「今年は挑戦者」。AQUOSで大画面市場の地盤固め ~ シャープ・大塚専務取締役インタビュー ~ |
シャープ大塚雅章専務取締役 |
大塚:当初10月の稼働を予定していた亀山第2工場が、8月に前倒しで稼働し、年末商戦に向けて万全の生産体制を整えることができました。ご存じのように、亀山第2工場は第8世代のパネル生産を世界で初めて実現した工場です。現在、月1万5,000枚の生産が可能で、来年には3万枚の生産体制となる。この第8世代のパネルは、40インチ以上の大画面テレビの生産に最も適しているんです。46インチや52インチのパネルを無駄な部分を出すことなく生産できる。大画面テレビでの競争力が一気に高まるというわけです。
大河原:液晶テレビ市場におけるトップシェアを盤石なものにできると。
大塚:いや、むしろ、我々は「挑戦者である」という意識です。「守る」という意識はまったくありません。「攻める」という気持ちの方が大きいですね。
大河原:トップシェアのシャープから、「挑戦者」という言葉を聞くのは意外ですね。
大塚:これまでシャープの液晶テレビビジネスは、32インチ以下のところが主戦場だった。言い方を変えれば、37インチ以上の領域では、戦う体制が整っていなかった。これが亀山第2工場で一気に解決できた。むしろ、優位に立ったともいえます。
しかし、大画面の領域に、本格的に液晶テレビで打って出るという点では明らかに挑戦者です。家電の王様といわれるテレビは、いま大きな転換期にある。そして、薄型テレビはまだまだ成長段階の製品です。この市場においては、小さな画面でトップをとっても決して評価されない。大画面領域でナンバーワンブランドになることこそが大切であり、ここで圧倒的に勝たなくてはいけない。社内にも、「我々は挑戦者である。決して気を抜くな」と徹底しています。
大河原:シャープの液晶テレビが大画面領域で優位に立ったと断言できる理由はなんでしょうか。
商戦の目玉となる42/46型「AQUOS」 |
とくに今年の商戦の目玉となる46インチ、42インチという領域でフルハイビジョンを用意できたのは、シャープならではの強みだといっていいでしょう。一方、これまで液晶テレビの弱点だといわれてきた高コントラスト、動画応答速度、視野角という点でも、亀山第2工場の最新技術によって解消を図っている。コントラストは2,000:1、応答速度は4ms、視野角は176度を実現した。決して、プラズマテレビに見劣りはしない。この良さは店頭で体感していただけると思います。
大河原:コスト面ではどれだけ改善していますか。
大塚:亀山第2工場で生産する第8世代パネル(2,160×2,460mm)は、46インチならば8面取り、52インチならば6面取りが最も効率的に行なえます。昨年は45インチだったものを、46インチとしたのは、そのほうが第8世代のパネルでは無駄が出ないからです。また、第1工場に比べて、工場内の搬送距離を2分の1以下に、生産リードタイムを2分の1以下に、さらに主要部材の技術革新および原価革新によって、約2倍の高効率化を実現した。フューチャービジョンとの協業による、カラーフィルターの生産方式の改善によるコストダウン効果はその最たる例です。
つまり、シャープが弱かった40インチ以上の分野でのコスト競争力が、亀山第2工場が稼働したことで一気に解決できた。コスト面でも、他社の液晶テレビはもとより、プラズマテレビとも十分戦えるレベルを実現したと考えています。実は、今年2月以降、37インチ以上の領域では、プラズマテレビよりも、液晶テレビの方が売れているんです。2006年は、「大画面市場でも液晶テレビだ」という流れができたと私は判断しています。
日本の家庭では、大画面テレビは不要だという声もありますが、6畳間でも40インチ以上のテレビを見ていただくことができる。年末商戦では、46インチモデルを中核として、大画面でも液晶テレビというポジションをさらに固めたいと考えています。
■ 店頭展示を一新「店頭みちがえり計画」
大河原:今年の年末商戦では、量販店における店頭展示の手法を大きく変更していますね。
年末商戦では、店頭展示を一新 |
店頭展示のポイントは4つあります。ひとつは、先にも触れたように、フルスペックハイビジョンテレビの充実したラインアップをお見せすることです。これまでは、37インチ以下の展示が中心となっていたが、これを大画面モデル中心へとシフトします。なかでも、46インチ、52インチの展示を強化した。2001年に液晶テレビ第1号である「C1シリーズ」を発表した時には、1.2メートルの展示幅で良かったものが、2005年には14.4メートルが必要になりました。今年のモデルをすべて展示する場合には、大画面化とラインアップの拡充によって、20メートルないと並ばない。なかなかここまでの展示をしてくださる店舗はありませんが(笑)、それでも、液晶テレビで最も売れているAQUOSを、積極的に展示していただけているのは大変ありがたいことです。
2つめは、液晶テレビの技術的課題をすべて解決したという提案です。これも、先ほど触れましたが、コントラスト、動画応答速度、視野角で劣るという、これまでの液晶テレビのイメージを一新してもらいたい。それだけの自信作ができている。そして、3つめは、使い勝手の良さを追求したAQUOSファミリンクの提案です。この画期的ともいえる操作性をぜひ体験してもらいたい。
最後が、新たなリビング空間の提案でもある「AQUOS INTERIOR」の提案です。AQUOS INTERIORは、AQUOSのデザインも手がけたインダストリアルデザイナーの喜多俊之氏が中心となって、カリモクやカコールといったインテリアメーカー6社が製品化した30種類の家具による、シャープの新たなブランドです。インテリアメーカーから、シャープが商品を仕入れて、店頭で販売することになります。
大河原:シャープが家具の販売ですか?
大塚:そうです。これは主要な約150店舗での店頭展示となりますが、シャープが大画面化に打って出るには必要不可欠な取り組みだと考えています。40/50インチの大画面テレビになると、部屋のどこに置くのかということが大変重要になってくる。これまで以上にインテリア性が求められてくるのです。
37~52型液晶テレビに対応するオプションの壁寄せスタンド「AN52WS1」 |
では、多くの人が持つ壁掛けの「夢」をなんとか実現できないのだろうか。そう考えてシャープが提案したのがAQUOS INTERIORということになります。AQUOS INTERIORでは、「壁寄せ」という設置方法を提案しています。見た目は壁掛けのような設置だが、実際には、壁に寄せられる液晶テレビの専用ラックを用意し、これによって、壁掛けのような設置を可能にするのです。余計な工事を不要にし、部屋の模様替えにも対応できる。これからの大画面テレビには、こうしたソリューションともいえる提案が必要だと考えています。シャープには、ATOM推進部という組織があります。ソリューションが重視されるようになると、彼らの活躍がますます重視されるようになるでしょうね。
大河原:ATOM推進部とは?
大塚:1960年代から当社のなかに設置された販売店の教育支援などを行なう組織です。店舗の展示提案や、商品知識に関する支援、研修活動などを行っています。約250人の体制を持つ、シャープの販売を支える精鋭部隊です。かつて、シャープが経営的に厳しい時にも、この部門は解散をせず、しかも、一切リストラをしなかった。つまり、販売会社のオンリーワンともいえるノウハウを持ったチームともいえ、今年は、大画面テレビに関するソリューション提案をいかに行なうか、商品の価値をいかにわかりやく消費者に伝えるか、それを販売店と一緒になって考えていくことに力を注ぐ。こうした活動も、シャープの大画面化戦略を支える重要な取り組みといえます。
大河原:ソリューションが重視される一方で、価格下落傾向は止まりませんね。
大塚:そうはいっても、32インチはもうこれ以上はなかなか下がらないところにまできているのではないでしょうか。問題は37インチ以上の大画面テレビですね。とくに、海外での価格下落が顕著になるのではないかと予想しています。もちろん日本でも、大画面テレビは20%以上の価格下落が見られるのではないでしょうか。亀山第2工場の稼働は、この価格下落にも十分対応できるものだといえます。価格でも負けないという腹づもりですよ(笑)。
大河原:年末商戦における目標はどこに置きますか?
大塚:37インチ以上の薄型テレビ市場においては、すでに、プラズマテレビと液晶テレビの比率が45:55になっています。これを液晶テレビが6割を占めるところにまで引き上げたい。そのなかで、シャープは50%以上のシェアを獲得することを目指します。いまは、46~47%といったところですから、これを引き上げる。シャープ全体の出荷のなかでも、37インチ以上の構成比が32%に達すると見ています。プラズマテレビに比べて見劣りするところはなにもない。それが、今年の年末商戦のシャープの液晶テレビの強みです。この数字が達成できたら、正月は、おいしいお屠蘇が飲めそうですよ(笑)。
(2006年11月14日)
= 大河原克行 = (おおかわら かつゆき) |
'65年、東京都出身。IT業界の専門紙である「週刊BCN(ビジネスコンピュータニュース)」の編集長を勤め、2001年10月からフリーランスジャーナリストとして独立。BCN記者、編集長時代を通じて、15年以上に渡り、IT産業を中心に幅広く取材、執筆活動を続ける。 現在、ビジネス誌、パソコン誌、ウェブ媒体などで活躍中。PC Watchの「パソコン業界東奔西走」をはじめ、Enterprise Watch、ケータイWatch(以上、インプレス)、nikkeibp.jp(日経BP社)、PCfan(以上、毎日コミュニケーションズ)、月刊宝島、ウルトラONE(以上、宝島社)、月刊アスキー(アスキー)などで定期的に記事を執筆。著書に、「ソニースピリットはよみがえるか」(日経BP社)、「松下電器 変革への挑戦」(宝島社)、「パソコンウォーズ最前線」(オーム社)など。 |
[Reported by 大河原克行]
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