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第174回:PDAとしても使えるポータブルAVプレーヤー?
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■ PDAでも動画鑑賞時代到来
PDA市場というのは、世界的にも携帯電話やスマートフォンに取って代わられ、シュリンクしているそうである。確かに通信デバイスと一体化してしまえば、情報の引き出しは格段に広がるわけであるが、反対にわしわしと情報を入力するのだというタイプの人には、10キープチプチして字ィ書くのは勘弁してくれと思っているのではないだろうか。
かく言う筆者も今のところPDA派で、やはり電話機とは別のものだと思っているのだが、NOKIAのスマートフォンが日本向けにローカライズされるんなら買うかも、とか考えている。
さてPDA派の中でも根強い人気を誇るのがSONYのクリエで、これはもうPalmの一つというより「クリエ」という別のものであるというぐらいのイキオイで差別化が進んでいるのはご存じの通り。そのクリエから、有機ELディスプレイを採用したハイエンドモデルが出るという。
そもそも有機ELは、ソニーが社運をかけて開発を進めていた表示デバイスで、実際にこの春からパネルの量産開始というプレスリリースまで出ていたのだが、寿命や歩留まりなどの面で、量産化にはずいぶん苦労したようだ。今年春頃に何らかの製品投入かと言われていたが、約半年遅れてようやく出てきた有機EL搭載製品が、今回のクリエ「PEG-VZ90」(以下VZ90)である。
もともと有機ELは、応答速度の速さや色表現範囲の広さから、動画向きと言われてきた。クリエにそれを搭載したからには、それで動画を見ろということであると強引に決めつけてしまえば、ほーらもうAV Watchのカテゴリである。
そんな新クリエ、VZ90を、早速チェックしてみよう。
■ 意外に太い?
PDAというのは、基本的にモバイルで使うものであるため、人目にさらされる機会も多い。そう言う意味ではルックスは非常に重要な要素であり、実際にクリエが生き残ってこられたのも、ひとえに優れたデザインが故であると言っても過言ではないだろう。
本体面積は従来のクリエより若干小さい程度で、本体部とディスプレイ部の二層構造になっている。ディスプレイ部の外装はヘアライン仕上げのアルミだが、本体部は樹脂製。有機ELはバックライトが不要なので、薄型化できるという触れ込みだったが、実際の製品ではディスプレイ部の厚みが8.9mmと、ノートPCの液晶ディスプレイと大差ない。全体の厚みは23mmと、PDAとしては結構厚いほうだろう。
本体の面積はさほど大きくないが... | 意外に厚みはある |
ディスプレイをスライドさせると、テレビっぽいルックスに |
ディスプレイ部は上にスライドするように作られており、スライドさせると奥からアプリケーションボタンとディスクジョグが現われる。このスタイルだと、PDAというよりも、すごくテレビっぽいルックスになる。ディスプレイの解像度は480×320ドット。
さて肝心の有機ELディスプレイだが、それほど強く発光するわけではないものの、精細感が高く自然な発色だ。写真などを表示させると、視野角180度の威力もあって、まさに「明るいところで見た写真光沢紙」のような印象を受ける。有機ELは輝度が低いと懸念されているが、ソニーはこれを従来デバイスとは逆方向に開口する「Super Top Emission」という技術で解決した。日中の直射日光化で見ても、使用には困らないだけの輝度は確保できている。
コントローラのディスクジョグは、周りがリング状、中央部が十字キーになっており、コンテンツの選択やシャトル、あるいはボリューム調整など、スタイラスを使わなくても基本的なAV操作ができるようになっている。昨年12月に発売された携帯電話「SO505iS」で既に採用されており、操作性では実績のあるデバイスだ。最近のソニーの傾向として、他の部署で開発したデバイスを融通し合って製品開発するという動きが強まっており、これもその一つだと言えるだろう。
本体と革製キャリングケースが一体化している |
面白いのは、本体とキャリングケースが一体化しているところで、黒い革製のケースが背面でしっかりネジ止めされている。ケースを閉めると、レシートと小銭でデブになったお買い物財布ぐらいの大きさになる。
本体左側には、CFカードスロットとメモリースティックスロット、それから赤外線通信部がある。CFはメモリも挿せるが、通信カードも挿せる。対応しているのは、セイコーインスツルメンツの「AH-S405C」だけだ。
右側には、リモコンとイヤホンコネクタがあるのみ。底部はクレードル用マルチコネクタと、電源スイッチがある。スタイラスは上部に収納できる。
クレードルも見てみよう。非常に小型かつシンプルなデザインで、USBケーブルは背面から直出し。電源は、少し上の部分に背面から挿すようになっている。常時携帯もできそうなほど小型なのだが、本体を支えるアクリル部が外せないのは残念。モバイル用には別途、小型のプラグアダプタも付属している。
小型でシンプルなクレードル | 使用時はケース背面を開いて設置する | モバイル用に小型プラグアダプタも付属 |
そのほか付属品としては、音楽再生時に使用するリモコンがある。再生/停止、スキップ、ボリュームのシンプルなもの。先端には突起があって、この部分もスタイラスとして使えるなど、隠れた工夫もうれしい。
イヤホンは小型のカナルタイプで、おそらく同社のMDR-EX51SPと同等品ではないかと思われる。
先端がスタイラスにもなるリモコン | 付属のイヤホンは、小型カナルタイプ |
■ 動画を試す
元々PDAなので、本来ならばスケジュールの同期などPCとの連携もいろいろ評価すべき点もあるわけだが、今回はバッサリその辺はおいて置いて、AVコンテンツ部を中心に見ていくことにする。
VZ90で扱えるコンテンツは、動画、音楽、写真の3つである。本体下のアプリケーションボタンも、この3つに加えてオーガナイザという並びになっている。さらに本体の環境設定もコンテンツを見るために特化しており、デフォルトではホーム画面自体が、動画、音楽、写真をブラウズするための「Media Launcher」というアプリケーションに設定されているほどだ。
では順番に試してみよう。とは言っても本体だけでは何もできないので、PC側でコンテンツを作成して、VZ90に転送する作業が必要になる。
動画コンテンツは、「Image Converter 2 for CLIE MP4」というPC用アプリケーションを使って、「CLIE MP4」というフォーマットに変換する必要がある。一見独自フォーマットのようにも見えるが、MPEG-4の映像データ部は標準的なもので、PCでもQuicktimeで再生することができる。そのほか、Quicktimeの一部とMPEG-1は、本体でダイレクトに再生できる。
MPEG-4へのコンバートを行なう「Image Converter 2 for CLIE MP4」 | 4段階のビットレートを選択できる |
「CLIE MP4」にはプリセットのビットレートが4つある。それぞれの画質サンプルを掲載しておこう。
ビットレート | 解像度 | フレームレート | オーディオ | 1GB収録時間 | サンプル画像 |
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768kbps | 320×240ドット | 30fps | ステレオ | 140分 | 768k.mp4 (2.63MB) |
384kbps | 15fps | 250分 | 384k.mp4 (1.51MB) | ||
192kbps | 460分 | 192k.mp4 (775KB) | |||
96kbps | 160×112ドット | モノラル | 1,000分 | 96k.mp4 (384KB) |
MPEG-4ファイルの再生には、専用のコーデックが必要になります。再生環境はビデオカードや、ドライバ、OS、再生ソフトによって異なるため、掲載した動画の再生の保証はいたしかねます。また、編集部では再生環境についての個別のご質問にはお答えいたしかねますのでご了承下さい。 |
サンプルは、DVフォーマットのAVIを変換したものだ。変換可能フォーマットはMPEG-2やDivX、WMV、Quicktimeなど、コーデックがOSにインストールされていれば、大抵のものは変換できてしまう。ただMPEG-2はVAIOのGigaPocketやDo VAIOで録画したものに準拠しているため、DVD規格を超えるビットレートのものは変換できないようだ。
変換にはコンテンツの実時間かかってしまうのが難点だが、VAIOとの組み合わせでは、番組録画と同時にCLIE MP4を生成し、自動転送まで行なうこともできる。
一方転送時のVZ90側の設定だが、こちらはクレードルでPCとUSB接続して、クリエ側ソフトの「Data Import」でPCにマウントしておく必要がある。転送先は、メモリースティック、CF、本体メモリが選択できる。VZ90にはIEEE802.11bの無線LANがも使えるが、現在のところWEBのブラウジングやメールなどに使用するだけである。せっかく無線LANなんだから、NASのエミュレーションモードなどがあってもよかっただろう。
各ファイルをVZ90で再生してみた。有機ELのメリットを生かすなら、30fpsが出る786kbpsで使いたいところだ。エンコーダによるブロックノイズは感じるものの、表示としては残像感のない、しゃっきりした映像が楽しめる。一方384kbpsは、786kbpsのフレームレートを半分にしたものだ。コマのパラツキ感は感じるが、長時間再生を楽しむなら、現実的な線だろう。それ以下のレートでは、「写りの悪いテレビ」の画質を覚悟することになる。
クリエ側は「Data Import」でPCと接続しておく | 786kbpsなら再生品質は良好 |
■ 音楽の再生
次に音楽再生を試してみよう。方法は2通りあって、一つはSonicStageを使ってATRAC3を転送する方法。以前からのVAIOユーザーならばこの方法もアリかもしれないが、転送先がMG(マジックゲート)対応の白メモリースティックに限られるのはイタイ。
MP3のファイル転送は、「Data Export」を使うと楽 |
もう一つの方法は、MP3をそのまま転送する方法だ。転送先にはMG非対応メモリースティックやCFカードが使えるため、メリットも大きい。音楽転送方法といっても、専用アプリケーションがあるわけではない。前出の「Data Import」でPCにVZ90のメモリをマウントしておき、PC側のソフト「Data Export」でMP3ファイルを転送する。
所詮はただのファイルコピーなので、エクスプローラなどを使ってもいいのだが、クリエで認識できるよう間違いなくディレクトリを指定しないといけないので、面倒だ。「Data Export」はそのあたりを、ファイルの拡張子を見て勝手に振り分けてくれるソフトなのである。
MP3の転送時には、音楽データをサブフォルダなどに入れていてはダメなので、全曲が同じディレクトリにぶちまかれた状態になっている。アーティスト別に整理して聴きたければ、VZ90でプレイリストを作ることになる。
音楽再生中の画面。アーティスト別にソートするにはプレイリストを作成する | プレイリスト作成画面。ドラッグ&ドロップでの並び替えもできる |
プレイリスト作成時には、アーティスト名やアルバム名でソートできるので、並び替えは簡単だ。だがこんな単純なソートぐらいなら、わざわざプレイリストを作らずに、プレーヤーの画面だけでできるようになって欲しいところ。
音質設定は、低音を強調するMEGA BASSを搭載しており、オフから弱、中、強の3段階から選択できる。また音漏れ防止のAVLSも搭載している。
肝心の音質だが、ソニーらしい輪郭のしゃきしゃきした明るい音だ。ミュージック専用プレーヤーと比べても、遜色ない。個人的にリファレンスにしているクラフトワークの「Expo 2000」歪みテストでは、残念ながらイントロ部に若干の歪みが認められた。クオリティとしては、VAIO Pocketと同レベルという感じだ。
音楽再生は、他のソフトを使用中にも続けることができるので、BGMを聴きながら楽しくスケジュール入力とかもできる。
■ 写真は綺麗
写真の発色は、有機ELの本領発揮 |
デジタル写真は、有機ELがもっとも威力を発揮するコンテンツだろう。最近のデジタルカメラで採用が進むDCF準拠のJPEGならば、そのままメモリにコピーすれば見られる。スライドショーなどの機能はないが、深みのある発色が楽しめる。
それ以外の画像は、前出の「Image Converter 2 for CLIE MP4」を使って変換する必要がある。変換できる静止画は、BMP、JPEG、TIFF、GIF、PGPの5つ。変換時には、4段階の画質と、画像サイズが指定できる。推奨のサイズは4種類で、そのほかにも元の画像に対するパーセンテージでも指定することができる。
写真の変換にも「Image Converter 2 for CLIE MP4」を使う | 変換時には画質とサイズが指定できる |
300万画素ぐらいの写真ではページ送りも5秒ほど待たされることになるため、あらかじめ画像サイズを縮小しておくと、レスポンスよく次々と写真を見ることができる。
■ 総論
ノートPCこそが最強のポータブルAVプレーヤーという考え方があるように、PDAでそれをやったらどうなるのか、という答えを見せてくれたのが、VZ90だろう。期待の有機ELパネルは、画像だけでなく文字の認識性も高く、WEBのブラウジングも快適だ。しかも素の有機ELではなく、タッチスクリーンにもなっていてこの鮮明度ならば、まさに未来のディスプレイと言っていい。
引っかかるとすれば、価格以外にはない。店頭予想価格が95,000円前後というのは、PDAとしては破格だ。ソニー製品だから、大幅な値崩れも期待できない。これにメモリースティックも足せば、もう10万円コースだ。ヘタすればノートPCが買えてしまう。
例えばこれにHDDが搭載されていれば、妥当な値頃感かと思う。まあそうなるとPalmとは言えなくなってしまうかもしれないが……。
しかしここまでのAV機能をPalmOSでやってしまう強引さが、いかにもソニーらしいところだ。AVプレーヤーとしてはまだPDAの制限を引っ張っているところもあり、先物買いっぽい製品ではある。だがこれがある程度売れてこないと、有機EL製品はあとが続かないわけで、ちょうどPDA買い換えるところだったという人は、多少無理めでも行っといて貰えると世の中のためになるわけである。
どうですか。あなた一つ、衝動買いしてみませんか?
(2004年10月6日)
= 小寺信良 = | テレビ番組、CM、プロモーションビデオのテクニカルディレクターとして10数年のキャリアを持ち、「ややこしい話を簡単に、簡単な話をそのままに」をモットーに、ビデオ・オーディオとコンピュータのフィールドで幅広く執筆を行なう。性格は温厚かつ粘着質で、日常会話では主にボケ役。 |
[Reported by 小寺信良]
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