■ HDDコンポの時代は来るのか? いわゆる「ミニコンポ」の市場は3万円程度の低価格帯が売れ筋で、国内大手メーカー製品がずらりとならぶ非常に厳しい市場になっている。しかし近年では、ビクター、ケンウッド、オンキヨーなどが、かつてのオーディオファンに向けて高音質を訴求するプレミアムモデルを相次いで投入。低価格化の流れとは違った市場創出の試みも行なわれている。 一方、トレンドとなりそうで、なれないできるのが、HDD搭載のミニコンポ。2004年にスタートしたホームオーディオ向け/ATRAC3形式の音楽配信サービス「エニーミュージック」対応端末が各社から発売はされたものの、大きな市場形成には至っていない。地道に年に一回程度各社が新製品を出したり、あるいはそのままフェードアウトしたりと、なんとも微妙な位置づけになっている。 しかし、この11月にはパナソニックがD-snap Audioと連携可能なHDDコンポ「D-dock」を発売するなど、にわかにHDDコンポ時代の機運も……。そんな中、ソニーが発表したHDDコンポ“ネットジューク”の新製品が「NAS-M7HD」だ。 エニーミュージックに対応した“ネットジューク”新モデルで、「STOCK/LISTEN/OUT(貯める/聴く/持ち出す)」をコンセプトに40GB HDDを内蔵し、CD/MDプレーヤーのほか、本体前面に4.3型のカラー液晶ディスプレイを装備。HDDにCDなどの楽曲を取り込めるほか、楽曲検索や再生/停止、対応オーディオプレーヤーへの転送などがディスプレイを見ながら本体のみで行なえる。 また、ATRAC3/ATRAC3plusのほかMP3の取り込みにも対応し、家庭内のネットワークやUSBストレージ内のMP3ファイルをHDDに取り込む機能も搭載。また、DLNAクライアント機能「ネットワークメディア」も装備し、ホームネットワーク内のPCなど、DLNAサーバーに蓄積した音楽ファイルを、ネットワーク経由でストリーミング再生できるなど、さまざまな機能強化が図られている。
■ 外観はオーソドックスなミニコンポ
デザイン的には、1ボックスのメインユニットと、ステレオスピーカーからなる標準的なミニコンポだが、目を引くのは本体上部に備えた4.3型の大型液晶ディスプレイと、中央部の丸形の操作コントローラ。エニーミュージックや、HDDジュークボックス機能を活用するために利用し、本体だけでもほぼ全ての操作が行なえる。 本体には40GB HDDに加え、スロットイン型のCDドライブ、MDドライブ、AM/FMチューナを内蔵。MDデッキを搭載したHDDコンポは「NAS-M7HD」が初という。液晶下部にはMD/HDD/CDなどの各モードを切り替えるダイレクトプレイボタンと、停止ボタンを装備。 MD部の周辺にMD操作ボタンや、ANYMUSICボタン、HDDRECボタンを備えるほか、MD下部にはメニュー操作などを行なう[ファンクション]、[ツール]、[戻る]、[決定]の各ボタンを装備する。メニュー操作は中央の丸形コントローラで行なう。なお、この丸形コントローラは外周が上下左右に押し込めるメニュー操作ボタン、内周は回してボリュームを上下するボリュームボタンとなっている。 本体下部に備えるCDドライブはスロットイン型。その下のパネルを開くと、ヘッドフォン端子やUSB端子、メモリースティックスロットが現れる。このUSB端子やメモリースティックを利用して、オーディオデータの転送や読み込みも行なえる。 背面にEthernetと、コンポジット映像出力×1、アナログ音声入力、アナログ音声出力を装備。スピーカーターミナルは専用のアタッチメントを利用して、ワンタッチで着脱できる。外形寸法は155×278.3×246mm(幅×奥行き×高さ)、重量は約4.9kg。
スピーカーは2ウェイのバスレフ式で、10cm径のウーファと2cm径のバランスドームツィータから構成される。外形寸法は140×246×190mm(幅×奥行き×高さ)、重量は約2.3kg。 リモコンはオーソドックスなデザイン。HDD/CD/MD/メモリースティック/ANY MUSICなど各モード用のダイレクト切替ボタンを備えているあたりが、多機能コンポらしさを感じさせる。
■ 広がりある音場再現。起動は遅い
まずは普通のCD/MDミニコンポとして利用してみる。しかし、まず、起動に約15秒かかり、さらにHDDからCDなどモード変更を伴う場合は、約5秒程かかる。単にCDを聴くだけでも約20秒かかるというのはさすがに厳しい。“常時電源を入れておく”、というのも一つの手かもしれないが、消費電力も52Wとかなり大きいのであまりお勧めできない。 音楽CDを聴いてみると、広がりのある音場再現に驚かされる。スピーカーサイズや距離から考えるとかなりフィールドが広く、サラウンドモードを適用したかのような広がり。しかし、楽音自体の誇張は無く、不自然さは感じない。 中高域はリニアに伸び、艶やかな印象。クラシック系のソースでもそつなくこなせそうな特徴ある音作りだ。低域はさほど強くなく、特にボリュームを上げた時の量感や制動力にはミニコンポの限界を感じる。とはいえ、同クラスのミニコンポと比較しても、十分な再生性能といえるだろう。
また、イコライザモードとしてFLAT/ROCK/POPS/JAZZ/CLASSIC/DANCEを搭載するほか、低音強調機能のM.BASSも搭載しているので、低音の不足を感じる場合はこれらを活用したい。 音楽CDはCDDBにより自動的に曲情報を取得。そのため、リッピング時だけでなく、音楽再生時にも楽曲名を本体ディスプレイで確認できる。また、MP3を収録したCD-R/RWの再生も可能で、MP3の場合、ID3Tagの表示も行なえる。 同様にMDも普通のプレーヤーとして利用可能なほか、メモリースティックDuoに収録したMP3やATRAC3も再生できる。なお、MDプレーヤーはHi-MDには非対応となっている。 CD/MD/HDD/FMなどの切替時間はそれぞれ約4~5秒程度。普通のミニコンポと比較すると、この待ち時間はかなり遅く感じてしまう。ただし、DVD/CDチェンジャ搭載コンポでのチェンジャ切替にかかる時間や枚数の制限と、HDD収録可能曲数やランダムアクセス性能などの利便性を考えると、“CDやMDモードは取り込みのみに使い、基本はHDDモード”といった利用スタイルであれば、さほどストレス無く運用できるかもしれない。そうした意味では“HDDジュークボックス”機能にどこまでの価値を見いだせるかが、製品選択のポイントとなりそうだ。
■ 全ての曲はHDDに。 オーディオコンポとして非常に多機能な「NAS-M7HD」だが、最大の特徴は40GB HDDを搭載し、さまざまな音源をHDDに取り込んで再生できること。 CDやMD、ラジオはもとより、ネットワークサービスの「エニーミュージック」からの楽曲購入も可能。さらに、USBストレージや同社製オーディオプレーヤーからの楽曲取り込み、PCの共有フォルダからMP3取り込みが可能となる。 これらは、音源により取込先のフォルダが異なっており、エニーミュージックの場合、HDD上の[ダウンロードフォルダ]、CD/MD/ラジオ/外部機器の録音の場合は[録音フォルダ]、USBストレージやPC共有フォルダからの取り込みは「取り込みフォルダ」に収録される。
・CD/MDからHDDリッピング CDをドライブに挿入すると、自動的にCDDBを検索し、曲情報を表示してくれる。録音はリモコン/本体のHDD録音ボタンを押すだけで行なえ、自動的に曲情報も登録される。録音コーデック/ビットレートはATRAC3が66/105/132kbps、ATRAC3がplus48/64/256kbps、MP3が96/128/160/192/256kbps。 リニアPCM形式での録音も可能で、音質にこだわりたい時やお気に入りディスクはリニアPCM、それ以外は低ビットレートでの録音といった使い分けも可能だ。 アルバムごとと、曲単位での録音が可能で、音楽CDからHDDのダビング速度は最大8倍速。CDを聴きながらのダビングも可能で、その際のダビング速度は7倍速となる。
MDでも同様にディスクを挿入し、録音ボタンを押すだけでHDDへの録音が可能。MDに楽曲情報が付与されている場合は、同時にその情報もHDDの楽曲に引き継がれる。 ビットレートもCDリッピングと同様に選択可能だが、CDと異なりHDDに録音する楽曲は選択できず、ディスクの全ての楽曲をコピーする形となる。例えば、会議の録音データと、音楽を同じディスクに入れていた場合、どちらかを選んで録音することができない。このあたりは残念ではある。また、ダビング速度は等速でアナログ録音となる。 ラジオや外部入力音声の録音も可能で、ビットレートもCD/MDと同様に選択できる。ラジオの録音ファイルは[日付-録音開始時間-ラジオ局名]で管理される。CD/MD/ラジオ/外部入力についてはデフォルトで[録音フォルダ]に録音されるようになっている。
・USBストレージやオーディオプレーヤーからも取り込み可能に
さらにUSBストレージクラス対応のオーディオプレーヤーやネットワークウォークマンからの楽曲取り込みにも対応する。 本体をHDDモードとし、ストレージクラス対応のプレーヤー アイリバー「T10」を本体前面のUSBに接続。[ツール]から、[MP3取り込み]-[USBストレージ]を選択すると、プレーヤー上のフォルダ/楽曲が表示され、フォルダや楽曲を選んで取り込みが行なえる。 約99MBのフォルダの転送時間が2分強とあまり早くないため、大量のファイルの読み込みには向かないが、それでも1GB以下のプレーヤーとの接続であれば、十分満足行く速度だ。取り込んだMP3ファイルは[取り込みフォルダ]に記録され、HDDモードから再生できる。なお、同じT10上のWMAファイルについては認識されず、取り込みもできなかった。
USBストレージとしてMP3転送できない、ネットワークウォークマン「NW-E505」を接続してみたが、楽曲データにはアクセスできなかった。また、Pod(第5世代)を接続してみたが、USBストレージとして認識されるものの、[001_f01]などのフォルダ名が見えるだけで、フォルダ内の楽曲情報を正しく判別できない。ただし、取り込んでみるとiPod上のMP3ファイルが転送され、本体上で再生できた。しかし、この楽曲がどういう順序で取り込んだのかよく分からないリストになっている。現実的にはほとんど利用価値は無さそうだ。 また、PCの共有ファイル上のMP3ファイルの取り込みも可能。同様にHDDモードの[ツール]-[MP3取り込み]で、[PC共有フォルダ]を選択するだけで取り込み可能となる。 ただし、コンピュータ名/IPアドレスや、共有名、ユーザー名、パスワードをリモコンで入力しないといけないのが非常に面倒。USBキーボードでの入力もできないため、リモコンでちまちま入力する必要がある。ただし、一度入力してしまえば、設定した共有内容を記憶してくれるので、その後再設定する必要はない。 また、音楽配信サービスの「エニーミュージック」にも対応しているため、エニーミュージックでの楽曲購入やラジオ視聴なども行なえる。利用にはユーザー登録と、月額の利用料支払いが必要。初期登録費用は315円、月額利用料も315円で、販売する楽曲の価格はシングルが158円から、アルバムは1,050円からとなる。
■ DLNAクライアント機能も搭載。シンプルな転送機能 取り込んだ楽曲はHDDモードで管理される。フォルダ単位で楽曲を管理する[フォルダ]モードに加え、[アーティスト]、[ジャンル]や、再生回数や最近聴いた50曲をリスト表示するランキング、お気に入りの楽曲を表示する[お気に入りリスト]などの表示モードを用意する。
HDD再生のレスポンスは良好。リモコンはややボタンが小さく、再生系の操作ボタンが下にまとまっていることから、早送りの操作などには慣れが必要かもしれないが、基本操作で悩むことはあまり無さそうだ。 ただし、本体操作時はやや戸惑うかもしれない。というのも、基本操作は中央の丸形のメニュー操作ボタンとボリュームダイヤルで行なうのだが、これが内周の○がボリューム、外周が4方向を押し込む形のメニュー操作となっている。そのため、楽曲再生中に、ツール/ファンクションボタンで機能設定するときなどに、iPodのように上下のカーソル移動のつもりでホイールを回すと、ボリュームをとてつもなく大きくしてしまうことも……。 コントローラの機能を覚えてしまえば問題ないだろう。デザインを優先したのかもしれないが、個人的にはボリュームと丸形のメニュー操作ボタンを一体化したことで、非常に悩ましい操作体系になっているように感じた。
また、「NAS-M7HD」にはDLNAクライアント機能も搭載。DLNAサーバーを備えたPCから、ネットワーク経由で楽曲の再生も行なえる。 対応サーバーはVAIO Mediaで、SonicStageで作成したプレイリストも表示できるという。今回Windows Media ConeectをPCにインストールしてDLNAサーバーとしたが、SonicStageのプレイリストは見えないものの、フォルダ表示を行なう[サーバーツリーモード]として利用できた。 ツリーの最初の読み込み時は1~2秒時間がかかるものの、そのほかの曲スキップ/バックなどのレスポンスは良好で、通常のHDD再生に比較して、わずかに遅くは感じるもののほとんど差が気にならないレベルだ。 なお、音楽の他、映画、写真の検索画面もツリー上に表示されるが、選択してみると、[利用できない形式の楽曲]とのエラーメッセージがでて再生できない。
HDDに内蔵した楽曲はポータブルオーディオプレーヤーやメモリースティック、MDなどに書き出し可能。HDDモードの[ツール]-[転送]から、ATRAC AD/USBストレージ/MD/メモリースティック デュオの各モードを選択して転送する。 ネットワークウォークマンなど、ATRAC AD対応製品であればATRAC3/ATRAC3plus/MP3ファイルをそのまま転送できる。 USBストレージはMP3のみ転送可能で、初期設定ではストレージ/プレーヤーのルートフォルダ以下に[Music]フォルダを作成し、MP3をそのまま転送する。ATRAC3をMP3変換する機能などは備えていない。 MDへの書き出しについてはATRAC3の場合そのまま転送。ATRAC3plusやMP3はATRAC3に変換して転送する。また、メモリースティックデュオに関してはATRAC3/ATRAC3plusの転送が可能だが、容量は128MBまでに制限される。
■ 新ネットジュークに感じるホームオーディオの未来 全部試すのも大変なほど、さまざまな機能を搭載しているが、その全てが“HDDに貯めて、その楽曲をどう扱うのか”というコンセプトに、さまざまな選択肢を用意した結果ということがよく分かる。そうした意味ではPC以外にはできなかった様々な機能を統合した製品といえる。 まずはHDDに蓄積(STOCK)ありきの、「STOCK/LISTEN/OUT」というコンセプトは非常にわかりやすいし、その通りの製品に仕上がっている。同コンセプトの製品としては、松下電器のD-dock「SC-SX800/SX400」も同時期に発売されるが、MP3対応やDLNAクライアント、PCネットワーク機能などの機能面では「NAS-M7HD」が優勢なのは疑いない。 特に、MP3対応とUSBストレージ転送機能により、ウォークマンシリーズだけでなく、幅広いプレーヤーに対応できるという点は、「OUT」の部分を真剣に考えた結果として、高く評価できる。 普通のオーディオコンポとして利用するには起動時間の遅さはやや気になるが、CD/MDを搭載したHDDジュークボックスと考えると8万円という価格は十分リーズナブルにも感じる。ただし、STOCK/LISTEN/OUTのコンセプトを考えると、もう少し大容量のHDDが欲しいとも感じる。ニュースリリースでは、「最大約20,000曲の楽曲保存が可能」としているが、これは48kbpsのATRAC3plusの場合。平均的な128kbpsのMP3であれば7,000曲/アルバム500枚程度となる。大抵の場合は十分だとは思うが、ソニースタイル限定でも80GB程度の大容量モデルが選択できれば良かったと思う。 ソニーがCONNECT戦略を打ち出して以来、オープンな技術の導入には積極的な姿勢を見せているが、MP3を柔軟に扱えるミニコンポという点でもかつて無かった製品。AACやWMAのDRM対応などは難しいかもしれないが、現状でも十分にMP3ジュークボックスとして活用できる上、PCとの親和性も高いなど、基本的なコンセプトにはユーザーとして賛同できる点が多い。起動時間の遅さなど改善点もあるが、使いながらミニコンポ、ホームオーディオの未来をかいま見せてくれる製品だ。 やや、余談ではあるが、NAS-M7HDが感じさせる未来のホームオーディオを考えてみると、疑問に思うのは音楽配信サービスは今のままでいいのか? ということ。「エニーミュージック」では、315円の初期登録料と月額315円の利用料金に加えて楽曲ごとに課金されるのだが、こうした据え置き型のホームオーディオ製品の場合は、従量課金でなく定額のサブスクリプション型の音楽配信の方が適しているように感じられる。つまり、月額固定の利用料を支払っている限り、好きなだけ楽曲をHDDにダウンロードでき、それらを対応ポータブルプレーヤーで持ち運べるという形のほうが、製品コンセプト的にも、利用モデルとしても、マッチするように思えるのだ。 2006年にはWMA形式でのサブスクリプション型音楽配信のスタートが各社から予告されているが、ATRAC系のMoraやエニーミュージックからはそうしたアナウンスは今のところされていない。サービスとハードウェアのシナジーによりユーザー体験を高めていく手法はiPodやiTunesが実証してきたことだと思うが、サービス側からもこうしたHDDホームオーディオ機器にマッチした提案が欲しいと感じた。 □ソニーのホームページ (2005年11月18日) [AV Watch編集部/usuda@impress.co.jp]
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