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“Zooma!:ズームレンズ、ズームすること、ズームする人、ズズーンの造語”

第143回:汎用ソフトへの道を歩み始めた「EDIUS Ver2.0」
~ 意外に細かいところに手を入れてきた編集ツール ~


■ ノンリニアはコンシューマがねらい目

 PCでビデオ編集、いわゆるノンリニアエディティングは、今ではさほど派手な動きはないものの、コンシューマでも着実に根付いている。というかコスト面でPCを使う以外の編集手段が高すぎるということもあり、実質的にビデオの編集といえばPCでやる以外にない、というところが本当なのかもしれない。

 プロ仕様を謳う編集ソフトは数多くあるが、実際にはコンシューマから業務レベルをターゲットにしているというのは周知の事実。なぜならば、そのレンジが一番数が捌けるからである。あのAvidでさえ、コンシューマへの市場を狙い始めている事実からしても、もはやプロ業界でSDのノンリニアソフトは飽和状態にあるということなのかもしれない。

 さて、昨年5月に発売されたカノープスのEDIUSは、ハイエンドツールとして一通りの評価は得たようだ。だが同社のキャプチャカード専用ということもあり、ユーザー数が同社のハードウェアユーザーを上回ることがないということで、広がりという点では限界があったのも事実だろう。

 そしてこの2月にバージョン2.0となったEDIUSは、この足枷を撤廃し、専用カード以外にOHCIでの動作も可能とした。つまりIEEE 1394端子が付いているPCならばOKという、汎用ソフトとしての船出というわけだ。だがこの海には、圧倒的なバンドル数を誇るユーリード製品群や、古くからの固定ユーザーを捕まえているAdobe Premiereなど、ライバルも多い。

 昨年11月にバージョン1.5なって以来、初のメジャーアップデートとなるEDIUS 2.0は、どのように進化したのだろうか。筆者はバージョン1.5の時にあまり触ってなかったので、今回は2.0の新機能を中心にしながら、初期バーションからの進化点も一緒に見てみよう。


■ 一見地味なメジャーアップデート

OHCIの入力設定。キャプチャに関しては同社カード使用時と遜色ない

 まず画面に現われてこない点から簡単にさらっていこう。既にNAB2003レポートでも基本的な情報はお伝えしているが、Ver2.0最大のポイントは、OHCIに対応し、ノートPCなどでも動作可能になった点だ。

 インストールにはオンライン アクティべーションが導入され、シリアルナンバーとともにWebやFAX、電話などで認証番号を得る必要がある。ただしこのバージョンから2ライセンスとなった。取材先でノートPCでラフに編集して、帰ってきてからカノープスのカードが入っているデスクトップ機で完パケ、といった作業スタイルも可能になる。

 カノープスのカードは、元々単なるキャプチャカードではない。現行モデルの「DVStorm 3」にはハードウェアのアクセラレーション機能があるので、多重レイヤーやエフェクトなどがリアルタイムで処理できるというメリットがある。逆にいえば、OHCIのみの環境では、CPUへの依存度が高くなり、リアルタイムで動く部分が少なくなる。

 そのほかの機能として、MPEG-1/2の編集サポートがある。これは単に素材としてMPEGが使えるということ以外に、同社のMPEGキャプチャカードMTV/MTUシリーズと、EDIUS同梱の「MPEG Capture」というツールを使ってアナログソースのMPEGキャプチャも可能。また編集では、DVからの素材とMPEG素材を混在して使えるようになった。

画面を見た限りでは大きな変化はなさそうに見える

 ただこの機能を必要とするユーザー層が、どうもよく見えない。元々MPEGファイルは編集には向いていないフォーマットであり、それをキャプチャ時から使用するメリットはあまりないからだ。画質をあまり気にしない割には6万弱のソフトを買ってまで編集するというのは、かなり特殊なケースではないかと思う。

 もう1つMPEG系のサポートということでは、MP3のサポートがある。だがこれはわからなくもない。実際に筆者も、音効さんが作ってくれた音楽をFTPやメール添付で受け取って使用するというケースもある。ハイビットレートのMP3ならば、BGレベルで使用する分ならほとんど問題ない。テレビ番組のMAでも音楽はMDで持ち込まれるわけだから、それと比較しても大差ないのである。

 だが多くの人が、「変更点これだけなの?」といった気持ちではないだろうか。旧バージョンのユーザーも、こなれてから買うという人も、やはり共通で気になるのは、細かいとことでの使い勝手がどれぐらいアップしたのか、というところだろう。


■ 細かいところも良くなっている

 充実したのは、タイムライン上のクリップ操作だ。マウスドラッグとキーボードとの組み合わせで、いろいろな編集機能が使えるようになった。オーディオスプリットやクリップの入れ替えなどが簡単に行なえるようになった点で、評価できる。

マウスショートカットの例
アクション 動作
Shift+Alt+クリップドラッグ クリップの連結移動
Shift+クリップエッジドラッグ AVスプリットトリム
Alt+クリップドラッグ クリップの入れ替え
Ctrl+Alt+クリップエッジドラッグ 編集点のロール
Ctrl+Alt+クリップドラッグ クリップのロール
Shift+クリップドラッグ スナップ機能のON/OFF

 ただこれらの機能の多くは、メニューやボタンで同じことができるような、見てわかるモードがあるわけではない。ショートカットを丸暗記しなければ使えないという点では、ユーザーに動作を丸投げしているわけで、煩雑に感じる。例えば既に全体が尺になっているのであれば、トータル尺固定ボタンみたいなのがあって、それを押しとくとすべてのドラッグ操作でトータル尺が変わらないよう動作する、といった編集作業の段取りから攻めてくるような考え方があってもいいだろう。

 またVer2.0まで開発が進みながら、未だにマルチ選択した複数のクリップをまとめて移動できないなど、最初の仕様設計が悪いのか誰かの遺言なのか知らないが、ふつーそれはできるだろうというところが抜け落ちているのも事実で、長編物のブロック編集などにはまだ不安が残る。

 クリップ削除では、以前からPremiereにあった「空白部分のリップル削除」ができるようになったのも大きい。空白部分が明示的に選択できるわけではないが、空白部分で右クリックすることでリップル削除が行なえる。この機能は空いた隙間を詰めるのに便利なのだが、もう一歩踏み込んで、Media100で採用されているようなCommand+Kで隙間を一撃で詰めてくれるような機能も欲しいところ。

数値でトリムできる「トリムダイアログ」 In点部分に+5など入力するとトリムできるのだが……

 ただこのダイアログは、一度にいろんなことができるようになっているため、直感的な操作に欠ける。Avid XpressDVみたいに、ただテンキーを叩いただけでタンターンとトリムできるような操作性が望ましかった。

 テンキーでトリムする機能は、実はモニターウインドウの下の数値部分にある。だがここは、素材からの切り出しの際に使う部分である。トリム機能というのは、一連の映像の繋ぎの中で発生する修正なので、やはり別途タイムライン上で素早く数値でトリムできる方法が欲しい。

 また、リアルタイムで動く部分が減るかもしれないということで、それをフォローするための機能がいくつか搭載された。パーシャルレンダリングは、リアルタイム再生が間に合わない部分を自動的にレンダリングする機能だ。これはタイムラインで指定したIN/OUT間だけでもできるし、タイムライン全体も指定できる。

 もう1つ、パーシャルレンダリングのオプションとして、レンダリングしてファイルに書き出すという機能は面白い。これはレンダリングした部分を別ファイルとしていったんAVI化し、それをタイムラインの上位トラックに配置してくれるというものだ。

負荷の高いところを自動的にレンダリングする レンダリングファイルを書き出す機能は、いろいろ使い道がありそうだ

「Lightwave3D」で作成したアルファチャンネル付き非圧縮 AVIは読み込めなかった

 レンダリングしたファイルを上に置くと、その下にある複雑な合成は計算されないので、結果的に負荷をかけない。合成を手直しして、いくつかの結果を比べたりことができるのは便利だ。

 初期バージョンで懸念していたアルファチャンネル合成だが、カノープス的には対応した、ということになっている。だが筆者の環境では、3DCGソフト「Lightwave3D」で作成したアルファチャンネル付き非圧縮AVIは、読み込むことができなかった。

 同じファイルをAfterEffectsやPremiereでは読み込めて、合成も普通に行なえる。てか筆者はいつもこのスタイルで仕事しており、特に問題もないわけで、やはりEDIUSのAVIローダになんらかの不具合があるのではと思われる。

連番ファイルは1Fの静止画が連なるのみで、扱いにくい
 またCGで作成した連番ファイルの読み込みは、全選択すればできるのだが、それ以降の扱いは本当にバラバラの素材として300枚なりの静止画クリップを扱うことになってしまう。

 さらにこれをタイムラインに配置したとき、まとめて複数選択はできるのだが、それ全体の移動などができないので、タイミングの微調整などは難しい。

 アルファチャンネル合成は不可能とは言わないが、まさかこの程度で「対応してます! 完了!」は勘弁して欲しい。例えばAdobe PremiereやAfterEffectsには連番ファイルを1つのアニメーションファイルとして扱うような機能があり、さすがCGや合成の何たるかをよくわかっている。そういう機能は必要だろう。


■ バンドルソフトもグレードアップ

 Ver2.0では、タイトル周りも強化された。以前からバンドルされていたInscriberの「TitleExpress」が、アニメーション機能を付加した「TitleMotion for Canopus」になったのである。

 Inscriber製タイトルソフトは、機能的には豊富で一度覚えてしまえばまあまあなのだが、画面内でフォントがズレたりするので印象が悪い。またバンドル品にはマニュアルがなかったり、ヘルプが英語でしかも内容が簡単すぎるといった不備が目立って、ちゃんと使いこなすには骨の折れるソフトである。

TitleMotion for Canopus画面。表示フォントがはみ出したりして、見た目が良くないのは相変わらず TBC制御で高度な動きも可能

 マニュアルに関しては、今回「for Canopus」を名乗るだけあってカノープスもかなり手を入れており、EDIUSのリファレンスマニュアルでも、TitleMotionの説明にかなりのページを割いている。またオンラインヘルプもPDFで日本語版が付属しており、だいぶ参考になる。

 アニメーションの作成は、先にキーフレームを作ってからエディットしていく方式。よく使われるであろう動きはあらかじめプリセットされており、プリセット同士の連結動作もできる。また動作スピードの可変や、3点キーフレーム動作におけるTention、Bias、Continuity設定、いわゆるTBCコントロールも可能だ。

ウィザード形式で設定できるProCoder EXPRESS for EDIUS

 またMPEG出力では、従来のProCoder LEからProCoder EXPRESS for EDIUSにグレードアップした。従来のように表組みになったパラメータを手動で設定する方法でなく、使用目的やファイルフォーマットから選んでいくウィザード方式となっている。編集は得意だがエンコードはいろいろあってよくわからない、というユーザーにはこっちのほうが便利だろう。

 なお市販のProCoderにあってProCoder EXPRESSにない機能は以下のとおり。

  • 表組み
  • バッチエンコード機能
  • MPEG-2 マスタリングクオリティ
  • オーディオフィルタ
  • 逆テレシネ
  • プリセット動作
  • 複数ファイルの連結
  • ビデオフィルタ
  • ドロップレット機能
  • フレーム補間モードの調整

 さらにDivX Pro 5.1のライセンスも1つ付いてくる。このエンコードもProCoder EXPRESSで制御することができる。


■ 総論

 今回のEDIUS 2.0は、以前のレビューで指摘したような「試行錯誤するための作り」を徐々に実現しているようで、進化の方向としては好ましい。またキーボードショートカットも大幅に増え、手早く使えるようになってきている。

 今のところ課題としては、細かい機能やその操作法が、リファレンスマニュアルなどで完全にフォローしきれていないところだろう。それもそのはずで、リファレンスと言いつつも中身はほとんどチュートリアルになっているため、機能の逆引きで探しにくい。チュートリアルのDVDも付属するが、これも基本操作に終始している。ユーザー層としては、まだそのあたりの人が多いということなのだろうか。編集経験者にとっては基本操作法よりも、索引から逆引きで仕様がサクッとわかったほうがありがたい。

 EDIUSも今後は汎用ソフトとなることで、より多くのファイルフォーマットへの対応も求められていくだろう。その第一歩としてMPEGのサポートがあるのかもしれないが、プロツールを名乗るなら非圧縮AVIやQuicktimeの32bitファイルの完全対応のほうが先だろうという気がする。

 ユーザービリティを上げていくには時間がかかる。まあいろいろこうして文句も言っているわけだが、1年経たずにここまで来た開発ペースから考えれば、案外早い段階で良いものになりそうな手応えを感じている。カノープスのがんばりに期待したい。

□カノープスのホームページ
http://www.canopus.co.jp/
□製品情報
http://www.canopus.co.jp/catalog/edius/edius20_index.htm
□関連記事
【1月9日】カノープス、OHCI対応ビデオ編集ソフト「EDIUS 2.0」
-MPEG-1/2ファイルのシームレス編集にも対応
http://av.watch.impress.co.jp/docs/20040109/canopus.htm

(2004年2月25日)


= 小寺信良 =  テレビ番組、CM、プロモーションビデオのテクニカルディレクターとして10数年のキャリアを持ち、「ややこしい話を簡単に、簡単な話をそのままに」をモットーに、ビデオ・オーディオとコンピュータのフィールドで幅広く執筆を行なう。性格は温厚かつ粘着質で、日常会話では主にボケ役。

[Reported by 小寺信良]



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