■ 南ちゃんは女の子ウケが悪い?
今回取り上げるDVDは「タッチ」。あだち充の漫画を原作とし、毎夏のように再放送を繰り返す人気アニメの実写版だ。主演の浅倉南を演じるのは長澤まさみ、上杉達也/和也の双子の兄弟役には、斎藤祥太/慶太を揃え、昨夏の映画公開時にはその人選も話題を呼んだ。監督は「ジョゼと虎と魚たち」などの犬童一心。 原作は今更説明するでもないが、スポーツとラブストーリを融合させたそのスタイルは、スポーツ漫画の世界から、スポ魂を一掃したとも言われるほど。多くの追従者を呼ぶとともに、ある意味、あだち充自身もその自己模倣とも言える数々の人気作品を生み出してきた。それだけの高い完成度と、ある種の普遍的なストーリーを持った作品といえるだろう。個人的には、掲載誌が少年誌だったのに、男性よりむしろ女性に熱狂的に支持されていたことを妙に記憶している。 アニメ版は'85年3月の放送だが、夏休みになると再放送を毎年のように放送していて、ある意味夏の風物詩。そんな作品を実写化した映画は話題にはなったものの大ヒットとは至らなかった。個人的にも、DVD化にもさほど興味を持っていなかったので、24日の発売時にも購入候補には全く入れていなかった。 発売翌日の25日、テレビを見ていると、長澤まさみが「タッチ」のプロモーションで出演していた。その中で、自身の役柄について「南ちゃんは調子がいいと思った。女の子からは受けなさそう」とコメント。自分は女の子にも共感を得られるキャラクターに見えるように演じた、と話していた。 言われてみると一つ屋根の下、兄弟の気を引きながら常に天秤にかけている調子のいい女、という浅倉南解釈は、確かに的を射ているようにも感じる。自分がさほど気にせずに見てきた、南の持つ“どっちつかなさ”を、長澤まさみがまるで友達に話すように、自分は違う、と否定したのが面白かった。原作が描かれた20年前と現在の女の子の恋愛観が違うのは当たり前ではあるものの、原作/アニメ化当時に支持された浅倉南というキャラクターを、よりによって主演女優がプロモーション中に軽々と否定したのは衝撃だった。 そんなこともあり、本作で浅倉南がどんな風に描かれているのか気になった。また、折しも同番組には“王子”として斉藤祥太/慶太(どちらがなのか判別できなかった……)も出演、不動産物件巡りをしていたこともあり、なんとなくDVDを手にしてみた。 DVDは、本編ディスクのみの「スタンダード・エディション(3,990円)」と、特典ディスクをセットにしたデジパック仕様の「スペシャル・エディション(6,300円)」を用意。今回はスタンダード・エディションを購入した。 なお、特典ディスクには、長澤まさみを中心としたメイキング「まるごと長澤まさみ~メイキング・オブ・タッチ(60分)」と、「ふたりの"南"スペシャル対談 長澤まさみ×日髙のり子」、未公開カットなどをを収録。特典ディスクの内容からも、達也よりも南に重きが置かれていることがわかる。
■ 原作のイメージに沿ったオリジナルストーリー
主人公は高校生で、双子の兄弟、上杉達也(斎藤祥太)と和也(斎藤慶太)、そしてそのすぐ隣家に住む幼なじみの浅倉南(長澤まさみ)。 彼らにはひとつの約束がある。それは南を和也、達也が甲子園に連れて行くということ。成績優秀かつスポーツ万能な弟、和也は誰もが認める才能で明青学園野球部エースとして大活躍。和也は南へ好意をよせながら、南の夢を叶えるため、甲子園へ後一歩のところまで近づく。 一方の達也は勉強はからきしで、スポーツもイマイチ。高校に入って始めたボクシングも鳴かず飛ばずで、和也と比べると、あらゆる点で見劣りするダメな兄。しかし、南は密かに和也よりも達也に好意を寄せているようなそぶりで、達也は動揺する。 南の夢を実現するために邁進する和也。いよいよ、甲子園出場をかけた決勝大会の当日、和也に不慮の事故が襲いかかる。和也を失い途方に暮れる、家族、達也、南。そんな中、達也は突然野球を始め、周囲の人間を戸惑わせる……。 基本的なストーリーは、原作を踏襲しているが、特に達也が野球に取り組んだ後の展開はかなりは急ぎ足だ。ライバル新田との対決よりも、南との恋愛関係や家族関係にフォーカスしたラブストーリー色の強い脚本となっており、和也の幻影に戸惑う周囲とそれを克服していく達也と南の2人を中心に描いていく。 原作を知る向きにはやや物足りなさを感じるかもしれないが、ラブストーリーとしては、うまくまとまっている。家族やチームメイトが達也に感じてしまう、“和也の影”をうまく2時間の作品に落とし込めているところは監督や脚本家の手腕ともいえるだろう。 原作とは異なり、快活すぎるような南が完全に主役になっているが、長澤まさみの個性がしっかり出ていて新鮮だった。達也はともかく和也がちょっと軽すぎるようにも感じさせる斉藤祥太、慶太も最初はかなり違和感があったが、らしさは充分に出ているようにも思える。総じて今時の高校生として違和感のない、新鮮なラブストーリとして描けている。原作の2005年リファイン版として成功しているといえそうだ。 なお、南の家族が経営する喫茶店「南風」や、犬のパンチなども出てくるのだが、個人的にはパンチが漫画やアニメのイメージと全然違うのが驚きだった。犬小屋に“パンチ”と書いてあるのを見て、初めて気づいたが、あまりに印象が違うので笑ってしまった。原作のイメージと違うのは別に構わないが、正直パンチが出てくる意味もあまり無かったような……。
■ 青春映画らしい画質
DVD Bit Rate Viewerで見た平均ビットレートは7.22Mbps。映画本編は116分ながら、特典もほとんど入っていないので、ビットレートも比較的高めとなっている。実際の映像にもノイズなどは特に感じられない。色温度がやや低めで暖かみのある質感と、屋外の彩度が青春映画らしさを感じさせる。 音声はドルビーデジタル 2ch(192kbps)とドルビーデジタル 5.1ch(448kbps)を収録。LFEもさほど入っておらず、サラウンド感も軽い包囲感を出す程度。挿入歌の「タッチ」は岩崎良美の元曲がおなじみだが、映画ではユンナが歌っている。オリジナルと微妙に異なっているのが微笑ましい。 特典は劇場予告編のみとやや寂しい。特典ディスク付の「スペシャル・エディション」では「まるごと長澤まさみ~メイキング・オブ・タッチ(60分)」、「ふたりの"南"スペシャル対談 長澤まさみ×日髙のり子」、「未公開カット・別バージョン集」、「完成披露舞台挨拶映像」、トレーラ、「静止画集(絵コンテ/美術デザイン画/小道具集)」などを収録している。
■ 「タッチ」らしいシンプルなラブストーリー
原作から20年以上を経て、実写化された「タッチ」だが、予想に反して普通のラブストーリーとしてすんなり楽しめた。原作に思い入れがある人には物足りないかもしれないが、原作の時代性をうまく抜き取って、うまく今風の作品に仕上がっている。 '68年生まれと思われる上杉兄弟と浅倉南は、野茂英雄などと同世代ということになる。良くもここまで人気を維持してきたと思うが、こうして新たなキャストを得て蘇るとそれはそれで新鮮だ。 価格は3,990円と邦画としては標準的。洋画と比べるともう一息安くなって欲しいところだが、許容範囲内といったところ。単純にさわやかな映画を見てみたい、という人にお薦めできるという点で「タッチ」の名にふさわしい作品だ。
□東宝のホームページ (2006年3月28日) [AV Watch編集部/usuda@impress.co.jp]
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