東芝ブランドで発売される初のカナル型インナーイヤーヘッドホン

 東芝といえば、パソコンやタブレットなどのデジタルツールや、テレビやHDDレコーダーなどのAV家電のイメージが強く、オーディオ製品、といわれてもあまりピンとこない人が多いかもしれない。しかしながら、PCにharman/kardonスピーカーが搭載されていたり、液晶テレビ「CELL REGZA」ではクオリティにとことんこだわったスピーカーを採用したり、ブルーレイディスクレコーダー「RD-X10」では高級オーディオ機器並みのアナログ音声出力を用意するなど、製品の中には共通して“音”に対するこだわりが垣間見られる。

 それもそのはず、東芝は以前に「Aurex」という音響ブランドを持っていて、本格派のホームオーディオからラジカセまで、幅広いオーディオ製品をラインアップしていたのだ。なかでも、テープレコーダーに関しては業務用のオープンリール、コンシューマー向けの一体型カセットレコーダーともに高い評価を得ており、70年代当時、高級オーディオ黄金時代の黎明期を支える重要なブランドのひとつとなっていた。

 今は高級オーディオ製品の展開は行っていない東芝だが、製品に音質面でのこだわりを反映したり、CDラジカセやBluetoothスピーカーをラインアップするなど、当時を知るエンジニアが変わらず在籍し続けていることも含め、「Aurex」の系譜はしっかりと受け継がれている。そんな東芝から、新たにカナル型インナーイヤーヘッドホン「RZE-S70」「RZE-S60」が登場した。

デュアル・ドライバーの「RZE-S70」、シングルドライバーの「RZE-S60」の2機種がラインアップ。いずれもクリアな「澄みきり音」を再現する

デュアル・ドライバーの「RZE-S70」、シングルドライバーの「RZE-S60」の2機種がラインアップ。いずれもクリアな「澄みきり音」を再現する

 東芝エルイートレーディング扱いとなるこちらの製品、実は“東芝ブランド”としては初めて手がけるカナル型となっている。何を隠そう、1975年にはコンデンサヘッドホンを開発、その後もポータブルカセットプレーヤーやラジオに付属するヘッドホンは手がけ続けたものの、意外なことに単体販売されるカナル型インナーイヤーヘッドホンはこれが初めてだという。それだけに、「Aurex」時代を知る人にも、知らない人にも、強いインパクトを与える存在だ。

2年の歳月を経て仕上がったサウンド

 実はこの製品、発売までに3年の開発期間があったという。

 今回の取材では、開発に携わった商品企画の中野一男氏、技術の乙黒英雄氏に話を聴く機会に恵まれたのだが、実は3年前から開発は進められていたようだ。

商品企画を担当した中野一男氏。“音響メーカー”東芝を支えるひとり

商品企画を担当した中野一男氏。“音響メーカー”東芝を支えるひとり

開発を担当した乙黒英雄氏はAurex製品の開発にも携わってきたエンジニア

開発を担当した乙黒英雄氏はAurex製品の開発にも携わってきたエンジニア

「この製品、実は2年前にデビューする予定で開発がスタートしたんです。けれども、諸事情により発売が保留になっていました。そして今回、ついに発売が決まるにあたり、当初の製品をベースにしつつも、最新トレンドや新素材をいくつも盛り込みました。より理想的な製品が仕上がった、という意味では、待った2年間は決して無駄になりませんでした」(中野氏)

「RZE-S70」「RZE-S60」の2モデルがラインアップする今回の東芝製カナル型インナーイヤーヘッドホンだが、全く同じ筐体デザインを持ちながらも、その内部は多少異なっている。「RZE-S70」のほうは13.6mm口径と5.8mm口径のダイナミック型ドライバーを搭載する、いわゆるデュアル・ドライバー方式を採用するが、一方の「RZE-S60」は、13.6mm口径のみのシングルドライバー構成となっている。

「開発が進められていたのはデュアル・ドライバーの「RZE-S70」のみだったんです。しかしながら、1モデルだけではユーザーを絞りすぎてしまうだろう、という意見が出て、バリエーションモデルとして「RZE-S60」を追加しました。とはいえ、それぞれに完成されたサウンドキャラクターを持ち合わせるべく、同じ筐体、同じ13.5mm口径のドライバーを使用しながらも、モデルごとにフォローする帯域を変化させつつ、それぞれにベストなサウンドを作り上げています」(乙黒氏)

RZE-S70は、デュアル・ドライバー方式とデュアル・セパレートチャンバー方式を採用。豊かな重低音から高音まで、つながりの良い「澄みきり音」を実現した

RZE-S70は、デュアル・ドライバー方式とデュアル・セパレートチャンバー方式を採用。豊かな重低音から高音まで、つながりの良い「澄みきり音」を実現した

RZE-S60はフルレンジドライバーを1基搭載。重低音がよく響き、低域から高域まで歪みの少ない「澄みきり音」を再生する

RZE-S60はフルレンジドライバーを1基搭載。重低音がよく響き、低域から高域まで歪みの少ない「澄みきり音」を再生する

 乙黒氏は当時の「Aurex」ブランドを知る、その開発に携わっていた人物。当然ながら、「RZE-S70」「RZE-S60」には「Aurex」時代に培ったノウハウが色濃く投影されているという。

「人気を集めているカナル型インナーイヤーヘッドホンをいくつも試聴しまして、それぞれに素晴らしいと思う反面、サウンドキャラクターやコストパフォーマンスの面で不満を抱く製品もありました。もっとこうできるのでは、もっとこうするべきだ、という自分なりの想いを盛り込んだのがこの2製品です。2年間という予期せぬ時間が与えられたこともあって、満足のいくサウンドに仕上がりました」(乙黒氏)

「音質」を最優先にした特異な形状

「RZE-S70」「RZE-S60」は、とにかく「音質」を最優先して作り上げられた製品だ。

「ノズルの部分がかなり太くなっていて、女性など一部の人からは装着しにくいという話も上がっているようですが、それも音質のためです。

 低域ドライバーと高域ドライバーのチャンバー(空気室)をセパレートしたうえ、ノズルの出口まで完全に分けているんです。この構造を採用することで、濁りやにじみのないピュアなサウンドを実現しました。

 チャンバー形状も音質最優先のカタチとなっています。こちらは、先に内部構造を決めてから筐体デザインを行いました。インナーイヤーヘッドホンという製品はデザインも重要なアイテムですので、先にデザインありきという製品も多いようですが、東芝としてはあくまでも音質にこだわりたかったので、そこはサウンドクォリティ優先にさせていただいて(笑)。 そのため、デザイナーは大変苦労したようですが、結果として上手くまとめ上げてくれたと思います。

 装着が難しいのでは話にならないでしょうから、同時に付属するイヤーチップのサイズに工夫を凝らし、大柄な男性から小柄な女性まで、幅広い層に対応できるようにしています。」(乙黒氏)

デュアル・ドライバーのチャンバーまで完全にセパレートしたデュアルチャンバー構造

デュアル・ドライバーのチャンバーまで完全にセパレートしたデュアルチャンバー構造

ハウジングが途中でくびれた形状は、音質を最優先にしてデザインされたもの

ハウジングが途中でくびれた形状は、音質を最優先にしてデザインされたもの

ノズル部分はかなり太め

ノズル部分はかなり太め

 一方で、ユーザビリティに関してもかなり配慮したという。

「先のイヤーチップについての工夫もそうですが、それに加えてY型のファブリックケーブルを採用したり、LRの見分けが付きやすく、それでいてデザイン性を損なうことがないよう蒸着プリントを採用したり、使い勝手の面でも様々な配慮を盛り込みました。

 また、カラーバリエーションについてもそれぞれ2色ずつ用意しました。「RZE-S70」のゴールドは、最初やめようかと考えていたのですが、サンプルをいろいろな人に見せていたときあまりに人気が高くて(笑)。思い切ってラインアップすることにしました。おかげさまで、こちらも好評をいただいています」(中野氏)

イヤーチップは3サイズが付属する

イヤーチップは3サイズが付属する

ケーブルの外皮にファブリックを採用することで絡みにくさを実現したY型ケーブル

ケーブルの外皮にファブリックを採用することで絡みにくさを実現したY型ケーブル

プラグは細めのストレート型で、ポータブルオーディオプレイヤーでも使いやすい

プラグは細めのストレート型で、ポータブルオーディオプレイヤーでも使いやすい

音質を聴く~RZE-S70とS60、それぞれ異なる個性的サウンド

 さて、ここからは実際のサウンドについてレビューしよう。

 と、その前に、「RZE-S70」「RZE-S60」それぞれの特徴を簡単に整理しておこう。

 上位モデル「RZE-S70」は、13.6mm口径と5.8mm口径、2つのダイナミック型ドライバーを搭載するカナル型インナーイヤーヘッドホン。振動板素材などを徹底的に吟味したことに加え、チャンバーをそれぞれに独立化。ノズル先端まで完全なセパレート構造を採用することにより、ピュアで歪みの少ないサウンドを実現している。カラーバリエーションはゴールドとシルバーの2色がラインアップされている。

 そして「RZE-S60」は、「RZE-S70」と同じ筐体デザインを採用しつつ、ドライバーを13.6mm口径のみの1基へと変更。コストパフォーマンスを高めたモデルだ。カラーバリエーションはブラックとレッド。ちなみに、「RZE-S70」「RZE-S60」どちらにもY型ファブリックケーブルが採用されている。

 まずは「RZE-S70」から。装着感はなかなかしっかりしている。ノズルが太いのは確かだが、普段Mサイズのイヤーチップを使っている筆者だとちょうどピッタリ、もしくはややきつめといったイメージだ。

ノズル部分は太めながら、かえって装着感は良好

ノズル部分は太めながら、かえって装着感は良好

 サウンドについては、いい意味でとても個性的。高域は、イマドキの流行りである尖ったキャラクターは一切なく、自然で心地よい響き。それでいてしっかりと倍音成分が伸びているので、ピアノの音はかなり伸びやかに感じる。それに組み合わせられる低音は、かなりの量感を持ちながらも、変な共鳴共振を感じない、素性の良い音。中域のヌケを妨げないため、女性ヴォーカルも活き活きとした、印象的な歌声を聴かせてくれる。

 なかでも、とても良い相性を見せてくれたのがチェロの音だ。溝口肇を聴くと、ボーイングの細やかなタッチまでしっかりと伝わってくる、それでいて胴鳴りが美しい、響きの良い演奏を聴かせてくれるのだ。小編成の弦楽器やアコースティック演奏などとは、かなり相性がよさそう。ライブ演奏も悪くない。やや低域が強調されたバランスだが、屋外の、騒音レベルの高い電車内などでは、このくらいのバランスの方がベストとなる。

 総じていえば、低域、高域ともに解像感が高く、それでいて嫌なピークや強調感のない、自然な音色といった印象。長時間ずっと聴き続けていられそうな良質さとともに、コストパフォーマンスの高さに感心させられる。

 一方の「RZE-S60」は、「RZE-S70」に対して基本的なサウンドキャラクターは変わらないものの、やや低域ボリュームと音数が絞られたイメージ。そのぶん、帯域バランスとしては一段と自然な印象になる。特にライブ音源などでは、整いの良い演奏を聴かせてくれるようになる。ドラムなど打楽器系は、こちらのほうが印象的な演奏に感じられる場合がある。ヴォーカルも、リアリティこそ弱まるものの、聴きやすさはなかなかのもの。より俯瞰して音楽全体を眺めたい、という人はかえってこちらの方が好みかもしれない。

 このように「RZE-S70」「RZE-S60」は、「Aurex」で培った音響技術を活かし、とても自然な音色感の、まさに“ジャパンメーカー製”ならではの緻密で丁寧なサウンドに仕上がっている。さらにいえば、コストパフォーマンスの高さも嬉しい。2モデルとも、なかなかに魅力的な製品といえるだろう。

 (野村ケンジ)

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□RZE-S60製品情報 https://tlet.co.jp/personal/discontinued_product_list/pro_headphone/rze_s60/

 

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