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第250回:音楽CD/楽曲ファイルからの“耳コピ”支援ソフト
~ DAW機能も備えたKAWAI「バンドプロデューサー」 ~



バンドプロデューサー

 8月30日、河合楽器から「バンドプロデューサー」(19,950円)というソフトがWindows用に発売された。同社は以前、サウンドパレットというDTMパッケージ製品をシリーズ化させて発売していたが、そこから撤退して10年近くたっている。「スコアメーカー」という譜面作成ソフトを展開してきて10周年を迎えたが、DTMやレコーディングとはちょっと異なる分野のソフトだ。

 そんな中で登場してきたバンドプロデューサーはサブタイトルが「耳コピ音楽人」。エントリーユーザー向けっぽい名称だが、画面を見てみるとDAWっぽい顔をしている。実際にソフトを入手して試してみるとともに、製品の企画担当者に開発の経緯や、その狙い、今後の方向性などについてお話を伺った。



■ 1曲を数十秒で検出。曲によって結果に差も

 今、この業界の中で、ちょっとした話題になっているのが、このバンドプロデューサーだ。10年近く潜行していたカワイが何か動き出したのではと、いろいろなところで話に上るのだ。「バンドプロデューサー」の製品発表は、8月3日で、以下の6つの特徴を持っている、とあった。

    1.音楽CDからコードを自動検出
    2.作曲支援機能が充実
    3.トラックを重ねてレコーディング可能
    4.デジタルピアノの高品位な音源を贅沢にソフト化
    5.静止画スライドショー作成機能搭載
    6.CD/DVDに保存が可能

画面はDAWっぽい

 中でも、音楽CDからコードを自動検出するのが最大の特徴というが、プレスリリースにはDAWっぽい画面が表示されていて、かなり気になる。デモ版が発売日の8月30日の前に公開されると書かれていたが、結局、発売数日前まで出てこなかったため、いろいろな噂が飛び交っていたのだ。海外からでも持ってきたOEMだろうとか、カワイがDAWの世界に参入かなど……。で、デモ版がアップされてすぐに触ってみたところ、かなり画期的な技術を持ったソフトであることを実感した。

 その一方で、やはりVer.1だけあって、まだユーザーインターフェイスなどで、こなれていない面も多いなというのが第一印象ではあった。その後、すぐに製品版も入手したので、まずはどんなソフトなのかを簡単に紹介しよう。

 バンドプロデューサーは「耳コピ音楽人」という副題からもわかるとおり、最大の目的はCDやオーディオデータなど、既存の曲からそこで使っているコードを割り出すというソフトだ。マイクから鼻歌を入れると、その音程を認識するというソフトはこれまでもあったが、いきなり曲を入力して、コードを割り出すというソフトはいままでなかった。楽器を演奏している人の多くのツボを抑えたソフトともいえる。

 個人的な経験でも、CDなどで曲を聴きながら、何度も再生を繰り返してはコードを割り出す「耳コピ」では、どうしてもうまくコードがとれないというケースがある。いま、振り返っても、あの曲のあのギター、カッコイイけど、コードがわからない……、なんて悔しい思いをしていることがいっぱいあるのだ。それに対し、バンドプロデューサーは、まさにCDを直接聞かせて、コードを割り出してくれる。

 しかも、基本的な使い方は驚くほど簡単。まずバンドプロデューサーを起動すると「簡単メニュー」が出てくるので、ここから「音楽CDやWAVEなどのオーディオファイルからコードを検出します」を選択する。次にCDから読み込むのか、WAVファイル、WMAファイルを利用するのか、もしくは外部機器からアナログで録音するかのいずれかだ。

「簡単メニュー」から「音楽CDやWAVEなどのオーディオファイルからコードを検出します」を選択 CD読み込み、WAV/WMA読み込み、外部アナログ録音から選択

 基本的な考え方はどれも同じなので、ここではWAVファイルを利用してみた。ファイルを読み込むと、まず曲全体が波形表示される。ここで、拍子を選択した後に、スペースキーを利用して、拍の頭で叩いていく。これによって、基本的なテンポが検出され、しばらくすると、コードが検出されるのだ。DTM関連のソフトなどまったく経験のない人でも、簡単に操作できるのが特徴だ。

読み込むと、まず曲全体が波形表示 拍子を選択後、スペースキーを拍の頭で叩き、テンポを決定 しばらくすると、コードが検出される

 試しに手持ちの曲をいろいろと試してみたが、ほぼ完璧にうまくコードが取れるものと、イマイチな結果に終わるものがあった。ギターのストロークやピアノの伴奏が入った、いかにもコードが鳴っているというタイプは得意だが、ドラム&ベースにボーカルといったケースだとかなり妙な結果になってしまう。

 ただ、ある曲のこの部分のコードが知りたいという目的であれば、前後が多少おかしくてもそれなりに結果は出してくれるので、かなり役に立つ。数十秒で1曲まるごとコード検出できるのもなかなかすごい。

 使い勝手について、多少不満に感じた点は、MP3をサポートしていないことと、曲を読み込む前にプレビューできる機能が欲しかったくらいか。その辺はいずれ対応してもらうとして、なかなか画期的なソフトであることは間違いない。



■ コード認識に加え、豊富なアレンジデータも用意

河合楽器製作所の原田哲氏

 でも、どうして、これまであまりなかった和音の解析ができるようになったのだろうか? また、どういう経緯で、このソフトを開発することになったのだろうか? 株式会社河合楽器製作所 電子楽器事業部 コンピュータミュージック室 企画営業グループ主任の原田哲氏に聞いた。

 「これまで譜面ソフトのスコアメーカーに力を入れてきましたが、お客様からの素朴な要望として多かったのが『CDを楽譜にできないだろうか』というものです。非常に難しい命題ですが、コードなら何とかなるんじゃないか、ということでこのプロジェクトがスタートしたのです。

 研究開発からスタートして約3年で、製品発売となりました。スコアメーカーは譜面のスキャンニングを目玉としており、楽譜認識と称しています。バンドプロデューサーのCDからのコードを割り出すのも認識なので、当社の二大認識技術として発展させていきたいと思っています」。

 コード認識技術についても、その概要を明かしてくれた。「認識のウィザードの最後の画面、コード検出画面を見ていただければ、ある程度のことがお分かりいただけると思います。つまり、テンポ情報を元にして音をサンプリングするタイミングを区切り、その時間における周波数分析をします。この分析結果を音階にするとともに強い音から順位を付けます。またベース音も拾うことで、コードとしていきます。この順位付けがなかなか難しいところで、すべてを音階として表現すると、倍音などの成分や、残響音などもいろいろ入って収拾がつきません。そこで、ある程度の割り切りをすることで、なんとか実現させているのです」と説明する。

 このバンドプロデューサーの面白いのは、コード検出で終わるわけではなく、これがDAW的なソフトと一体化していることだ。検出されたコード進行がコード専用のトラックに反映されるとともに、ベース、ドラム、アルペジオ等の伴奏がリズムトラックに反映される。演奏すると、元の曲とは明らかに異なるが、それっぽいものがMIDIによって演奏されるのだ。できれば、比較対象として、オリジナルのオーディオデータもトラックに読み込まれるとよかったが、そうはなっていなかった。

 このベース、ドラム、伴奏がセットとなったアレンジデータは、数多くのバリエーションがあり、自由に変更することができる。もちろんベースだけミュートするとか、ギターとリズムをミュートするといったこともできる。Singer Song WriterやBand-in-a-boxのアレンジデータなどと同等のものと考えてよさそうだ。

 また、これとはまったく別にリードシートという画面があり、ここでコード進行だけを表示させることができるほか、印刷することも可能だ。バンドメンバーに配布する際など、とても便利に使えそうだ。フォントの種類や大きさの変更も可能で、拡大表示も行なえる。ここに歌詞も書き込めると、さらに便利になるかもしれない。

ベース、ドラム、アルペジオ等の伴奏がリズムトラックに アレンジデータは自由に変更できる リードシートでコード進行だけを表示/印刷可能



■ DAWではなく「認識中心のソフト」として開発を継続

 一方、このDAW的な画面は単にコードとアレンジデータの利用でMIDIを鳴らすだけではなく、MIDIのレコーディングに編集そして演奏、同様にオーディオのレコーディング、編集もできる。その前の準備として、オーディオドライバの設定が必要だが、ここでは、MME、DirectXに加え、ASIOも選択できるため、どんな機材でも利用できる。MIDIの入力に関しては、PCに接続されているキーボードなどが何でも利用できる。

 そして、入ってきたMIDI信号は各トラックへ記録できることに加え、ソフトシンセをリアルタイムで鳴らすことができる。ただし、このソフトシンセはVSTiやDXiなどのプラグインが使えるのではなく、バンドプロデューサーに内蔵されたカワイのオリジナル音源が鳴るようになっている。音色マップ的にはGMの上に、オリジナルのサウンドも配置されているといった格好。

 でも、せっかくなら、VSTiなどのプラグインが使えるようになっているとよかったのだが、前出の原田氏によれば「今回のバージョンにおいては、こうした仕様にしました。ユーザーからの要望があれば、将来プラグインなどに対応することも検討はしています。今回使った音源のライブラリは、当社のデジタルピアノのデータを流用しました。当社としては、デジタルピアノのノウハウをはじめてソフトウェア化したのですが、ぜひ、このいいサウンドを気軽に楽しんでいただけたらと思っています」とのことだ。

ドライバはMME、DirectX、ASIOが選択可能 ソフトシンセはVSTiやDXiなどのプラグインが使えるのではなく、オリジナル音源となる

 プラグイン関連でいえば、エフェクトについても同様。つまり、オーディオエフェクトはオリジナルものが数多く用意されている。具体的にはディレイ、ディストーション、コーラス、コンプレッサ……といった単独エフェクトに加え、ボーカルマルチ、ギターマルチ、キーボードマルチ……など。

ディレイ ディストーション ボーカルマルチ ギターマルチ

 これらは、すべて独自開発とのことだが、すべてバンドプロデューサーに組み込まれたエフェクトであり、他へ流用できないのとともに、既存のプラグインのエフェクトなどの資産を利用することはできないようになっている。

 では、トラックへのレコーディング方法はというと、極めて単純。各トラックはMIDIトラックにもオーディオトラックにもなる仕様であり、MIDIを録音するときはMidiボタン、オーディオを録音するときはWaveボタンを押し、録音を開始すればいいだけだ。

 オーディオを録音してみると分かるが、最近のほとんどのDAWはリアルタイムで波形が書き込まれていくのに対し、バンドプロデューサーは対応していない。まあどうでもいい話かもしれないが、この辺りを見てもDAWの初期バージョンっぽいニュアンスの出来になっていることが分かる。

 また、編集機能のほうは、MIDIにおいてはピアノロール画面があり、クォンタイズなどを含め、ここである程度の編集作業ができる。オーディオにおいては波形表示させるとともに、音量調整をしたり、エフェクトをかけるなどの操作は可能だ。

ピアノロール画面で、ある程度の編集が可能 波形表示、音量調整、エフェクトなどの操作も行なえる

 ただし、どちらの機能も、一般のDAWなどに比べればかなり劣る。操作性、ユーザーインターフェイスの出来という面でもイマイチな印象ではある。この辺のDAW的な機能について、メーカーではどう考えているのか、また今後、バンドプロデューサーはSONARやCubaseなどのDAWに対して勝負を挑むのか、その辺のところについても聞いてみた。

 「バンドプロデューサーをDAWにしようとは一切思っていません。このタイミングで、SONARやCubaseなどと戦っても到底かないませんから……。コード認識の技術がある程度出来上がってきたとき、選択肢としては、単なるコード認識ユーティリティとして出すというものがありましたが、私自身で考えてもそんなユーティリティでは、あまり欲しいと思いませんでした。せっかくなら、コード検出した結果をいろいろと活用できるソフトにしたいということで、こういう形になったのです」(原田氏)。

 また、「DAWとして比較したら、当然見劣りはしますが、われわれとしては、『難しいDAWはちょっと…』と躊躇している方々にも気楽に使ってもらいたいという思いでもありました。もし、このバンドプロデューサーの機能では物足りないという方がいらっしゃれば、コード認識はここで行ない、ここからエクスポートして、他のDAW上で活用していただけたらと思っています。もちろん、ユーザーからの要望によって、使いやすさの向上は図っていくつもりですが、バンドプロデューサーはあくまでも認識中心のソフトとして今後も進めていきます」。


■ 究極の目標は「CDからの譜面作成」

 現在のところ、コード認識に留まっているが、将来的な究極の目標は、ユーザーからの素朴な要望を実現する、「CDからの譜面作成」だ。ただし、ここに至っては、現在のところまったくメドはたっていないし、本当に実現できるのかはかなり疑問で、実際不可能ではないだろうか、とも原田氏は述べている。

写真表示や、タイトル/テロップ機能で映像付きの音楽作品も作成可能

 「こうしたソフトを開発してみると、人間の耳がいかにすばらしいかを実感します。単に周波数分析しただけでは、音程の違いは見出せても、音色がどうなっているかはわかりません。人間は、第一バイオリンの旋律、ビオラの旋律……と追っていけるのですから、すごいですよ」と話す。

 なお、ここではあまり触れないが、バンドプロデューサーには曲の進行にともない写真を表示させたり、タイトル、テロップを表示させる機能も搭載している。これらを利用することで手軽に映像付きの音楽作品が作れるというわけだ。

 以上、カワイのバンドプロデューサーについて紹介したがいかがだっただろうか? DTMで音楽制作をする人の多くが、CDなどを元に耳コピでデータ入力をしていることを考えると、なかなか面白く便利なソフトが登場したといえる。

 また、とくにDTMに限定しなくても、バンドでギター、キーボードを担当する人にとっても簡単にコードを判別できるというのは画期的なツールといえるだろう。今後もぜひ、より認識レベルを向上させ、使いやすいソフトへと進化させていってほしい。



□河合楽器のホームページ
http://www.kawai.co.jp/
□製品情報
http://www.kawai.co.jp/cmusic/products/bp/index.htm
□関連記事
【8月3日】河合楽器、音楽CDからの“耳コピ”支援ソフト
-鼻歌からもコード検出。32トラックで編集可能
http://av.watch.impress.co.jp/docs/20060803/kawai.htm

(2006年9月11日)


= 藤本健 = リクルートに15年勤務した後、2004年に有限会社フラクタル・デザインを設立。リクルート在籍時代からMIDI、オーディオ、レコーディング関連の記事を中心に執筆している。以前にはシーケンスソフトの開発やMIDIインターフェイス、パソコン用音源の開発に携わったこともあるため、現在でも、システム周りの知識は深い。
最近の著書に「ザ・ベスト・リファレンスブック Cubase SX/SL 2.X」(リットーミュージック)、「音楽・映像デジタル化Professionalテクニック 」(インプレス)、「サウンド圧縮テクニカルガイド 」(BNN新社)などがある。また、All About JapanのDTM・デジタルレコーディング担当ガイドも勤めている。

[Text by 藤本健]


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