~ 完成度を高めたパフォーマンスシンセも ~ |
7月1日、ヤマハが発表会を行ない、DAWとしてAW4416/AW2816/AW16Gの後継となる「AW2400」、「AW1600」の2機種、シンセサイザはSシリーズの最上位機種にあたる「S90 ES」を発表した。
ここ1、2年、このジャンルのヤマハの発表会がなかったというわけではないが、目立つ製品の大掛かりな発表会というのは久しぶりのような気がする。新製品がどんどん登場することで業界が盛り上がっていくのだから、ぜひ最大手のヤマハから、たくさんの製品が出てくることを願いたいところ。
ヤマハでは、この6月にシンセやレコーディング機器関連の部署で、若干の人事異動があったこともあって、活気付いている。担当マネージャーによれば「今後、バンバン出していく」とのことだったので、期待したい。
その新製品ラッシュ(?)の第一弾となる今回の3製品だが、まずはヤマハプロフェッショナルオーディオワークステーションシリーズの「AW1600」(7月20日発売、オープンプライス/実売12万円前後)および、「AW2400」(8月下旬発売、オープンプライス/実売22万円前後)から紹介する。
いまやHDD、CD-RW搭載のDAWとして確固たる地位を築いたヤマハのAWシリーズだが、初号機のAW4416が登場したのは2000年5月。もう5年以上が経過している。
その後2001年7月に「AW2816」、2002年7月に「AW16G」がリリースされたが、AW4416が最上位機種という位置づけであったため、変化の激しい世界で5年間も現役を続けてきたということになる。
それがようやく今回で選手交代となる。これまで3ラインナップあったのが今回2ラインナップとなり、AW16Gの後継がAW1600でベーシックモデル、AW4416とAW2816の後継にあたるのがAW2400でプロフェッショナルモデルという形になっている。
AW1600は、36ミキシング入力のデジタルミキサー、2系統のマルチエフェクター、16トラックのHDDレコーダー、リズムトラックなどの作成に便利なクイックループサンプラー、CD-RWドライブから構成されるDAWだ。
AD/DAは24bit(内部処理32bit)でデジタルミキサーはO2Rをはじめとする同社がこれまで培ってきたハイエンド製品譲りのもの。レコーディング時のフォーマットは16bit/44.1kHzと24bit/44.1kHzが選択可能となっている。
AW1600 | 背面 |
ミキサー部の36入力というのは、36chの外部入力を持っているというわけではなく、外部からのインプットチャンネル×8、レコーダーの再生トラックチャンネル×16、エフェクトリターンチャンネル(ステレオ)×2、クイックループサンプラー(ステレオ)×4の計36ch。そして、その外部入力の1~8はすべてマイク/ラインに対応し、XLR端子とフォーン端子の両方に対応できるいわゆるコンボジャック。
どのトラックにレコーディングするかを液晶で確認しながらパッチングできる |
8chすべてがファンタム電源対応となっているので、コンデンサーマイクも電源なしに利用可能。またギターやベースと直接接続可能なHi-Z端子、コアキシャルのS/PDIF入力も用意されており、アナログ端子と切り替えて利用することもできる。なお、フェーダーは非モータードライブの45mmのものが計13本。これを切り替えて使うことで36chの操作を行なうことになる。
このAW1600の使い勝手で非常にいいのは、36chある入力をどのトラックにレコーディングするかを液晶パネルでグラフィカルな画面を使って簡単にパッチングできること。また全チャンネルに4バンドのパラメトリックEQとダイナミクスが装備されているため、自由な音作りが可能だ。さらに強力なマルチエフェクトも2系統装備されており、これも音作りの面では大きな力を発揮する。
リバーブやディレイ、モジュレーションなどはもちろん、プリセットライブラリとしてギター用のディストーションやアンプシミュレータ、ボーカル用エフェクトなどが入っている。またマスタリングエフェクトなども搭載されているから、AW1600だけで何でもできてしまう。
音程を修正するピッチフィックス機能で、自然な感じの音が作れる |
このエフェクトで便利なのが、モニター用にのみ使えること。例えば、ボーカルをレコーディングする際、モニターにはリバーブをかけた音を返し、HDDレコーダーには、エフェクトをかけない生音を録音するということができる。これによって、ボーカルが気持ちよくレコーディングでき、後の編集作業、ミックス作業での細かな音作りを可能にしてくれる。
さらに、新AWシリーズとして特徴的なのが音程を修正するピッチフィックス機能。微妙なボーカルの音のズレを補正することができるだけでなく、メインボーカルからコーラスパートを作成するといったことも可能。しかもかなり自然な感じの音を作成できる。
もうひとつ面白いのがリズムトラック作成時に便利に使えるのがクイックループサンプラーというもの。液晶パネルの下に4つのパッドが装備されており、このパッドそれぞれに4つのサンプルバンクを内蔵。計16種類のステレオ波形をアサインできるようになっている。つまり、AW1600自体をドラムマシンのように使える。記憶容量はサンプラー全体でステレオ47秒(24bitモードでは29秒)。
PCやCD-ROMから取り込んだWAVファイルを使用することも可能。パッドをリアルタイムで押して鳴らすだけでなく、小節ごとのステップ入力も可能だから、いろいろな使い方ができそうだ。また、このクイックループサンプラーの出力が、前述の36入力のミキサーへ接続されているため、好きなトラックへアサインしてレコーディングしていくこともできる。
なお、AW1600のUSB端子を利用してPCと接続すると、AW1600のHDDがPCの外部ドライブとして認識され、自由にWAVファイルのやりとりが可能。USB 2.0対応で、高速なデータ転送ができる。これだけのスペックのものが12万円程度で手に入るということであれば、かなりのコストパフォーマンスであるといっていいだろう。
そのAW1600の上位機種に相当するのがAW2400。上位機種という位置づけだけに、AW1600の機能はほぼ搭載しているので、ここではAW1600との違いを中心に見ていこう。
まず、最大のポイントは100mmのモータードライブフェーダーを13本装備しているところだろう。各チャンネルにピークLED、ステレオLEDを装備したプロ仕様のもので、液晶もより大きく操作しやすい320×240ドットのパネルが採用されている。またAW2400は48ミキシング入力となっている。
AW2400 | 背面 |
構成としては外部からのインプットチャンネル×16、トラックチャンネル×24、エフェクトリターンチャンネル(ステレオ)×4の合計48ch。このインプットチャンネルの入力ソースとしては、8系統の本体MIC/LINEインプットとS/PDIFコアキシャルのほかに、MYカードスロットというものを経由して、オプションのI/Oカードからの入力が16ある。これらの入力を切り替えて利用する。
液晶は320×240ドット |
入力部分は、ヘッドアンプを搭載した8系統となっており、コンボジャックではなく、フォーン端子とXLR端子がそれぞれ独立して装備されている。もちろん、すべてでファンタム電源の利用は可能だ。また1chおよび2chは、INSERT I/O端子を搭載している。エフェクトはAW1600が2系統であったのに対し、AW2400では4系統となっている。
このようにほぼすべてAW1600の機能を搭載しているわけだが、クイックループサンプラーはAW1600のみの機能となっている。22万円程度という価格から見ても、ハイエンドユーザーからプロユーザーが現場で使うものという位置づけのようだ。
AWシリーズとともに、今回発表されたもうひとつの製品がシンセサイザキーボード「S90 ES」(7月20日発売、標準価格273,000円)。ヤマハでは、現在メインストリームのキーボードとしてSシリーズとMOTIFシリーズという2ラインナップを出している。Sシリーズがパフォーマンス指向、MOTIFが音楽制作指向という切り分けになっているが、今回のS90 ESはS90の後継でSシリーズ最上位モデルという位置づけとなっている。
シリーズ最上位モデルとなるS90 ES |
もっとも、SシリーズもMOTIFシリーズも基本的には同じサウンドエンジンが採用されており、S90 ESはMOTIF ESと同等のAWM2音源システム、エフェクト、アルペジエーターなどの機能が継承されている。ウェーブROMは、MOTIF ESの175MBを超える計228MB。旧モデルのS90が110MBであったことを考えると倍以上の容量となった。
MOTIF ESとの差である53MBというのは、新たにサンプリングされたピアノ音色。128音ポリとなっているだけに、ペダルを踏みながら演奏しても、不自然な音切れのないピアノ音を表現できるのが大きな魅力。また、大容量のサンプリングデータを使っているだけに、発音時間の長い音でもリアルな音で鳴らすことができるのが特徴だ。
またS90と同様に3段階のペロシティスイッチが搭載されており、ベロシティーの強弱によってサンプリングウェーブを切り替えられるため、ピアニッシモとフォルテッシモでの大きく音色が異なるというピアノ独特の音をうまく再現してくれる。
さらに、S90 ESではダンパーペダルを踏む際に、踏む深さによって音の減衰時間をコントロールするハーフダンパー機能にも対応。また、ストレッチチューニングといって、通常の平均率に比べて低音側はより低く、高音側はより高く設定するピアノ独特の調律方法にも対応。まさにパフォーマンス指向の製品としての完成度を高めている。
ところで、最近のハードシンセサイザにおいて気になるのが、ウェーブROMの容量。今回も「ピアノ音53MBとシンセサイザ音175MBの計228MB」というのが大々的に打ち出されているが、果たしてその容量が大きいのか、ということ。
最近のソフトシンセ、ソフトサンプラーはそうした容量をはるかに超えるものになっている。たとえばTASCAMの「GigaSampler」などはその名前の通り、GB単位のウェーブデータとなっており、しかもピアノ音などは、1音色で1GBオーバーだから、S90 ESの53MBとは2桁も違うことになる。もっとも、発表会でのデモ演奏を聴くと、非常にリアルなピアノ音であり、気持ちいい音ではあるのだが……。
こうした疑問を率直に製品開発プロデューサーにぶつけてみた。
「確かに容量という意味ではソフトシンセ、ソフトサンプラーのほうが大きくなっています。実際、われわれもGigaSamplerをはじめとするさまざまなソフト音源をベンチマークしており、それらの良さというのも認識しています。
しかし、S90 ESがソフト音源と明らかに異なるのがDSPを使った音の作りこみ。ソフト音源とは比較にならないほど多くのパラメータをリアルタイムに処理しており、よりよい音に作りこんでいます。これが単に再生しているだけのソフト音源との大きな違いです。
そしてもうひとつの違いは、キーボードとの連携を徹底させているということ。つまり、実際に鍵盤を弾いたときの音の出方を突き詰めることで、演奏して気持ちいい、よりリアルなものに近づけているのです。これはソフト音源+MIDIキーボードという組み合わせでは絶対に真似できないものです」と、わかりやすい答えが返ってきた。
確かにキーボードを弾いた際の音の出方、リアルさには感心した。ピアノタッチの88鍵バランスドハンマー鍵盤のよさを極限まで引き出しているようで、単純に容量だけで比較すべきものではなさそうだ。
ちなみに、S90 ESで新たにサンプリングされたピアノ音とは、ヤマハのグランドピアノ「S700「。このS700は米国のみで販売されている製品。
USBは「TO HOST」と「TO DEVICE」の2系統 |
なお、このS90 ESにはPCと連携させる機能がいろいろと用意されている。まずはUSB(TO HOST)端子を使って接続することで、MIDIのやりとりができるほか、USB(TO DEVICE)端子により、外部記憶デバイスとのデータのやりとりも可能。また別売のmLAN拡張ボード「mLAN16E」を装着することで、mLANシステムに接続することができる。
さらにS90 ESの音色をフルエディット可能な「S90 ES Voice Editor」やパートごとにミキシングやエフェクトの設定をエディットできる「S90 ES Multi Part Editor」(ともにWindows用とMac用がある)を使って、効率のいい音作りも行なえる。
S90 ES Voice Editor | S90 ES Multi Part Editor |
Studio Manager Version2 |
もちろん、これらのエディターは「STUDIO CONNECTIONS」対応になっているので、Cubase SX3やNUENDO 3のメニューからStudio Manager Version2を選び、画面上のハードウェアのアイコンをクリックすることで起動させることができる。これにより、プロジェクトを開くだけでコンピュータに接続したすべての対応ハードウェアの設定情報を呼び出せるトータルリコールを実現している。
AW1600などは、実際に機材を借りることができたら、また詳細をレポートしたいと思っているが、今後ヤマハがどんな製品を出してくるのか楽しみだ。Steinbergとの連携もより深めていくとのことなので、この動向にも注目していきたい。
□ヤマハのホームページ
http://www.yamaha.co.jp/
□製品情報(AW1600)
http://www.yamaha.co.jp/product/syndtm/p/rec/aw1600/
□製品情報(AW2400)
http://www.yamaha.co.jp/product/syndtm/p/rec/aw2400/
□製品情報(S90 ES)
http://www.yamaha.co.jp/product/syndtm/p/synth/s90es/
□関連記事
【2001年9月3日】【DAL】第25回:「AW2816」が自宅にやってきた!!
~ その3: マスタリングからCD作成 ~
http://av.watch.impress.co.jp/docs/20010903/dal25.htm
【2001年8月27日】【DAL】第24回:「AW2816」が自宅にやってきた!!
~ その2:早速、レコーディング! ~
http://av.watch.impress.co.jp/docs/20010827/dal24.htm
【2001年8月20日】【DAL】第23回:「AW2816」が自宅にやってきた!!
~ レコーディングからCD制作までできるワークステーション ~
http://av.watch.impress.co.jp/docs/20010820/dal23.htm
(2005年7月4日)
= 藤本健 = | リクルートに15年勤務した後、2004年に有限会社フラクタル・デザインを設立。リクルート在籍時代からMIDI、オーディオ、レコーディング関連の記事を中心に執筆している。以前にはシーケンスソフトの開発やMIDIインターフェイス、パソコン用音源の開発に携わったこともあるため、現在でも、システム周りの知識は深い。 最近の著書に「ザ・ベスト・リファレンスブック Cubase SX/SL 2.X」(リットーミュージック)、「音楽・映像デジタル化Professionalテクニック 」(インプレス)、「サウンド圧縮テクニカルガイド 」(BNN新社)などがある。また、All About JapanのDTM・デジタルレコーディング担当ガイドも勤めている。 |
[Text by 藤本健]
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