JVCの人気モデル、ウッドドームにエクスクルーシブモデルが登場

 ボディだけでなく、振動板にもウッドを採用するという唯一無二のモノ作りや、アコースティック楽器にピッタリのサウンドキャラクターが根強い人気を集めているWOODシリーズのカナル型イヤホン。この春、数年ぶりとなるフルモデルチェンジが行われ、すべてのモデルが新しい形に生まれ変わっただけでなく、そのサウンドクオリティも大幅に向上。これまで以上に注目を集める、人気モデルとなっている。

 そんなWOODシリーズに、新たなハイエンドモデル「HA-FX1100」が追加された。既存3モデル(フラッグシップモデルの「HA-FX850」、上級モデルの 「HA-FX750」、標準モデルの 「HA-FX650」)のさらに上級に位置するのが「HA-FX1100」だ。

 「実はリミテッド(限定)モデルというわけではなく、また、フラッグシップはあくまでもHA-FX850。このHA-FX1100は、エクスクルーシブモデルというポジションです」(光学&オーディオ セグメント AVC ビジネスユニット 商品企画部 シニアマネージャー 浅川健司氏)だという。デビューからわずか半年にして、エクスクルーシブモデルの登場となったのには、どのようないきさつがあったのだろう。そして、そのサウンドは!? 開発者から直接話を伺う機会に恵まれたので、製品の視聴レビューとともにお届けしよう。

新たにラインナップに加わった「HA-FX1100」。WOODシリーズでありながら現在のラインナップとは一線を画すエクスクルーシブモデル
光学&オーディオセグメント AVC ビジネスユニット
商品企画部 シニアマネージャー
浅川健司氏

WOODシリーズ既存3モデルとの違いとは?

 さて、「HA-FX1100」が標準3モデルに対してどのような違いを持ち、それがどのようなアドバンテージに繋がっているのか、まずはマテリアルからチェックしていこう。

 ベースとなっているのは、フラッグシップモデル「HA-FX850」だという。最大の特徴である11mm口径の“ウッドドームユニット”はまったく同じ。その前後の構成、ブラス(真鍮)製のリングとケースでドライバーユニットを押さえ込み、その間の前方にウッドディフューザー、後方にはウッドダンパーを配置することで制振性を向上させた“アコースティックデュアルハイブリッドダンパー”も全く変わりない。その後方のエアーアウトレットパーツがブラスリング+ウッドリングアブソーバーという素材チョイスも一緒だ。

 ウッドドームユニットならではの自然な響きによってアコースティック楽器のリアルさを求め、ブラスパーツによって金管楽器やエレキ楽器のきらびやかさを両立させる。そういったWOODシリーズらしさが際立つ根幹は変えず、様々な工夫を盛り込んでいるのが、「HA-FX1100」の特徴だという。

 外観からすぐに分かるのは、筐体の変更だ。木製であることは変わらないが、カラーがブラウンからブラックの木目仕上げに変更されている。木材の種類も「HA-FX850」と変わらないという。表面加工の違いのみなので、音質にはほとんど影響はないと思うが、よりシックで、高級感あふれるイメージに生まれ変わってくれたのは嬉しい限りだ。

基本スペックはベースとなった「HA-FX850」と変わらない。それでも細部のチューニング等は異なっている
デザイン的には筐体カラーがブラック木目仕上げへと変更。よりシックな印象となった
ドライバーユニットや筐体背面の真鍮製ハウジングに変更はない

ケーブルやハンダなどがグレードアップ、そして絶妙な最適化チューニング

 その一方で、音質に大きな影響を及ぼしていそうなのが、ケーブル素材の変更だ。もともと「HA-FX850」は、MMCXコネクタを使用した着脱式ケーブルを採用しているが、「HA-FX1100」ではこちらを6N(99.9999%)‐OFCの編組ケーブルへと変更。音質を向上させるとともに、タッチノイズも軽減させている。また、プレーヤー(やポタアンなど)と接続する3.5mmステレオミニ端子には、アルミスリーブ&アルミエンドを装着したL型プラグへと変更。微細な振動を抑制することで、音質に対する悪影響を排除しているそうだ。また、ケーブルの端子接続部とMMCXコネクタ部、ドライバーに使われていたハンダを、音響特性に優れた音響用に変更。さらなる高音質を追求しているという。このように信号伝送系の素材を吟味した上で、さらなる全体の最適化チューニングを施しているとのこと。こうして目指した音に仕上がっているわけだ。

MMCXコネクタを採用する着脱式ケーブルは「HA-FX850」と同じだ
3.5mmステレオミニ端子はアルミスリーブ&アルミエンドを装着したL型プラグを採用
着脱式のケーブルは6N-OFCの編組ケーブルへとグレードアップされている
ケーブル表面が編組となったことで格段に絡みにくくなった

人気のスパイラルドットに新サイズが登場

 もうひとつ、嬉しいトピックがある。「HA-FX1100」には“スパイラルドット”イヤーピースが採用されている。これはイヤーピース内壁にディンプルを設けることで、音質劣化の原因となる内部反射音を拡散させ、音のにごりを抑制。クリアなサウンドを実現するというもので、このイヤーピース自体が音質向上に多大な貢献を果たしていると、単体製品が交換用イヤーピース(というよりも音質向上のためのチューニングアイテム)として大いに人気を博しているが、これまでS、M、Lの3サイズだったラインナップに、MS、MLが加わり、5サイズに変更。今まで以上にピッタリとフィットさせることが可能となった。ちなみに、「HA-FX1100」には“スパイラルドットイヤーピース”5サイズのほか、低反発タイプの2サイズ(SとM)も付属している。これだけ充実したイヤーピースが同梱されていれば、ほとんどの人が満足する装着感を獲得できるだろう。

イヤーピースは好評のスパイラルドットと低反発タイプが付属。スパイラルドットはS、MS、M、ML、Lの5サイズとなった
イヤーピース内壁に複数のディンプルを設けて、反射音を拡散させて音質低下を低減する画期的な構造を採用する
スパイラルドットイヤーピースは単体で発売されている

圧倒的な音の厚みと音色のリアルさを両立

黙々と試聴を続ける筆者

 さて、肝心のサウンドはいかがなものだろうか。同じく今年デビューのJVC製ポタアン「AU-SX7」と「HA-FX1100」を組み合わせて試聴を行った(プレーヤーは光デジタルで接続したAK120を使用)。

 一聴して驚いた。メリハリがとてつもなくダイナミックで、演奏がとても躍動的。それでいて、音色的な変調は皆無で、現実と見まごうばかりにリアルなサウンドを聴かせてくれる。解像度は相当に高く、ウッド振動板の採用や各素材の良さが空間的な広がり感の良好さに貢献。ウッドドームならではの柔らかできめ細やかな抑揚表現が感じられつつ、音数の多さ、音の厚みがまるで別物。そのおかげで音楽を趣味的に楽しめるし、同時にモニターライクな使い方もできる。

 特に良好なのが、女性ヴォーカルの表現だ。歌の細やかなニュアンスまで漏らさず再現してくれるため、声がとても力強く、そして、しなやか。伸びやかで朗々とした、印象的な歌声を聴かせてくれる。大人っぽいヴォーカルはよりエレガントに、可愛らしいヴォーカルはより可愛らしく聴こえるところもいい。しかも、まるで目の前で歌ってくれているかのような、距離の近さを感じる。大好きなヴォーカリストに、この距離で、こんなにも魅力的な歌声を聴かせてくれるなんて。いやはや、これは参った。思わず試聴だということを忘れ、4時間近くも様々な曲を聴き込んでしまった。

 取り繕うようで恥ずかしいが、客観的なことも言わせてもらえれば、音数がかなり多いのにもかかわらず、低域のフォーカス感が高いことも「HA-FX1100」ならではの魅力だ。ジャズやロックはグルーブ感の高い演奏が楽しめるし、ウッドドームのコンセプトと正反対の位置にあるJポップも、キレのよいままで幾分聴き心地が向上したサウンドが楽しめる。温度感の高い、厚みのある、それでいて心地よいサウンドでありながら、同時によりノンジャンル傾向が強まってくれたのはありがたい限りだ。

JVC製カナル型イヤホンを代表する“エクスクルーシブモデル”

 ここからは、開発に携わった人々に話を伺い、一体どのような経緯で「HA-FX1100」がデビューすることになったのかを聞いてみた。確かに「HA-FX1100」のサウンドは素晴らしい。誰が聴いてもWOODシリーズで最高の音質だと太鼓判を押すだろうし、デビューしてくれたこと自体は大いに歓迎したい。しかしながら、WOODシリーズにはフラッグシップ「HA-FX850」が存在している。それなのに「HA-FX850」のリミテッドエディションでもなく、かといって(登場があまりにも早すぎる)後継モデルというわけでもない。あくまでも“エクスクルーシブモデル”という位置づけであって、かつアンリミテッドな存在なのだ。

「後継モデルの開発というわけではないですが、春に3モデルをデビューさせて以降も、引き続き音質向上のための研究は続けていました。他製品も含め、ケーブルやハンダの素材など、様々な部分でのトライを行っていましたが、そうしているうちに“これは!”というサウンドができあがりました。試しに社内の人間に聴かせてみたところ、これは製品化したいね、という話になったのがきっかけです。」(光学&オーディオ セグメント AVC ビジネスユニット 第一技術部 第一設計グループ チーフ 内田裕氏)

「一方で、ラインナップが分かりづらくなる、という意見も上がりました。エクスクルーシブモデルと銘打っているとはいえ、フラッグシップよりも高価な製品が登場するのですから、ユーザーとしては“どちらが一番上なの?”と聞きたくなると思います。しかしながら、我々としてはWOODシリーズのフラッグシップはあくまでも「HA-FX850」であり、「HA-FX1100」はJVC製カナル型イヤホンを代表する“スペシャル”な位置づけにさせていただいております」 (光学&オーディオ セグメント AVC ビジネスユニット 第二技術部 開発グループ グループ長 伊藤誠氏)

 確かに、JVC製カナル型イヤホンを代表するスペシャルなモデル、というポジションは頷ける。最高の製品を最良の素材で仕上げようと考えた場合、JVCとしてWOODシリーズは外せない存在だろう。実際に「HA-FX1100」のサウンドは最高峰であり、同時に全シリーズのなかでも最高のサウンドクオリティを持ち合わせる、まさにスペシャルな存在であるといえる。そういった意味も含めて、この「HA-FX1100」が魅力あふれる製品であることは確かだ。

光学&オーディオセグメント AVCビジネスユニット
第一技術部 第一設計グループ チーフ
内田裕氏
光学&オーディオセグメント AVCビジネスユニット
第二技術部 開発グループ グループ長
伊藤誠氏

個人的にはイヤーモデル展開に期待

 最後に、ちょっとした希望を述べたい。もし可能だったら、この「HA-FX1100」を“2014エディション”とし、来年も新たなエクスクルーシブモデルを作り上げて欲しいと思っている。というのも、クオリティ面では確かに現時点で最高の製品であることに異論はないが、来年になれば事態が変わってくるかもしれない。その一方で、音色傾向、特にユーザーの好みという見地から考えれば、最高が最良とはいえないこともある。2015年エディションの方が音は良いけど、僕は2014年エディションの方が好き、などといった楽しみが広がってくれるかもしれないからだ。最良をとことん追求し続ける、オーディオメーカーとしての発表の場を用意する、というコンセプトも含め、エクスクルーシブモデルのさらなる発展を望みたい。

(野村ケンジ)


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