■ 異色のコントラスト比最強モデルがモデルチェンジ
国内メーカーモデルでは珍しい存在、4:3パネルのDLPホームシアタープロジェクタ「HT1000J」が、「HT1100J」にモデルチェンジした。前モデルは「大画面マニア」でも紹介したので、覚えている方も多いだろう。 DMDチップの解像度は1,024×768ドット。16:9表示のDMDチップでいえば、世代的に「HD2」にあたり、HT1000Jと同じものだという。レンズは光学1.2倍ズームで、レンズシフト機構は上下左右とも搭載していない。アイリス(光学絞り)を装備し、絞りきることで3,500:1のコントラスト比を実現する。 映像入力は、DVI-D、コンポーネント(RCA)、S映像、コンポジット、アナログRGB(ミニD-Sub15ピン)と過不足なく揃っており、DVIはHDCP入力に対応する。動作音はエコモードで29dB、ノーマルモードで32dB。 HT1000Jからの変更点は多いが、大きなアップデートとしては「コントラストの向上」、「新GUIの採用」といったところだ。基本機能の多くはHT1000Jと共通している。
■ 使いやすくなった新GUI
発表時の資料を一見しただけだと、ランプを含む光学系の改良でコントラストをかせぎ、競合製品に数字の上で追随しただけなのか? という印象を受けかねない。しかし、NECビューテクノロジーに取材すると、様々な改良点が浮かび上がってきた。 ●コントラストの向上
まず、アイリス(絞り)の輝度可変幅をHT1000Jの80%~100%から、60%~100%へと、黒側に20%拡大している。コントラストが向上したのは、この結果によるものだ。なお本機のアイリスは、現行モデルでは少数派の無段階可変式を採用している。ソースやランプの状況に合わせて微調整できるので、2段階しか設定できない機種よりも、使い勝手は良い。 次に、HT1000Jの特徴の1つだった「Sweet Vision」を強化し、「Sweet Vision 2」とした。Sweet Visionは、明暗差によりコントラスト感が変化する人間の眼の性質を利用する「クラーク・オブライエン効果」などを応用した技術で、コントラスト感の向上と、自然なエッジ強調を得意としている。効果はかなりのものだが、従来はインタレース入力の映像に対してのみ適用できた。しかし、HT1100Jからはプログレッシブ映像にも対応し、より使い勝手が向上した。 ガンマ特性の変更もポイントだ。HT1000JおよびHT1100Jでは、「ダイナミック」、「ノーマル」、「ソフト」からガンマ特性を選択していたが、今回は特に「ダイナミック」を硬調でメリハリを出すような方向に調整したという。そのため、プリセットの画質モードのうち、ダイナミックをベースにした「ビデオ」の印象が若干変わっている。今回は放送用モニターなどを参考にした画作りとし、ハイビジョン映像の表示時に本領を発揮するようになった。また、DVDビデオでも「スター・ウォーズ エピソード2 クローンの攻撃」のような24pカメラで撮影された映画作品にもマッチするそうだ。確かに、フォーカスがゆるくてハレーション気味に見えた同作品が、見違えるようにパリっとするのがわかる。
データモデルを流用したためか、HT1000JのGUIは煩雑でわかりにくかった。メニューの階層が深くて見通しが悪い上、機能の軽重があまり反映されていない印象だった。これを民生機ライクなインターフェイスに一新。調整項目の一覧性を高めると同時に、画質調整時には調整用のダイアログだけを片隅に表示するなど、やっと普通のホームシアター機と同等の操作感が得られるようになった。 メニューの多くは、画面下部に横1列で並ぶ第1階層から、タブで区切られた第2階層、実際の選択項目が並ぶ第3階層という構成。カーソルキーだけで階層やタブ間を移動できるなど、確定操作を大量に要求された前モデルに比べると、操作性は格段にアップした。メニューの開閉速度や、カーソル移動も速い。
操作面では、リモコンの変更も大きい。HT1000Jでは、いかにもデータモデルからの流用を思わせるデザインのリモコンが付属していた。自照ボタンや蓄光ボタンもなく、ホームシアター用途として使いやすい設計とはいえなかった。 しかし今回は、ほぼすべてのボタンが発光するタイプとなった。デザインも垢抜けたものとなり、各ボタンの操作性も大幅に改善した。入力選択用のダイレクトボタンが設けられているのもうれしい変更点だ。 もう少し強く発光すればボタン表面の印刷が視認しやすくなると思うが、光るだけでも大きな進歩。ボタンは小さいが、適度に離れているため、誤動作も比較的少なかった。ボタン数をホームシアター用途に抑えたのも功を奏しているのだろう。
色温度のステップも、6ステップから9ステップへと細かくなった。具体的には、これまで5,000/6,500/7,800/8,500/9,300/10,500Kを選択できたが、これに5,400K、6,000K、7,000Kを追加している。7,000Kから下を充実させたのは正解だろう。特に5,400K、6,000Kの利用頻度は高そうだ。 また、ユーザーメモリの考え方が変わり、各入力ごとに4つのメモリを共用する形式から、入力系統ごとに計55種類を登録できるようになった。画質設定はまず、「参照」というメニューで、コピー元のプリセット画質「ビデオ」、「ムービー」、「ゲーム」、「sRGB」、「グラフィック」を選択し、そこから作りこんでいくスタイルを採用する。 調整できる項目は、「明るさ」、「コントラスト」、「カラー」、「色相」、「シャープネス」、「ノイズリダクション」、「ガンマ補正」、「色温度」、「ホワイトバランス」、「色補正」、「SweetVisionモード」、「SweetVisionレベル」、「黒伸張」、「直流伝送率」など多岐にわたる。
このうち、ホワイトバランスは「明るさ 赤」、「明るさ 緑」、「明るさ 青」、「コントラスト 赤」、「コントラスト 緑」、「コントラスト 青」を調整可能。色補正は、「赤」、「緑」、「青」、「イエロー」、「マゼンタ」、「シアン」の6軸を独立して調整できる。さらにゲインも増減できるので、色調整についてはハイエンド機並の性能といって良い。 しかも、これらの設定は、コンポーネント、S映像、コンポジットだけでなく、アナログRGBやDVI入力でも設定できる。とりわけ、DVI入力にここまで詳細な調整を施せるプロジェクタはまだ珍しく、DVI出力付きプレーヤーでの利用を考えているなら、有力な候補になるだろう。 また、色関連ではカラーホイールにも手が加えられた。セグメントは従来通りの6セグメントのままだが、色分離特性を見直して、色純度の向上を図ったという。さらに、PAL系ソースの再生に対応するため、50Hzの入力に対し、自動的に5倍速(通常は4倍速)に高速化するよう改良している。 そのほか、ハイビジョンのIP変換機能を新たに搭載。ランプを220Wから200Wの長寿命タイプに変更し、ランプ寿命がHT1000Jの2,000時間から3,000時間(共にエコモード)に伸びたという。さらに、D-Sub15ピン→D端子変換アダプタが付属するなど、ホームシアター向けに細かいアップデートが行なわれている。
■ 文句なしの高画質。コントラストは「強烈」
本体サイズやレンズはHT1000Jと同じなので、設置性については同等だ。16:9の場合、100型を3.41~4.12mから投写できる。4:3での100型の投写距離は、3.13~3.78m。 焦点距離はそれほど長くないが、環境によっては、ワイドで18.8度、テレで15.9度(4:3時で15.8度)という投写角が問題となりそうだ。というのも、多機種に比べると鋭角なので、台置きや疑似天吊りでは天井、または床に映像がはみ出す恐れがある。そのため、実際には床置きか天吊りを強いられることだろう。 とはいえ、16:9投写時には、画面を上下に移動させる「スクリーンポジション機能」を使うことで、ある程度の上下移動が可能だ。4:3パネルの非使用領域に表示をシフトさせる機能なので、基本的に画質劣化はない。 視聴環境にもよるが、絞り全開でも比較的黒は沈んでおり、60%ほど絞ると、完全な暗部領域が完全な黒へと変化し始める。この状態でのコントラストは強烈のひとこと。フィルムというよりは、CRTのようなくっきり感を楽しめる。ただし、絞るにつれて黒つぶれ領域も広がるので、ほどほどに絞ってからメニューで微調整するのが良いようだ。 コンポーネント入力時の色再現もすばらしく、データモデルが出自の割には緑かぶりも起きていない。「HERO」チャプタ8の赤と黄色も、発色の良さを残しながら、飽和することなく階調を保っている。できれば、ガンマ補正(3段階)をもう少し細かく調整できると良かったと思う。 階調表現も優秀で、金属の光沢感や人肌のキメなども自然に表現する。空や雲に疑似輪郭が浮くこともなかった。画素格子についても、100型投写時でほとんど気にならない。 こうした傾向は、DVI接続でもそれほど変わらない。DVD-A11のDVI出力を入力すると、色や階調がより正確になり、ノイズの極めて少ないさらっとした映像になる。さらに、ここからいくらでも調整できるのが本機の強み。多くの機器がまだ、コンポーネント並にDVIの調整項目を開放していない中、心強い点といえる。 ただし、単チップDMD搭載機の泣き所、カラープレーキングは解消されていない。暗いシーンやカメラがパンすると、ざわざわとした虹色のノイズが見える。気になる人は、他のDLPプロジェクタを含めて視聴した方が良いだろう。また、ファンノイズの大きさも多少気になる。エコモードで十分な明るさが得られるのが救いだが、そのエコモード(公称29dB)でも、人によっては少し耳障りに感じるかもしれない。
■ サンプル画像
■ まとめ
確かに、ホームシアター向けモデルとしての完成度はHT1000Jより増している。投写スクリーンタイプがデフォルトで16:9になっているのも、NECの自信の現れだろう。カラーブレーキングなどの原理的な問題を除けば、画質への不満もない。特に、DVI接続を主体に考えている人にはお勧めだ。インターフェイスも使いやすくなり、操作によるストレスもほとんどなかった。 次は、最近のトレンドともいえるレンズシフト機構の搭載を望みたい。なお、鋭角な投写角については、「DMDとレンズの間をダイレクトに何も置かない設計にするとこの角度になった」(開発本部 第一技術グループ 小林玲一技術マネージャー)とのこと。そのおかげで強烈なコントラストが得られているらしい。 また、PCカードスロットを使ったLAN接続機能など、データモデルから引き継いでいる要らない機能をばっさりと省き、よりホームシアター用途に特化した低価格製品も見てみたいところ。専用開発はコスト面からも難しいとは思うが、現在、DLPホームモデルの低価格機は選択肢が少ないので、ぜひNECビューテクノロジーにも市場を盛り上げてもらいたい。
□NECビューテクノロジーのホームページ (2004年4月22日) [AV Watch編集部/orimoto@impress.co.jp]
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