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第91回:新コンセプト・サンプラー「VariOS」の実力


 以前、このコラムでRolandの2003年春の新製品を紹介した。その中の目玉の1つが「VariOS」(バリオス、店頭予想価格14万円前後)という新コンセプトのサンプラーだ。

 今回、RolandからVariOSを借りることができので、その実力をチェックした。


■ フォルマント制御が可能な「VariPhrase」に対応

VariOS
 VariOSのカタログを見ると、サブタイトルに「VariPhraseの高度なオーディオ・フレーズ編集を可能にするプロセッサーとソフトウェアのパッケージ」とある。VariPhraseを知っている人なら理解できると思うが、普通の人には何をどうするものなのか、さっぱりわからないのではないだろうか?

 リアパネルにUSB端子が搭載されており、「プロセッサとソフトウェアのパッケージ」というくらいだから、「コンピュータと接続するのか?」という程度までは理解できる。

 今回のコラムのタイトルを「新コンセプト・サンプラー」としたが、要するにVariOSはサンプラーの一種である。しかし、Rolandのカタログなどには「サンプラー」という文字はほとんどなく、「ソフト・シンセ/サンプラーのような直感的な操作性」と書かれている程度。RolandはこのVariOSに強いこだわりを持っており、普通のサンプラーと一括りにされることを強く嫌っているようなのだ。では、従来のサンプラーとVariOSの違いとは何だろうか。

 説明の前に、「VariPhrase」というキーワードに触れておこう。VariOSはRolandの独自技術であるVariPhraseに対応したプロセッサであり、製品化されたものとしては、2000年に発売された「VP-9000」に続く2製品目に当たる。すでにVP-9000は生産終了しているので、VariOSがその後継という位置付けだ。

 そのVariPhraseはRolandの開発した技術で、「キャプチャしたオーディオ・フレーズ(ウェーブ)をいくつかのアルゴリズムを持つエンコーディング・メソッドにより、ピッチ(音程)、タイム(演奏時間)、フォルマント(音色の質/キャラクター)という音を構成する3要素を解析・抽出。これらを独立してリアルタイムにコントロールするもの」である。

 一般のサンプラーの場合、ピッチとタイムのをみコントロールできるが、VariPhraseではフォルマントという概念が加わっている。これは音程も音長もそのままでありながら、男性のボイスを女性に変えたり、さらに別の雰囲気の声に変えることなどを可能にしたもの。もちろん、フォルマントが加わっただけでなく、ピッチやタイムについても、普通のサンプラーよりもさらに自由度が高くなっている。

背面


■ サンプルのスライスやループデータのシーケンスが可能、

VariPhraseのコントロールソフト「V-Producer」
 では、実際にVariOSを使いながら、VariPhraseの面白さを紹介していこう。

 VariOSはラックマウント型のモジュールだが、コンピュータと接続することを基本としており、単体ではほとんど操作できない。コンピュータはWindows Me/2000/XPとMac OS(OS Xには非対応)をサポートし、コンピュータ側には「V-Producer」というソフトをインストールして使うことになる。

 一番最初に何をするかというと、まず最も基本的なことはコンピュータからVariOSへウェーブデータを転送すること。新コンセプト・サンプラーと言ったが、VariOSは単体ではサンプリングできず、コンピュータ側でWAVやAIFFなどのウェーブデータを用意し、これをUSBで転送して用いる。内蔵のメモリは46MBあるので、結構大きなデータでも収録可能。もっとも転送に用いるのはUSB 1.1なので、それなりの時間はかかる。3MB程度のものを送るのに、そのほかの処理時間も含めると15秒弱かかった。

 なお扱えるフォーマットは16bit/44.1kHzが基本。データさえ転送すれば、外部のキーボードなどを接続して、サンプラーとして演奏することも可能。この際、本体にあるPITCH、TIME、FORMANTというパラメータを変えることで、音に変化をつけられる。

 しかし、これだけでは単なるサンプラー。面白いのはここからだ。転送すると、V-Producerの画面上には、そのデータがSample Listというところに並ぶ。このリストの中で波形を選んだ後、右側に表示されているパラメータ群を調整すると、その音をシンセサイザーのように変化させることができる。まあ、ここまでもサンプラー的なものである。

VariOSへのファイル転送設定 左側にSample Listを表示
 ここで、画面上を見てみるとシーケンサのトラックのようなものが6つ並んでいることに気づくだろう。まさに、これはトラックであり、リストにあるデータをドラッグ&ドロップでトラック上に持っていくと、そこに波形を置くことができる。この際、テンポは自動的にV-Producer上で設定されているものに揃えられるため、まったく異なるテンポの別のフレーズを並べても、ピッタリのリズムで整えられる。つまり、ACIDのようなものであり、ループデータを並べるだけで曲が作れてしまうのだ。

 ただし、VariOSの場合、ハードウェアで各処理を行なうため、それを制御するV-Producerでは最大6トラックという仕様になっている。また、同時発音数は14まで。ここだけを見ると、ソフトですべてを行なうACIDのほうがいいじゃないか、と思う人もいるだろう。確かに、単にループデータを並べていくだけならACIDのほうがいいかもしれない。しかし、ハードウェアも用いるこのVariOSでは、ACIDなどにはできない強力な機能が用意されている。

「VariTrack」にループデータを並べ、曲作りも行なえる

ループフレーズ内で音程変更が可能

 まず、ループフレーズ内で音程を変更できる。たとえば、ドレミと歌っているボーカルを、ドソファにすることも可能。さらに、このように変更した音を重ねて和音にするといったこともできる。つまり、一人で歌った歌をコーラスにしてしまうこともできるのだ。また、前述したとおり、VariOSの基本テクノロジであるVariPhraseには音程=ピッチだけでなく、タイム、フォルマントというパラメータがあるので、これらを利用すれば、男性ボイスと女性ボイスのコーラスを作ることも簡単にできてしまう。ここまで来ると、ACIDにもサンプラーにもできない世界に入ってくる。

 ここで説明したのはPhrase Scopeという編集画面を用いてのエディットだが、これとは別に「Groove Scope」という編集画面も用意されている。これを利用すると、またずいぶん違うエディットが可能となる。ここでは、1つのフレーズをいくつかに分割(スライス)し、その順序を自由に変えられるというもの。たとえば、ドラムフレーズをスライスして、順番を並び替えることで、まったく違うフレーズを作り出すこともできる。

 このスライス自体は波形編集画面で行ない、アタックを自動的に検出することで、リズム系の音を簡単にかつキレイにスライス可能。あたかも、Propellerheadの「ReCycle!」のような機能だ。このように分割すると、それぞれのスライスがMIDIのノートナンバーに割り振られるため、外部のMIDIキーボードからそれぞれのサウンドをリアルタイムに鳴らすことも簡単である。

Groove Scope スライスが可能な波形編集画面

 V-Producer上に並ぶ6つのトラックはそれぞれ独立して扱うことができ、VariOSの内部的にはミキサーでそれぞれを統合することになる。このミキサーは、V-Producerからもコントロール可能だ。また、ここで各トラックにエフェクトをかけることもでき、それらのコントロールもV-Producerからできる。

 さらに、このミキサーを介してVariOSに内蔵されたエフェクトのコントロールも行える。具体的にはリバーブ、コーラスとともにマルチというエフェクトが用意されており、マルチはモードを切り替えることで、EQ、フランジャー、ディレイ……とさまざまなエフェクトとして利用することができる。まさにオールインワンのモジュールとなっている。

V-Producer上のミキサー「VariOS Mixer」 エフェクタもV-Producerからコントロールできる


■ 使い勝手は向上、しかし今後ハードウェアである必然性は薄くなる

初のVariPhrase対応モデル「VP-9000」
 ここまで、VariOSに概略について見てきたが、だいたいのニュアンスを理解いただけただろうか?

 VP-9000に比べるとコンパクトになり、使い勝手も良くなった。というのも、VP-9000にはUSB端子がなかったため、ZIPドライブを介してコンピュータとやりとりするしかなく、非常に使いにくかったからだ。またV-Producerの機能もずいぶんと進化している。

 ただ、これだけコンピュータのCPU速度が速くなってきた今、ハードウェアでVariPhraseを実現する必要があるのか? という疑問も浮かんでくる。いまやサンプラーもソフトウェアサンプラーの方が高性能な時代。またACIDなどループシーケンサもいろいろとあるため、どこまでハードウェアが必要なのかが難しくなってきている。確かに、演算をすべて外部に任せられるVariOSなら、コンピュータ側のCPU負荷はかからないし、同時発音数やエフェクトを増やしても動作が重くなることはない。また、ハードウェア音源であるだけに、外部のキーボードを弾いてからのレスポンスも速く、気持ちのいい演奏ができる。

 ただし、音の出力はあくまでもVariOSから出ているわけで、その出音をコンピュータ側で自動的に取り込むことはできない。必要であれば、別途コンピュータのオーディオインターフェイスに接続し、波形編集ソフトなどを用いて取り込むしかない。

 まあ、現状これをストレスなく利用するためには、ハードウェアが必要なのかもしれないが、近い将来、すべてがソフトウェア化してしまう時代がやってくるのだろう。


□ローランドのホームページ
http://www.roland.co.jp/
□製品情報
http://www.roland.co.jp/synth/q_VariOS.html
□関連記事
【1月27日】【DAL】Roland「サウンドパーク2003」で発表された春の新製品
http://av.watch.impress.co.jp/docs/20030127/dal85.htm

(2003年3月10日)


= 藤本健 = ライター兼エディター。某大手出版社に勤務しつつ、MIDI、オーディオ、レコーディング関連の記事を中心に執筆している。以前にはシーケンスソフトの開発やMIDIインターフェイス、パソコン用音源の開発に携わったこともあるため、現在でも、システム周りの知識は深い。最近の著書に「ザ・ベスト・リファレンスブック Cubase VST for Windows」、「サウンドブラスターLive!音楽的活用マニュアル」(いずれもリットーミュージック)などがある。また、All About JapanのDTM・デジタルレコーディング担当ガイドも勤めている。

[Text by 藤本健]


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ウォッチ編集部内AV Watch担当 av-watch@impress.co.jp

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