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第26回:マニアックな特典がたまらない
音楽CD付きの「テルミン コレクターズBOX」

 怒涛のように発売されつづけるDVDタイトル。本当に購入価値のあるDVDはどれなのか? 「週刊 買っとけDVD!!」では、編集スタッフ各自が実際に購入したDVDタイトルを、思い入れたっぷりに紹介します。ご購入の参考にされるも良し、無駄遣いの反面教師とするも良し。「DVD発売日一覧」とともに、皆様のAVライフの一助となれば幸いです。


■ 買い得感ある「コレクターズBOX」

テルミン コレクターズBOX
価格:7,800円
発売日:2002年2月22日
品番:AEBF-10100
仕様:片面1層2枚組み+音楽CD1枚
収録時間:約82分(本編)
画面サイズ:4:3
字幕:日本語字幕
音声:英語(ドルビーデジタル2ch)
発売・販売元:アスミック・エース エンタテイメント

 今回買ってきたのは、アスミック・エース エンタテイメントの「テルミン コレクターズBOX」。初の量産電子楽器「テルミン」を発明したレフ・セルゲイヴィッチ・テルミン博士の数奇な生涯を追いかけたドキュメンタリーで、監督は無名のスティーブ・M・マーティン。

 テルミン演奏家のクララ・ロックモアから博士の話を聞いた彼は、その場で「映画にせねば」と思いたったそうだ。作品はめでたく新人監督の登竜門、サンダンス・フィルム・フェスティバルで「ベスト・ドキュメンタリー賞」を受賞。'93年の公開作だが、日本では2001年8月11日に公開されている。

 電子楽器の源流ともいえるテルミンがテーマなので、その昔ちょっとだけシンセ少年だった私は、この作品に強く心を打たれた。同時に、シンセの生みの親であり、敬愛するロバート・モーグ博士も劇中で大活躍している。DVD化された暁には「ぜひとも発売日に購入せねば」と心に決めていたのだ。

 DVDは、本編のみの通常版(4,700円)とコレクターズBOX(7,800円)の2種類が出荷されている。コレクターズBOXは、特典ディスク1枚と音楽CD1枚が同梱された3枚組み。

 特典ディスクは、同じく2月22日に発売された「テルミン演奏のすべて~クララ・ロックモア&リディア・カヴィナ~」(3,800円)と同じ内容だ。このディスクには、クララとモーグ博士の会食風景を中心にした「テルミンのミューズ」に加え、世にも珍しいテルミンの教則ビデオ「テルミン演奏の基礎」が収録されている。

 一方、付属の音楽CDは、その名も「アート・オブ・テルミン」(2,400円、RBCE-1008)というもの。個人的にもずいぶん前からそれとなく探し続けていた作品だ。テルミン演奏の代表的な1枚で、演奏者はクララ・ロックモア。ピアノを伴奏にラマニノフなどの小曲を演奏しており、おそらくクララの演奏としてはもっとも有名な、サン・サーンスの「白鳥」も入っている。

 これらの特典を普通に買うと、DVD「テルミン演奏のすべて」が3,800円、音楽CD「アート・オブ・テルミン」が2,400円になる。これに「テルミン」通常版の4,700円をあわせると、合計10,900円。となると、コレクターズBOXの7,800円という価格は、興味ある人にとって非常に廉価な設定といえるだろう。「アート・オブ・テルミン」を購入するチャンスということもあり、今回は迷うことなくコレクターズBOXを手にした。


■ そもそもテルミンとは

 映画ファンならテルミンをご存知の方も多いだろう。古いSF映画やホラー映画でおなじみの音である。アルフレッド・ヒッチコックの「白い恐怖」、ビリー・ワイルダーの「失われた週末」、ロバート・ワイズの「地球が静止する日」など、挙げればきりがない。DVD化がこのほど決まった「未知との遭遇」もだ。しかし、演奏者の数が少ないこともあってか、知らない人はまったく知らないらしい。

 演奏法は、筐体から突き出た水平・垂直の2本のアンテナに向けて、中空に「手をかざす」ことで行なう。劇中にも演奏風景が出てくるが、その光景は摩訶不思議なもの。虚空を爪弾く演奏者の姿に、初めて見る人は何かのトリックかと思うかもしれない。それが普及しはじめた'30年代の昔なら、なおさらだろう。

 発音はモノフォニックで、音域は4オクターブ半ほど。通常、電源を入れるとずっと一定の音量・音程で発音し続ける。垂直アンテナに手を近づけるとピッチが高くなり、水平アンテナに手を近づけると音が小さくなる。この2種類の変化を組み合わせて演奏するのだが、手と垂直アンテナとの距離は1mもないくらいだろうか。この距離で4オクターブ半の音階を正確に演奏しなければらない(7オクターブ以上のテルミンも存在するそうだ)。しかも、鍵盤やフレットといった、音階を視覚的に確認するものがまったくなく、空間を音程に置き換えて演奏することになる。「最も習得が難しい楽器」とされるのはそのためだ。

 出てくる音も非常に個性的。低域はチェロに似ているが、高域になるに従って女性の声のように変化する。最も印象深いのが、特に高域で感じられるピッチの不安定さだ。古いSF映画やホラー映画で使われてきたのは、大きなビブラートとこの不安定さによるものだろう。

 なお、テルミンの原理は単純だ。スイッチの入ったテルミンの周囲には、常に電磁場が形成されている。磁場中の静電容量に変化が起こると、本体内の2つの高周波発振器に周波数差が発生、それが出力されて音になる。磁場に干渉し、静電容量を変化させるのは演奏者の手だ。

 なお、テルミンは本体にアンプやスピーカーを内蔵していないため、別途モノラルアンプとスピーカーが必要になる。端子は標準プラグが一般的だ。本格的なテルミンを提供するメーカーは少なく、現在のところBig Briarのみといっていいい。国内にも輸入代行を行なう楽器店があるそうだ。


■ 淡々としたインタビュー映像が胸を打つ

 作品は、テルミン博士と行動をともにした人々へのインタビューで進行する。テルミンが登場した当時のインパクトや、映画音楽との関わりなどが淡々とつづられる中、テルミンの仕組みや魅力が語られる。真空管式のテルミンの内部を開けて、構造を説明するパートもある。ファンにはちょっとこたえられないシーンだろう。

 劇場から2度目となる今回の視聴では、テルミンというハード以上に、テルミン博士の人間性豊かなエピソードが興味を誘った。彼を撮った当時の写真も数多く映し出されるが、どの場面も自信と精気に満ちている。かのRCAにテルミンのパテントを売り、彼は恵まれた研究生活を続けていくはずだった。

 しかし、博士の突然の失踪により、ストーリーはいきなり暗転。この失踪は、KGBによる拉致ともいわれている。ソ連に戻った博士はスターリンの粛清に巻き込まれ、いわれのない罪で逮捕、投獄される。安否が確認できない西側社会では、博士を失踪した'38年に死んだものとし、その存在を忘れた。その後、収容所や秘密研究所を点々とした博士は、'56年にやっと名誉を回復している。渡米してからの輝かしい時代とは一転、まさに、不遇な後半生といわざるをえない。

 作品中には、テルミン博士本人へのインタビューも収録されている。公開年('93年)と彼の没年を照らし合わせると、ほとんど亡くなる直前の映像だろう。かつての自信に満ち溢れた姿はうかがえないものの、97才とは思えない元気な姿を見せてくれる。実際、公開の翌日に死去したそうなので、この作品は非常に貴重な映像となったわけだ。

 なお、作中にはテルミンを自分の作品で愛用したアーティストへのインタビューも収録されている。出演者は、音楽プロデューサのトッド・ラングレンや、ビーチ・ボーイズのリーダー、ブライアン・ウィルソンなどだ。ビーチ・ボーイズのヒット作、「グッド・バイブレーション」の作成秘話なども聞けるので、ロック・クラシックファンにも楽しめる内容だろう。


■ 画質と音質

DVD Bit Rate Viewerで見た本編のビットレート

 本編映像の平均ビットレートは6.59Mbps。元ソース自体もざらついているため、とてもきれいとはいえない画質だ。しかし、それが「昔のインタビュー映像」という雰囲気を出しており、テルミンというテーマの古い作品にはこれがベストなのかも知れない。私自身、最初の数分を過ぎると、まったく気にならなかった。

 収録音声はドルビーデジタルの2chのみで、日本語吹き替えはない。ビットレートは448kbpsとなっている。せっかく楽器をテーマにした映画なのだから、リニアPCMでの音も聞いて見たかった。しかし、テルミンの微妙な音の変化は充分に感じ取れるだろう。


■ 作品の理解を深めてくれる特典

 特典の「テルミンのミューズ」は、クララ・ロックモアの演奏が中心となる記録映像もの。モーグ博士の解説によると「ビデオが出たばかりの頃に撮った」という作品で、倉庫に眠っていたものを復元したという。状態はかなり悪く、本当に初期のホームビデオを思わせる画質だ。音質もひどく、せっかくの演奏が台無しである。ただし、テルミンを前にしたクララの解説はとても楽しかった。この特殊な楽器が、いかに表現力あるものなのかが良くわかる。

 さらにテルミンについて知りたければ、同じく特典ディスク中の「テルミン演奏の基礎」を見ると良い。いわゆる教則ビデオで、演奏者はテルミン博士のいとこの孫にあたるリディア・カヴィナ。発音原理だけでなく、ビブラート、スタッカート、クレッシェンドといった実践的な演奏法を示してくれる。

 最後に、音楽CDの「アート・オブ・テルミン」について。シンセフリークには非常に有名なアルバムだが、確かにすごい内容だ。テルミン演奏の難しさや表現力の豊かさを映像で見たばかりなので、1音1音に息を呑んでしまった。むしろ、この音楽CDこそが、本コレクターズBOXの主役なのかもしれない。

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□アスミック・エースのホームページ
http://www.asmik-ace.co.jp/
□製品情報(パイオニアLDC)
http://211.5.138.75/pldcgoods/FMPro?-db=pldcgoods&-format=record_detaile-dvd.htm&-lay=data&-recid=12620916&-find=
□映画「テルミン」公式ホームページ
http://theremin.asmik-ace.co.jp

(2002年3月8日)

[orimoto@impress.co.jp]


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ウォッチ編集部内AV Watch担当 av-watch@impress.co.jp

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