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第3回:迷信だらけのデジタルオーディオ

~ 高音域がクリアに出るメディアと低音がきくメディア!? ~

 オーディオCDをCD-Rにコピーして音質が落ちるのか、というテーマの3回目。前回はPCを用いてオーディオCDからデータをリッピングする際、同期がうまくいかなくて正確なデータが吸い上げられない可能性もあることをお話しした。しかし、最近のPCとCD-ROMドライブの組み合わせでリッピングすれば、比較的正確に行なえる。そこまで、うまくできていれば、その段階では音質劣化は起こっていないことになる。

 となると、次はCD-Rへの書き込みだ。そこで、今回はCD-Rドライブを用いてオーディオCDを焼くということについて考えてみたいと思う。


■CD-Rへ書き込むということ

 まずはCD-Rへ書き込むのはどのような仕組みで行なっているかについて。第1回目の記事でCDの構造を概念的に図解したが、もう少し具体的に見たものが第1図。それに対してCD-Rを図解したものが第2図だ。これを見ると分かるようにCDが3層構造になっているのに対し、CD-Rは4層構造になっている。そして、最大の違いとなっているのが有機色素層の存在だ。

【図1:CD】【図2:CD-R】
 CD-Rへデータを書き込む際、CD-Rドライブからレーザービームを照射し、それを有機色素層にぶつけて焼いてしまうというのが大まかな原理。レーザービームによって照射された部分の温度が上がり、色素が分解され、さらにその影響はポリカーボネート層にも及ぶ。この分解は不可逆であることがCD-Rがライトワンス(1度しか書き込めない)理由でもある。こうして書き込まれたCD-RはCDプレイヤーは読み取る際もレーザービームを照射し(こちらのレーザーでは有機色素が焼かれることはない)、反射層からの反射を元にデータを読み取るようになっている。

 ちなみにCD-Rの基板は変化して盛り上がる(つまり凸状態になる)。これはCDの凹状態である部分に相当するのだが、実はCDプレイヤー側からは凹状態に見えるよう光学的な仕掛けがされている。その仕掛けとは反射層の手前にある有機色素層が読み取り用のレーザービームの波長の1/4になっているため、往復でちょうど半波長ズレることになる。そのため、凸が凹のようにみえるわけだ。

 読み取りに関する詳細は次回に説明するが、CD-Rの書き込みの原理はこのようになっている。


■いろいろあるCD-Rの有機色素

 では、そのCD-Rの有機色素にはどんなものが使われているのだろうか? デジタル・オーディオの話であるのに、ずいぶん横道にそれている気もするが、CD-Rの音質を考える上で、どうしても登場してくる内容なので、少しだけおつき合いいただきたい。

 元々、CD-Rが規定された際(Orange Book PartII Ver1.0)は、シアニン系色素を対象として仕様が決められていた。しかし、現在あるCD-Rメディアではシアニン系色素を用いたもののほかにもフタロシアニン系色素を使ったもの、アゾ系色素を使ったものの大きく3種類が存在している。

 このうち、やはりシアニン系のものが一番多い。試しに近所のディスカウントストアへ行ってきたところ、やはり3種類のものが置いてあった。それぞれの写真も撮影してみたが、微妙に色が違うことが確認いただけることと思う。

 違うのは有機色素の部分ばかりではない。反射層側も金のものと銀のものが存在する。当初は金のものが主流だったが、最近は銀のものがほとんどである。ちなみに、ラベル面が金色か銀色かまたは青や白であるかとは関係ない。

【太陽誘電 CDR-74TY】
シアニン系色素を使用 反射層は銀

【三菱化学 CDR74AA1】
アゾ系色素を使用 反射層は銀

【コダック KCD-R74G1】
フタロシアニン系色素を使用 反射層は金


■高音域がクリアに出るメディアと低音がきくメディア!?

 さて、ここで登場してくる噂(!?)が、記録面の有機色素に種類によって音質が変わるという話だ。

 たとえば「シアニン系色素を使ったCD-Rは高音域がクリアに出て音の抜けがいい」とか「フタロシアニン系色素を使ったCD-Rは低音が強調されて図太い音がする」といった話である。しかし、これは本当なのだろうか? 確かに有機色素を焼いて、その反射率を用いて読み取るなど、ひどくアナログ的な仕組みにはなっているものの、デジタル信号を記録しているしているCD-Rで、こんな現象があるとはにわかには信じられない。

 ただし、この2つの噂がそのままずばり正しいとは言えないが、実際何種類かのCD-Rメディアに書き込み、オーディオCDプレイヤーで鳴らしたところ、確かになんとなく音が違っては聞こえる。残念ながら、今回は正確な調査はできなかったので、近いうちに、それぞれの違いを周波数分析して紹介したいと思う。

 とはいえ、この何回かに渡る記事でテーマにしているのは、「オーディオCDをPCを用いてCDに焼いて音質劣化は起きるのか」ということ。もし、オリジナルCDよりも高音域がクリアに出てしまったり、低音が強調されたりしてしまってはおかしいということになる。あくまでもオリジナルに忠実に再現されるべきであって、音質が変化するべきではない。確かに、低音をきかせたサウンドが好きな人などもいるだろうが、それは本来イコライザなどで調整すべきであって、メディアにその特性を求めるべきではないはずだ。

 もし本当に音質が変化しているとすれば、読み取りエラーが起こっていることと、いわゆるジッターによるものと思われるが、この辺の詳細は次回に譲ることにする。


■以前は大きな問題となったメディアとドライブの相性

 さて、次にもう1つ大きな問題がある。それはメディアとドライブの相性の問題だ。

 先ほどシアニン系、フタロシアニン系、アゾ系の3つのメディアがあることを紹介したが、シアニン系ならすべて同じ性質というわけではない。メーカーやメディアによって微妙に性質が変わってくるのだ。そして、その性質によって最適なレーザーパワーがあり、それが合致しないとうまく焼けないということが起こるのだ。

 実は私も長い間オーディオCDおよびCD-ROMの作成という仕事をしており、そのマスターとしてCD-Rを用いてきた。しかし、こういった仕事にトラブルはつきもので、何度か大失敗をしている。それはゴールデンマスターとして渡した焼き上がったCD-Rを、どうしても業者側で読めなくて、差し戻され焼き直したことだ。私の手元では問題なく読めているCD-Rが、先方ではエラーが生じて読めないというのである。

 実はここに、メディアとドライブの相性という問題があった。つまり、私の使っていたCD-Rドライブのレーザーパワーと買ってきたメディアが求めるパワーに違いがあったのだ。こうした場合まったく焼けないのであれば、手元でもエラーが確認できるが、とりあえず焼けてしまうし、書いたCD-Rドライブでは問題なく読めてしまうのでベリファイをかけてもまったくエラーが起こらない。

 こうしたことは業者との間だけではなく、もっと身近なところでも発生した。それは、焼いたCDがPCのCD-ROMドライブのプレイヤーでは再生できるのに、ミニコンポなどのオーディオCDプレイヤーに持っていくとまったく認識すらしてくれないという問題。読者の中にも、こうしたトラブルを経験した方もいるだろう。こうなってしまうと、音質云々以前の問題である。

 ただし、このような相性による問題は、最近のドライブではほぼ解消するようになってきた。CD-Rの業界団体であるオレンジフォーラムによって「ディスク・アイデンティフィケーション・メソッド」が策定され、これをメディアメーカー、ドライブメーカーの双方が取り入れたからだ。これは、各メディアメーカーがCD-Rの最内周に色素情報とメディアメーカー名を書き込んでおくというもので、ドライブ側は、書き込む前にまずこのデータを読み取り、それに合ったレーザーパワーで焼くわけだ。当然、新しいメディアが出てきたらそれに対応する必要があるわけだが、そのためにドライブのファームウェアもアップデート可能になっている。


■PCを用いてオーディオCDを焼く

 以上がCD-Rへデータを書き込むことの概要である。あとは、実際にその作業をするだけだ。

 この作業を行なうためにはCD-Rのライティングソフトが必要になる。WindowsであればBHAの「B's Recoder GOLD」、アプリックスの「WinCDR」、アダプテックの「Easy CD Creator」が、Macintoshであれば同じくBHAの「B's Recoder GOLD」、アプリックスの「MacCDR」、アダプテックの「Toast」といったものが代表的ソフトだ。

 そのほかにも「nero」などのちょっとマニアックなソフトがあったり、オーディオCD作成専用としてメガソフトの「ミュージックCDデザイナー」やSteinberg「Clean!」、さらにはSEK'Dの「RedRoaster」、SonicFoundryの「CD Architect」といったものも存在する。また、MP3からオーディオCD-Rを焼くということで、今回のテーマからははずれるものの、各種MP3ユーティリティソフトもCD-Rライティング機能を備えている。

 では、これらソフトによって音が変わるかというと、ここはさすがに同じ。オーディオCD作成専用のソフトの場合、書き込む前のデータの編集機能をいろいろ備えていたり、ポストギャップといって曲と曲の間の空白の時間の調整が可能であったりはするが、単にWAVEデータやAIFFデータを書き込むだけであれば違いはない。

 オーディオCD作成専用ソフトの機能などについては、また別の機会に紹介したいと思うが、PCを用いてオーディオCDをCD-Rへコピーする際の違いは存在しないので、手持ちのソフトで基本的にはOKだ。

BHA
B's Recoder GOLD for Windows
アプリックス
WinCDR

アダプテック
Toast
Steinberg
Clean!
メガソフト
ミュージックCDデザイナー


■■ 【コラム内コラム】 ■■
~ オーディオCD作成にはBURN-Proofは使ってはダメ!? ~

 最近のCD-Rドライブはバッファ・アンダーラン・エラーを起こさないためにBURN-ProofやJustLinkといった機能を搭載したものが増えている。高速なCPUパワーを持ったドライブではバッファ・アンダーラン・エラーそのものが起こりにくくなっているが、それでもCD-Rへの書き込みと同時にほかの作業を行なうとこのエラーが起こる可能性があるため、それを防ぐBURN-ProofやJustLinkは非常に便利である。

 しかし、これらはオーディオCDを焼く際にはあまりお勧めできない。というのもこれらは、バッファ・アンダーラン・エラーが起こりそうになると一旦ライティングを止め、正常な状態に戻ってから続きを書き始めるためだ。この止めてから再び書く際、微妙に書く位置がズレてしまうため、ノイズが乗ったり音質劣化が起こる“可能性”がある。データ用CD-Rを焼く場合ならばこれで問題ないし、非常に便利な機能であるが、オーディオCDの場合はライティングソフト側でBURN-ProofやJustLinkはオフにしておいたほうがいいだろう。もちろん、これでバッファ・アンダーラン・エラーが起こった場合は、残念ながらそのメディアはゴミとなってしまうのだが……。


(2001年3月26日)

[Text by 藤本健]


= 藤本健 = ライター兼エディター。某大手出版社に勤務しつつ、MIDI、オーディオ、レコーディング関連の記事を中心に執筆している。以前にはシーケンスソフトの開発やMIDIインターフェイス、パソコン用音源の開発に携わったこともあるため、現在でも、システム周りの知識は深い。最近の著書に「ザ・ベスト・リファレンスブック Cubase VST for Windows」、「サウンドブラスターLive!音楽的活用マニュアル」(いずれもリットーミュージック)などがある。また、All About JapanのDTM担当ガイドも勤めている。


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