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マイクロソフトに聞く「Windows Vistaの次世代DVD対応」
-XPとの違いはPMP対応。Xbox用HD DVDのPC転用不可?


 企業向けに2006年11月、コンシューマ向けには2007年の1月の発売を予定しているWindows Vistaのリリースへ向け、マイクロソフト社内ではそろそろRTM(製品版)の完成が近づいている頃だ。現在開発者向けに公開されているRC2でも、RC1に比べ大きな変更はなくなり、完成に近づいていることが予感される。

 さて、Vistaといえば気になるのが次世代DVDへの対応だ。ご存じの通り、マイクロソフトはHD DVD支持であり、Vistaに関してもHD DVDを重視したプロモーションが行なわれている。

 そもそも、Vistaでの次世代DVD対応については断片的な情報が多く、はっきりしたことがわかりづらい。Windows XPから何が変わるのか、DVDのサポートとどこが違うのか?

 マイクロソフトで次世代DVD戦略を担当する、Windowsクライアントビジネス開発事業部 技術部 マネージャーの土田圭介氏に対応状況を聞いた。


■ ストレージとしてならHD DVDもBDも同じ
  問題は「映像再生」時のコンテンツ保護

Windowsクライアントビジネス開発事業部 技術部 マネージャー 土田圭介氏

 パソコンでの次世代DVDのサポートには、いくつかの段階がある。一つはファイルを蓄積する「ストレージ」としての扱いであり、もう一つは映像などのコンテンツを納めたディスクの再生をサポートする、という段階である。

 「ストレージに関しては、UDF 2.5を標準サポートしている、という点を除けば、Windows VistaもXPと大差ない。Blu-ray DiscとHD DVDについても差はなく、Vistaから見ると単なる容量としての違いしかない」と土田氏は語る。

 Blu-ray DiscもHD DVDも、ファイルフォーマットとしては同じUDF 2.5を採用している(BDではUDF 2.6も利用)。Vistaには標準でUDF 2.5を読み書きするための機能が備わっているが、OSからストレージとして見た場合、ディスクの物理フォーマットによる大きな差はない、ということになる。

 Windows XPとの比較についても同様だ。XPは出荷時状態では、DVD-RAMやDVD+R/RWで使われている「UDF 1.5」をサポートしている。これが「XPはDVD-RAMとDVD+RWを優先サポートした」と言われる理由だが、これらOS側のサポートが、サポートの無いDVD-R/RWと比較して、結果的に大きくそのユーザーに寄与したか、といえばそうでもない。

 各種ドライブを使うには、結局UDFドライバなどのソフトが必要となる。ファイルシステムサポートについても、その時OSに追加すれば良いわけで、OSが標準で持っていることはそれほど重要ではない。

 では次の段階、「映像の再生」については?

WinHECで示されたVistaにおけるHD DVDサポート。WMA ProはHD DVDのサブオーディオ用のオプションに含まれている

 Windows XPの場合、「映像の再生」事情もストレージと同じだった。OS標準では再生機能を持っていないため、ソフトの追加が必要になる。このあたりは次世代DVDでも同じだ。

 右の図は、5月末のWinHECで公開されたVistaに組み込まれた、HD DVDをサポートするための条件一覧である。

 MPEG-2コーデックは家庭向けのHome Premium Editionなどに入っているものの、H.264/MPEG-4 AVCは入っておらず、プレーヤーソフトも組み込まれていない。すなわち、Vistaでもサードパーティ製のプレーヤーソフトを組み込む必要がある、ということだ。BDでも、技術的に必要な用件はほぼ同じであるため、事情は変わらない。

 こういった状況から、「Vistaでの次世代DVDサポートは、XP同様、どの規格でも差はない」、「XPでもVistaでも、次世代DVDの再生能力は変わらない」と言われてきた。

 だが、実際にOSの内部を見ると、XPとVistaでは大きな差が生まれている。その根拠となるのが、「Protected Media Path」という機能である。


■ 「映像の横取り」を防ぐProtected Media Path

 次世代DVD導入の目的の一つは、違法コピーの防止を含めたセキュリティの強化だ。その際、問題として挙げられているのが、いかに「PCからのコピーを防止するか」だった。

 次世代DVDで供給される映像は、DVDを超えるクオリティを持つことから、通称「プレミアム・コンテンツ」と呼ばれる。コピーが行なわれると、流通する海賊版のクオリティまでプレミアムなものとなる。だからこそ、次世代DVDにはAACSが導入され、強固なコピーガードがなされることとなった。

 だがPCは、様々なアプリケーションを自由に使えるため、家電などに比べセキュリティを保つのが難しい。いかにDRMでガードをかけても、映像や音声の出力が行なわれた段階で、それを横取りして記録するアプリケーションを使うことで、DRMを解くことなく、コピーを取ることが可能になる。「コピーのかかった映像・音楽のバックアップを取る」という触れ込みの市販ソフトやフリーウエアでもこうしたテクニックが使われている。

 ガチガチのDRMがユーザーのためになるか否か、という疑問はともかく、「究極的には全部コピーできる」ということは、コンテンツ供給側にとって看過し難い問題だ。

 前置きが長くなったが、Vistaで導入される「Protected Media Path(PMP)」とは、PC内でコンテンツが「横取り」されることを防ぐ仕組みである。前出のように、XPではアプリケーションが映像や音声の処理段階に横から入ってくることで、DRMをくぐり抜けることができる。そこで、データの読み込みからコーデックでの展開、ディスプレイでの表示まで、すべての工程を暗号化された「パイプ」で包み込むことで、不正な処理の割り込みを防止する仕組みである。

 「Vista版の次世代DVDの再生ソフトでは、多くのサードベンダーがPMPを使った実装を検討している」と土田氏は語る。次世代DVDに限らず、今後はダウンロード販売などの形で、プレミアムコンテンツが増えていくことになる。それらの再生のほとんどがProtected Media Pathを介して行なわれることになれば、XPとVistaの間には、大きな差が生まれることにもなる。

 ただ、問題もある。Protected Media Pathを有効にするには、様々な条件があるということだ。Protected Media Pathは、その性質上出所が確かなソフトでのみ利用できる。各種ドライバからアプリケーションに至るまで、電子署名のなされたものである必要がある。

 特に問題となるのが、デバイスドライバとコーデックだ。ビデオカードやビデオキャプチャカードなどの、OSの根幹に近い部分で動く「カーネルモード・ドライバー」と呼ばれる種類のドライバでは、電子署名がないとパソコンの起動時にProtected Media Pathが無効となり、再生が行なえなくなる。XP時代には、カーネルモード・ドライバーでも電子署名が必須ではなかったため、XP用ドライバをVistaで流用した場合、Protected Media Pathが使えなくなることがある。

 また、映像・音声のコーデックについても、再生時に電子署名のないものが、Protected Media Path対応コーデックと同時にメモリ内に読み込まれた場合、やはりProtected Media Pathが無効になる。「例えば、フリーで開発されたDivX互換コーデックなどでは、問題が起きる可能性がある」と土田氏は説明する。


■ BDとHD DVDサポートの違いはマイクロソフトの意志

 Vistaでの次世代DVD再生に、Protected Media Pathを使うことはわかった。次の問題となるのは、BDとHD DVDの間で、サポートに違いが生まれるか否か、という点だ。この点について、土田氏は以下のように説明する。

 「HD DVDについては、すべての仕様を理解した上でProtected Media Pathを設計することができた。しかし、BDは我々から見るとすべての仕様がクリアーになっているわけではないため、Protected Media Pathに対応できる、とはいいかねる。もしかすると、AACSの部分については問題ないかもしれないが、それ以外はなんともいえない、というのが事実。本当に大丈夫なのか、と聞かれたら『わからない』としか答えられない」

 これは「マイクロソフトはDVDフォーラムで開示されたHD DVDの仕様はすべて理解しているが、Blu-ray Disc Association(BDA)には参加していないのでBDの仕様にはわからない部分がある」ということ。

 著作権保護技術において、HD DVDとBDの間での大きな違いは、「ROM Mark」、「BD+」があるかないかである。特に問題となるのが「BD+」だ。BD+は、プレーヤー側の仮想マシンとディスク上で動作するプログラムを照合する機能で、パソコンや専用プレーヤーで著作権保護機能が破られた場合にも、その後のBDソフトにクラック対策を施した新しいプログラムを入れることで、被害の拡大を防ぐことができる。HD DVD陣営はAACSのみで十分だとして、これらの機能を導入していない。

 「AACSはProtected Media Pathで、それ以外の機能は独自実装で、という形で、サードパーティーがBDをサポートできるかもしれない。だが、できないかもしれない」と土田氏は言う。「Protected Media Pathは土管のようなもので、中身はともかく、外からはアクセスできない形で映像を処理し、きれいな絵にして出力する、という趣旨の技術。そこに別のプロセスをかませた時、同じように著作権が保護できるかはわからない。また、Protected Media Pathに組み込む方法があるか否かも、同様に不明」(土田氏)だからだ。

 マイクロソフト側がOSでBDのサポートを行ないたいならば、BDAに参加して、これらの情報の開示を受ければ良い。

 「すべての事情を理解しているわけではないが、BDに関するすべての情報を知るには、NDAに近い文書にサインせねばならない、と聞いている」と土田氏はいう。マイクロソフトがそれをしないということは、マイクロソフトに「BDをサポートする意志がない」ということでもある。

 結局重要となるのは、「サードパーティーがいかにサポートするか」ということになる。BD再生ソフトを開発しているソフト会社は、BDAに加入し、情報開示を受けている。マイクロソフトにできないことは、サードパーティーが行なうことになる。


■ マイクロソフトはMCEを重視。再生環境はXPとほぼ同じ
 Xbox用ドライブのPC転用は不可

 では、次世代DVD再生をパソコンで、特にVistaで行なう場合、なにが必要となるのだろうか? この点については、XPと大差ない。次世代DVDドライブの他、再生に対応したソフトが必要になる。

 ここでちょっと違うのは、メディアセンター機能(MCE)への対応だ。次世代DVDでは、インターネット上のサーバーで認証を行なった上で、ディスク内の映像データをHDD内へコピーする「マネージド・コピー」の機能が盛り込まれる。ディスクの再生だけでなく、HDD内の映像ライブラリを見る機能が必要となるため、より「ライブラリ管理」的な志向を持つソフトが有用になる。そこで出てくるのが、MCEだ。今年1月のCESで行なわれた、ビル・ゲイツ氏の基調講演でも、MCEとプレミアムコンテンツの連携に関する話題が語られた。

 「Vista搭載のMCEには次世代DVD用のソフトは組み込まれていないが、サードパーティーからMCE用の再生ソフトが登場する可能性は高い」と土田氏は言う。Vistaらしさ、という点では、MCE対応は望まれる部分だ。

 Vistaでは、パソコンの起動時間を短縮するなど、家電を志向した改良点も多い。中でも重要なのが、I/Oのプライオリティ制御だ。「XPでは、ファイル転送やネットワーク制御などの負荷が高まった時、映像再生を行なうと処理落ちが発生しやすかったが、Vistaではプライオリティが映像再生に置かれるため、そういった問題は発生しにくい」と土田氏は説明する。Protected Media Pathとあわせ、「VistaとXPは違う」と同社が主張する根拠は、こういった目に見えない部分になる、といえそうだ。

 次世代DVD再生、という点で気になるのは、表示時の著作権保護に伴う制限だ。一般的なテレビの場合と同じく、デジタルでディスプレイに接続する場合には、HDCPに対応したDVIかHDMIに対応したビデオカードとディスプレイのセットが必要になる。だが、暫定的な処置として、アナログでの出力もできないわけではない。

 アナログ出力の場合でも、ビデオカードの側が、HCDPをディスプレイに送るための「COPP(Certified Output Protection Protocol)」に対応していれば、再生は可能だ。COPP対応のビデオカードは、PCI-Express対応の外付けビデオカードでは、ここ1年くらいに発売されたNVIDIAやATIのチップを利用した製品で、最新のドライバを使っていれば、特に問題なく利用できる。この条件は、XPでもVistaでも違いはないという。

 結論から言えば、XPで次世代DVDが再生できる環境を整えておけば、Vistaでも特に問題なく対応できる。ソフトウエアのサポートが完了すれば、Vistaでの再生クオリティは、XPのそれより向上することになると考えられる。

Xbox 360 HD DVDプレーヤー

 必要とされるCPU性能や、ドライブの価格を考えると「お手軽」とは言い難いが、DVD同様、PCは次世代DVD再生のポピュラーな環境の一つとなるのは間違いない。

 最後にもう一つ。HD DVDといえば、もうすぐ「最も安いHD DVDドライブ」が発売になる。マイクロソフトが、Xbox 360用に発売する「Xbox360 HD DVDプレーヤー」だ。USBで接続されるものだけに、「実はパソコンでも使えるのでは?」との期待も大きいが、土田氏によれば、「なんらかの形でドライバが必要。MMCなどのコマンドも必要なので」とのことで、そのまま転用することはできないようだ。


□マイクロソフトのホームページ
http://www.microsoft.com/japan/
□Windows Vistaのホームページ
http://www.microsoft.com/japan/windowsvista/
□関連記事
【8月17日】【RT】Microsoft担当重役が語る
「我々がHD DVDにこだわる理由」
http://av.watch.impress.co.jp/docs/20060817/rt010.htm

(2006年10月20日)


= 西田宗千佳 =  1971年福井県生まれ。フリージャーナリスト。得意ジャンルは、パソコン・デジタルAV・家電、そしてネットワーク関連など「電気かデータが流れるもの全般」。主に、取材記事と個人向け解説記事を担当。朝日新聞、「ウルトラONE」(宝島社)、家電情報サイト「教えて!家電」(ALBELT社)などに寄稿する他、テレビ番組・雑誌などの監修も手がける。

[Reported by 西田宗千佳]



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