■ 実際どうなの? 秋葉原の裏通りが楽しいのは、やはりとんでもないシロモノに出くわす機会が多いからだと思う。その多くは韓国、中国、台湾などアジア地域で作られた製品群で、国内メーカー品では考えられない多機能さと価格の安さに、思わず手に取って見てしまう。まあ基本的に、そういうモノが好きなんですな。そんなアジア製品で最も多いのが、マルチメディアプレーヤーである。映像、音楽、テキスト、ボイスレコーダなど複数の機能をいかに詰め込むか、そしてそのルックスでいかに客を捕まえるかという無節操さは、ギリギリシャレで済むこともあったり済まないこともあったり、注目度および事件性が非常に高い。 そして最近のニュースリリースでひどく気になったのが、サンコーの「TPod neo」である。もう名前からして、うっかり読み間違えそうというかむしろ読み間違っちゃってくださいと言わんばかりのニアミス度だ。どうやらサイズの方も、かなり例のアレに近いようである。 この大きさでありながら、音楽だけでなく、動画、写真、テキスト、ボイスレコーダといった機能を詰め込んで、お値段16,800円というからすごい。 だがおそらくこういう製品は、「こんなのがあるらしいよ」、「へーおもしろいね」で終わるのが幸せなのだ。それを実際どうなのよと検証するのは、実際野暮な話なのである。だがまあ気になってしまったのだから仕方がない。早速購入してみたのである。
■ 作りは悪くない まず届いた箱だが、表面には「MP4 Mobile Cinema」としか書いていない。おそらくこれが元々の名前なのだろう。何て書いてあるのか全然わからないが、ここを見ると、どうもシリーズで同じような製品があるようだ。
蓋が磁石で止まっているなど多少凝っているが、高級感があるというより、なんか和菓子の箱みたいである。内部はクッション材をくりぬいて本体が収納されているものの、上から押さえるようなものがなにもなく、ただはまっているだけである。最初に開封したときは、当然のように本体はこの穴から飛び出していた。守ってんだか守ってないんだか、適当である。 外観から見てみよう。同社のサイトには「手のひらサイズ」としか書いてないが、iPod nanoとサイズを比較してみると、全く同サイズ。ただし厚みはTPod neoのほうがわずかに厚い。だがこうして比べてみるから気付くのであって、単品でこれだけ見たら、全く同じ大きさにしか思えないだろう。
表面はアクリル仕上げ、背面はステンレスの鏡面仕上げと、構造的にもiPod nanoによく似ている。ただ画面のほうは横26mm/縦28mmと、若干変則的なサイズになっている。 表面の操作部は、金属製のパネルがはめ込まれており、同時に操作ボタンになっている。中央部には再生ボタンがあるのみで、周りの黒い部分はタッチセンサーではない。つまり、この5つのボタンですべてを操作するというわけである。 各ボタンはかなりグキッっというしっかりした手応えがあり、押すのに若干力がいる。これぐらい硬ければ、ホールド機能は必要ないかもしれない。
本体上部には、スライドスイッチがある。iPod nanoで言えばホールドスイッチなのだが、TPod neoの場合は主電源スイッチとなっている。ホールドのつもりでスライドさせると、バヒュッと電源が切れてしまうのである。またマニュアルによれば、充電を行なうときも主電源を入れなければならないそうで、これはちょっと変わった作りだ。 本体底部には、変形USB端子とイヤホンジャックがある。充電と転送を兼ねた、専用USBケーブルが付属する。またUSBに繋がる小型のACアダプタも同梱されている。
付属のイヤホンは、これまたiPod標準のものにそっくりなルックスだ。ただしイヤーパッドは白が付属している点と、コネクタが標準的なステレオミニプラグではなく、それより一回り小さい2.5φ(いわゆるステレオミニミニプラグ)となっているところが違っている。
■ まずは音楽から…
TPod neoでは、起動後のメインメニューから機能を選択するようになっている。上から順に、Music、AMV(動画再生)、Record(ボイス録音)、Voice(ボイス再生)、Photo、Setup、E-Book(テキストビューワ)となっている。 なお日本語マニュアルにはFMラジオの受信機能もあるように書いてあるが、メニューにはそのような機能はない。同梱の英文マニュアルにもFM受信機能に関しての解説があるので、元々は機能があるのかもしれないが、何か事情があってファームウェアで殺してあるのかもしれない。 まあ機能を入れたり削ったりとカスタマイズするのは結構だが、マニュアルまでチェックしていないあたり、適当である。 ではまず音楽再生機能から見てみよう。本機は1GBのメモリ搭載ということで、容量的にはiPod nanoに劣る。さらに音楽だけでなく動画なども収録しなければならないため、めいっぱい音楽を入れるというわけにもいかない。まあ動画と音楽で半分ずつ使うというのがいいところだろう。
本機には、音楽の転送・管理ソフトなどは付属しない。単にUSBでPCに繋げばUSBストレージとして認識されるので、そこにMP3ファイルなどを放り込むだけである。 対応フォーマットは、MP3、WMA、WAVの3種類。さすがに何もかもルートにぶち込むわけにも行かないので、Musicなどとフォルダを作って転送したほうがいいだろう。 TPod neo上でMusicを選ぶと、プレーヤー画面が出てくる。MENUでは音楽を格納してあるフォルダを指定することができる。ただしこれ以下にサブフォルダがあっても認識しないので、音楽ファイルはすべて指定フォルダ内にぶち込むことになる。曲の再生順は、ID3タグを元にアーティスト→トラック順にソートされるようだ。
■ やっぱり落とし穴が 早速再生してみてまず驚いたのは、なんと音が逆相なのである。オーディオの逆相というのは、自分でオーディオ装置を作ったりセットアップしたりした経験がない人ではなかなか気がつかないのであるが、要するに左右のうちどちらかの+と-を逆に結線したために、左右の音位相が反転している状態のことである。本体出力が逆相なのか、ステレオイヤホンで逆相になっているのかを調べる必要があるわけだが、2.5φのステレオイヤホンなど、そうそうどこにでもあるものではない。しかし、たまたま大昔に購入したSONY製のポータブルFMラジオのイヤホンがこの形状だったので、繋いで確認してみた。 すると正常な位相で再生された。ということは、本体出力は問題なく、付属のイヤホンが逆相なのである。もちろんすべての付属品が逆相だとは思えないので、ある意味筆者は「当たり」だったのかもしれない。製造工程でミスがあれば、普通は出荷前の検品で落とされるものなのだが、そのあたりも適当である。 仕方がないので、イヤホンの片側のケーブルを切断して、+と-を逆に接続し直した。 肝心の再生音だが、付属のイヤホンでは中音域が強い、あまりすっきりしない音だ。本機にはイコライザ機能があるので、補正してみよう。イコライザというのは、「等化モード」と書いてある。「Equalize」を「等化」と訳してしまったんだろう。このあたりも実に適当である。
イコライザには、ノーマル、ロック、ポップス、クラシック、ソフト、ジャズ、DBBの7種がある。順に試したところ、「ポップス」が一番マシのようだ。おそらく設定としてはドンシャリのイコライジングなのだろうが、元々の特性が中域が強いため、凹凸が重なった結果フラットに近くなるようである。 ただこれは、付属のイヤホンの特性が思わしくないのが原因で、件の古いラジオのイヤホンでは「ノーマル」が一番まともな音であった。できれば別のイヤホンを使いたいところだが、今どき2.5φで良質のイヤホンを探すのは至難の業である。
■ なんとか見られる動画再生
続いて動画再生を見てみよう。サイト情報やマニュアルには、対応フォーマットとしてMTV、AMX形式とあるが、筆者はそんなフォーマットは聴いたことがない。 付属の動画変換ソフト、「AMV Video Convert Tool」で変換してみたところ、拡張子は「amv」となった。また本体の動画再生モードもAMVなので、おそらくAMVフォーマットということでいいのだろう。 AMVフォーマットというのもほとんど知られていないフォーマットではあるのだが、以前携帯電話の「FOMA D900i」で採用された例があるようだ。詳細は不明だが、どうもMPEG-4と同じもののようである。 このコンバータが対応している動画は、AVI、MPG、WMV、ASF、RM、MOV、VOBなど。システムにデコーダが入っていれば、AVI形式のDivXでも変換可能だ。ただしMPEG-2の変換は、DirectXのMPEG-2デコードフィルタが必要になる。
実際に試した環境では、MPEG-2はエラーとなって変換できなかったが、設定の「Try other codec」をチェックしたら変換できた。このチェックで、ほかのMPEG-2デコーダを探しに行くようだ。 変換処理はさほど重くなく、Pentium 4 2.8GHzのマシンでも、実時間の2倍速以上の速度で変換できる。元のコーデックには、あまり関係しないようだ。変換後のAMVファイルは、PC上でプレビュー再生することもできる。 では実際にTPod neo上で再生してみよう。コンバータの標準設定では、画面サイズが96×64ピクセルになっているため、本機の再生画面では画面中央部にこぢんまりと表示される。ただでさえ画面が小さいのに、こんなに周りが余っているのは勿体ない。
設定を変えて128×96ピクセルで変換してみたところ、一応横いっぱいには表示されるのだが、なんだか画面の両端が切れてしまっているようだ。コンバータのピクセルサイズはこの2パターンしか選べないので、なんとも痛し痒しである。
さらにキビシイのは、動画の再生中はボリュームの調整ができないことである。いったん再生を停止してコントロール画面を出し、そこで調整することになる。 ただ、割といいんじゃないかと思える機能がある。動画を次のファイルへスキップしたときなど、すぐに次に移るのではなく、今再生中の音がフェードアウトして次の音がフェードインで始まるところだ。音楽再生でもこの動きは同様で、大きな音量で聴いているときなど、耳にやさしい機能だ。 ただ毎回これが行なわれるため、いくつかのコンテンツをまとめて飛ばしたいときの操作性は、悪いとも言える。
■ やっぱり微妙なその他の機能
ここまでで、すでにだいぶお腹いっぱいの感もあるのだが、その他の機能も見ていこう。まずPhotoビューワだが、これも画像を転送するだけである。1,600×1,200ピクセルの画像をそのまま転送してみたところ、1枚の画像を表示するのに2~3秒かかる。 また画像を縮小するのに、アンチエイリアシングもなにも処理しないようで、表示はかなりジャギーが目立つ。何が写っているのかわかる程度ではあるのだが、鑑賞するほどの画質とは言えない。 ボイスレコーダ機能だが、サイトの情報では「電源投入、録音開始と2ステップで録音可能」とある。ただしボイスレコーダとして使用したまま終了した場合、ともある。
これは特にボイスレコーダに限ったことではなく、音楽を聴いていて終了すれば、次は2ステップで音楽再生可能だし、動画で終わっていれば2ステップで動画再生可能なのである。 音質は「良質録音」が8kHz/4bit/32kbpsのwav、「連続録音」が正体不明のACTというフォーマットで録音できる。ACTはビットレートが8kbpsしかないので、音質は推して知るべしである。 「良質録音」では、サンプリング周波数が8kなので高音部はほとんど記録できないが、マイクの感度は悪くないため、そこそこ聴き取りはできる音ではある。ただ、本体のどこにマイクが仕込まれているのか、外側からはまったくわからない。
なおマニュアルには、「音声識別」モードとしてVORファイルで高音質で保存、と書いてあるが、普通VORとはファイルフォーマットではなく、「Voice Operated Recording」、すなわち音声認識による録音スタートのことだ。マニュアルを書いている方もなんだかワケもわからず書いているようで、こういう部分もかなり適当である。 最後にテキストビューワだが、仕様が全くわからないので、とりあえずShift-JISのプレーンテキストを転送してみた。ファイル名まではちゃんと見えるようだ。だがテキストの中味は、一部は読めるものの、およそ半分ぐらいは文字化けしてしまう。
また画面のサイズに合わせて改行もされないので、文章を追うのは不可能である。こんな機能を付けるぐらいなら、まだFMラジオのほうがマシだったろう。
■ 総論 TPod neoは、iPod nanoとほぼ同サイズの中に音楽、動画、写真再生と音声録音、テキスト表示などの機能を埋め込むことが、物理的に可能なのだということを示している。ただ本家がそれをやらないのは、現状の画面サイズでやっても、クオリティが出せないという判断だろう。しかしTPod neoの場合は、まさにこの形でこのサイズでなければ驚きはなかったわけで、パロディ的意味合いも併せ持っている。したがってこのサイズでの再生クオリティを云々すること自体に、あまり意味がないとも言える。 もちろんTPod neoにしても、これで真っ向からiPodと勝負するつもりもないだろう。しかしこれだけの技術がありながら、音楽プレーヤーのリファレンスとなってしまった感のあるiPodを前に、デザインやコンセプトなどが思考停止してしまっているのは勿体ないような気がする。いつまでもPoorman's iPodのようなものばかり作っていても、仕方がないだろうと思う。 だが著作権があまり意識されない中国では、オリジナル製品である意味もあまりない。技術的には向上しても、法整備が行なわれて知財が保護されるようなシステムが確立しない限り、パチモンが死に絶えることも無いだろう。 その是非は別にして、アキバの裏通り的楽しみは、これからも当分なくならない、ということである。
□サンコーのホームページ (2006年2月1日)
[Reported by 小寺信良]
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