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第4回:エプソン初の本格派ホームシアターモデル
~ ワイドXGAパネル搭載の「エプソン ELP-TW100」 ~

 エプソン「ELP-TW100」は本連載で紹介した「ELP-TS10」の上位機に当たる製品だ。今回は、ELP-TW100のポテンシャルに迫るとともに、下位モデルELP-TS10との相違点についても触れていきたい。


■ 投射距離3.1mで100インチ(16:9)の投影が可能

エプソン初の本格派ホームシアター向けプロジェクタ「ELP-TW100」(オープンプライス)。実売価格は50万円前後
 本体には取っ手が取り付けられており、持ち運びに配慮がなされている。重量は4.2kg。占有面積はA4ファイルサイズノートPCよりもやや大きい程度。モバイルプロジェクタとはいえないまでも、移動や持ち運びが困難というわけではない。なお、筐体デザインおよび本体重量はELP-TS10とほぼ同一だ。

 100インチ(16:9)の投射距離は、最大ズーム時で3.1mと、小さめの部屋でも大画面が得られる。投射距離もELP-TS10と同等だ。

 ズーム制御、フォーカス調整はレンズ外枠の回転リングを回して行なうマニュアル式。ズームは最大1.35倍までで、これもELP-TS10と同一。おそらく光学エンジンはELP-TS10とほぼ同じと見て良さそうだ。あまりよくあることとは思えないが、ELP-TS10ユーザーがELP-TW100に乗り換える場合、設置環境をそのまま利用できることだろう。

 投影モードはフロント、リア、天吊りの全組み合わせが選択可能。標準でやや上向きの投影映像となるが、仰角自体はそう極端ではない。常設するならそれなりの高さの設置台を準備したほうがいい。

 ちなみに100インチ(16:9)投影時、レンズ位置よりも約17cm上に映像が投影される。本体を上下逆転させての天吊り設置もできるが、天吊り金具の高さも考慮するとかなり下に映像が出ることになる。天吊りを考えている人はこの点に注意する必要がある。

本体正面。正面にもリモコン受光部を備えている 基本機能が揃った操作パネル。ただし、いくつかの操作はシフトキーとの両押しになる RCAのコンポーネントビデオとDVI-Iに加え、アナログRGB、Sビデオ、コンポジットを装備

 ELP-TS10では水平垂直双方向の台形補正に対応していたが、ELP-TW100は垂直方向のみ可能。最大で±15度まで対応する。ただし、光学ではなくデジタルで処理するため、補正角度が大きくなるにつれ映像情報の欠落が多くなる。あくまで臨時に使用するものだろう。

 排気ファンの音はプレイステーション 2よりも少し大きい程度。視聴者がプロジェクタの近くにいる場合は少々気になる。天吊り設置して視聴者の背後に設置してしまえば、それほど気になることはないレベルだ。


■ 操作性、接続性チェック~一通りの接続端子を備えるが入力管理は難しい

メニュー呼び出しやアスペクト比切り替えなど、一部のボタンは自発光式。残りは蓄光で対応
 電源をオンからEPSONロゴが出るまで8秒、実際の入力映像が出てくるのはその10秒後。起動時間はクラス最高速レベルといえる。この早さならばテレビ代わりに気軽に利用することもできそうだ。

 リモコンは[Menu]、[Esc]、[Ptn]、[Aspect]、[Colortune]、[Power]のみ自発光式。それ以外は蓄光式となる。ELP-TS10では全ボタンが自発光式だっただけにやや不満だ。せめて、入力切り換えスイッチくらいは自発光式にして欲しかった。

 リモコンの操作性は良好。メニュー自体の操作性も直観的に行なえるので悪くない。入力切り換えスイッチは、自発光こそしないものの順送りではなく、ダイレクト切り替えが可能な独立ボタン式。そのほか、色調モードの切り換え、アスペクト比の切り換えといった使用頻度の高いボタンも独立にレイアウトされている。

 入力端子はコンポジット、Sビデオのほか、コンポーネントビデオ端子、D-Sub15ピン端子、DVI-I端子を装備する。D端子以外の一般的な映像端子を全て揃えているのは立派。D端子出力を持ったAV機器とは、市販のD端子←→コンポーネントビデオ変換ケーブルか、オプションのD端子←→D-Sub15ピン端子変換ケーブルを利用することで可能になる。しかし、BSデジタルチューナやプログレッシブDVDプレーヤーなどが半ば当然のごとくD端子を装備する時代なので、1系統くらいは標準装備してほしかった。

 もっとも、D-Sub15ピン端子に専用ケーブルで接続する必要のあったELP-TS10のコンポーネントビデオ入力に比べると、接続性が向上しているのは確か。なお、接続端子関連でELP-TS10とELP-TW100の相違点は下表の通り。

 ELP-TW100ELP-TS10
コンポーネントビデオ端子(RCA)×
MonitorOut端子×
音声出力端子×
USB端子×

 MonitorOut端子は入力されたアナログ信号をそのまま外部スルーするもので、プレゼン用途向きの端子。よって、なくてもそれほど実害はないはず。音声入力端子がないのはスピーカーを内蔵していないためだ。ELP-TS10の内蔵スピーカ-は簡易再生用で実用度が低くかったので、こちらもマイナスポイントにはならないだろう。MonitorOutも音声端子もないELP-TW100は、ELP-TS10よりもホームシアター指向を強めた設計がなされているということだ。

 接続端子について、もうひとつ整理しておきたい点がある。それはマルチユース兼用端子についてだ。ELP-TW100はコンポーネントビデオ端子を独立端子として実装しているが、相変わらず、接続端子の一部は2系統入力に対応したマルチユース兼用端子として機能する。

 ELP-TW100のD-Sub15ピン端子は、アナログRGB入力としても機能するし、変換ケーブルを用いることでコンポーネントビデオ入力もできる。また、ELP-TW100に搭載されたDVI端子はDVI-I端子なので、変換アダプタなどを利用すればデジタルのほかにアナログRGBを入力することができる。

 以上のような設計のため、リモコンの入力切り替えボタンのどれが、どの接続端子を切り換えのかわかりにくい。まず、[S-Video]ボタン、[Video]ボタンはそれぞれSビデオ、コンポジットビデオに対応する。ここまではいい。

 難解なのはここからで、[A]ボタンはコンポーネントビデオ端子、[B]ボタンはD-Sub15ピン端子に入力されたコンポーネントビデオ、あるいはアナログRGBを選択するものになる。そして[D-RGB]ボタンは、DVI端子に入力されたデジタルRGB信号を選択するもの、[A-RGB]ボタンはDVI端子に入力されたアナログRGB信号を選択するものとなる。

 直観的には[A-RGB]を押すとD-Sub15ピン端子の入力映像に切り換えてくれそうなイメージがあるが、違うのだ。この煩雑ともいえる入力端子系統は次期モデルで一度、整理する必要性があると感じる。


■ 画質チェック~ハイレベルな発色と画質、そして、とことんこだわれる色調調整モード

投影画像の拡大。100インチでの粒状感はほとんど感じられない

 光出力は公称値で700ANSIルーメンだが、850ANSIルーメンのTLP-MT4と並べて投影しても、同レベルの明るさを達成していた。蛍光灯照明下の部屋でも結構見える。

 液晶パネルは、解像度1,280×720ドットのアスペクト比16:9のものを採用。パネル解像度レベルで720pリアル対応ということになる。ドット形状はほぼ正方形で目立ったTFTの影も無し。ドットとドットを隔てる格子線はあるにはあるが、パネル解像度が高いこともあり目立たず、映像全体としてみても際だった粒状感はない。

 後述する色調モードでニュアンスが変化するが、全体としてコントラストは高め、色深度は深く色再現性も高く、グラデーションなどでマッハバンドが出ることもない。

 色調モードは「ダイナミック」、「シアター」、「ナチュラル」、「PC」、「sRGB」の5種類があり、ユニークなことに入力映像の種別によらずこの5つが選択できる。例えばコンポーネントビデオ端子の映像を見ているときにPCモードの色調モードも選択できるということだ。

 さて、各モードにて筆者が実際の映像を見た時には以下のような印象を持った。

 ELP-TW100は色調調整機能が充実しており、RGBの各色チャンネルレベルで調整が可能。具体的にはオフセット(暗部方向調整)、ガンマ(中間方向調整)とゲイン(明部方向調整)が全て各RGBレベルで調整できる。これとは別に黒レベル、白レベルの調整もでき、黒レベル調整は白レベルに影響を与えず行なえる。その逆もしかりだ。なお、RGB各色チャンネルレベルの調整はデジタルレベルで、白レベル/黒レベル調整はデジタル化する前のアナログ信号に対して適用される。

 色調調整して作り上げたオリジナル色調モードは、ユーザーメモリに登録できる。これは「調整マニア」にとっては嬉しい機能だといえる。ユーザーメモリは、なんと各入力ソース毎に6個まで、ELP-TW100は入力ソースが全部で6種類(マルチユース兼用端子も考慮)あるので合計で36(=6×6)モードの記憶が可能だ。

メニュー画面。左から「映像」、「高度な設定」、「設定」。高度な設定では、表示位置やIP変換の設定、ノイズリダクションの有無が選べる。(c)Disney Enterprises,Inc.

●映像系ソース~ハイビジョン映像も美しく表示

 すでに前段で触れたように、明るい映像作品は「シアター」、暗い映像作品は「ナチュラル」がお勧め。迷ったらその中間的な「sRGB」で見るといい。

 ELP-TW100には、3-2プルダウン方式にも対応したFaroudja製プログレッシブ化ロジック「DCDi」を内蔵しており、インタレース系映像ソースを美しくプログレッシブ表示する機構が備わっている。今回のテストにもパイオニアのプログレッシブ対応DVDプレーヤー「DV-S747A」を使用。ELP-TW100にて、DV-S747Aのプログレッシブ出力をオンにした状態の映像と、オフにした状態の映像を各種DVDビデオソフトを用いて見比べてみたが、その差の判別はほとんど不可能だった。DCDiの効果は高いといえる。

 このほかS-VHSデッキからのSビデオ映像も見てみたが、インタレース特有のちらつきや、走査線の水増し感もなく、液晶パネルに表示されていることを気づかせないほど、ジャギーが抑えられていた。

 設定メニューの「IP変換」、「動き検出」、「ノイズリダクション」といった設定項目でプログレッシブ化ロジックのカスタマイズが行なえるが、特殊な状況を除き、これを変更する必要はないだろう。変更したとしても微妙な雰囲気が変わるだけで画質向上には結びつかない。一般ユーザーはデフォルト設定でOKだ。

 BSデジタルチューナを接続し、1080iのハイビジョンソースを見てみたが、縦解像度が高い分、これまでこのコーナーで取りあげてきたどの機種よりも解像感が高かった。女性タレントの着ているニットの編み目も確認できるレベルにある。

 もちろん、1080iをプログレッシブ表示しようとすれば、パネル解像度として1,920×1,080ドット程度が要求される。その意味ではパネル解像度1,280×720ドットしかないELP-TW100はフルスペック表示できていないことになるわけだが、圧縮された感じはほとんどない。十分常用できるレベルだ。

●パソコン、ゲーム機~ビデオカードの16:9出力には非対応

 ELP-TW100はパネル解像度が1,280×720ドットなので、アスペクト比4:3のパソコン画面は960×720ドットで表示される。

 よって、拡大縮小なしでリアル表示できる最大解像度は800×600ドットまでとなる。これより下の640×480ドットでは、小さくリアル表示するか、960×720ドットに拡大表示するかを選択可能だ。一方、1,024×768ドット、1,152×864ドット、1,280×960ドット、1,280×1,024モードは圧縮表示となるが、画質は実用レベルに達している。なお、1,600×1,200ドット以上の解像度には未対応。

 非常に不満だったのは、アスペクト比16:9のDVI-D出力を受け付けてくれないという点。最近のパソコン用ビデオカードはアスペクト比16:9の画面モードをサポートしているものが多く、今回テストに使用したMATROX Millennium G550も、ELP-TW100のパネル解像度である1,280×720モードが出力できる。今回、この1,280×720ドットをELP-TW100にDVI-Dで入力してみたが、対応外信号として排除されてしまった。

 パネルリアル解像度の美しくて広いデスクトップ空間を利用したいと思うユーザーは多いはずだし、最近はパソコン用3Dゲームでも16:9をサポートするものが増えている。ぜひとも次期リビジョンでは、最低でも1,280×720ドットのDVI-D入力はサポートしてほしいと思う。

 ゲーム機の映像も残像等は全くなしで良好。プレイステーション 2のようなインタレース映像を入れてやると、IP変換機能が効き、しっとりした映像になる。見る人によっては「フォーカスが甘くなったような」印象を持つかもしれないが、イヤな場合はELP-TW100の設定側でIP変換機能をOFFにすればいい。

【DVDビデオ『ダイナソー』での投影画像】
 コンポーネント接続の投影画像をデジタルカメラ「COOLPIX995」で撮影した。ソースはDVDビデオの「ダイナソー」(国内版)。COOLPIX995の設定は、白飛びを防ぐため「コントラスト弱」にしている。

 撮影後、1,024×564ドットにリサイズし、下に掲載している部分画像を切り出した。部分画像をクリックすると全体(640×353ドット)を表示する。

(c)Disney Enterprises,Inc.

コンポーネント接続(RCA)
(ナチュラル)
コンポーネント接続(RCA)
(シアター)
デジタル接続(DVI-I)
(シアター)

視聴機材
 ・スクリーン:オーロラ「VCE-100」
 ・DVDプレーヤー:パイオニア「DV-S747A
 ・コンポーネントケーブル:カナレ「3VS05-5C-RCAP-SB」(5m)


■ その他~映像入力なしでテスト映像パターンを出力できる

 リモコンの[Ptn]ボタンを押すと、映像入力端子が全くない状態でも「テスト映像パターン」を投影することができる。プリセットされている映像は、フォーカス合わせとキーストーン(水平成分、垂直成分の直交)確認のための「クロスハッチ」、モノクロ階調や色温度調整に役立つグレースケールパターンの2種類。「こだわり派」向けのELP-TW100ならではの特殊機能だといえる。

 このほか、表示映像を任意のタイミングで静止できる「スティル機能」が搭載されている。画面を止めてメモを取りたいときなどに活用できるが、静止した映像を記録することはできない。

 一方、ELP-TS10にあった、主表示画面の一部に別ソース映像を小画面表示できる「ピクチャー・イン・ピクチャー機能」や、表示映像の任意の箇所を拡大表示できる「ズーム機能」は、ELP-TW100では省略されている。


■ まとめ

投射距離と画面サイズ(16:9)
※台形補正機能は使用せず、ズーム最短の状態
 派手目な特殊機能こそないが、映像機器の最重要機能ともいえる「画質」に関して高い完成度をもつため、非常に魅力的な製品となっている。調整項目も豊富で、調整内容を入力ソースごとに6個までメモリする機能もある。

 あえて不満点を上げれば、DVI-D接続時に16:9での入力が非対応となる点、マルチユース兼用端子が多くて入力ソースの管理がやりにくい点、ぐらいだろうか。

 読者の中には「ELP-TS10、ELP-TW100のどちらを購入したらいいか」と悩む人もいるかもしれない。両者の価格差は2002年6月時点で、ELP-TW100の方が約20万円高い。価格差の大部分は、採用パネル解像度の差と、DCDiの有無にある。

 ELP-TS10はパネル解像度こそ800×600ドットとELP-TW100には劣るが、画作り自体はELP-TW100に肉迫するものを持っている。単純に考えれば「その差」に20万円投資できるかどうかというのが判断材料となるはず。

 「プログレッシブDVDプレーヤーを持っていて(DCDiは活用しない)、DVDビデオ映像を楽しむのが主用途(800×600ドットで十分)だ」というのであれば、ELP-TS10でも問題なし、という判断もありえる。逆に、インタレースソースを高画質で見たい(DCDiを活用したい)、HDTV映像を実用レベルで映したい、といった願望があるのであれば、ELP-TW100を検討すべきだろう。

【ELP-TW100の主な仕様】
液晶パネル 0.87型ワイド1,280×720ドット
レンズ 光学1.35倍マニュアルズーム
光源 150W UHE
明るさ 700ANSIルーメン
コントラスト比 600:1
投影サイズ 30~300インチ
対応ビデオ信号 480i、480p、1080i、720p
対応RGB信号 VGA、SVGA、XGA、SXGA
映像入力 コンポーネント、S映像、コンポジット、DVI-I、アナログRGB
騒音 30dB
消費電力 240W(待機時6.7W)
外形寸法 348×274×104mm(幅×奥行き×高さ)
重量 約4.2kg

□エプソンのホームページ
http://www.epson.co.jp/
□ニュースリリース
http://www.epson.co.jp/osirase/2002/020121.htm
□製品情報
http://www.i-love-epson.co.jp/products/elp/elp_tw100/tw1001.htm
□関連記事
【1月21日】エプソン、ワイドSXGA液晶でホームシアター市場に参入
―ファロージャDCDi搭載、実売は50万円弱
http://av.watch.impress.co.jp/docs/20020121/epson.htm

(2002年6月20日)


= 西川善司 =  ビクターの反射型液晶プロジェクタDLA-G10(1,000ANSIルーメン、1,365×1,024リアル)を中核にした10スピーカー、100インチシステムを4年前に構築。迫力の映像とサウンドに本人はご満悦のようだが、残された借金もサラウンド級(!?)らしい。
 本誌では1月の2002 International CESをレポート。山のような米国盤DVDとともに帰国した。僚誌「GAME Watch」でもPCゲームや海外イベントを中心にレポートしている。

[Reported by トライゼット西川善司]


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ウォッチ編集部内AV Watch担当 av-watch@impress.co.jp

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