノロジー」については、iPhoneとの接続が一番効果を発揮してくれた。音色的な変化はとても自然で、倍音成分が整い伸びやかなイメージになった程度に留まっているが、低域のフォーカス感が高まり音のキレや勢いが良くなったおかげか、より勢いの増したパワフルな演奏となった。演奏全体のまとまりが良くなってくれるため、アコースティックな演奏とも相性が良い。曲調や好みによって、積極的に活用したいところだ。

 他にもいろいろ試したが、このように「SU-AX7」は、高級イヤホンだけでなく、高級ヘッドホンの実力をもしっかりと発揮し、iPhoneからハイレゾプレーヤー、PCまで、屋外ではもちろん、室内でも望外の良質かつ“楽しい”サウンドを手にすることができる、貴重なモデルといえるだろう。特に「HA-FX850」との相性はなかなかのもの。「HA-FX850」ならではのサウンドを存分に楽しみたい、という人には最有力候補としてオススメしたい。

 さらに、iPhoneだけでなくポータブルオーディオプレーヤーやPCとも接続できることも、ありがたい限り。特にPCとの接続はかなり音質的なメリットがあるため、屋内用のヘッドホンアンプ付きUSB DACとしても充分に活用できる。こと音質面については、太鼓判でオススメできる秀逸な製品だ。


(野村ケンジ)

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