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“Zooma!:ズームレンズ、ズームすること、ズームする人、ズズーンの造語”

第30回:簡単確実なDVD制作環境「CAPMeg RT」
~ ソフトウェアでMPEG-2にリアルタイムエンコード ~


■ MPEG-2もリアルタイムエンコードがトレンド?

 パソコン内に大量の映像をハイクオリティなままストックしようと思ったら、映像のMPEG-2化は避けて通れない。これがビデオCDがブームだった頃は、みんな一生懸命AVIでキャプチャしたものを、エンコーダを使ってシコシコとMPEG-1にエンコードしていたものだった。が、エンコードの流れがMPEG-1からMPEG-2にシフトしてゆくにしたがって、「この手間はもうちょっとなんとかなんないの?」みたいな不満が出てきた。

 従来のMPEG-2エンコードは、作業の段取りとして一旦AVIでキャプチャするために映像ソースの長さ分まるまるリアルタイムで時間がかかってしまうし、さらにエンコードするためにリアルタイムの3倍から4倍の時間を我慢しなければならなかった。さすがにそれでは、沢山の映像ソースを気軽にMPEG-2化するわけにもいかず、ある程度の覚悟と投資をユーザーに要求することになる。こんなこと、誰でもできるとは言えなかったのである。

 それに対する1つの解が、TVキャプチャ製品であった。TVキャプチャ製品は、USBで簡単に接続できるものもあり、しかも「ビデオ編集システム」を組むことを考えたら破格に安上がり。テレビ番組のキャプチャはもちろん、アナログ入力も装備し、既存アナログソースも取り込むことができた。しかもキャプチャと同時にMPEG-2ファイルができあがると言うことで、とりあえず今までの作業時間や手間を大幅に短縮できる。

 テレビ番組や昔録ったアナログソースはそれでいいとして、次にDVカメラで撮ったやつはなんとかなんないのか、という話も当然持ち上がってくる。そして今年の夏以降、そこにMPEG-2のもう一つの流れができてきている。以前Zooma! でもご紹介した「PowerDirector」は、その急先鋒ということになる。一般的にはMPEG-2が直接編集できるというイメージが先行するソフトだが、汎用IEEE 1394カードを使ったDV入力映像を、MPEG-2にリアルタイムエンコードできる。このようなソフトウェアの登場は、ビデオCDからDVDビデオという映像保存の流れの中で新たなマイルストーンということができるだろう。

 そしてPowerDirectorと前後する形で、IEEE 1394インターフェイスカードまでついてソフトウェアによるリアルタイムエンコードを実現するソフトウェアパッケージ「CAMpeg RT」(実売16,800円)が登場した。CAMpeg RTは米MedioStreamの製品で、国内ではエムエスエイ(MSA)が販売する。

同梱のAdvanSYS製IEEE 1394カード。コネクタは背面に2つ

 製品パッケージには同名のソフトウェアの他に、ソニックソリューションズの「MyDVD」、ソフトウェアDVDプレーヤー「サイバーリンク PowerDVD」(インターナショナル版)が含まれる。同梱のIEEE 1394インターフェイスは、AdvanSYSのPCIカード。

 サポートOSは、Windows 98 SE以降で、Windows 98とNTはサポートされない。またCPUはPentium III、Pentium 4、Athlon、Celeronの566MHz以上で使用できるが、快適に使用するためには1.1GHz以上のクロック周波数のCPUが推奨されている。


 開発元のMedioStreamは、「neoDVD」というキャプチャからオーサリング、DVD Video書き込みまでをサポートするツールも開発しており、DVD系では今後注目されるソフトメーカー。CAMpeg RTは、このneoDVDの簡易版というような位置付けにあるようだ。

 neoDVDは体験版もあるので、興味のある方は本社のページもチェックしておくといいだろう。Electric Zooma!でも、近いうちに扱おうと思っている。


■ キャプチャはほとんどストレート

CAMpeg RT

 大まかな作業の流れとしては、まずリアルタイムエンコードソフトウェアであるCAMpeg RTで、IEEE 1394からのDVカメラの映像をキャプチャ。するとリアルタイムでMPEG-2ファイルができるので、それをMyDVDでオーサリング、書き込みを行なう、といった手順だ。

 ソフトウェアDVDプレーヤーのPowerDVDは、これを使ってビルドしたイメージファイルの確認を行なうといった用途にも使えるが、実際にはパソコン内にソフトウェアMPEG-2デコーダをインストールするためにある。デコーダがなければ、MyDVDのようなオーサリングツールで映像を確認することができないからだ。


 では早速キャプチャしてみよう。CAMpeg RTは、キャプチャ/エンコーダとしては拍子抜けするほど簡単なソフトである。独特な形状のウインドウには、プレビュー画面とDVカメラのコントローラ、レコーディングボタン、プレビューボタンがある。右側には設定とヘルプのボタンがある程度だ。

 まずキャプチャするディレクトリとファイル名を、右のファイルボタンで決める。後はカメラのコントローラからDVカメラを操作して欲しいシーンを出し、レコーディングボタンを押せば、それだけでMPEG-2へリアルタイムエンコードしながらキャプチャが始まる。もう一度レコーディングボタンを押すと、キャプチャが停止する。テープを流しながら、何度でもレコーディングボタンを押すことが可能だ。

設定と言っても、全然難しくはない

 次にCAMpeg RTの設定を見てみよう。設定と言ってもたいしたものはないのだが、「DVD用」をチェックすると、GOPごとにシーケンスヘッダを付加してくれる。オーサリング時にトリミングしたりチャプタを打ったりするには必要なオプションだ。

 「連続パスでデータを上書き」は書き方がややこしいが、このチェックを外すと、録画ボタンを押すたびに、現在記録しているファイルの後ろに追記していく。チェックを入れると、レコーディングボタンを押したときにファイルの最初から上書きする。

 ビットレートの調整は、画質やファイルサイズに関係するので重要なポイントだが、画面写真を見てわかるように何の単位もないスライダで設定する。スペックを見ると2~5MbpsのVBRとあるので、スライダの右端が5Mbps、左端が2Mbpsということだろう。

 しかし、どう考えてもこの「ビットレートのエンコード」という表示は、「エンコードのビットレート」の間違いだと思う。

 ここではエンコードのクオリティを見るため、スライダの右端、センター、左端に設定してキャプチャしたサンプルを掲載する。なにせテープからそのまま録るしかできないので編集もなにもしていないが、勘弁していただきたい。

【MPEG-2形式】
3段階のクオリティサンプル画像。赤枠の部分を等倍で切り出した。画質とファイルサイズがリニアに変動していることがわかる
スライダの左端
cap03.mpg(8.61MB)
スライダの中央
cap02.mpg(11.7MB)
スライダの右端
cap01.mpg(18.7MB)

MPEG-2の再生環境はビデオカードや、ドライバ、OS、再生ソフトによって異なるため、掲載したMPEG-2画像の再生の保証はいたしかねます。また、編集部では再生環境についての個別のご質問にはお答えいたしかねますのでご了承下さい。

 CAMpeg RTのキモは、このような簡単なインターフェイスと、比較的低いCPUパワーでもそれなりに動く、というところだろう。一応566MHzから動作可能であるので、ノートパソコンあたりでも、キャプチャ可能レンジに入ってくるマシンは多い。DVキャプチャに比較すればファイルサイズも小さくなるので、そのメリットは少なくないのではないだろうか。

 ただCAMpeg RT上にはDVテープのタイムも表示されないし、IN点OUT点の設定もない。当然バッチキャプチャ機能もない。ハイエンドなビデオ編集環境を知っている人にはなんとも物足りないと思うが、世の中にはタイムコードとは無縁の生活を送っている人も沢山いるわけで、ってかそう言う人の方が圧倒的に多数なわけで、そういう方々にとってはこのぐらい簡単なほうがいいのかもしれない。

 いや、もちろんそういった初心者にも優しいツールというのが必要であることは十分に理解できる。しかし、「初心者用だからこのぐらいでいいだろう」という方向性でいいのだろうか。そのあたりには疑問を感じる。

 例えばDVカメラのコントロールにしても、早送りボタンを押すと映像が見えなくなって早送り状態になる。しかしこれで初心者が、使えるのだろうか。DVテープはかなりのスピードで動くので、映像を見ながらのサーチができないと、欲しいところの映像の頭出しはまずできないのではないかと思う。まあ、DVカメラ/デッキのモニタで確認しろということなのだろうが、せっかくPCでやっているのになんかスマートじゃない。

追記したファイルでは、スライダが端に来てもまだ再生を続ける

 また正直言って、ソフトウェア的な作りが荒いところも気になった。例えばレコーディングボタンをON/OFFして追記を行なったMPEG-2ファイルを再生してみると、最初に止めたところまでのタイムゲージしか表示されない。トータル時間も、最初に止めたところまでのタイムになっている。再生すると時間軸に沿ってスライダが右へ進むわけだが、最後尾まで行ってさらにその後に追記したデータがある感じなのだ。

 再生を止めてマウスでスライダを動かすと、一応全部のシーンにアクセスできるのだが、操作と結果のつじつまをあわせるというのは、基本ではないかと思う。



■ これがMyDVD?

DVDit! とそっくり同じなMyDVD

 キャプチャしたファイルをオーサリングするために、MyDVDを起動……あ、間違えてDVDit!を起動してしまった……。あれ、ちょっとまてい!

 CAPMeg RTに付属するMy DVDはバージョン2.3であるが、これがなんとDVDit!とそっくり。違うのはテンプレートの背景やボタンなどの絵柄と、メインウインドウにあるMyDVDのロゴぐらいで、その他は全く同じなのである。


 先日、リコーのDVD+RWのレビューをお届けしたが、そのDVD+RWに付属していたのは、新バージョンのMyDVD 3であったようだ。今までMyDVDは日本で発売されたことがなかったため、旧バージョンがDVDit!と全く同じであったとは筆者も知らなかった。

 素材を登録して調べてみると、チャプタが打てない、オーディオのオプションがないといったところから、MyDVD 2.3はDVDit! LEと同等の機能のようだ。DVDit! LEはOME版しか存在しないわけだが、これを市販化したものがMyDVDであったということだろう。これなら確かにソニックソリューションズが判断したように、OEMで手に入るDVDit! LEがあれば、同機能のMyDVDをわざわざ併売する意味はない。

 MyDVD 3と違ってこのバージョンでは、メニューの構築などにはある程度の自由度があるが、映像素材に対してトリミングができない。つまり、このDVD製作工程では、どこまでいっても映像を整理するところがないということになる。


■ 総評

 映像をDVDにするということは、大げさかもしれないが現状では「数年後の自分のために保存する」という作業なのではないだろうか。こうして残すのであれば、さらにオリジナルのメディアは処分してしまうというのであれば、オリジナルと遜色ない画質できちんと整理した状態で残したい。しかしCAPMeg RTでは、DVテープからのキャプチャではおおざっぱにしか使いどころが決められないし、MyDVDでは映像のトリミングもできない。ただ右(DV)から左(DVD)にメディア変換を行なうだけである。

 編集というような大げさな話ではないが、せめてNGシーンのカットぐらいはキャプチャ時の一発勝負ではなく、ちゃんとアンドゥできる状態で作業したい。せっかくパソコン使ってるんだもの。

 いや、CAMpeg RTのニュースリリースを見たときには、まさか編集もなにもせずにただそのままDVDに焼くだけというソリューションが存在するとは思ってもみなかったのである。そう言う意味ではまさに意表を突く製品ということはできる。

 米国では、現状のままでファミリーユースとして十分にニーズがあるのかもしれない。また日本でも、単にDVからDVDにコピーできればそれで十分というユーザーがいないわけでもないだろう。だが、日本のメインのユーザー層はちょっとこういうマーケットとは違うような気がしてしょうがないのであるが、どうだろうか。

□MSAのホームページ
http://mf.msa.co.jp/
□「CAMpeg RT」の製品情報
http://mf.msa.co.jp/mediostream/campegrt/index.html
□関連記事
【9月5日】MSA、DVからリアルタイムMPEG-2変換できるソフトエンコーダ
―IEEE 1394カードやMyDVDとセットで実売16,800円
http://av.watch.impress.co.jp/docs/20010905/msa.htm

(2001年10月10日)


= 小寺信良 =  無類のハードウエア好きにしてスイッチ・ボタン・キーボードの類を見たら必ず押してみないと気が済まない男。こいつを軍の自動報復システムの前に座らせると世界中がかなりマズいことに。普段はAVソースを制作する側のビデオクリエーター。今日もまた究極のタッチレスポンスを求めて西へ東へ。

[Reported by 小寺信良]


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ウォッチ編集部内AV Watch担当 av-watch@impress.co.jp

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