【バックナンバーインデックス】


“Zooma!:ズームレンズ、ズームすること、ズームする人、ズズーンの造語”

第1回:展開次第では大化けするかも!!

世界初の3倍モードDVカメラ「FV20」を検証する


キヤノンの新型“撮レビアン”

 DVカメラをリリースしているメーカーは数多いが、その中でもキヤノンというメーカーはわりと異色の存在。というのもDVカメラの世界で競合他社はほとんど家電メーカーであるため、「VTR部は自前だけどレンズは外注」といったスタイルが多い。レンズのような光学モノはその製造に関してものすごくノウハウがあり、工場さえ作れば家電メーカーでも手を出せるようなものではない。こんなわけで最近のビデオカメラ業界は「いかに有名レンズメーカーと組むか」みたいなところをセールスポイントにする動きが目立っている。

 しかしキヤノンは元々カメラメーカーであるから、当然レンズは自前のものを搭載している。というより、キヤノンのレンズを使うからキヤノンのカメラを買う、という至極当たり前のことができる数少ない会社なのである。ということは逆に一歩突っ込むと、なんとなく「光学系は良さそうだけどデッキ部はワリとアレなのかも」みたいな印象を持たれがち。

 ところが、キヤノンが2月8日に発表した「FV20」(3月中旬発売、160,000円)というモデルは、DVカメラでは世界初の3倍モードを搭載した。3倍モードといえばテープの速度を遅くしなければ3倍も撮れないのだから、当然デッキ部分にそれ相当のサーボ技術を投入しなければ実現できない。「それの一番乗りがキヤノンですか? 本当ですか?」ということでちょっと驚いてたりする。

 なお、詳細な仕様については、PC Watchの記事をご覧いただきたい。


外観は至って平和な感じ

 FV20は、そんな機能とは裏腹に、外観は至って平和な感じである。というのもFV20はあくまでも「撮レビアン」シリーズであり、ターゲットとしては普通のお父さんやお母さんが子供の参観日や運動会を撮るみたいなところにあるからだ。したがってその形状もビデオカメラの普及モデルに多いオーソドックスな横型で、直系としての前モデルであるFV10とスタイル的にはほとんどかわらない。しかしそのなかでも外観で特徴的なのは、3色に光るイルミネーションキーだ。

 機能としてこういうのを採用するのは、難しい選択であったろうと思われる。筆者も初めにそれを聞いたときには「うーむ。そういうのはどーでしょう」みたいないまいち感漂う感想を持った。

 しかし実物の綺麗なボタンを見せられたら誰でも「ここ光ったらいいのに」みたいな感想を持つに決まっている。しかし光ったら光ったで「なんでこんなとこ光らしてんのよ」みたいな批判もまた出てくるのは必定だったり。もうそのジレンマで開発責任者は夜中に「ぐはっ!胃がっ!胃がっ!」みたいな事がくりひろげられちゃったりしているかもしれない。筆者は、このあたりの家電としての決断は暖かく見守っていきたい。


3倍モードとは

 さて話題の3倍モードだが、これはキヤノンの独自フォーマットではなく、ちゃんとDVフォーマットとして認められた規格だ。したがってこの新モードには他社も追従してくるであろうことは容易に想像できる。しかしなんといっても一番乗りを果たしたという点で、その意気込みはいかにもカメラ専門メーカーとして「負けまへんで」といったところ。同様に前期のモデルIXY DVは発売当時の世界最小最軽量であったし、「もしかしてキヤノンさんって負けず嫌いなんですかそうでしょうそうですね?」といった感じが伝わってくる。

録画モード
従来モードEモード
SP等倍ESP(1×2)=2倍
LP1.5倍ELP(1.5×2)=3倍
 いきなり3倍モードというとVHSの3倍モードみたいに「いきなり標準の次はそこですか」みたいな勘違いされがち。しかし、実際には従来の撮影モードに対して2倍の撮影ができる新モード(便宜上Eモードと呼ぶことにする)が付いたということだ。つまり従来のSPモードの2倍であるESPモードが2倍撮影可能、従来のLPモードの2倍であるELPモードが結果として3倍撮影可能、と言うわけである。このあたり文章で書いていると難しいので、右表を参照して貰いたい。

 従来のLPモードは、書き込みトラックを細くすることで画質を変えずに1.5倍撮れる、非常にお得なモードであった。今回のEモードではさらに画像を圧縮することでテープスピードが半分になったロスを稼いでいる。したがって画質の面では、当然劣化が起こることになる。このあたりの技術的な資料はまだ一般公開される段階ではないと踏んでいるのか、なかなか見せて貰えないのだが(民生規格っていつもそうだけど)、まあ普及する前に細かいことを突っ込まれたくない、という気持ちはわからなくもない。


3倍モードの実力

 じゃあ実際にどんな感じになるかで判断しましょうそうしましょう!。ということで、テスト撮影してみた。今回の比較では、同じ被写体をSP、ESP、ELPモードで撮影している。LPモードはSPモードと変わらないので、省略した。

 正直言って撮影中の液晶モニター表示上では、録画モードを変えてもほとんど違いがわからない。「3倍モードもしかして恐るべしなの?」という期待に胸をふくらませつつ、撮影結果をパソコンにキャプチャしようとしてビックリ。新しく追加されたESPとELP両モードで撮影されたシーンは、従来のIEEE 1394(いわゆるi.LINK)を利用したキャプチャができないのだ! Eモードで撮影した部分は、映像がまったく流れてこないのである。

 手持ちのキャプチャボード、カノープスのDVRex-RTとDV Raptorで確認したが、どちらもEモードで撮影したものはキャプチャできなかった。たまたまこちらにはカノープスのボードしかなかったので比較できないが、おそらく圧縮されたデータがそのまま流れてくるため、パソコン側のコーデックが「そんな信号知らない」と反応してくれないのではないだろうか。

 このEモードに対応するのは果たしてキャプチャ側なのかカメラ側なのか、はたまた全く対応しないのか、これはパソコンでビデオ編集が趣味な人には大きな問題である。これは是非とも誰かエライ人に何とかしていただきたい、と強く希望するのであった。

 ということで、今回の画像サンプルは、DVRex-RTのS-Video入力を経由してキャプチャした。

 さてファイルをご覧になっておわかりのように、新しいEモードは従来のSPモードに比較して、若干色味が浅くなる傾向がある。輪郭もちょっとぼやける感じだ。さらに細かいことを言い出せば、キメ細かなディテールも潰れ気味とか、微妙なグラデーションでは圧縮による境目が見分けられたり、といったところもある。しかしこれはわざわざSPモードと撮影比較し、静止画として並べたからこのような違いがわかったわけで、最初からEモードで撮って動画の状態で見ていたら、画質が落ちていることはほとんど気が付かないであろう。「んーまあこんなもんか」で済むレベルと言える。

 その一方で、ESPとELPではその差はいっこうに見分けられなかった。これはすなわちEモード中のSPとLPでは、圧縮アルゴリズム自体は同じであると予想される。そうなってくると1.5倍のLPモードに比べて2倍のESPモードには、あまり魅力を感じなくなってくる。やっぱり画質を多少落としても断然お得感があるのはELPモードだ。


外部入力のヒミツ

 さてここまでわかったら、次はEモードでIEEE 1394入力した映像が録画できるのか知りたいところだ。さっそく実験してみた。

 結果として、新モードであるESP、ELPモードではやっぱりIEEE 1394経由では録画できない。ESPに設定していると録画した瞬間SPモードに、ELPモードに設定していると録画した瞬間にLPモードになってしまうのだ。さすがこのあたりでトラブルが起こらないようによく考えてあるのだが、ちょっといやな結果。

 ではせめてアナログ入力はどうか、これも実験してみた。その結果、アナログ入力ではESP、ELPともに録画可能であった。というわけで、一応3倍録れるアナログのデッキとしては「画質最高!」みたいな、なんだかわけのわかんないところに位置している感じだ。

 ここでカメラとしてのFV20に話を戻すと、カメラの出来は至って良好であり普通であり快適である。レンズもこの径にしては明るいのは、さすがキヤノン。とりあえずオートモードにしておけば、そのままガンガン撮っていってもまず大きな失敗はない。DVカメラの性能はもう完全に安定時期に入っており、新モデルであれば激しくハズレなところは見あたらないものだ。

 確かに撮影は快適なのだが、DVの据え置き型デッキなんてーものが一般化していない現状では、ビデオカメラは撮影+再生で1セットと見なければならない。FV20の再生のほうは、デッキ部分のレスポンスが若干もたつき気味、という感じがした。再生から巻き戻しサーチ、なんていうアクションは一番使用頻度が高いと思うのだが、このサーチボタンを押してから実際にテープが反対に動くまでに3秒ほどの間がある。この数値は、レスポンスの良いカメラに比べれば2倍から3倍遅いと思った方がいいだろう。これは以前のモデルIXY DVの時もそんな感じだったので、もしかしたらメカ部分は同じなのかも。なんかテープローディングの音が同じだし。


展開次第では大化けするかも

 それでもこのEモード、DVの据え置き型デッキにも普及するとものすごく楽しいことになる、と思えるのだ。今まで据え置き型のDVデッキは、VHSとのダブルデッキみたいなところで採用されているぐらいで、今ひとつ本格的に普及していないわけだが、このお得な3倍モードがあればテレビ録画に使うのにテープがちっちゃくていい感じ。

 市販されているminiDVのテープは、60分から80分のものに徐々に変わりつつあるから、3倍モードならテープ1本で4時間記録できる。それになんといっても難しい設定がなく(モード変えるだけ)、かつ画質もそれほど悪くない。「もうすぐ家庭でもDVD Video作れるようになり、そしたらそっちに行く」、と思っている人もいるかもしれないが、MPEGエンコーダのパラメータ設定の煩雑さを考えれば、今すぐ家電で実現できる大量録画メディアとして、このEモードは悪くない。

 というよりも、どうしてもっと早くできなかったのか、という感じである。もちろんこれに加えて本体サイズも小さいとか薄いとか、ぐぐっと来る付加価値を乗っければ、これは案外凄いことになるかもしれないと、激しく期待するのである。


□キヤノンのホームページ
http://www.canon.co.jp/
□製品情報
http://www.canon-sales.co.jp/dv/product/fv20.html
□関連記事
【2月8日】キヤノン、最長4時間撮影できる3倍録画機能搭載のDVカメラ (PC Watch)
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/article/20010208/canon.htm

(2001年3月7日)


= 小寺信良 =  無類のハードウエア好きにしてスイッチ・ボタン・キーボードの類を見たら必ず押してみないと気が済まない男。こいつを軍の自動報復システムの前に座らせると世界中がかなりマズいことに。普段はAVソースを制作する側のビデオクリエーター。今日もまた究極のタッチレスポンスを求めて西へ東へ。

[Reported by 小寺信良]


00
00  AV Watchホームページ  00
00

ウォッチ編集部内AV Watch担当 av-watch@impress.co.jp

Copyright (c) 2001 impress corporation All rights reserved.