■ 不覚にも涙してしまった作品が早くもDVD化
世に「泣ける映画」は多いが、その中でも子供や動物をテーマにしたときの威力は抜群だ。最近、周りを見て気づいたのだが、ある程度年をとった独身男(自分を含む)の場合、「独り者のおっさんと小さな子供」というテーマに滅法弱い。多分、男やもめだけの傾向ではないのだろうが、普段映画を見て泣くような人でもないのに、「おっさんと小さな子供」だとぐっと来てしまう。そんなことを改めて感じてしまったのが、今回取り上げる「モンスターズ・インク」だ。 日本でも2002年3月に公開され、約100億円の興行収入を記録。ピクサーらしい美しいCGアニメーションはもとより、子供をおどろかせるためにクローゼットからやってくるモンスターたちが、実は人間の子供を極度に恐れているという斬新な設定にも話題が集まった。また、爆笑問題の田中裕二や、ホンジャマカの石塚英彦が主役2人の声を当てたことでも有名。 何よりも、今回はピクサーらしい心温まるストーリー展開がより冴え渡っていたのではないだろうか。周りにつられてしまったせいもあるが、いい年した独身男の私も、つい劇場で嗚咽してしまった。理由は冒頭で述べた通り。うまくツボを突かれてしまったわけだが、ピクサー作品特有の温かみや懐かしさが、これまで以上に感じられたせいでもある。個人的にもDVD化を最も待ち望んでいた1本だ。 そのDVD版は9月20日に発売。2枚組みの「スペシャル・エディション」(4,200円)と、イラスト集などのおまけがついた「DVDリミテッド・コレクターズ・ボックス」(16,000円)の2種類が発売された。コレクターズ・ボックスのおまけは、アロハシャツ、イラスト集、チョロQタイプのプルバックアクションカーなど。 このうちイラスト集は、単体で買うと3,800円もするという「The Art of Monsters, Inc」だ。私の場合、熱狂的ピクサーマニアというわけではないので、こういう機会でもないと入手することはないだろう。というわけで、購入当日はかなりコレクターズ・ボックスに心惹かれていた。しかし、DVDの内容自体に限れば、スペシャル・エディションとコレクターズ・ボックスの間に差はない。給料日前だったこともあり、今回は素直にスペシャル・エディションを買うことにした。
■ 音声表記のミスが発覚、しかし画質・音質は問題なし ディスクは本編と特典の2枚に分かれている。どちらも片面2層で、レーベルはピクチャー仕様。本編ディスクが主役級3人、特典ディスクが敵役、脇役のイラストだ。収録の仕様については、右上の囲みを参照されたいが、映像、音声ともに豪華な仕様となっている。 実はこのモンスターズ・インク、パッケージの音声表記が実際の収録仕様と異なることが判明している。ブエナビスタから正誤表が届いたので、以下に掲載しておく。
つまり、DTSが実はDTS-ES(マトリックス)だったようだ。DTS-ESは旧来のDTSデコーダでも5.1chで再生できるので、特に問題はないだろう。実際、非ES環境でも何の問題もなく再生できた。 ただし、製品の顔とも言えるパッケージの表記が間違っていたのは、購入者としてはなんとなく釈然としないものがある。確かに昨年来、実はドルビーデジタルEXだった、実はDTS-ESだったという例はよくある。こうした高次フォーマットは、いまのところ一部のAVマニアにしか訴求できない部分だが、やはりリリース元には正確な表記を望みたい。 この正誤表はすでに各販売店に配布されており、購入者へは正しい表記を手渡すなど告知を行なうという。また、同じく9月20日に再販された「バグズ・ライフ」にも音声の表記ミスがある。こちらは、「日本語(2.0ch)」とするところが、誤まって「日本語(5.1ch)」と表記されている。DTS-ESをDTSに間違っても大きな問題は起きないだろうが、2chを5.1chと記すのはかなり深刻だ。バグズ・ライフの購入予定者は気をつけていただきたい。 さて、本編の音声ビットレートは、ドルビーデジタル5.1chが448kbps、DTS-ESが768kbps、日本語吹き替え(ドルビーデジタル5.1ch)が384kbps。ドルビーデジタル、DTS-ESともに、微細な環境音による包囲感、LEFの切れ、アニメーション作品ならではのセリフのクリアさといった点に感心した。両者を比べると、DTS-ESの方がさすがにダイナミックレンジが広い。特に、CDTが用いるバリアや消毒器などの効果音が迫力を増す。 なお、田中、石塚両人の吹き替えだが、これが非常にうまい。ぜんぜん違和感がなかった。オリジナル版のマイクを担当しているビリー・クリスタルにぜんぜん引けをとっていない。この作品の吹き替え版を見るのは今回が初めてだが、思わず最後まで見続けてしまった。 次に画面だが、なぜか日本盤では4:3になっていたトイ・ストーリー2とは違い、ちゃんとビスタサイズのスクイーズだ。Bit Rate Viewerで見た平均ビットレートは7.6Mbpsと高レートで、5Mbps以下に落ち込むことがほとんどない。ノイズ、色のり、輪郭、何の不満も感じなかった。例のサリーの体毛(300万本だそうだ)も、ほとんどくずれることなく表示されている。たまに毛の1本1本がかさついて見えることがあったが、個人的には気にならない範囲。大画面に十分耐えうる画質だろう。 この作品の大きな魅力は、究極的に美しいCGにあると思う。その映像をDVDでも再現できているところが、購入して何よりもうれしかった点だ。
■ 盛りだくさんの特典内容 コレクターズ・ボックスは必要ない? 特筆すべきは、CGアニメーション「フォー・ザ・バーズ」の収録だろう。これは、モンスターズ・インク本編の前に上映された3分29秒の短編アニメで、2001年アカデミー賞の短編アニメ賞を受賞した。監督はトイ・ストーリーなどに関わったラルフ・エッグルストン。DVD版には彼の音声解説も収められている。 また、新作として「マイクとサリーの新車でGO!」(3分54秒)が収録されている。こちらには本編の共同監督の息子2人、ニコラス・ドクターとレオ・グールドが音声解説を務めている。正確な年齢は不明だが、おそらく小学生の低学年ぐらいか。はじめは「CGで水を描くのは難しい」などともっともらしいことを語る2人が、「前にせっけんを飲んじゃったけど、ジュースを飲んだら平気になった」と、意味のない脱線をしてしまうのがほほえましい。 興味深いのは、フジテレビ系の「ポンキッキーズ21」内でマイクとサリーが出演したシーンだろう。収録するのは、「ジャカジャカジャンケン」と「ラッキー・コニー・ドア」。公開時のPRの一環なのだろうが、CGキャラクターならではのプロモーションが興味深い。
■ 家族で楽しめる良作、買い得感は高い 最後に、AV Watchの読者諸兄にぜひ体験して欲しいのが、特典中の「バイノーラル録音」だ。ご存知の方も多いと思うが、バイノーラル録音とは、ダミーヘッドの耳の位置に無指向性マイクを設置して録音する方式。ヘッドフォンで聴くと、ステレオ録音のような頭内定位がなく、高い臨場感を得られるというもの。ソース自体はかなりの数を入手可能だが、「何も買ってまで……」と二の足を踏んでいた方も多いと思う。 ディスクにはバイノーラルで録音された2人の人間の会話と、クラシック曲が収められている。ちゃんとスタジオで録音したものなので、質は高い。モンスターズ・インクとバイノーラル録音の関係が不明で、なぜ収録されているのか良くわからないが、興味のある方は試してみてはいかがだろうか。
□ブエナビスタのホームページ(ディズニービデオ) (2002年10月4日)
[furukaa@impress.co.jp]
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