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第110回:統合型スタジオソフトウェアへと進化した
「FL STUDIO 4 PRODUCER EDITION」を検証する


 ベルギーのImage Line Software BVBAが開発する「Fruity Loops」というソフトをご存知だろうか? もともとリズムマシンソフトのようなものだったのがだんだんと進化し、様々なソフトシンセ機能、パターンシーケンス機能、そしてオーディオ機能やミキシング機能まで備えるようになり、その最新版が「FL STUDIO 4」という名前になった。

 正確には「FL STUDIO 4 PRODUCER EDITON」と「FL STUDIO 4 FRUITYLOOPS EDITION」という2つのバージョンに分かれている。今回は、上位バージョンのPRODUCER EDITONを紹介する。


■ 統合型スタジオ環境へと進化したFruity Loops

FL STUDIO 4 PRODUCER EDITON

 Fruity LoopsはRolandのレトロ機材である「TR-808/909」や「TB-303」のような機能を実現するオンラインソフトとして登場した。その後サンプラー機能を備えたり、エフェクト機能を追加しながら独自の進化をし、途中のバージョンでは「Fruity Loops Express」という簡易版が作られ、国内でも「SONAR 1.0」の下位バージョンである「Cakewalk PLASMA」や「Cakewalk Home Studio 2」にバンドルされたこともあった。

 そして、その最新版が国内でも8月1日にフックアップから発売された。今回のバージョンから名称が大きく変更になるとともに2ラインナップとなり、上位のFL STUDIO 4 PRODUCER EDITON(29,800円)、下位のFL STUDIO 4 FRUITYLOOPS EDITION(19,800円)となった。

 2つのバージョンの違いは下表の通り。PRODUCER EDITIONでは、オーディオトラックを利用できたり、波形エディタ機能やFXミキサーを装備している。FXミキサーはトラックに配置したモジュールに対し、個別にエフェクトをかけてミックスすることができるというものだ。それ以外の機能は完全に同等だ。

機能 FRUITYLOOPS
EDITION
PROUDUCER
EDITION
プラグインサポート
マルチアウトVSTi & DXiソフトシンセ
VST & DXエフェクト
Fruityloops ジェネレーター&FX
マルチアウト対応VSTiプラグインとして動作
マルチアウト対応DXiプラグインとして動作
MIDIサポート
外部MIDIサポート、MIDIコントローラー対応
MIDIファイルのインポート、エクスポート
オーディオサポート
オーディオトラック
波形エディタ
ASIO入力による録音
音楽制作
ピアノキーボード搭載のステップシーケンサー
ピアノロール
ほぼすべてのパラメータを
リアルタイムにオートメーション・レコーディング可能
インターナルコントローラ
アルペジエイター
オートマチックスライサー
10以上のジェネレーター
25以上のエフェクトを搭載
ミキサー&FXラック
64バス(それぞれ8つのエフェクトを使用可能)
ポストFX
(パラメトリック EQ、ボリューム、パン、VUメーター)
FX ルーティング
アウトプットサポート
ダイレクトサウンド
ASIO(マルチ出力対応)
MIDIアウト
WAV ファイルへのレンダリング(16bit または 32bit)
MP3ファイルへのレンダリング (32kbit または 320kbit)
FXバスごとにレンダリング

 従来のバージョンと比較すると機能的にも充実してきており、特にPRODUCER EDITIONの場合、一通り何でもできるソフトとなった。つまり、シーケンス機能、ソフトシンセ機能、エフェクト機能、ミキシング機能までを網羅する。その意味では「Reason」や「Project5」とも近いコンセプトの統合型ソフトのようにも感じるが、実際に使ってみると、それらとも異なる独自の世界観を持ったソフトに仕上がっている。

 スペック的には内部32bit、最大96kHzステレオをサポートし、オーディオ出力はDirectSoundとともにASIOに対応。また、でき上がった曲を16bit/32bitのWAVファイルやMP3ファイルとしても出力することが可能だ。

 では、さっそく具体的な機能を見ていこう。


■ 数多くのソフトシンセを搭載し、VSTiやDXiもサポート

 FL STUDIO 4には本当に数多くのソフトシンセが搭載されている。全部を紹介していくとキリがないほどなので、代表的なものや、今回のバージョンから加わったユニークなものを中心にいくつか紹介しよう。

 まずはベーシックなアナログシンセのTS404。TB-303ライクなサウンドを作り出すテクノ系のモノフォニックのソフトシンセで、2つのオシレータにエンベロープジェネレータ、フィルターにLFOなどを装備している。

 Fruity Granulizerは、グラニュラスシンセサイザと呼ばれるもので、読み込んだサンプリングデータを非常に細かく切断し、それを組み合わせて再構築することで新たな音を作り出すというもの。サンプラー系のシンセサイザだが、一般のサンプラーとは明らかに違う音を作り出すことができる。

 Fruity Slicerはサンプルをスライスしてループ再生する。「ReCycle!」的なソフトであり、スライスしたサンプルはそれぞれがキーに割り当てられるので、ドラムループなどを読み込んで使えば、簡単にドラムマシンを構築することができる。

TB-303ライクなTS404 Fruity Granulizer Fruity Slicer

 FL Keysはピアノ、ローズ、オルガンの3種類のサンプリング音色を備えた手軽に使えるキーボード。ピアノ音もきれいだ。

 もう1つ紹介しておきたいのがFL Slayer。これは画面を見ればわかるとおり、ギターをシミュレートする物理モデリング音源。アンプシミュレータやエフェクトも装備しているので、結構リアルなギター音を楽しむことができる。

 このほかにも多数のユニークなソフトシンセが用意されているが、FL STUDIOは、ソフトシンセを増やせるのも特徴。具体的には、VSTインストゥルメントとDXiのそれぞれのプラグインに対応している。すでにインストールされているプラグインは自動的にスキャンして表示されるので、とても簡単に扱うことができる。

FL Keys FL Slayer ソフトシンセを増やせる


■ シーケンス機能も大幅に強化された

 では、これらのソフトシンセをどうやってコントロールするのだろうか。そのために用意されているのがシーケンス機能だ。

 もっとも基本的な使い方はFruity Loopsが古くから備えていたパターンシーケンス機能から変わっていない。16ステップ(ステップ数の変更は可能)の内、鳴らしたいところをクリックしてオンにするだけでデータが入力できるという単純な方式。音階を付けたい場合は、それをいじることもできる。

パターンシーケンス機能 音階を付けられる

Playlistで鳴らす順番を設定する

 こうして作ったパターンは、パターン番号を付けて保存していく。登録できるパターンの数は999個まであるので不足することはないだろう。

 また、できあがったパターンはPlaylistと呼ばれるソングを管理する画面で、鳴らす順番を設定していく。たったこれだけの作業で曲を作っていくわけだ。

 しかし、こんな単純なパターン入力では微妙なニュアンスを作るのは難しいという人も多いだろう。そのためにピアノロール画面やボリューム、パン、ピッチベンドなどを自由にコントロールするための画面も用意されている。こうして作ったシーケンスデータも、やはりパターンとして登録した上で、Playlist上に設定して曲を作っていく。


ピアノロール画面 ボリュームやパン、ピッチベンドなどを自由にコントロールできる


■ 64バスのミキサーと豊富なエフェクトを装備

高機能な64バスのミキサー

 オリジナルのソフトシンセも、VSTiやDXiもFL STUDIO 4上で立ち上げると、それが1つのトラックとなる。それらを鳴らす際、ミキサーを経由することになるのだが、FL STUDIO 4には64バスのミキサーが存在しており、これがなかなか高機能になっているのだ。

 このミキサー画面を見るとわかるように、各トラックごとにEQやパン、ボリュームレベルの設定設定ができる上、インサーションのエフェクトが8つまで設定することが可能。また4つのセンドエフェクトも設定できるので、かなり自由度が高い。

 このエフェクトもやはり非常に豊富で、EQ、Delay、Reverbといった定番から、Fruity Vocoderというボコーダ、ステレオ感を増強するFruity Stereo Enhancer、スクラッチソフトのFruity Scratcherなどなど。


 さらに、このエフェクトにもやはりVSTプラグインとDirectXプラグインの双方が利用できるようになっているので、いろいろと活用できそうだ。

EQ Fruity Vocoder Fruity Scratcher

Delay Fruity Stereo Enhancer


■ PRODUCER EDITONはオーディオをサポート

 前述したとおり、上位バージョンであるPRODUCER EDITIONにはオーディオ機能が搭載されている。従来のFruity Loopsではサンプラーにオーディオデータを読み込むことで、ある程度オーディオを扱うことができたが、PRODUCER EDITONでは、オーディオトラックを扱えるようになったので、より手軽にボーカルなどを入れることが可能になった。

 さらに、これらオーディオデータを波形エディタでエディットすることができたり、ソフトシンセで作ったカラオケといっしょに歌った歌をレコーディングするといったことも行なえる。もちろん、レコーディング用のデバイスとしてASIOを利用できるため、より手軽にレイテンシーの少ないレコーディングができそうだ。

オーディオトラックを扱えるようになった オーディオデータは波形エディタで編集可能

 以上、ごく簡単にFL STUDIO 4について紹介してみた。ロゴマークは、以前からのかわいいイチゴのようなマークが用いられているが、ソフト全体を見るとかなり高機能で、高性能なソフトであることを実感する。

 また、今回はスタンドアロンソフトとして利用したが、FL STUDIO 4自体をVSTiとして利用することもできるため、Cubase SXなどと組み合わせることで、さらにその可能性は広がる。


□フックアップのホームページ
http://www.hookup.co.jp/
□製品情報
http://www.hookup.co.jp/software/fl4/fl4.html

(2003年8月4日)


= 藤本健 = ライター兼エディター。某大手出版社に勤務しつつ、MIDI、オーディオ、レコーディング関連の記事を中心に執筆している。以前にはシーケンスソフトの開発やMIDIインターフェイス、パソコン用音源の開発に携わったこともあるため、現在でも、システム周りの知識は深い。最近の著書に「ザ・ベスト・リファレンスブック Cubase SX/SL」(リットーミュージック)、「MASTER OF REASON」(BNN新社)などがある。また、All About JapanのDTM・デジタルレコーディング担当ガイドも勤めている。

[Text by 藤本健]


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