■ ビデオプレーヤーの新たな選択肢
音楽用ポータブルプレーヤーのような製品は、都市近郊でしか売れないという定説がある。電車通勤中がもっとも使われるから、というわけだ。だがその事情も徐々に変わってきている。車で移動する人も、HDDに大量にコンテンツが貯められるということで、車載プレーヤーとして使用するケースも増えてきているようだ。 映像に目を移せば、例えばカーナビもテレビやDVDビデオ再生が標準機能となっている。これらはあきらかに運転中の運転者を対象とした機能ではないわけだが、映像も音楽も、車だから電車だからという縛りはそれほど関係ないのではないかという気がする。要するにいる人にはいるし、いらない人にはいらないというだけのことなのかもしれない。 ビデオ系のポータブルプレーヤーは、メモリーベースのものは以前からカメラと兼用だったりするものがちらほらと存在したが、映像のようなどでかいファイルを扱うには、音楽以上にHDDの搭載は必須。筆者も国内で手に入りそうなHDD搭載モデルは一応チェックしているつもりだが、まださほど選択肢が多いわけではない。ARCHOSの「Cinema To Go」、ソニーの「PCVA-HVP20」や、「HMP-A1」ぐらいだろうか。 そして7月下旬に新たな選択肢として、NHJから「MPM-201」が登場する。2.5型30GBのHDDを搭載した、レコーダにもなるポータブル複合機だ。価格も店頭予想価格5万円前後、ネット通販では既に5万円を切るところも現われるなど、価格的にも期待できる。早速チェックしてみよう。 ■ 意外? に高級感のあるボディ
まずはいつものように外観からチェックしていこう。全体的な質感は、価格から想像するよりは上質で、塗装も悪くない。サイズとしては一昔前のPDAといった程度だろうか。厚みはそれなりにあるが、ポータブルビデオプレーヤーとしてはまずまず手頃なサイズ。本体にはストラップを通す穴などはないが、布製キャリングポーチが付属する。
液晶モニターは3.5型のTFT。解像度は480×234ドットと、若干変則的だ。正方ピクセルで4:3なら縦は360のはずだが、縦の解像度が少ないので、長方形ピクセルということだろう。また液晶両横の小穴はスピーカーで、ステレオスピーカーを装備しているのは珍しい。 正面から見るとシンメトリックにボタン類が配置されており、ややゲーム機を思わせないでもない。左側上から、トップメニューを表示する[MENU]、上位階層に戻る[BACK]、その下がメニュー操作用の十字キーだ。右側は[STOP]と[PLAY]、その下は回転式の音声ボリュームとなっている。ボタンは全体的に堅めで、特によく使う十字キーはもう少し柔らかめでもいいだろう。ホールドボタンもあることだし、誤動作防止のためというわけでもなさそうだ。 ボリュームは滑り止めの突起が出ているが、取り付け位置がちょっと下なので、親指で微妙に回しにくい。この回転ボリュームは、音量の調整がないメニュー操作のときには、スクロール機能も兼用する。ただすべてのケースで働くわけでもなく、操作性に一貫性がない部分も見られる。 上部はスライド式電源スイッチと、ボイスレコーダ用のマイク、そしてSDとCFカードスロットがある。両メモリの写真や音楽データを再生したり、データを内部HDDへコピーしたりでき、デジカメのバックアップデバイスとしても使える。
左側面には、AV出力/ヘッドフォン兼用端子、USBポート、DC INがある。反対の右側にはなにもない。背面は本体だけで自立するよう、アクリル製のスタンドが付いている。 底面には、クレードル接続用の端子が2つある。おそらくむき出しの3端子が電源、カバー付きのマルチコネクタが映像・音声信号用の端子だろうと思われる。また底面にはバッテリの格納スペースがある。動作時間は、動画3時間、音楽6時間と、長時間とは言えないが、通勤には往復でぎりぎりといったところだろうか。バッテリは昔富士フイルムなどのデジカメで使われていたようなカマボコ形で、ユーザーが自由に取り外しできる。
普通HDD搭載機は、シーク中に電源が外れないように、バッテリが簡単に取り出せないものが多いが、これほど簡単に交換可能なのはなかなか大胆だ。ただ簡単に外れるからといって、電源ONの状態でバッテリを抜くのはさすがにマズイだろう。 本機はプレーヤーだけでなく、ビデオレコーダでもある。クレードルと接続することで、テレビの視聴/録画や外部入力を録画することができる。クレードルも見ていこう。 シルバーの土台部と、アクリル製のスタンド部から構成されるクレードルは、なかなか高級感がある。土台部前面にカラーLEDを仕込まれており、電源OFFで充電時、満充電時、電源ON時などそれぞれのステータスごとに点灯する色が異なる。本体を立てればスタンド部は角度調整もできるなど、細かいところまで気を配っている。前面にはRECボタンがあり、視聴中の番組や外部入力の映像をワンタッチで録画できる。
クレードル背面には、DC IN、Sコンポジット入力、AV IN/OUT、アンテナ端子がある。USB端子はクレードルにはなく、本体のみである。 付属のリモコンは、輸入製品などでよく見かけるカード型のもので、クレードル装着時のみ動作する。リモコン受光部がクレードルにしかないからだ。本体では[MENU]、[BACK]になっているものがリモコンでは[HOME]、[CANCEL]になっており、場所のイメージも違うなどのすれ違いもあるが、クレードル装着時は本体のボタンが押しにくいので、やむなしといったところだ。 また、この手の製品に付属するイヤフォンは、品質的にオマケ程度でしかないのが通常だが、この製品もその類だ。音質的には中音域にクセがあり、テレビの視聴などには問題ないだろうが、音楽の再生には向いていない。さらにスゴイのが、LRの区別がどこにも記されていないところ。ここまで豪快にコストを削ってくると、こちらとしても逆に気持ちいい。いやそんなこともないか。
■ 映像品質をチェック
では各機能を試してみよう。ここまで書いてきて今さらながらナンだが、一応MPM-201でできることを列挙してみると、MPEG-4動画の記録・再生、JPEG静止画表示、MP3再生、ボイスレコーティング、テレビ視聴と、なかなか盛りだくさんである。電源を入れるとメインメニューが表示され、各機能にアクセスできる。またファイルマネージャ機能もあり、本体だけでファイルの削除やリネーム、メディア間のファイルコピーなどが行なえる。機能としてはARCHOSの「Cinema To Go」とほぼ同じだ。
まず最初に、[TV mode]を試してみよう。ここはテレビチューナや外部入力にアクセスするためのメニューだが、単にテレビを見るだけで、[TV mode]-[ビデオ入力]-[テレビ入力]と3画面もメニューを掘っていってようやくたどり着く。リモコンにテレビを一発で表示するボタンが欲しいところだ。一応チャンネル自動選局機能があるが、放送していないチャンネルのスキップ機能や、チャンネル番号割り付けなどはできない。 放送中の番組は、クレードルのRECボタンを押せばその場で録画できる。録画品質はQVGA、VGA、VGAファインの3段階がある。いつもの映像を、チューナからの入力とS映像経由の入力を録画してみた。スペック表にはMPEG-4としか書かれていないが、実際のコーデックは、映像はDivX 5.x、音声はADPCMだ。ADPCMは、音声の差分圧縮を行なうタイプのコーデックである。
キャプチャした映像を見て貰えればおわかりのように、かなりコントラスト強め、クロマ強めになっている。アンバー系の色味はファイルでも確認できるので、液晶の特性というわけではないようだ。このコントラストとクロマは、液晶の品質を補うために、録画時に作り込んでいるということだろう。
また本機では、録画予約も1つだけ設定できる。日時とチャンネルを指定するだけのシンプルなものだ。この予約録画は、本体の電源がOFFでは動作せず、また別のチャンネルを視聴中にも動作しない。要するに電源を入れてトップメニューあたりを表示しとかないと動作しないわけで、定期的な運用としてはちょっと厳しいものがある。 USBを搭載してPCと連動できるわけだから、実際はPC側で録画したものを本機に転送して見る、という使い方がメインになるだろう。付属ソフトとして、Dr.DivX ver1.04とDivX Pro5.11がライセンス付きで付属してくる。ただしDivXでのエンコードでは、推奨のプロファイルを使用しないと、転送してもうまく再生できないようだ。 以前24fpsに逆プルダウンしたDivXファイルがあったのだが、これは再生できなかった。新たにエンコードして試してみたところ、マニュアルでビットレートや画像サイズなどをいじったものは、再生中に徐々に音声がずれるなど、再生可能なレンジは結構シビアだ。もっともこれはちょっと早送りなどすると、ストリームのインターリーブを見直すためか、同期がとれるようになる。
今までDivX再生対応のハードウェアでは、ほとんどSigma DesignsのEM855xを使っていたため、推奨プロファイル外の設定でも、ある程度の許容量があった。だが本機では、かねてからDivXソフトウェアエンコーダが「プロファイル外の設定をするとハードウェアの再生は保証しない」と警告してきたとおり、規定プロファイルしか通らないチップを採用しているということだろう。 ■ 出音は結構イイ
次に音楽再生機能を見てみよう。付属ソフトとして、Musicmatch Jukebox Basic 8.2(以下MMJ)が付属している。構造がややこしいなど不評を買うことの多いソフトだが、いったん全体像を把握してしまえば細かいところまで機能が行き届いており、使いやすいと筆者は思っている。 MPM-201にこのソフトが付いている意味は、単にMP3エンコーダとして使え、ということであるらしい。MMJはプラグインを追加することで、多くのポータブルプレーヤーにファイル転送が可能になる。だがMPM-201のプラグインは存在しないため、MMJを使ってファイル転送ができない。 ではどうやるかというと、エクスプローラなどで単にMP3ファイルをコピーするだけなのである。著作権的にどうのという話は別として、音楽管理ソフトがあるのに、リッピングだけやってあとはフォルダを掘っていってファイルコピーという方法は、今となっては前時代的に思える。メモリー型プレーヤーなど大した容量がないものはそれでもいいだろうが、30GBという容量を効率的に使おうとするならば、音楽管理ソフトと連携して自動更新したり、プレイリストで転送を管理したりといった方法が欲しいところだ。
肝心の音質だが、付属のイヤフォンでは文字通り右も左もわからないので、ゼンハイザーのMX500で試してみた。意外といっては失礼だが全体的に歪みも少なく、出力段に余裕を感じさせる、安心して聞ける音だ。EQのプリセットみたいなものはないが、トーンコントロールとして低音、高音ともに±3ずつ調整できる。 難を言うならば、1曲再生が終わった時点で次の曲の読み込みを開始するため、曲間がかなり空いてしまうところだろう。なまじ再生音がしっかりしているだけに、惜しまれる部分だ。また再生中の画面を抜けると、すぐに再生が止まってしまうのも惜しい。iPodなどのように、次のアルバムのブラウズ中も音楽再生が維持されると良かっただろう。
オーディオ系の効果としては、Setupから3Dサウンドが選択できる。疑似サラウンドのような機能で、オフ、ノーマル、ファインの3段階がある。試してみたところ、ノーマルはエフェクトのかかり具合は比較的上品で、この手の機能によくある高域の位相のずれた感じはあまりない。BGMとして聞きたいときなど、開放感を求める場合には役に立つだろう。ファインは効果がより強くかかるが、ちょっと逆相っぽく聞こえてしまい、ソースによっては若干歪みが増すのが難点だ。 続いて静止画表示機能を見てみよう。この手の機能は、HDDに静止画像を詰め込んで通勤中に見る、というよりむしろカードスロットを使って、デジカメで撮った写真をHDDにバックアップするといった用途になるだろう。静止画の表示は簡単で、メインメニューの[My picture]からファイルを選んでOKボタンを押すだけだ。 ただし液晶表示がイマイチなので、鑑賞するというよりも内容が確認できる程度。静止画表示中にOKボタンを押すと、EXIFデータが確認できる。またスライドショー機能もあり、画像の変わり目ではランダムにエフェクトもかかる。ワイプやスライドインのようなエフェクトはそこそこ快適だが、黒フェードアウト・フェードインなんかはどえらく時間がかかる。 ファイルコピーは、メインメニューの[File manager]を使う。コピー&ペーストで、ドライブ間のコピーが可能だ。フォルダ単位でもコピー指定できるので、デジカメのバックアップには最適だろう。試した限りでは、転送速度も十分速かった。
■ 総論
MPM-201は、製品企画の段階から非常にユニークなマシンだ。動画再生はMPEG-2を捨ててDivXだけに集中、バッテリ交換可能、メモリーカードスロット付き、ステレオスピーカー内蔵など、かなり思い切った設計となっている。全体的なイメージは、価格を抑えた割りには悪くない。機能も豊富だし、動作も安定している。ハードウェアの部分では、塗装の良さやクレードルの品質などモノとしての質感にものすごくこだわっている。 その反面、コスト優先でゴーカイに切りつめまくった部分もある。液晶の品質など、今どきちょっと国産品ではまず見かけないレベルだ。またおそらく製品版と同等品であろう貸出機では、液晶手前のアクリルパネルがちょっと曲がって付いてるといった、ミョーにヒューマンなアセンブルの部分もある。こういうところをにっこり笑って自分で張り直すような図太さがあるか、大手メーカー製品の常識とはかけ離れた部分をどう受け止めるかで、評価が分かれるだろう。もっとも現状で比較対象になるのは、もっぱらソニー製品なので、あまり細かいところまで品質を比べるのは酷かもしれない。 なお8月には、HDDが60GBの「MPM-202」も発売されるようだ。価格差が1万円程度で容量が2倍なら、かなりお買い得感がある。万能外部ストレージと割り切って買うのもアリだろう。 □NHJのホームページ (2004年7月21日)
[Reported by 小寺信良]
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