ツインドライブシステムが大きく進化

 同口径のダイナミック型ドライバーを2つ並列にするという、カナル型イヤホンとしてはかなり個性的な業界初の“ツインシステム”を採用していたJVCのHA-FXT90が、新しいモデルへと生まれ変わった。

 「HA-FXT100」、「HA-FXT200」という2バリエーション展開となった新シリーズは、最大の特徴だった“ツインシステムユニット”はそのままに、振動板素材や筐体デザインなど、随所に新設計を施すことで、さらなる高みを狙ったもの。その内容を見ると、全く別のものと言えるほど、様々な改良が行われている。そんな進化を遂げた新“TWINシリーズ”について、製品開発担当者に話を伺った。

JVCケンウッド
光学&オーディオ セグメント
AVCビジネスユニット
第一技術部 第二設計グループ
田村信司氏
JVCケンウッド
光学&オーディオ セグメント
AVCビジネスユニット
商品企画部
宮澤貴之氏
新シリーズについてお二人にお話をうかがった

 まず、ドライバーユニットは、5.8mm口径という小型のものを真鍮製のベースユニットに固定。不要な振動を押さえ込んでピュアサウンドを実現するという、基本システムはそのままに、振動板素材を変更。中高域用にチタンコーティングされた振動板、中低域用にカーボン素材の振動板をチョイス。音質の向上とともに、さらなるワイドレンジ化を実現している。しかしながら、ドライバーユニット最大のトピックといえば、マルチマグネット構造だろう。ドライバーの前方、あるいは前後にマグネットを配置することで、振動板の応答性を向上。付帯音の少ない、キレのよいサウンドを作り上げている。

新“TWINシリーズ”の要であるツインシステムユニット。真鍮製ケースに5.8mmドライバーが2基収められている
基本構造は先代となるFXT90とほぼ同じだが、マグネットをユニットの前後に配置するなど、様々な改良が行われている

シックな印象となった筐体デザイン

 その一方で、筐体デザインも大きく変わった。先代が“ツインシステムユニット”構造を積極的にアピールする意匠だったのに対して、新モデルでは流線型デザインを採用した(並列ドライバーレイアウトとしては)スマートに感じられるスタイルへと変更。ドライバーユニットが見えるか見えないかギリギリの透明感を持つスモーク調カラーを採用し、シックなイメージに仕上がっている。また、筐体内はドライバー後方の空気室を調整し、ユニットの背圧を最適化。フォーカス感の高い、締まりのある低域再生も追求している。これらは前モデルのユーザーの「もう少し低音が欲しい」というリクエストに応えたのだという。

 また、FXT200については、金属製の細い中空パイプ“アコースティックチューブチャンバー”を採用。こちらはLIVE BEAT(HA-FXZ200/100)シリーズとは異なり、低域の増強ではなくユニット前方の空気室の容積を最適化することに利用されている。これによって振動板の動きが改善され、全体域にわたって制動の利いた、リニアなサウンドを実現できたという。ボディもグラスファイバー混合の高比重ハウジングを採用し制振性を高めている。なお、限定モデルのFXT200LTDついては、“アコースティックチューブチャンバー”のほかにも、ケーブルに銀コートOFCを採用するなど、音質向上を目的とした、さらなるグレードアップがいくつか施されている。

FXT200とFXT200LTDにはグラスファイバー混合の高比重ハウジングが採用されている。ハウジング部のプレートもアルミ製となる
背面に設けられたツインバスポート。ユニットの背面を分離しつつそれぞれにポートを用意することでしまりのある低音を再生
数量限定モデルのFXT200LTDには、ケーブルに銀コートOFCを採用

ラインナップはHA-FXT100/200と限定モデルFXT200LTDの3モデル

 音質に関わる部分では、スパイラルドットイヤーピースの採用も嬉しいところだ。これはWOOD(HA-FX850/750/650)シリーズで初採用されたもので、イヤーピースの内側にゴルフボールのような丸いディンプル(へこみ)をいくつも配置したもので、これによって空気の流れをコントロールし、さらなる音質向上に結びつけようというもの。すでに評価の高いアイテムだけに、こちらを採用してくれた(しかもWOODシリーズと互換性がある)のは嬉しい限りだ。

 さらに、この新シリーズには、標準モデルのFXT100、上位モデルのFXT200に加えて、数量限定モデルのFXT200LTDもラインナップ。こちらは専用のチューニングが行われているという。

新“TWINシリーズ”は標準モデルのFXT100(左)、上位モデルのFXT200(中)、数量限定モデルのFXT200LTD(右)という3ラインナップが用意される。それぞれにカラーリングが異なる

スモーク調ハウジングは装着感も良好

 このように3モデルのラインナップが用意された新“TWINシリーズ”だが、実際のサウンドは、どのような進化を遂げているのだろうか。実機での試聴を行ったが、まずは装着感やデザインの印象から。

 デザインは先代となるFXT90が透明ボディを採用し、メカニカルなイメージを強調していたのに対して、コンセプト通りというべきか、かなりシックなイメージとなった。よい意味で落ち着いたデザインだし、なによりも上品さも備えている。特にアルミプレートを採用するFXT200は、かなり上質な仕上がりだ。

 装着感に関しても、スマートにまとめ上げた筐体デザインに加え、エラストマー素材のフィットサポートの採用が功を奏しているのだろう。耳からポロッとこぼれ落ちることもない。良好なフィット感を実現している。

WOODシリーズと同じくスパイラルドットイヤーピースを採用する。互換性も保たれている
エラストマー素材のフィットサポートを採用する。装着時の感触はなかなか良好

着実に進化したサウンドの「HA-FXT100」

 さて、肝心のサウンドはいかがなものだろう。まずは標準モデルのFXT100から聴いてみた。

 ダイナミックレンジの幅が広い、抑揚感あふれるサウンド。低域の量感は比較的多めだが、にじみや雑味が無いため、ドラムやベースが活き活きとした演奏を聴かせてくれる。こういったキャラクターは、確かにFXT90から継承されたものだ。しかしながら、トランジェント、音のキレのよさに関してはFXT100が圧倒的。前方に配置したマグネットが決め手となっているのだろう。ドラムのスネアやハイハットが、とてつもなくキレのよいビートを刻んでいて、グルーブ感あふれるサウンドが楽しめる。その一方で、男性ヴォーカルのフォーカス感が良好な点も魅力。ややドライな歌声ながら、口の大きさ、強弱表現のニュアンスがしっかりと伝わる、表現豊かな歌声が楽しめる。こういった部分を聴くと、FXT100がクオリティ面で圧倒的な進化を遂げたことが分かる。なかなか存在感のあるモデルと言えるだろう。

圧倒的なダイナミックレンジを持つ「HA-FXT200」

 続いてFXT200を聴くと、その圧倒的ともいえる上質サウンドにやられてしまった。解像感、抑揚表現の細やかさ、そして何よりも音のピュアさが格段に向上。よりフォーカスの定まった、ダイレクト感の高いサウンドを聴かせてくれるのだ。

 おかげで、ヴォーカルがまるで目の前で歌ってくれているかのような迫力を感じるし、ギターやキーボードなどフロントラインの演奏も、強い存在感を主張するようになる。一段と印象的な演奏に、生まれ変わってくれるのだ。そして、ベースやドラムのリズム系も、ソリッドでキレのよいリズムを刻んでいるのでとても心地よい。正直言って、こういう方向に進化するとは予想外だった。低域の迫力をしっかり確保しつつも、グルーブ感を大事にした、リズミカルなサウンド。なかなかに絶妙なセッティングになっている。

きらびやかなサウンドキャラクターを持つ個性派限定モデル「HA-FXT200LTD」

 最後にFXT200LTDを試聴。こちらはキャラクターがガラリと変わっており興味深い。たっぷりとした低域に伸びの鋭い高域。鮮明さの増したサウンドといったイメージで、音の粒だちがとてもよく、表情がとても多彩だ。クラシックのフルオーケストラなどを聴くと、弦も金管も印象的な音色を主張してくるので、壮大なスケールがしっかりと再現されている。また、女性ヴォーカルの鮮やかさも印象的だ。基本はややハスキー傾向なのだが、高域にきらっと輝く倍音が乗るためか、とてもきらびやかな歌声を楽しませてくれる。こういったサウンドキャラクターが好みという人も多いのではないか。

三種三様のサウンドキャラクターを持つ「新TWINシリーズ」

 このように新“TWINシリーズ”は、効果的な改良を加えることで、第2世代らしく格段に進化したサウンドを持つモデルへと大きくステップアップしてくれた。なかでも上位モデルのFXT200は、ツインドライブユニットの新たなる可能性を示してくれた。この上質なサウンドは、既に別シリーズと言っても過言ではないだろう。価格も含めてかなり魅力的なモデルとなっている。

 そして、数量限定モデルのFXT200LTDも捨てがたい。鮮度感の高いきらびやかなサウンドという特徴的なキャラクターを持つが、これがピタリと好みにはまる人は、ベストワンのチョイスとなるだろう。ぜひ、一度試聴してその実力を確認して欲しい、良質なモデルであることは断言しよう。

FXT100は市場想定価格9500円前後、FXT200は市場想定価格1万4000円前後、限定モデルFXT200LTDは市場想定価格1万6000円前後

ミドルクラス「ダイレクトトップマウントシリーズ」もリニューアル

 JVCカナル型イヤホンのラインナップのなかでも中核を担うミドルクラス、「ダイレクトトップマウントシリーズ」もリニューアルが施され、ラインナップを一新した。

 好評のマイクロHDユニット&トップマウントはそのままに、振動板をチタンコーティングに変更。同時に筐体の最適化を行うことで、使い勝手のよさとサウンドの両面でクオリティアップをはかっている。ラインナップは、HA-FXH30、FXH20、FXH10、FRH10の4バリエーションとなる。

 このうち、最上位モデルのFXH30を試聴させてもらったが、解像度感の向上や高域の倍音のよさについてはかなり向上している。おかげで、ピアノの音が、のびのびとした演奏に感じられるようになった。それでいて高域が鋭過ぎたりすることもない。また、コンパクトなサイズのボディと合わせて、女性にもオススメしたい製品だ。



(野村ケンジ)

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