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“Zooma!:ズームレンズ、ズームすること、ズームする人、ズズーンの造語”

第9回:テレビはどこへ行くのか
―NAB2001を振り返って


 先々週のNAB2001リアルタイムレポートは、お楽しみ頂けただろうか。筆者と同行記者が、ラスベガスの夜のお楽しみをフイにして書き上げた入魂のレポートなので、まだ見ていない人はぜひ見ていただきたい。

 さて、放送の未来を占うには恰好のイベントであるNABであるが、今回のElectric Zooma!では、過去のNABやInterBEEの流れを睨みながら、日米のテレビに対するアプローチの違いを考えてみようと思う。


■ 米国ではHDTVには関心なし

 日本では既にBSデジタル放送が始まり、2003年には首都圏で地上波デジタル放送が始まる予定であることは、皆さんもご承知のことと思う。それに合わせて、テレビを買い換えようといった計画していることだろう。

 デジタル放送には、多チャンネル化、データ放送といった特徴があるが、そんなことよりもユーザーに関心が高いのがHDTV、つまり高精細放送だろう。一般的にはデジタルハイビジョン放送という名称が使われることが多い。日本では既に'80年代からNHKがアナログのハイビジョンを開発、アピールしてきたため、高精細テレビに関する認知度は非常に高い。実は日本は世界で唯一の、ハイビジョン先進国なのである。そして幸か不幸か、それがどういうものかを知っているために、それを欲しがるというレールができているのだ。

 それに対して、米国ではHDTVに関する認知度や関心は低い。筆者も米国在住の友人数名に聴いてみたが、おそらく一般の人はHDTVというものを知らないか、見たことすらないと言う人がほとんどであろうという返事が返ってきた。米国でのHTDVは、一部のアミューズメント施設や博物館などのディスプレイで使用されるような特殊用途のもので、それを使って家でテレビを見ようという感覚はない。したがって米国の放送関係者の間でもHDTVに関するニーズはほとんどなく、メーカーもあまり開発に熱心とは言えない状況だ。

 もっとも映画産業では、ジョージ・ルーカスがStar Wars Episode IIを、HDTVの特殊フォーマット1080/24pで撮るという話があり、そっちの関係者は関心を持っているようであったが。

 その一方で、NAB2001に出展した日本企業の展示では、やはりHDTV対応は外せない。現在東京にあるキー局では、収録は徐々にHDTVにシフトしつつある。たとえ放送するのは従来方式でも、映像資源の確保という意味で、今からHDTVで撮っておこうというわけだ。NHKでは既に、大きなニュースであれば地方局でもHDTV収録すべし、ということになっている。

 現在のBSデジタルにおけるHDTV放送は、日本の放送事業全体にとっては、壮大なベータテストのようなものに相当する。BSデジタルは衛星放送なので、今のところ地方局はまったく関係ないからだ。それがあと2、3年のうちに、日本の放送事業者は隅から隅までことごとく、設備投資を迫られる。

 日本の放送関係者は、もうそろそろ予算も立てて機材購入の準備をしなければならないし、かといって早めに導入したもののあとからもっと安くていい機械が出てきましたー、なんて貧乏くじは引きたくないという、大変なジレンマに陥っている。だから新製品の動きに関する情報は、すぐにでも欲しい。そんなこともあってか、NAB2001の日本人来場者数は、筆者の印象だけでいうと、去年とは比べ物にならないほど増えていた。


■ ブロードバンド放送はどこまで現実的か

 去年のNABの目玉は、テレビ放送をいかにストリーミングに流用していくかというところがメインテーマになっていた。ところがぶっちゃけた話、このコンセプトの基本は、

という、実にわかりやすいというかあたりまえというか、そんなの言われなくてもわかっているというか、とにかく日本のパソコン野郎からすればしごく当然のことを、米国大企業がもっともらしくぶちあげていたのである。

 しかし今年はそれよりもちょっと進んだ形になった。というのも、どこのノンリニア編集機を持つ企業も、ストリーミング用のリアルタイムエンコーダをことごとく出展しているからだ。

 つまり去年までは、WEBのストリーミングはあくまでもサービスというか、余力があればやるといったスタンスであったものが、米国で本格的に事業として展開できる目処が立ってきたということを意味する。ざっと思いつくだけでも、Avid、Pinnacle、DPS、SONY、GrassValleyGroupといったところが、ストリーミング用リアルタイムエンコーダを出展していた。

 リアルタイムエンコーダがあれば、ビデオソースから直接、Real、WindowsMedia、Quicktimeの各ストリーミングデータを同時に得ることができる。ブロードバンドのインフラがどのぐらいあるかという話はとりあえず置いておいて、米国がストリーミングに熱中する理由はよくわかる。ビジネスとしてストリーミングのキモは、双方向コミュニケーションが簡単に実現できるという点だ。米国やカナダでは、CATV(ケーブルテレビ)が非常に発達している。これらは当たり前だが、線で各家庭を直結しているため、双方向のコミュニケーションができる。テレビの上に乗せたSTB(セットトップボックス)を使って、視聴者がインタラクティブに番組に参加したり買い物したりということが、一般に定着している。

 したがって放送局には、双方向に関するノウハウがある。双方向は、ダイレクトにお金に繋がる。ストリーミング放送が現実的なものになれば、家庭のリビング以外の場所でも顧客を確保できるだろう。またCATVに加入していない地域の顧客も確保できる。ケーブルを敷設したり電波を送らなくても、インターネットという別のインフラをちゃっかり利用することができるのだ。

 一方日本では、このような双方向メディアへの試みは何度か行なわれてきたが、現在のところ惨敗といっていい。BSやCSのチューナ、あるいは各種ゲーム機にもこのような機能が搭載されてきたが、日常的に利用されているという話は聞かない。この失敗の理由を分析するする気はないが、少なくとも向こうからやってくる放送がタダなのに対して、こちらから発信するにはやたらと遅く、やたらとお金がかかるという点が、双方向をせいぜいテレホンショッピング止まりにしている要因と言えるだろう。


■ NABで見つけた変わりモノ

 さて、色々と放送に関して小難しい話をしてきたわけだが、最後にZooma!らしい、ギョーカイ人には常識でも、フツーの人から見れば変わってる、そんなものを集めてみた。

毎年LVCCで人気のブースが、撮影小物を販売しているギョーカイ御用達の「Mole.com」。カチンコはここで買うのが常識!? スタッフ用キャップやTシャツには、職業名が入っているので、現場でも“階級”が一目瞭然

カノープスのブースで見つけた、DV-Storm専用機。ラックマウント型のPCで、こちらのビデオジャーナリストにはこういうスタイルが好まれるという。日本での発売予定はなし Intelは例年必ず出展しているが、だいたいいつもブース内は空っぽ。インテル 入ってない? もっともCPUやチップセットを裸で展示されても、テレビ関係者は困っちゃうんだけど バックボーンで大人気のSun。会場で最も長蛇の列は、Sunのレジストレーションを待つ人達。地味な存在だが、放送というノンストップが基本の産業では、ワークステーションの存在は小さくない

先週お伝えしたEZ Keybordの「POST-OP VIDEO」も出展、会場で新型キーボードを販売していた。会場のいろんなブースでもデモに使われていて、好評のようだ リアルタイムレポート2日目で撮影できなかった、NAB名物のSONY巨大ロゴを最終日に後ろに下がって下がってようやく撮影。前に立っている人と大きさを比べてみて

ロビーにあるNAB Storeでは、グッズや参考書などを販売している。今年のロゴグッズは、NAB公認、波形モニタTシャツ。これを着てればあなたもギョーカイ人? スイッチャーメーカーの老舗Ross Videoでは、ブース前に巨大なヘラジカを展示。希望者には木こりの恰好をさせて、記念写真まで撮ってくれる。でもなぜ?

会場のもう一つの華は、中古品販売ブース。ここBCSのブースでは、SONYの「D1-VTR」が65,000ドルで売られていた。高画質な留守録にお1ついかが? すごくうるさいとは思いますけど

ビデオカメラ用のレインスリッカー(レインカバー)やバッグの専門メーカー「Porta-Brace」。その機種専用に作られたレインスリッカーは、異常なほどピッタリ

COMDEXやNABといった大規模な展示会は、すでにLVCC(ラスベガス コンベンションセンター)だけでは入りきれなくなり、ちょっと離れたSANDSも同時に使用している。それでは不便だというのか、現LVCCの隣に新たな展示ホールが建設中だった。LVCCサウスホール(左の写真)と呼ばれるこのホールは、次のNAB2002で使用される模様。本家LVCC(右の写真)はだいぶ老朽化してきたので、今から来年が楽しみだ

□NAB2001リアルタイムレポート インデックス
http://av.watch.impress.co.jp/docs/20010502/nabindex.htm

(2001年5月9日)


= 小寺信良 =  無類のハードウエア好きにしてスイッチ・ボタン・キーボードの類を見たら必ず押してみないと気が済まない男。こいつを軍の自動報復システムの前に座らせると世界中がかなりマズいことに。普段はAVソースを制作する側のビデオクリエーター。今日もまた究極のタッチレスポンスを求めて西へ東へ。

[Reported by 小寺信良]


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ウォッチ編集部内AV Watch担当 av-watch@impress.co.jp

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