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第7回:迷信だらけのデジタルオーディオ

~ CD-Rメディアによる音の違いを検証する その3 ~

 オーディオCDをPCを使ってCD-Rにコピーした際、音質は落ちるのかというテーマで続けてきたこのシリーズも今回で一旦終了とさせていただく。元々Digital Audio Laboratoryとしては、アナログには手を出さないつもりでいた。しかし、読者からの要望も多いので番外編的な意味合いで、今回は私なりの方法で実際にプレーヤーから出るアナログ信号を比較する実験を行なった。


■ 前回の宿題:ポータブルプレーヤーの実験、再び

 前回、「CR-185」というミニコンポのS/PDIF出力を比較した結果、オリジナルと1ビットも異ならずに一致したことをお伝えした。これで、DAコンバータに入る直前のデジタルは、どのメディアでも音質劣化が起こっていないことが実証された。しかし、その後に、試しに使ってみたPanasonicの「SL-S400」というポータブルプレーヤーではちょっと違う結果になってしまった。

 ご記憶のことと思うが、低音がブーストされた信号になってしまい、オリジナルとファイルコンペアをかけても一致しなかったのだ。また、実験に用いたメディア、太陽誘電「CDR-74TY」、三菱化学「CDR74AA1」、コダック「KCD-R74G1」、音楽専用CD-Rメディアの太陽誘電「CDR-A74CP」、日立マクセル「CD-R AUDIO PROX 80」の計5種類間でも、微妙に結果が異なった。

 前回の記事を書き終えた後になって、「もしかしたらこのプレーヤーの低音強調機能がONになっていたのでは……」、と思いあたり、確認してみると「S-XBS」というモードになっているではないか。確認不足で読者に申し訳ないと思いながら、さっそくOFFにして実験してみたのだが、驚いたことに状況は変わらなかった。またTRAINというモードもあったがこれも同様の結果。確かにマニュアルを読むと、これらのモードはオプティカル出力には無関係とある。

 そこで、実験やり直しということで、今度は同じメディアを3回ずつS/PDIF経由で取り込み、それぞれを比較してみると100%とはいえないまでも、ほぼ一致する(オリジナルとは違うデータではあるが)。唯一、一致しなかったのがCD-R AUDIO PROXで、これのみ計5回キャプチャしてみたが、そのうち2つのファイルだけが微妙に異なる結果となっただけだ。ちなみに、違いといっても661,500サンプル中(1サンプルは16ビット×2)の100サンプル前後程度ではある。

 このポータブルプレーヤーの実験からわかったことは、プレーヤーによってはS/PDIFの段階でもメディアによる違いは出てくるということだ。また、根本的にオリジナルデータと差が出てしまったのは、SL-S400のシステムが変わった仕様(バグ?)ということなのだろう。


■ アナログ回路を経由して96kHz/16ビットでレコーディングする

 Digital Audio Laboratoryでは、あまりアナログ部分までは首を突っ込みたくないところではある。しかし、このネタだけで7回も引っ張ってしまった責任上、追加としてアナログの実験をしてみることにした。もちらん、今回用いた手法については、反論のある方も多いだろうが、なんとかメディア間の違いを認識できないかやってみた。

 実験には、前回と同じONKYOのCR-185を用いる。このアナログのライン出力をHDDレコーディングして、比較してみようというわけだ。ただ、これを一般のサウンドカードに入力したのでは、かなりのノイズにさらされてしまい、まともな実験はできないだろう。また、44.1KHz/16ビットという精度でのレコーディングでは、比較するにはやや不足だと感じる。

 そこで、プロのレコーディング現場でも利用されている機材を用いて、96KHzでレコーディングすることにした。これに対応した機材はいろいろ登場しているが、できるだけPCからのノイズの影響を避けるため、ADコンバータがPCIカード上にあるものではなく、ブレイクアウトボックス上にあるものを選んだ。

 具体的には、個人的な興味もあって、最近話題のM-Audioの「DELTAシリーズ」に決定。その中でも、デジタル端子は前回使ったPRODIF32があるので不要ということで、DELTAシリーズで一番安価なDELTA44を購入した。

DELTA44

 接続は下図の通りである。このDELTA44ではプロ用のレベルである+4dBuと、コンシューマ用のレベルである-10dBVを選択可能になっているので、ここでは当然-10dBVを選ぶ。ただ、-10dBVの設定であること、またそもそものミニコンポ側の精度や配線ケーブルの問題もあるのだろう、何も音を出さない状態でも-80dB前後のノイズは入ってしまっている。

 また、以前作った1KHz、-6dBの信号をCDプレーヤーで再生し、PC側のレベルメーターで測定してみると-6.1dBが入力されている。微妙にズレはあるものの、まずまずの精度といえそうだ。

 この状態で前回も用いたSoundForge5.0を使い、試しにレコーディングしてみたところ、もう1つの大きな問題が生じてしまった。最初に96kHz/24ビットで試すと、Pentium III 667MHz、メモリ256MBという私のマシンには重いらしく、追いつかない。結局、96kHz/16ビットでのレコーディングということに予定を変更した。これでも、CD-DAのフォーマット(44.1kHz/16ビット)を上回っているので、比較に耐えうると判断した。


■ 1kHzのサウンドで比較する

 では、さっそく実験。まずは1kHzのサウンドを5つのメディアで再生し、それぞれレコーディングしてみた。聴いてみても、私には音の違いはまったくわからない。しかし、私の耳もあまりあてにできるほど優れたものではなさそうなので、FFTアナライザによって3次元のグラフに表したものが、以下の図だ。

 低音側をよく見るために横軸(周波数軸)を対数表示させたものと、通常の表示のものと2種類用意してみた。また、元々のオリジナルデータも参考までに見ていただきたい。当然といえば当然であるが、オリジナルとアナログ経由でレコーディングしたものでは、ずいぶんと変わっている。

 とくに倍音成分が出ていることがはっきりと確認できるだろう。一方、各メディア間はというと、確かに微妙な違いはある。同じメディアを複数回レコーディングしても違いが出るため、これが即ち、メディアの違いだと断言することはできないが、ある程度の違いはありそうだ。

横軸が対数表示
オリジナルデータ
CDR-74TY
CDR-74AA1
KCD-R74G1
CDR-A74CP
CDR-AudioProX


■ Areareaの曲で比較する

 1KHzのピーという音を聴いても味気ないし、感覚的に音質の違いを認識できないだろうということで、やはり音楽を比較してみたいと思う。素材は前回にも紹介したRINO、YUKIという女のコ2人のユニットAreareaのファーストアルバムの2曲目「SEASON IN THE FLOWERS」の一部だ。

 これに関しても、うちのオーディオ環境と私の耳では違いを認識することはできなかったが、FFT分析したグラフでは微妙な違いも出ている。耳のいい方なら、この微妙な違いがわかるかもしれない。

 こちらの実験は先ほどの1kHzのものと違い、当然プレスCDの素材も存在している。そこで、デジタル的にPCでリッピングしたデータと5つのCD-RメディアからDELTA44を経由してレコーディングしたもの、同様にオリジナルのCDからレコーディングしたものの計7つを比較してみたのが下のグラフだ。

プレスCDからのリッピングデータ
プレスCDの再生データ
CDR-74TY
CDR-74AA1
KCD-R74G1
CDR-A74CP
CDR-AudioProX

 また、視覚的な比較だけではよくわからないだろうということで、実際にレコーディングした素材をそれぞれデータとして掲載した。気になる方は、ぜひその違いを自分の耳で聴き比べていただきたい。

 なお、アナログ経由でレコーディングしたデータは前述の通り、96kHz/16ビットというフォーマット。これでは再生できないという人も多いだろうから、SoundForge5.0のResampling機能を用いて44.1KHzに変換したものも用意してみた。ただ、これだとダウンコンバート時に微妙な差は消えてしまっているかもしれない。

25秒/約9MB25秒/約4MB
プレスCDの再生データ96kHz/16ビット44.1kHz/16ビット
CDR-74TY96kHz/16ビット44.1kHz/16ビット
CDR-74AA196kHz/16ビット44.1kHz/16ビット
KCD-R74G196kHz/16ビット44.1kHz/16ビット
CDR-A74CP96kHz/16ビット44.1kHz/16ビット
CDR-AudioProX96kHz/16ビット44.1kHz/16ビット
オリジナルCDからのリッピングデータ44.1kHz/16ビット
25秒/約4MB

編集部では再生環境についての個別のご質問にはお答えいたしかねますのでご了承下さい。

□Arearea (C)REALROX Inc.
http://www.arearea.net/


■ このテーマのとりあえずの終了にあたって

 以上で、このシリーズでの実験は一通り終了だ。いかがだっただろうか。まだ、消化不良な面もあるとは思う。ただ、ある程度のことは見えてきたのではないだろうか? ポイントとなるのは前回の実験で、どのメディアでもデジタル的には差がなかったということだろう。ただ、Panasonicのポータブルプレーヤーのように、メディアによる違いが現れてしまうことがあることもわかった。

 ただデジタルデータが同じでも、そのS/PDIFの出力にジッターが生じている可能性は十分にある。その揺れ具合いはメディアによって違うかもしれないし、DAコンバータ側がこの外部入力によるS/PDIFクロックに同期した場合は音質変化が生じるだろう。しかし、DAコンバータの内部クロックに同期させる(もしくはバッファを用意するなどで解決させる)ことで、この問題はクリアになるはずだ。

 一方、プレーヤー内部に実装されたDAコンバータの場合、44.1kHzのジッターについては同様なことがいえるが、それ以外にもアナログ的要素が関わる可能性もある。この点は、読者のみなさんからも多数ご指摘いただいており、フォーカスサーボやトラックキングサーボ制御、スピンドルサーボといった制御で生じる電磁誘導がアナログオーディオ回路に影響を与えるという説だ。この点は十分考えられそうだが、多分にアナログの要素を含むため、そうした検証は今回できなかった。機会があれば、また試してみたいと思う。

 そのほか、かなりメールをいただいたのが、プレーヤー側がCD-Rメディアに対応していないという説。つまり、CD-Rに正式に対応していないプレーヤーでは再生が不安定になり、結果としてメディアによる音質の違いが出てしまうということだ。これについては今後複数のプレーヤーを用いて実験すると実態も見えてきそうだ。

 というわけで、これでこのCD-Rシリーズは一旦終了させていただいて、次週からはまた違うテーマを開始する。ただ、もちろんCD-Rに関する謎はまだまだ解明されていないので、時々このテーマで追加実験したり、ドライブやメディアメーカーの開発者へのインタビューなども行なっていく予定である。読者からも、いい実験方法、実験結果などあればご連絡いただけると嬉しい限りだ。

(2001年4月23日)

[Text by 藤本健]


= 藤本健 = ライター兼エディター。某大手出版社に勤務しつつ、MIDI、オーディオ、レコーディング関連の記事を中心に執筆している。以前にはシーケンスソフトの開発やMIDIインターフェイス、パソコン用音源の開発に携わったこともあるため、現在でも、システム周りの知識は深い。最近の著書に「ザ・ベスト・リファレンスブック Cubase VST for Windows」、「サウンドブラスターLive!音楽的活用マニュアル」(いずれもリットーミュージック)などがある。また、All About JapanのDTM担当ガイドも勤めている。


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ウォッチ編集部内AV Watch担当 av-watch@impress.co.jp

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