手が届きやすい高画質、それがCX800

プラズマパネルから液晶パネルに全面切り替えを実施するにあたり、パナソニックは昨年来、“プラズマで得られた画質体験”を、液晶パネルの特徴を活かしながらも商品に盛り込めるよう、さまざまな技術を投入してきた。

昨春はAX800シリーズに導入したヘキサクロマドライブで、液晶が不得手な暗部色再現の大幅改善を実現。さらに昨年末には多分割部分駆動のLEDバックライトを用いたハイエンドモデルのAX900シリーズを投入。ヘキサクロマドライブの長所をさらに際立たせることに成功した。

パナソニックはハリウッドの映画コミュニティの中に研究所を構え、長年、得てきた“映像作品を楽しむための絵作り”を実現させる技術を、かつてはプラズマパネルと映像処理回路の自社開発で実現させてきた。その絵作りの長所を活かしながら、液晶の特徴も活かそうとしてきたのが過去1年だった。

そして今年、AXシリーズからCXシリーズへと進化するにあたり、中上位モデルに相当するCX800に、AX900に投入した直下型LEDバックライトの部分駆動を盛り込んできた。(49型は除く)しかも本年末には供給が始まる「HDR(ハイダイナミックレンジ」コンテンツにも対応するという。

さらには今年秋に始まるNETFLIX日本版への対応、ひかりTV 4K、4Kアクトビラへの対応といった、あらたな映像配信サービスへの対応もアナウンス。さらにはユーザーインターフェイスの改善で、ネットコンテンツを使いやすくする工夫も行われていた。

中上位モデルにも上位モデルに迫る画質が

AX900の長所を引き継ぐ高画質

パナソニックは、広い視野角で家族全員がどんな位置からでも安定した映像が楽しめるよう、IPS型液晶にこだわって液晶テレビを開発してきた。しかし、IPS型液晶には視野角が広いほか、応答速度の安定性などいくつかの利点があるものの、もう一方の主流であるVA型液晶に比べ、コントラストが低いという基本的な弱点もある。改善は進んでいるが、それでもVA型を越えることはない。

近年、VA型を採用するメーカーが増えているのは、生産する液晶パネルメーカーが多いことも理由だが、VA型の方が見栄えの良い映像を作りやすいということもあるだろう。しかし大画面化、4K化といったトレンドを捉えると、テレビを実際に観る際の画角(視野に対する画面幅の割合)は大きくなる方向だ。画角が拡がれば視野角の安定性という長所は、さらに重視されるべきだ。

昨年末、筆者がパナソニックの最上位モデルAX900を高く評価したのは、IPS液晶を使うというポリシーをそのままに、細かく分割した直下型LEDバックライトを積極的に部分駆動することでIPS液晶のネガティブな要素を上手に隠蔽してた点にあった。

部分駆動はコントラスト感を高める効果ももちろんあるが、暗部のバックライトを絞り込むことで漏れ光を抑制し、発色が安定する効果もあるためだ。これはどんな部分駆動を採用する液晶テレビにも存在する利点だが、ヘキサクロマドライブと組み合わせることにより、業務用マスターモニターに近い暗所画質をも実現してみせたのだ。

映像を作る基準となるOLEDパネル採用の業務用マスターモニターと比較しながら、シネマプロの画質をデモしたときには、本当に感心したものだ。完全に一致するとまではいわないが、見比べて違和感のない絵にまで追い込んでいる。

CX800でも、そうしたAX900の開発で得たノウハウが存分に活かされている。いやAX900で得たノウハウや、その映像に対する意見を踏まえた上で、さらに改善を施してきているのだ。技術は積み重ねることで熟成する。絵作りも同じで、AX900に対して黒側を引き締めた上で、暗部階調の見通しも良い仕上げとなった。

比較対象をAX900としているのは、CX800がAX800の後継となる中上位モデルであるにもかかわらず、直下型LEDバックライトの部分駆動を行っているためだ。昨年の中上位モデルだったAX800シリーズはエッジライト(パネルの端にバックライトを並べる手法)の部分駆動で、分割数が圧倒的に少なかった。ところが、エッジライトの製品が並ぶこの価格クラスに、パナソニックはAX900でも採用される直下型を採用したのだ。(49型は除く)

実際の分割数はAX900よりも少なくなるが、AX800に対しては分割数が増えた上、バックライト制御や絵作りの進化によって、最上位モデルに迫る品位の高さを実現した。AX900を見せた時と同じように、シネマプロでOLEDパネル採用マスターモニターと比較しながら暗所画質を見せてくれたが、類似する色、明暗のトーンで、“映像作品”として作られたプレミアム映像を見事に再現してくれる。

とりわけ感心したのが「インサイド・ルーウィン・デイヴィス 名もなき男の歌」でのワンシーン。ニューヨーク、場末の酒場はモノトーンに近く、暗く色彩のない中で、主人公の置かれている状況を表現している。VA型を含むミドルクラスの液晶テレビは、このシーンで充分な情報量、色の描き分けを行えない。IPS型の液晶パネルならなおさらで、AX800も例外ではないが、CX800ではスモーキーな場の雰囲気をきちんと伝えてくれる。

パナソニックによると、システムとしてトータルの表現力は1.6倍に向上したとのことだが、上記コンテンツのような暗いシーンが多い映画では、体感的にもっと大きな改善があるように感じる。

IPS型パネルの安定した視野角を保ちながら、各社最上位モデルに迫るのだ。もちろん、分割数の違いから、AX900に比べてバックライト部分駆動の弊害も見えやすい面はあるものの、価格差を考えれば考えも変わるのではないだろうか。CX800はプライスに対する画質パフォーマンスで大きく進歩した製品だ。

最新技術HDRにいち早く対応

上記は従来のコンテンツに関する画質面の進化だが、実はもうひとつ画質面で大きなトピックと言えるのが、HDR技術への対応だ。昨年までのモデルでも、放送やブルーレイなどの映像をコントラスト拡張し、主にきらりと輝く明るい部分をキレイに見せる技術が導入されていたが、ここでいうHDR(ハイダイナミックレンジ)技術はそれらとは異なる(スチルカメラやスマートフォン用カメラのHDRとも違うので気をつけて欲しい)。

デジタルシネマカメラが捉えている、あるいはネガフィルムの中に収まっている、広いダイナミックレンジを、可能な限りそのままデジタル情報として映像データの中に納めておき、それを表示する際、ディスプレイの能力(明暗の輝度差)に合わせて表現しようというのが、映像機器分野で話題になっているHDR技術だ。

とても期待しているHDR技術

すでに本企画でも何度かレポートしているため、詳細はそれらの記事に譲りたいが、HDRに対応するコンテンツは主にハリウッド映画産業で準備が進んでおり、BBCやNHKといったテレビ局も導入に向けた議論を深めている。また、先日正式な仕様が決定したUHD Blu-ray Disc(いわゆる4Kブルーレイ)にもHDR技術が盛り込まれており、HDR対応コンテンツの発売が見込まれている(なお、HDR対応のブルーレイディスクは通常ダイナミックレンジのテレビでも再生可能な措置が施されている)。また放送でも4K放送が次のフェイズに移行する際(たとえば来年のBS放送への拡張時など)には、HDR対応が検討されている。

HDR技術には、言葉で表現するとなにやら難しく、あまり効果がないように思えるのだが、実際にはフルHDが4Kになるのと同じぐらい、あるいはそれ以上に“パッと見て”高画質に感じさせる解りやすさがある。映画会社や放送局がHDRに強く関心を持っているのは、その“解りやすさ”ゆえとも言える。

今、4Kテレビを買うのであれば、HDRへの対応は必須とも言える要件だと思うぐらい、その効果は高い。そこでCX800は、ファームウェアのアップデートという形でHDRに対応する。年内とみられる4Kブルーレイ関連機器発売されるタイミングまでには、アップデート用ファームウェアがリリースされる見込みだ。

実際に現状のファームウェアを用いてデモを見せていただいたが、直下型LEDバックライトの部分駆動を採用していることもあり、HDRの特徴をよく引き出した映像を見せていた。リリースまでには、さらに磨き込まれることだろう。

こういうところが、HDRだと表現力が向上する

よりシンプル、実用性が増したネットワーク対応

このようにテレビとしての基礎である画質を磨き込み、最新の映像規格への対応も盛り込まれたCX800だが、付加機能の充実も見逃せない点だ。中でも“スマート機能”と呼ばれるネットコンテンツとの連動機能は、よりシンプルで解りやすいユーザーインターフェイスとなっている。

新モデルでは昨年までのマイホームという画面を廃し、「かんたんホーム」という新しいユーザーインターフェイスになった。これはシンプルなアイコンをベースとしたもので、スマートフォンのインターフェイスとも近く、自分にとって必要な機能だけを並べて呼び出せるように工夫されている。

「マイホーム」から「かんたんホーム」へ進化

また放送番組、録画番組、投稿型ネット動画、映像配信サービスなどを解りやすく分類して表示するようになった。画面の四辺に機能を割り当てる新インフォメーションバーもわかりやすく操作しやすい。必要な情報だけを、必要な時だけ呼び出す形なので、映像が小さく見にくくなるなどの弊害も減った。

ユーザーインターフェイスの違いは、ぜひとも店頭で触れてみて欲しい。Firefox OSという基本ソフトを採用したことを報道されがちだが、そこは本質ではない。一番の違いはユーザー体験の部分。ユーザーインターフェイス構築そのものが見直されている。

また今年夏モデルの例に漏れず、本機は三つの4K映像配信サービスに対応しているのも前述した通りだ。NETFLIXは現時点でサービスを開始していないが、この秋にはスタートすることが決まっている。それまでにはアップデートが行われるという。

NETFLIXは北米で独自コンテンツを含む多くの4K映像作品を配信しているが、今年はさらにHDR対応映像の配信を行うことも発表している。日本向けサービスでも、同様のコンテンツが提供されるとみられている。

コストパフォーマンスが大幅向上した“手の届く”高画質

さて紹介は最後になったが、テレビ内蔵スピーカーの音質が大きく改善されていたことも報告しておきたい。ダイナミックサウンド・プロと名付けられたシステムは、低域側に再生帯域が拡げられており、高域側の情報も充分に引き出せていた。音楽鑑賞向けとは言わないが、充分に違和感のない音を出してくれる。アナウンサーの声や俳優のセリフといった、人の声も聴き取りやすい。

しかし、なんといっても注目は画質とHDR対応だろう。とりわけ画質に関しては、バックライトシステムを贅沢に奢ったこともあり、長足の進化を遂げている。

ビエラシリーズの中では、AX900が変わらず最上位として高い画質を誇っているが、そこまで手が出ないが、CX800は“あの画質は捨てがたい”と悩んでいる方に対する模範解答になっている。

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