■ 新作で2,980円の買いやすい価格設定
2004年6月18日に発売された、前作の「ファインディング・ニモ」DVDから約1年ぶりのPixar作品のDVDということになる。 映画「Mr.インクレディブル」は、「トイ・ストーリー」、「モンスターズ・インク」、「ファイディング・ニモ」と大ヒット作を連発したDisneyとPixarの長編フルCGアニメの第6弾。2004年アカデミー賞では、DreamWorks Animation制作の「シャーク・テイル」と「シュレック2」を抑えて、長編アニメ賞を勝ち取り、加えて音響効果賞も受賞と、高い評価を受けている。 今回発売されたDVDは、2枚組みの「通常版」(VWDS-5026)のほか、通常版に特典グッズを加えた5,000セット限定の「DVD コレクターズ・ボックス」(VWDS-5066)の2種類を用意。価格は通常版が2,940円、コレクターズ・ボックスが15,750円。 DVD コレクターズ・ボックスは、通常版と同じDVDに、スケッチやパステル画を集めた「ジ・アート・オブ・Mr.インクレディブル」(徳間書店刊)と、シリアルナンバー付きの特製プリントアート、オリジナル・ウオッチなどを同梱し、収納ボックスも豪華な装丁。 なお、先着予約キャンペーンとして、予約購入すると先着でオリジナル・ミニゲーム「インクレディブル危機一発!」がプレゼントされていた。この種の予約キャンペーンは、発売後もプレゼントが残っていて貰えることも多いが、今回は発売後にノコノコと買いに行った時には、すでになくなっていた。 量販店の店頭では「Mr.インクレディブル」コーナーが作られており、品切れすることはないと思えるほどに大量に平積みされており、力の入れ具合が伝わってきた。
通常版は、「ファインディング・ニモ」と同じ3千円を切る価格設定で、新作DVDとしては買いやすい。2002年発売の「モンスターズ・インク」のDVDが4,200円だったことを考えると隔世の感がある。 今回はさらに「Mr.インクレディブル 大ヒットキャンペーン」(応募期間:6月15日~8月31日)として、Mr.インクレディブルと、「お待たせ! ピクサーフェア ニモ&ピクサー1800」の対象タイトルである「ファインディング・ニモ」、「モンスターズ・インク」、「バグズ・ライフ」、「スペース・レンジャー バズ・ライトイヤー/帝王ザーグを倒せ!」のうち1タイトルを購入すると、もう1タイトルプレゼントされる。 プレゼントされるタイトルは「お待たせ! ピクサーフェア ニモ&ピクサー1800」の4タイトルと、このキャンペーン用に作られた、前述の4タイトルに関連する短編作品やメイキング、NG集を収めた非売品のオリジナルDVDから選ぶことができる。 実質的には2タイトル分の金額で、3タイトルを手にすることができるわけで、さらにお得感は高まる。ただ、Mr.インクレディブルを購入する層は、「お待たせ! ピクサーフェア ニモ&ピクサー1800」の対象タイトルは既に購入済みであるだろうから、オリジナルDVDを選ぶ人が多そうだ。 通常版とDVD コレクターズ・ボックスのどちらを購入するかは、DVD自体は同じで価格差が5倍以上ということで、考えるまでもなく通常版を選択した。通常版のパッケージは、アマレーダブルのトールケースで、DVDメニューのツリー構造を解説したメニューガイドが封入されている。メニューガイドはすべての漢字にルビ付きと、子供向け作品としての配慮もされている。
なお同社から、特典ディスクがファームウェアがバージョン2.01以前のPS2では再生できない不具合が告知されているので、PS2でDVDで鑑賞している場合は注意したい。
■ スーパーヒーロー廃止の時代到来 かつてスーパーヒーローが活躍し、世界の危機をいくつも救っていた頃。Mr.インクレディブルと、イラスティガールは、世の中の平和を乱す悪と闘い、人々を危機から救い出す大活躍をしていた。 当然、そんな正義のために戦うスーパーヒーロー達は、人々から絶大な人気と尊敬の念を集めていた。しかし、その桁外れの破壊力が社会に損害を与えるこが問題視され、15年前に政府はスーパーヒーロー制度の廃止を宣言。それ以来、スーパーヒーローの活動は禁じられた。 Mr.インクレディブルも例外ではなく、保険会社のしがないサラリーマンのボブ・パーとして働き、イラスティガールも、その妻の専業主婦ヘレンとして生活をしていた。また、彼らの3人の子供たち、ヴァイオレット、ダッシュ、ジャック・ジャックもスーパーパワーを持っていたが、正体を隠し一般市民として普通に家庭生活を送ろうと努力していた。 しかし、大きな身体を持て余し気味のボブ・パーは、過去のMr.インクレディブルとしての輝かしい日々が忘れられず苦悩する。ボブ以外の家族も、それぞれに不満や悩みを抱えていた。そんな折、元スーパーヒーローが次々に行方不明になる不穏な事件が続発。ある日、謎の手紙が、再び世界を救うことを夢見続けるボブの元に届く。ボブはMr.インクレディブルとして栄光を取り戻すために、早速、問題の孤島へと赴く……。 製作総指揮はジョン・ラセター、監督は「アイアン・ジャイアント」のブラッド・バード。声の出演はクレイグ・T.ネルソン、ホリー・ハンター、サミュエル・L.ジャクソンほか。なお、日本語吹き替えは三浦友和、黒木瞳、宮迫博之らが担当している。日本のアニメだと独特の表現が求められるため、“声優”以外が声をあてることを嫌う向きもあるが、Pixar作品だと普通の俳優の演技力が発揮されており、まったく違和感を感じなかった。 最初にフル3D CGアニメ「トイ・ストーリー」が公開されたときは、ある種のきわもの映画のようにも思えたが、現在では実写やない目とならぶ、3D CGアニメという1ジャンルが確立された。長編3DCGアニメとしては6作目となる本作での挑戦は、主人公を人間にしたことだ。 今まではおもちゃや、動物が主役であったが、人間は人間が普段見慣れているものため、少しでも本物と違っていると、その違いに気づかれてしまう。その意味で、人間は最もCG化するのが難しい対象だろう。今回は、「FINAL FANTASY」のような、完全にリアルなCG化するのではなく、アニメっぽいデフォルメをほどこしたキャラクター重視となっている。 もちろん、技術的なトライアルとしてリアルな人間をCGアクターとして作り出すというのも面白いとはおもうのだが、それを突き詰めていくと、「最初から人間がやればいいのでは?」という根本的なところに行き着いてしまうと思うのだ。やはりPixarには、フル3D CGしかできない表現を突き進めて欲しい。 Pixarの作品はDisney配給のアニメという形態をとっているが、内容自体は子供むけというより、どちらかというと大人に向けているように感じる。特にMr.インクレディブルは、本編が115分とディズニーの子供向け映画としては長めで、ここからも製作者側の意図が伝わってくる。 ストーリーも、「引退して中年になったスーパーヒーローと、その愛する家族が世界の命運をかけて立ち上がる」という、仕事と家庭に疲れたお父さんに勇気を与える内容だ。もちろん、子供が観ても楽しめる要素もたくさんあるが、キャラクタ設定的にも、いつもよりコメディ要素が多く、子供と一緒に観ているお父さんの方が引き込まれそうだ。
全体的に深い話はなく、エンターティメントとして楽しめるのだが、敵役の「シンドローム」が、Mr.インクレディブルを恨む理由が、あまりに弱いと感じた。さすがに、あの理由で、あそこまでするとはいうことに真実味が持てなかった。
■ とびっきりの映像美
DVD Bit Rate Viewer Ver.1.4で見た平均ビットレートは7.94Mbps。アニメ作品としてはそれほど高くはない。画面サイズは2.39:1をスクイーズで収録する。シネスコの2.35:1に比べると少し縦長な、少々変則的なアスペクト比なっている。 画質は、DVDと相性のよいCG作品ということもあって、まったく申し分なく非常に美しい。実写映画と違って、画面の隅々までコントロールが行き届きノイズは皆無。鮮やかで抜けのよい映像が展開する。まるで、レンダリングしたコンピュータ画面を直接見ているようクリアで、色に濁りがない。 音声は英語、日本語のどちらもドルビーデジタルEXで収録し、ビットレートは448kbps。ド派手な聞かせどころは多くはないが、環境音による包囲感、LEFの切れ、アニメーション作品ならではセリフのクリアさがある。日本語吹き替えも前述の通り三浦友和、黒木瞳、宮迫博之らが見事に演じており、違和感はない。日本語吹き替えもドルビーデジタルEXで、オリジナルの英語と効果音やBGMの差はないので、吹き替え音声で鑑賞した方が、より没入できるだろう。 本編のチャプタ数は32で、115分の映画としては細かい。チャプターメニューはアニメーションするが、タイトルはつけられていない。なお、ブエナのDVDなので、当然の様に冒頭に、これでもかと同社製DVDタイトルの広告が入っているが、それが始まる前に「すぐ本編を見るなら、メニューボタンを押して、本編再生」とメッセージが表示されるようになり、少し親切になった。 とはいえ、レンタルDVDならまだしも、セルDVDなのだから、広告はメニューから見たい人だけ、見るようにしてくれてもいいと思うのだが……。
本編ディスクの映像特典は、「カーズの予告編」(約2分)と「イントロダクション」(約1分45秒)のみとシンプル。イントロダクションでは、監督/脚本のブラッド・バードと製作のジョン・ウォーカーがアスペクト比の説明を行ない、「それでは、照明を落とし、音量を上げてお楽しみください」と盛り上げる。また、音声解説として、監督/脚本のブラッド・バードと製作のジョン・ウォーカーのトラックと、アニメータ達のトラックの2つを収録している。 一方、特典ディスクの内容は盛りだくさん。まず、「イントロダクション」(約1分)として、脚本・監督のブラッド・バードが、「映画は劇場で見るのが一番だけど、DVDもいい。映像特典が見られるからね」とPR。 さらに、短編アニメーション「ジャック・ジャック・アタック!」(約4分40秒)、「未公開シーン」(6シーン、計約34分)、「メイキング・オブ Mr.インクレディブル」(27分30秒)、「“もっと”メイキング・オブ Mr.インクレディブル」(約41分)、「NG集」(約1分40秒)、キャラクターデザインやセットデザインなど70枚以上の画像を収録した「ギャララリー」、「パブリシティ」(劇場予告編3本、計約6分30秒)、「トップシークレット」、短編アニメーション「バウンディン」(約4分41秒)などを収録する。 ジャック・ジャック・アタック!は、本編では描かれていないジャック・ジャックのスーパー・パワーの秘密が明かされる。ベビーシッターのカーリがジャック・ジャックの子守をしていたあの夜に、いったい何が起こったのか? おそらく、本編を観たほとんどの人が気になっていたんではないかと思う内容が、初公開の短編アニメーションで描かれる。字幕はなく、音声は吹き替え音声のみとなっている。 未公開シーンでは、6シーンについて脚本・監督のブラッド・バードがカットした理由を語りながら、紹介する。ちなみに、「上映時間の都合で仕方なかった」ことを主な理由に挙げている。3D CGアニメなので、非公開のシーンは最終レンダリングされていないため、一部CGも交じったアメコミ風モノクロのストーリーボードで紹介される。この部分は吹き替え音声になっているが、本編の吹き替えとは違う人があてている。 メイキング・オブ Mr.インクレディブルと、“もっと”メイキング・オブ Mr.インクレディブルは、ともにメイキング映像だが、前者の方が製作者達の人間を中心に、後者の方は技術面を主に取り上げている。興味深いのは、「2D出身のアニメーターにかなりの部分をまかせた」ということ。リアルであることよりも、アニメであることに重きを置いていることが伺える。 ただ、CGをほとんど使ったことのない2Dのアニメーターが、突然最先端の3D CGを使うことになるのだから、その戸惑いは大きかったようだ。印象に残ったのは、最新のコンピュータや技術を使ったCGアニメとはいえ、「結局は、機械による手作業」という言葉だ。 “もっと”の方でも、実際の製作技術については、あまり詳細は明らかにされないが、リアルさより各キャラクタの個性を重視して製作されていることが語られる。とはいえ、登場人物が多いので、100種類以上の衣装が登場し、担当者は実際の型紙の作り方を学び、CGキャラクタの各部位を計測し、型紙を作ったうえで衣装のオブジェクトを製作したという。 また、大変だったのが長い髪の動きで。それが完成したら、次の課題がぬれた髪と、風に流れる髪とのことだったと語られる。やはり、人間をCGで作り出すというのは、今までにない苦労があったようだ。効果音についても、実写ではないので、歩く音も含めて、すべての効果音もつくらなくてはならい。その音の収録風景も紹介される。 NG集は、この種の作品にありがちな、NG集のために作りましたという映像というよりは、CGのプログラミングに失敗して、ずれているといったようなネタ、つまりは本当のNGが多かった。 さらに、面白い試みとして、トップシークレットに「NSAファイル」(National Super Agency)が収録されている。本編には一瞬しか登場しなかったスーパーヒーローも含め、21のスーパーヒーローのプロフィールを見ることができる。内容的には仮面ライダーカードのように、各スーパーヒーローの能力などが記録されている。さらに、音声(吹き替え音声のみ)による自己紹介も全員に用意されている凝ったものに仕上がっている。 「バウンディン」は、バド・ラッキーが脚本、デザイン、監督、歌までを担当した短編3D CDアニメーションだ。日本語吹き替えのみで、日本語吹き替え版の制作はスタジオジブリ、声は西村雅彦。映像はスクイーズ収録、音声はドルビーデジタル 5.1ch(394kbps)、バド・ラッキーのオーディオコメンタリまで収録と豪華だ。 ちなみに、特典ディスクには、隠しコンテンツが何種類も用意されている。メインメニューや未公開シーンなどを表示して、しばらく経過すると、画面右上方にオムニドロイドのアイコンが出現。素早く、オムニドロイドまでカーソルを移動させて決定すると、舞台裏映像や、アニメーション、おふざけ映像などが再生できる。
■ 価格も安くて、一見の価値あり 2枚組みで2,980円とお手ごろな価格で、CGのクオリティも高い。画質も、実写映画が目指す先にあるものとは異質のものではあるが、非常に高く、一見の価値はある。来客時のデモ用としてもぴったり。 残念なのは、映像特典のメイキング映像で、CGの技術面の解説が少ないことぐらい。Pixar作品のファンであれば買って損はない。 なお、2004年1月にPixarは、The Walt Disneyと結んでいる配給契約の期間延長しないと発表。DisneyとPixarの契約は2006年までに終了し、日本で2006年夏公開予定の「カーズ(Cars)」が最後の共同作品ということになる。ただ、DisneyはPixarが拒否したとしても、最初の7作品については続編を制作することができるという契約ではあるようだが、正直なところPixar作品ではない「トイ・ストーリー3」は、もはや別作品だろう。
□ブエナ・ビスタのホームページ (2005年6月21日) [AV Watch編集部/furukawa@impress.co.jp]
AV Watch編集部 av-watch@impress.co.jp Copyright (c) 2005 Impress Corporation, an Impress Group company. All rights reserved. |
|