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第10回:パッケージソフト全盛時代の「現代MP3事情」


~その2:MP3エンコードの設定でどれだけ音が変わるのか?~


 MP3シリーズの第2回目となる今回は、店頭でよく売れている、Fraunhofer IIS-Aのエンコードエンジンを搭載した「ジャストシステム BeatJam XX-TREME」を使って実験を行なう。

 テーマは「エンコードの設定を変えると音がどう変化するか」。BeatJam XX-TREMEを使用して考察してみる。


■ 今回の素材はBeatJam XX-TREMEとTINGARA

 前回、MP3の概略的な話をしたが、今回は実際に音を聞きながら、MP3の実力を探っていく。その実験材料は2つ。まず、エンコードソフトはジャストシステムの「BeatJam XX-TREME」。このソフトを代表として選んだのは、MP3の特許をいろいろ握っているといわれるFraunhofer IIS-A製のエンコードエンジンを搭載しているから。

 BeatJam XX-TREMEはBeatJamシリーズの第3作目。CD-ROMドライブにセットしたオーディオCDから直接MP3を生成できるほか、日本語対応のCDDBへアクセスしたり、プレーヤーではグラフィックイコライザが利用できたり、スキンでデザインを自由に変えられるなど機能は豊富。オーディオCDから直接のエンコードだけでなく、WAVファイルからのエンコードも可能なので、今回はその方法で試してみることにした。

 一方、音楽素材として利用するのは、6月21日に「星月夜」というシングル、7月4日に「さきよだ」というアルバムをビクターエンタテインメントからリリースすることが決まったTINGARA(てぃんがーら)というユニットの曲。TINGARAのサウンドは沖縄の伝統的音楽をベースに、今までにないアプローチで「究極のやすらぎ」を作りだすもの。私個人的には、だいぶ以前からメンバーとは友人としてつき合ってきたが、今回ついにメジャーデビューということで、嬉しいかぎり。

 もっとも、ボーカルを担当している、つぐみさんは、'90~93年までりんけんバンドのキーボードプレイヤーとして在籍していた経験があるなど、実績あるメンバーによるユニットではあるのだが……。

 ただし、今回使う曲は、その新曲ではなく、'99年にOneness Musicというインディーズ・レーベルから出したファーストアルバム「天河原」の1曲目、「夜間飛行」から45秒を抜きだしたもの。さまざまなサウンドが入っており、音質を比較するのに非常にわかりやすいだろう。



■ まずは聞き比べてみよう!

 今回は実験ということで、BeatJam XX-TREMEの本来の使い方を無視し、オーディオCDからの直接エンコードではなく、一度CD-ROMドライブからリッピングソフトを用いて、WAVファイル化してからエンコードしている。また、1曲全部では長すぎるので、SoundForge5.0を用いて45秒分を切り出した。

 BeatJam XX-TREMEには「ファイル変換」というボタンがあり、これを使うとWAVからMP3への変換が可能。また、オプションボタンを押すと、各種設定ができるようになっているので、ここで設定をいろいろ変えてエンコードしてみた。

 デフォルトではフォーマットは「固定ビットレート128kbps」、エンコード速度は「高速」となっているので、まずはこれでエンコード。さらに、エンコード速度を「標準」、「高品質」のそれぞれでも試してみた。また、今回は可変ビットレートは設定していないが、固定ビットレートでは96kbps、160kbps、192kbps、320kbpsでもエンコードした。

 今回はそれぞれの設定で夜間飛行をエンコードしたファイルを用意したので、まずは聞き比べてほしい。PCのマザーボードに搭載されたサウンド機能と小さいマルチメディアスピーカーといった組み合わせでは、聞き比べるのは難しいと思うが、ある程度の機材なら十分違いがわかると思う。出だしのピアノと重なっているサウンドの音質に注目すると、その違いがはっきり見えるだろう。

【オリジナルデータ】 【128kbps(高速)】 【128kbps(標準)】
WAVファイル
約7.57MB(original.wav)
MP3ファイル
約704KB(128khs.mp3)
MP3ファイル
約704KB(128kst.mp3)

【128kbps(高品質)】 【96kbps(高速)】 【160kbps(高速)】
MP3ファイル
約704KB(128khq.mp3)
MP3ファイル
約528KB(96khs.mp3)
MP3ファイル
約880KB(160khq.mp3)

【192kbps(高速)】 【320kbps(高速)】
MP3ファイル
約1.03MB(192khs.mp3)
MP3ファイル
約1.71MB(320khs.mp3)

(C)TINGARA
「夜間飛行」(作詞:名嘉睦稔 作曲:名嘉睦稔、TINGARA)

□TINGARAのホームページ
http://www.tingara.com/

今回テストを行なった全ての設定での結果を重ねたあわせたグラフ。192kbpsと160kbpsはほぼ重なってしまった。また、128kbpsの標準と高品質もかなり一致しているほか、高速モードのほうが標準や高品質より高域が入っている。
 グラフが落ち込むのは、96kbpsでは12kHz上、128kbpsでは16kHz、192kbpsと160kbpsでは20kHz、320kbpsでは21kHz近辺であることがわかる

編集部では再生環境についての個別のご質問にはお答えいたしかねますのでご了承下さい。


■ スイープ信号で、周波数特性を調べる

 こうした音質の違いがどこからくるのが、わかりやすく比較しするため、スイープ信号を使っての周波数特性を調査した。

 方法としては、まずサイン波で20Hzから22.5kHzに120秒で連続的に変化していくスイープ信号を生成。レベルは-10dBで一定にした。またこの生成にはefu氏のWaveGeneというフリーウェアを使わせていただいた。

 その後、先ほど行なったのと同じ設定でMP3化した。そして、同じくefu氏のWaveSpectraというソフトを用いて各周波数のピーク値を見ようとしたが、MP3を直接見ることはできないので、SoundForge5.0を用いて一旦MP3ファイルをWAVファイルに変換している。ちなみに、このソフトにもFraunhofer IIS-AのMP3のエンコーダ/デコーダが搭載されている。

 オリジナルを含め、結果は以下の通りだ(画面4~画面11)。これを見てわかるように、ビットレートが下がると高い周波数帯域がカットされてしまうのが確認できる。またこのエンコーダでは192kbpsを超えると22.5kHzまでほぼ切れずに出ている。

 また、同じ128kHzの高速、標準、高品質の違いは耳で聞くと確かにあるのだが、このグラフでは、それほど大きな違いにはなっていない。

【オリジナルデータ】 【128kbps(高速)】 【128kbps(標準)】

【128kbps(高品質)】 【96kbps(高速)】 【160kbps(高速)】

【192kbps(高速)】 【320kbps(高速)】


■ 1kHzの信号をエンコードし、S/N、THDを測定

 今度は、同じツールを用いて、生成する信号を-10dBで1kHzのサイン波にした。時間的には10秒としたが、これを先ほどと同様にMP3へエンコードし、WAVファイルに変換。WaveSpectraで波形を確認してみるとともに、S/N、THDについても確認してみた。

【オリジナルデータ】 【128kbps(高速)】 【128kbps(標準)】

【128kbps(高品質)】 【96kbps(高速)】 【160kbps(高速)】

【192kbps(高速)】 【320kbps(高速)】

 これを見る限りでは、各設定でそれほど際だった違いはないようだ。さらに、ピンクノイズを用いても同様な実験を行なったほか、ピンクノイズと1kHzのサイン波をミックスしても実験したが、高音域の周波数がカットされるという以外には、それほどはっきりした違いは現われなかった。

■■ピンクノイズ■■

【オリジナルデータ】

【96kbps(高速)】 【128kbps(標準)】 【320kbps(高速)】


■■ピンクノイズ + 1kHzサイン波■■

【オリジナルデータ】

【128kbps(高速)】 【128kbps(標準)】 【128kbps(高品質)】

 基本的には高音域がしっかり出ているほうが、原音に近くいいサウンドといえるが、MP3の場合はその帯域の“音”が出ていればいいというわけではない。というのも、MP3では人間が通常聞き取れない音をカットしていくという仕組みになっており、必ずしも周波数帯域が広ければいいとは限らないからだ。やはり、いかに効率よく人間の耳に聴こえない音をカットするかにすべてはかかっている。つまり、今回計測したグラフで原音に近ければ、原音に近く“聞こえる”といわけでないのが、圧縮音楽の難しいところだ。

 以上、BeatJam XX-TREMEを例にMP3の周波数特性を探ってみたがいかがだっただろうか? 前述のように、こういったグラフだけですべてがわかるわけはないが、ある程度の目安にはなるだろう。

 次回は、別のエンコードエンジンの違いを考察してみる。

□「BeatJam XX-TREME」の製品情報
http://www.justsystem.co.jp/software/dt/bjxx/index.html
□関連記事
【2月14日】ジャストシステム、ATRAC3に対応した「BeatJam XX-TREME」
http://av.watch.impress.co.jp/docs/20010214/just.htm

(2001年5月14日)

[Text by 藤本健]


= 藤本健 = ライター兼エディター。某大手出版社に勤務しつつ、MIDI、オーディオ、レコーディング関連の記事を中心に執筆している。以前にはシーケンスソフトの開発やMIDIインターフェイス、パソコン用音源の開発に携わったこともあるため、現在でも、システム周りの知識は深い。最近の著書に「ザ・ベスト・リファレンスブック Cubase VST for Windows」、「サウンドブラスターLive!音楽的活用マニュアル」(いずれもリットーミュージック)などがある。また、All About JapanのDTM担当ガイドも勤めている。


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ウォッチ編集部内AV Watch担当 av-watch@impress.co.jp

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