第8回:暗い世の常備薬に「デカローグ」 |
怒涛のように発売されつづけるDVDタイトル。本当に購入価値のあるDVDはどれなのか? 「週刊 買っとけDVD!!」では、編集スタッフ各自が実際に購入したDVDタイトルを、思い入れたっぷりに紹介します。ご購入の参考にされるも良し、無駄遣いの反面教師とするも良し。「DVD発売日一覧」とともに、皆様のAVライフの一助となれば幸いです。 |
デカローグ (DEKALOG) |
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価格:19,800円 発売日:2001年8月24日 品番:ULD-030 仕様:片面1層 収録時間:約557分(本編) 画面サイズ:ビスタサイズ(非スクイーズ) 字幕:日本語/非表示 音声:ポーランド語(ドルビーデジタルステレオ) |
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発売元:アップリンク |
今回紹介する「デカローグ」は、ポーランドのテレビ映画。監督はクシシュトフ・キェシロフスキーで、十戒をモチーフに脚本を書き下ろしていたオリジナル作品。同監督のその他の作品は、「トリコロール3部作」、「ふたりのベロチカ」など。デカローグは、1作1時間弱の作品が10話で構成されており、DVDは5枚組BOX(1枚に2話ずつ収録)のほか、単品でも販売されている。
「デカローグ」は、本国での初回放映時に視聴率50%、最終回には64%もの視聴率を獲得している(ポーランドの視聴率事情は知りませんが……)。さらに、'89年のヴェネチア映画祭国際批評家連盟賞、'88年のヨーロッパ映画祭グランプリ受賞作でもある。
と書くと、なにやらすごそうな作品に思えてくるが、映像はこれといって綺麗でもなく、CGをバリバリに使いまくってるということも全くなし。ごくごく普通の映像で、音声もドルビーデジタルステレオで、マルチチャンネルでの収録もなし。
ここまで書くと、AV機器に敏感な読者からなぜこんな作品紹介するのかと苦情が出そう。しかしこの作品、逆にこの特徴の無さがストーリーとあっている。
実はこの作品、監督も知らなければ聞いたこともなかった。AV WatchのDVD担当としての仕事で見つけたものだ。なぜ興味を持ったのかといえば、発売元アップリンクのあるコメントが目についたから。
それは、スタンリー・キューブリック監督の「この20年で1本だけ好きな映画を選ぶとすれば、間違いなく『デカローグ』。」というもの。これを見て、彼にここまで言わせた作品ならすごいだろうと思い、買いました。
でも2万円出して失敗したら怖いので、初めは1本だけ買いました・・・・・・。なお問い合わせたところ、単品とBOXの違いはパッケージ以外に無いそうなので安心。
■ 同じように見えるドアでもそれぞれに違うドラマがある
舞台はワルシャワ郊外のアパート。そこに住む人々が各話でそれぞれ主人公。外観が同じマンモス団地の一室一室にはそれぞれに違う人が住み、違う人生を歩んでいることを暗に表現している。
また、うっかりすると気づかないくらいだが、他の話でもチョイ役として出演したり、前の話が他の話で過去の出来事として紹介されたりする憎い演出もある。
さて、全10話には題名とあらすじは、以下のとおり。なお、カッコ内には十戒の言葉。
■ 黙って語る作品
この作品で心に残ったのが、第4話と第5話、第6話、第9話、第10話の計5話で、打率で言うと5割バッター、首位打者である。
「ある殺人に関する物語」は、実は単に緑のフィルタをかけているだけだが、10作中唯一ともいえる映像効果が利用されている。このシンプルさが都会の閉鎖感を表し、青年を殺人へと追いやる空気に不自然さは感じられない。逆に青年が可哀想になってくるくらいだ。後半は青年の裁判と死刑の様子を描き、法と国家、報いや命について考えさせられる。青年の弁護士による、裁く側は健全なのかという法と国家に対する問いかけや、刑執行後の叫びは心に響くものがある。
また同時に、刑務所内の人権にも考えさせられる。人を殺すことに何も感じないかのように事を運ぶ刑務所の長官らの様子には、人間の恐ろしさすら感じてしまう。「ダンサー・イン・ザ・ダーク」の処刑シーンも印象的だったが、それとは対極的だ。牢獄から執行までは5分とかからず、警官ら6人がかりで無理やりに引っ張っていく。執行時も首に縄を掛けさせると、力ずくで吊るし上げる。誰が殺人犯なのか疑わしいくらいで、ただただ呆然としてしまう。
「ある希望に関する物語」は、やられた! という感じのする作品。9話までを悲劇で描き、人間の無力さと愚かさを示す。前9作までとは打って変わった明るいタッチで進行する。父親のコレクションを憎んでいた兄弟が、その希少価値に翻弄される。コレクションを守るべく、ドーベルマンを飼ったり、警報機を設置したり、鉄格子をつけたりする。しかし騙されて、留守中にコレクションを盗まれる。挙句の果ては兄弟で疑いあう。
ラストは、人間の愚かさの良い面と悪い面を垣間見て、滑稽さに嘲笑い、“希望”に微笑みがこぼれる。これが前9話までのよいスパイスとなり、全体にまとまりを与えている。
■ 常備薬として
この映画は十戒をモチーフに作られているが、宗教的な内容というよりはむしろ人間的な、誰もが一度は考えるであろうことを扱っている。だが、正直感動して涙を流すという作品ではない。宗教的な知識を知っていたほうがより理解できるかと言えばそうでもなく、敷居は低い。かといって内容が薄いわけでもなく、深く掘り下げられたテーマに監督の力量を感じる。
また、各話の登場人物も少ないので、外国人はあまり見分けがつかないという人も大丈夫。先に述べたように映像も音声もゴージャスとは程遠いが、このおかげか国や文化が違えど自然とストーリーに入り込める。
最終の第10話だけが喜劇だが、この締めが絶妙で思わず苦笑いしてしまう。見終わった後もどこか心地よい感じがする。映画にはいろいろあるが、世間的に大作と言われていても、一度見たらもういいやという感じの作品が多い。この点において、強烈なメッセージ性と心地よい余韻を秘めたデカローグは、常備して事あるごとに鑑賞したい作品。
本作の基本的な姿勢は、人間は愚かで人生は見えない力で流されるものだ、という皮肉なスタンスをとっている。しかし、この姿勢は第10話によって崩される。人生は流されるだけ流されてもいいのでは……。
残念なところもある。映像特典が劇場版の予告が収録されているだけで、しかも5本とも同じ。そのほかには、キェシロフスキー監督のコメント(1作品1ページ程度、文のみ)のみ。これはこれで、とてもありがたいが、監督本人の映像が全くないのも寂しい。作品自体には満足したが、この作品でキェシロフスキー監督に興味を持った私としては、監督についての資料などをもっとつけて欲しかった。
そういえば、当初キェシロフスキー監督は、この「デカローグ」を若い監督に1作ずつ託そうとしたらしい。が、脚本を書くうちに自分で作りたくなったという。結果的には、彼がこの作品を仕上げてくれて本当によかったと思う。
□アップリンクのホームページ
http://www.uplink.co.jp/
□製品紹介
http://www.uplink.co.jp/release/8/deca.html
(2001年9月29日)
[minam-ku@impress.co.jp]
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ウォッチ編集部内AV Watch担当 av-watch@impress.co.jp