■ 待望のデジタルダブル録画機 レコーダに対する関心は、そろそろハードウェアスペックではなく、使いやすさの方向へシフトしてきたかなという気がする。それだけユーザーの裾野が広がって来たという事でもあるだろうし、あるいは乗り換え組の多くが、現行機種の使い勝手に不満を覚えるようになっているという現実は押さえておくべきだろう。 Panasonic DIGAシリーズは、昨年度もっとも多くのシェアを獲得したブランドだが、「難しいことは出来ないが誰でも使える」というスタイルが広く評価されたと言える。つまり自分好みの究極の一台が欲しいというニーズではなく、「初めて買ったけどこんなもんなんじゃないの? 特に問題ないし」という“丁度いい落としどころ”を上手く作った感がある。 そんなDIGAシリーズだが、この9月から新モデルが発売されている。今回はこの中でハイエンドモデルの「DMR-XW50」(以下XW50)を取り上げる。店頭予想価格は16万円前後だが、すでにネットでは11万円台後半の価格をつけるところもある。 デジタル放送のダブル録画は、丁度一年前に日立が「ザ・ダブル地デジ」としてWooo DV-DHシリーズを投入。昨年はあまり他社が追従してこなかったが、今年の各社の夏ボーナス商戦向けモデルではメインフィーチャーとなった。 DIGAのデジ×デジダブル録画機は他社のタイミングとは一歩遅れたリリースだが、それゆえに機能もスタイルもかなりこなれた印象だ。ではさっそく期待のXW50をテストしてみよう。
■ シンプルさを極めたデザイン 本体デザインは、ボディの奥行きこそ従来機とあまり変わらないが、かつてのPioneer機を彷彿とさせる薄型で、デジタルダブル録画対応のハイエンド機とは思えない。目立つボタン類も一切排除されており、パッと見たところ、さりげなくそこに存在する1Uユニットといった風情だ。これまでのDIGAの印象を一新する割り切りが気持ちいい。 左端に電源、右端にドライブのイジェクトボタンがあるが、LEDなど光り物を仕込むのをやめて、さりげなく存在する感じが新鮮である。センターのロゴ部分の上部にはシアン色の半円のLEDがあり、電源が入っているかどうかは、ここを見なければわからない。 表示部の下を開けるとボタン類が出てくる。再生、停止などの操作系と、あとはi.LINK、SDカードスロット、B-CASカードスロットである。なお、i.LINKはDIGAシリーズでは初めて、TS信号の入出力に対応している。D-VHS機器などと接続してコピーワンスコンテンツのムーブも可能。DVカメラとの連携もサポートしている。なお、これまでハイブリッドレコーダとしては外せなかったメディア切り替えボタンすらも本体から排除してあるあたり、UIとしての次世代を感じさせる。
ドライブ部は左側にあり、記録可能メディアはDVD-RAM/RW/R/R DL。再生はこれに加えてDVD+RW/R/R DLにも対応しており、再生機としては何でも来い状態となっている。HDDは500GBで、昨今の1TB(テラバイト)を超える他社ハイエンド機と比べると半分だ。もっともそれ故に1ドライブで済んでいるわけだから、この薄さが実現出来たのだろう。 背面に回ってみよう。電源ファンが出っ張っているのは従来機と同じだ。アンテナ入力は地デジ、BS/110度CSデジタル、アナログ地上波の3系統。外部入力はアナログAVが2系統。正面に外部入力を持たせなかったのも、前面のシンプルさを壊さない割り切りの一つだろう。 出力はアナログAV、D3端子、アナログ音声、光デジタル音声、HDMIがそれぞれ1系統となっている。HDMIの存在を重視して、アナログ系の出力を思い切って減らしてきたのは、テレビの世代交代の裏付けがあるからだろうか。ここにも次世代の割り切りを感じる。
なおXW50のHDMIは1080p出力に対応している。まだ1080p(D5相当)に対応したテレビはそれほど多くはないが、対応テレビに繋げば高精度でプログレッシブ化した映像が楽しめる。あいにく筆者宅にも1080p対応テレビはないので、その威力が確認できないのは残念である。 リモコンも見ておこう。本体にボタンが少ない分、ほとんどの操作はリモコン主体になるわけだが、本体の顔とは違ってリモコンの顔は表面がコロッとしており、印象が極端に違う。昨年から搭載した、ジョグダイヤルと十字キーが一体化した「マルチジョグ」を搭載しつつ、オンラインヘルプとなる「ガイド」ボタンをフィーチャーした。
上部の蓋を開ければ、かなり大きめの数字キーが現われるところなど、独特のわかりやすさへのコダワリを見せている。
■ ルーチンワークに絞った設計 ではまず全体のシステムから見ていこう。トップメニューに相当する画面は「操作一覧」ボタンで表示する。そこには、再生、予約、消去、ダビングの4大機能があり、それ以外の表示設定などはすべて「その他の機能へ」の中にサブメニューとして集約されている。だがこの画面は頻繁に使う必要はなく、番組表や番組リストなどは、専用ボタンでダイレクトに行けるようになっている。
また各機能の画面では、「サブメニュー」ボタンを押すことで、その場で必要な設定切り替えなどができるようになっている。サブメニューボタンが使いこなせるかどうかで、操作性はずいぶん違うだろう。 リモコンに「ガイド」ボタンがあるわけだが、これを押すと簡単な操作に関しては音声付きのガイド画面が表示される。とりあえず基本的なことは、マニュアルを見なくてもこれがあればわかるようになっている。
番組表は地上アナログだけでなく、全波ともGガイドを使用している。他社ではデジタル放送は各放送波から取るものも多いが、そうなると地上波だけGガイドだったりして、放送波ごとに番組表のニュアンスが異なるなど、見え方が複雑化する傾向がある。 それを嫌えば東芝のように自社で番組表をネット配信することになるわけだが、松下としてはGガイドで一括という道を選んだということだろう。左端に広告が表示されるため、番組表示領域が狭いのが難点のGガイドだが、HD解像度の画面を上手く使って最大9ch分の表示ができる。最大に拡大すると、3chになる。
予約は、最初に番組の詳細が表示されたのち、予約設定に入るスタイル。と言っても「予約する」あるいは「毎週予約」を選択するだけで、予約の詳細設定を見ることなく予約が完了するのは楽だ。ちなみにこのスタイルは、同社製ケーブルテレビのSTBでもほとんど同じ操作感である。
予約が重複する可能性がある場合は、番組詳細のところで「予約重複確認」が表示される。自分で重複していないことがわかっているときは、そのまま予約すればいい。 3つ目の重複の場合は、予約が実行されない可能性がある旨表示される。このまま待っていると、自動的に重複確認するかどうかの画面が出てくる。3つの予約が重なった場合は、一番最初に予約したものが重複予約として録画されないようだ。
重複の解除はこの画面で番組を選択すると、修正、取り消し、予約実行切の三者選択となる。チューナ数やエンコーダ数などをまったくユーザーに意識させないあたり、実にDIGAらしい設計だ。ちなみにデジタル系のチューナは全波で2系統搭載しており、アナログ地上波のみ1系統である。同時録画可能なのは、デジ+デジか、デジ+アナの組み合わせで、チューナが余ってるといってもデジ+デジ+アナの3系統は同時録画できない。 視聴機能を見ていこう。リモコンの「再生ナビ」ボタンで、録画番組一覧が表示される。リストの中で選択されている番組の内容は、左側の小画面で動画として再生される。このリストは「全番組一覧」か、「まとめ表示」に切り替え可能だ。
全番組一覧では、サブメニューからソート順が選択できる。一方まとめ表示では、番組名の横に番組数が表示される。まだ試用して1週間も経たないため、同じタイトルの番組が録画できていないが、毎週録画で録り貯めていけば、番組ごとにまとめられて表示されるはずだ。 番組再生機能としては、デジタル放送のDR録画番組に対しても1.3倍速再生が可能になった。映像的には滑らかさに欠けるが、音声は滑らかで十分実用に耐える。ダブル録画で録画可能番組が増えたぶん、効率的に視聴できる手段として、この機能は役に立つだろう。
■ 割り切りと徹底がキモ 続いて編集機能を見ていこう。DR記録番組の編集には、部分消去と番組分割しかない。通常使うのは部分消去のみとなるわけだろうが、ずいぶん思い切って割り切った感がある。チャプタやプレイリストという概念をバッサリ捨てて、できることが非常にシンプルになった。
部分消去は、イン・アウトを指定してその場で削除し、続いて次の編集点に移るという繰り返し。ジョグダイヤルは再生で早送り・巻き戻しのスピードコントロールとなる。何倍速で進んでいても、反対方向に1クリック戻せば、再生状態に戻る。 一時停止時では、ジョグダイヤルはスローのスピードコントロールとなる。逆方向に1クリック戻せば、一時停止に戻る。昨年6月の「DMR-EX300」では、逆方向のスローだけできないといった中途半端さだった。あいにく今年4月の「DMR-EX550」はレビューしていないのでよくわからないが、さすがにそこは改善されている。ビデオ編集機とは違った独特の操作感だが、上手く使えばジョグダイヤルと一時停止ボタンだけで編集点を探せるようになるだろう。
DR録画したものの保存には、CPRM対応DVDメディアを使用する。現時点ではビットレートの観点から、DVD-R DLがベストの選択である。もちろんダウンコンバートしながらのダビングには実時間かかるし、その間予約録画はできない。 新開発の「美画質コンバーター」を使えば、SD画質で保存したDVDメディアの映像も、美しくアップコンできるのが今回のシリーズの特徴だ。同時に以前のDIGAでは出遅れていた部分でもある。 今回は、ハイビジョン放送の映画からDVD-R DLメディアにムーブしたものを鑑賞してみた。もちろんオリジナルに存在した細部のディテールまで同じなわけはないが、疑似ハイビジョン映像にしては違和感なく視聴できるクオリティだ。技術的な水準はかなり高い。 ダビングという意味では、以前のDIGAにはSDカードに番組を転送してD-Snapなどで視聴するというソリューションを提供していた。だが視聴・録画がデジタル放送へシフトしたことにより、この機能はあまり意味がなくなってきたということか、本機には映像をSDカードに転送する機能は搭載されていない。 その代わり、音楽CDを本機のHDDへリッピングして、SDカードへ転送する「SD音楽」機能が付いた。もちろんこれまでにもこの手の機能をサポートした機器は多い。だが曲名が入力できなかったり、あるいは手動で入力しなければならず、PCの機能から見ればとても本気で使いたくなる機能ではなかった。
しかし本機では本体内に約35万曲のCDデータベースを収録し、さらにはGracenoteへ接続して情報を取得する機能まで搭載するなど、かなり本気だ。CDのリッピングは、リニアPCMで取り込む場合は最大8倍速。AACにエンコードする場合はリアルタイムになる。
エンコードが遅いのは、PCようなハイエンドCPUを搭載していないため、しかたがないだろう。だがそこは良くしたもので、リニアPCMで取り込んだ曲は、電源OFFの間に自動でAACにエンコードする機能を搭載している。買ってきたCDを今すぐ、といった用途には対応できないが、ライブラリから選んで転送という日常的な用途には十分だ。SDカードスロットは、4GB以上のSDHCにも対応しているので、将来SDHCが主流になったときにも安心できる。 また本機には明確な意志動作として、HDDやDVDなどメディアを切り替える動作を必要としない。基本的にはHDDモードで動いており、リムーバブルメディアが挿入された時点で、自動的に動作選択できるようになっている。メニュー操作ではなく、ユーザーの行為でモードチェンジするわけである。
Panasonic製レコーダも初期の頃は、DVD-RAMに直接録りましょう、ほうらRAMって便利だなーすごいなーといった無茶な企業論理の押しつけが垣間見えたものだが、一度割り切ると方向転換が早い。
■ 総論 今回の「DMR-XW50」は、メーカー側の都合や制限などを極力排除し、ユーザービリティを大幅に向上させている。メニューなどがシンプルなのでそうは感じさせないが、背後ではかなり高い技術が動いているのがわかる。 見た目もシンプルで、その主張の無さがどんなリビングにも溶け込みやすいだろう。ただリモコンはシルバーではなく、もう少しシックな色遣いが欲しいところだ。 特筆すべきは編集機能の割り切りで、プレイリストなし、部分消去のみというあたりは、新しいレコーダ論を感じる。高度なオーサリング機能を求めるユーザーには疑問が残るだろうが、シェアからすればこの方法論は、デファクトスタンダード化する可能性は高い。 また単に地デジなどの放送を視聴しても、映像出力のキレの良さは見ていて安心できる。おそらく1~2年前のハイビジョン対応テレビのチューナ部で見るよりも、数段上の描画力が楽しめる。 VIERA LinkやSD音楽など、自社製品への囲い込みも目立つのだが、自社製品内でもなかなか整合性が取れない難しい時代に、よく足並みが揃っている。その分機能のトレンドや発売タイミングが他社よりも遅れることになるわけだが、マニア層ではない消費者へはそれで十分なのだろう。 W録機の割には価格もこなれており、デジタル放送乗り換えの最初の1台として面倒もなく、いい機材だろう。おそらく年末から来年初頭にかけてBlu-rayモデルが登場すると思われるが、アップコンバート出力の良さもあり、2年ぐらいはXW50で繋いでおく、というのも一つの考え方だ。
□松下電器産業のホームページ
(2006年9月13日)
[Reported by 小寺信良]
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