屋外でも「ワンランク上」の音質を愉しむ。ハイレゾ&バランス対応ポータブルヘッドホン SIGNA HA-SS01 / HA-SS02 野村ケンジがレビュー

JVCのイヤホン&ヘッドホンといえば、ウッドドーム振動板を採用する高級カナル型イヤホンや、重低音重視のXXシリーズヘッドホン、スタイリッシュなオンイヤータイプ、実際にビクタースタジオで使われているプロユースのモニターヘッドホンまで、多岐にわたる充実したラインアップを誇っているが、さらに今回、全く新しいコンセプトを持つハイレゾ対応のブランニューモデルが誕生した。それがこの「SIGNA(シグナ) 」シリーズヘッドホンの2機種「SIGNA 01(HA-SS01)」と「SIGNA 02(HA-SS02)」だ。

ワンランク上の高音質と上質な価値を目指す「CLASS-S」ブランド第1弾

右が「SIGNA 01」(HA-SS01)、左が「SIGNA 02」(HA-SS02)。パッケージには輝く「CLASS-S」マークが

SIGNAが“全く新しい”、“ブランニュー”なシリーズだというのには訳がある。というのもこのSIGNAシリーズ、分かりやすく分類すればアッパークラスのオンイヤーヘッドホンなのだが、こういった「ポータブルタイプの高級モデル」カテゴリーの製品は他社製品を含めてもとても珍しく、ワールドワイドに見てもそれほど多くはない。高音質なポータブルオーディオプレイヤーやポータブルアンプが普及し、外出先でも高音質を愉しみたいというニーズが増す現在にぴったりハマると思われるこの新ジャンルに、JVCが積極的にトライしてきたわけだ。

しかもこのSIGNAヘッドホン、JVCがヘッドホン関連商品における新提案として新たにスタートさせることとなった、「CLASS-S」ブランドを冠した第1弾モデルともなっている。現代のライフスタイルと密接に融合するユーザビリティとともに、上質なサウンドと価値を提案するという「CLASS-S」コンセプトが、今後、どのような展開を見せるのか。その先駆けという意味合いにおいても、「SIGNA」ヘッドホンの実力のほどは、大いに興味をそそられる。そこで、今回はデビューしたばかりの実機をいち早く試聴させてもらうとともに、開発者からも、製品についての様々な情報を聞かせてもらった。

箱を開けると、「CLASS-S」マークが刻印されたキャリングケースに包まれたヘッドホンが現れる。そのままバッグに入れて持ち運びたくなる

パッケージ内容は本体、キャリングケース、着脱式ケーブル。本体はスイーベル機構での折りたたみに対応

スタンダードモデル「SIGNA 02」とプレミアムモデル「SIGNA 01」をラインアップ

今回ラインアップされたのは2バリエーション。どちらも屋外で手軽に活用できそうな、コンパクトなオンイヤータイプだ。

バリエーションは、スタンダードモデルの「SIGNA 02(HA-SS02)」(以下、SIGNA 02)とプレミアムモデルの「SIGNA 01(HA-SS01)」(以下、SIGNA 01)という、これまでもJVCが得意としてきた標準+プレミアム2ライン構成が踏襲されている。どちらも、最新モデルらしくハイレゾ対応を謳っているのも特徴だ。

型番

SIGNA 01
(プレミアムモデル)
HA-SS01

SIGNA 02
(スタンダードモデル)
HA-SS02

高音質技術

ハイレゾ対応 高強度 PEN素材振動板

トリプルマグネット

ダブルマグネット

高強度ポリアミド採用 シーケンシャル・ツイン・エンクロージャー

アンチ・バイブレーション・リング

 

アンチバイブレーションジャック

クリアサウンドプラグ

L/R独立グランド&ケーブル

快適性

ハイレゾ仕様コンフォータブルイヤーパッド

ハイレゾ仕様イヤーパッド

ソフトPUレザー

PUレザー

利便性

アンチバイブレーションジャック+1.2m片出し着脱ケーブル

キャリングケース付属

SIGNA 01(HA-SS01)

SIGNA 02(HA-SS02)

両者は形状こそほとんど同じだが、各部の素材や細部のディティールが異なっている。たとえば「SIGNA 01」のハウジングカバーの塗装は、カメラなどに使用されるようなハンマートーン仕上げとなっていたり、ハウジングステーなどのカラーコーディネイトもややシックなイメージでブラック基調にまとめ上げられており、「SIGNA 01」にはゴールドライン、「SIGNA 02」はシルバーラインとひと目で区別できるようになっている。

SIGNA 01はハウジングの表面処理がカメラなどに使われるハンマートン仕上げとなっている。縁取りはゴールド

SIGNA 02の表面処理はフラットで、縁取りはシルバーとなっている

イヤーパッドやヘッドバンドも、「SIGNA 01」と「SIGNA 02」ではかなり異なっている。「SIGNA 02」が素材として一般的なPUレザーを使用しているのに対し、「SIGNA 01」ではソフトPUレザーを採用していて、質感がかなり異なっている。「SIGNA 01」の方がずいぶんと柔らかい印象で、着け心地がよい。内部のウレタンもコンフォータブルタイプをチョイスするなど、「SIGNA 01」にはプレミアムモデルならではのアドバンテージが与えられている印象だ。

SIGNA 01はソフトPUレザー+ブラックハンガーを採用

SIGNA 02は通常のPUレザー+シルバーハンガー

JVCケンウッドでSIGNAの開発を担当した美和氏

ちなみに、製品開発を担当した美和氏(近年はポータブルヘッドホンアンプ「SU-AX7」の開発も担当している)の話によると「音質と装着感の両面で心地よさを追い求めた」というこのイヤーパッド、オンイヤータイプとしてはやや大きめのサイズに感じられるものの、その分装着感はなかなかで、「SIGNA 02」でも十分に良好なレベル。また、ユーザビリティにおいても巧みな作り込みがなされていて、ハウジング部の厚みをうまく押さえ込んでいたり、スイーベル機構(90度回転してスマートに収納できる)を採用することで、持ち運びの手軽さも十分に確保されている。220〜245gという軽量さと合わせて、積極的に屋外に持ち出したくなる製品に仕上がっている。

JVCの独自技術が結集。ユニークな構造を採用したドライバーとハウジング

SIGNA 01はマグネットを3つ搭載する「トリプルマグネット構造」で音の輪郭を細部まで再現。PEN振動板は軽量かつ高強度で、ハイレゾソースの情報量を引き出せるという

音質の要となるドライバー部も、随所にこだわりが投入されている。ユニット口径は40mmと(オンイヤーモデルとしては)比較的オーソドックスなものの、振動板素材には一般的なPETではなく、PENと呼ばれている強度が高く軽い素材をチョイス。ドライバーユニットセンター部分に、中域の質を改善する「クリアサウンドプラグ」を新たに採用したほか、メインマグネットに加えて2つのサブマグネットを用いた「トリプルマグネット構成」(「SIGNA 01」のみ)というユニークな構成を採用している。美和氏曰く「これらの技術を盛り込むことで、高い解像度感とレスポンスの良さ、歪みの低減を実現でき、結果として音の輪郭を細部まで再現できた」という。

一方「SIGNA 02」はというと、PEN振動板は同じながらも、マグネットが2つの「ダブルマグネット構成」に変更されている。それでもレスポンスの良さは保たれ、切れのよいサウンドを持ち味にしているという。

新採用のPEN振動板

中央に見える赤色が「クリアサウンドプラグ」

もうひとつ、「SIGNA」シリーズならではの音質的な工夫が投入されているのが、ハウジング内部の構造だ。エンクロージャーをインナーとアウターの2層構造にして、ハウジング内部に中高域用のキャビティを配置する「シーケンシャル・ツイン・エンクロージャー」を新採用。ワイドレンジかつフラットに、帯域特性に秀でた中高域を実現させている。また、ハウジング素材には、グラスファイバー配合の高強度ポリアミド素材を採用することで、特に低域のフォーカス感を高めることができたという。

着脱式ケーブルはバランス接続にも対応!?

もうひとつ、個人的に注目のポイントがある。それは、ヘッドホン側に3.5mm4極端子を採用した着脱式ケーブルの採用だ。

高級モデルのヘッドホンでは、いまや標準装備といえる着脱式ケーブル。ヘッドホンの故障、音切れの原因の9割がプラグ部の断線という現実から鑑みて、着脱式ケーブルを採用してくれるのはありがたい。「SIGNA」シリーズでは、ジャック部分にガタつきなくケーブルを接続できる「アンチバイブレーションジャック」を備えており、接触不良による音質劣化を抑えられるようになっている。

アンチバイブレーションジャックで着脱式ケーブルのガタつきを抑制

また、それ以上に注目なのがヘッドホン側に“3.5mm4極”を採用していること。そう、ヘッドホンに詳しい人だったらすぐに気がつくだろうが、この「SIGNA」ヘッドホンは、バランス接続に対応している。さらなる高音質を求めたくなるユーザー心理としては、こういった配慮はありがたい限り。現在のところ、JVCからはバランスリケーブル(やバランス対応ヘッドホンアンプ)のラインアップはアナウンスされていないが、現在検討中ということで、今後の動向にも注目したい。

インプレッション〜切れがよいのに聴きやすい、上質なサウンド

さて、ここからは肝心のサウンドについて、「SIGNA 01」をメインにインプレッションをお届けしよう。まずは、PCにJVC製ポータブルヘッドホンアンプ「SU-AX7」を接続して、ハイレゾ音源で試聴を行った。

ひとことで表現するなら、とても優等生なサウンド。オンイヤーヘッドホンならではのダイレクト感、音の距離の近さを持ちつつも、シルキーな音色表現でかなり聴きやすい。高域がとても伸びやかなのに、耳障りな鋭さが一切なく、聴き心地がよいのだ。おかげで、躍動感のある楽しいサウンドを聴き疲れすることなく長時間にわたって楽しむことができる。特にキレの良さが秀逸で、ハイレゾ音源、たとえばTECHNOBOYS PULCRAFT GREEN-FUND(テクノボーイズ パルクラフト グリーンファンド)の『BEAUTIFUL=SENTENCE(IS IT A BEAUTIFUL WORLD )(「trinity heaven7 MAGUS MUSIC REMIXES」)』を聴くと、ヴォーカル2人の滑舌の良さがとてもよく伝わるし、結果としてとてもグルーブ感の高いサウンドが楽しめる。

一方で、ピアノなどのアコースティック楽器との相性もよい。ややウォーミーな付帯音を纏っているが、同時につややかさも感じる音色。おかげで、とても情緒的な演奏に聴こえる。また、演奏をしているホールの様子がとてもリアルに伝わってくるのも嬉しい。なかなかに、聴かせどころを心得たサウンドだ。

ポータブルプレーヤー直差しでも魅力を発揮

ハイレゾ対応プレイヤーと直接つないでも良好

続いて、ハイレゾ対応ポータブルプレーヤーと組み合わせてみたのだが、こちらもなかなかによかった。もちろん、「SU-AX7」との組み合わせに対して表現の細やかさが見えなくなり、抑揚表現がやや押さえられたイメージとなってしまう(これはどちらかというとプレーヤーの内蔵アンプが劣っているというよりも「SU-AX7」がヘッドホンアンプとして高い実力を持ち合わせている製品であることの証明)のだが、SIGNAが比較的敏感な感度と、汎用性の高いフラットバランスな帯域特性を持ち合わせてくれているおかけで、躍動的なリズムと伸びやかな高域を併せ持つ、良質なサウンドが楽しめるのだ。これは「SIGNA 02」にもいえることだが、「SIGNA 01」の方がより顕著な特徴を備える。ヘッドホンアンプを活用した十全なシステムだけでなく、ポータブルプレーヤー直差しでも手軽に楽しみたい、という人にとっても大いに魅力的な製品となってくれるだろう。

このように「SIGNA」ヘッドホンは、オンイヤーモデルならではの手軽さを保ちつつも、聴き心地のよい良質なサウンドを実現した優秀機だ。音質も装着感も妥協したくない、という人には、有力な候補となってくれるだろう。

(野村ケンジ)