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第310回:14,800円のDAW「Music Maker」を試す
~ 自動作曲や自動リミックスなど豊富な機能を搭載 ~



 最近、DTM関連雑誌やパソコン誌に「Music Maker」というソフトの広告が結構掲載されているのを、目にしたという方も少なくないだろう。これは「Samplitude」や「Sequoia」などを開発するドイツのMAGIXのエントリーソフトで、14,800円という安価なソフトだ。

 広告を見ると、初音ミクとの連携などを連想させるイメージで、数量限定で発売される「特別限定版 jamバンド」には、パッケージに3人のガールズバンドのイラストも描かれている。キャラクターには名前や設定がしっかり設けられていて、ドラムスティックではなく、“ネギ”を持っている「鼓 リズム(ツツミ リズム)」なんて名前のキャラクターもいる。販売元でも「“初音ミクのバックバンド”として使って欲しい」としているそうだ。

 いったいどんなソフトなのか試してみた。


左が「Music Maker」起動画面。右が「特別限定版 jamバンド」のパッケージに登場するキャラクター。ギターの弦巻マキ(ツルマキ マキ)は、バンドをまとめるリーダー的存在。鼻が低いことを気にしている。口癖は「ぎゅんぎゅん行くよー!」。ドラムの鼓リズムはオオボケキャラ、本人は計算だと主張中。幼い頃からピアノを習っている。口癖は「qあwせdrftgyふじこlp」。ベースの天音カナ(アマネ カナ)は無口で天然キャラ、本人は自覚していない。普段はメガネをかけている。口癖は「…了解」

□関連記事
【2007年12月7日】AHS、MAGIX製のエントリー向け音楽制作ソフト
-限定パッケージ用意。「初音ミクのバックバンドに」
http://av.watch.impress.co.jp/docs/20071207/ahs.htm



■ エントリーユーザー向けDAW

 MAGIXが開発するSamplitudeは、これまでもDigital Audio Laboratoryで何度も紹介してきたDAWのひとつだ。CubaseやLogic、SONARなどがMIDIシーケンサから発展してきたのに対して、最初からオーディオ用のソフトとして発展してきたため、独特な雰囲気を持っているが、音質の追求にこだわってきたソフトだけにマニアユーザーが絶賛しているソフトでもある。一方、SequoiaはDDP出力に対応していることから、最近レコーディングもしくはマスタリングスタジオでのニーズが高まっているDAWだ。

 いずれもフックアップが代理店として扱っているが、今回登場したMusic MakerはcloneDVDなどを手がけるパソコンソフトの代理店であるAHSが扱っている。あくまでもエントリーユーザー用として打ち出しているようだが、スペックなどを見るとかなりさまざまな機能が搭載されているようだ。正式名称としては「Music Maker Producer Edition」となっている。海外では機能の少ない通常版もあるようだが、国内で発売されたのはこのProducer Editionのみ。中身は同じだが、9,800円という価格設定のアカデミック版、乗り換え版もあるので、すでに別のDAWやシーケンスソフトなどを持っているのなら、より安く入手できる。

 安価ではあるが、エンジンはSamplitude、Sequoiaから流用しているという。また、オーディオやMIDIのループ素材を3,500以上収録しているのも売りで、メディアはDVD-ROMで提供されているだけに、インストールには20分以上を要した。



■ 自動作曲機能「ソングメーカー」を搭載。各種エフェクトも利用可能

 さっそく起動してみると、現れるのはごく一般的なDAWの画面。上にトラックが並ぶアレンジ画面があり、下でループ素材などを選択する画面が出てくる。実際、ACIDやSONAR、GarageBandなどと同様、曲のスタイル=ジャンルや楽器名で素材を検索し、見つかった素材をドラッグ&ドロップでトラックに並べていくだけで、曲を作っていくことができる。このスタイル名を見ると、DiscoHouse Vol.8、Reggae Vol.1……となっており、スタイル名というよりもライブラリ名というのが正しそうだ。

 また、素材はオーディオループとMIDIループが混在しており、MIDIループは後述するソフトシンセを鳴らしている。とりあえず、ファイル名を選択すれば、その時点ですぐにどんな音かプレビューできるが、その右に並ぶ1~7という数字をクリックすると、音程=コードが変わるようになっており、これを決めてからトラックへ貼り付けていくという方式は、独特ではある。


起動画面。下にはループ素材などを選択する画面が表示されている スタイル(ジャンル)や楽器名で素材を検索し、ドラッグ&ドロップでトラックに並べて曲を作成

 Music Makerはこのようなオーソドックスなループシーケンサとして使うだけでなく、より初心者用として、「ソングメーカー」という機能がある。これは「Ambient Vol.6」、「RockPop Vol.6」といった前述のスタイルを選択して、32秒とか、85秒などと曲の時間を設定するだけで自動作曲できてしまうというユニークなものだ。要するに、ループシーケンサとしての素材選びを自動的にランダムで行なってくれるというものなのだが、本当にワンクリックで曲ができる。すぐにプレビューも可能で、気に入らなければ、もう一度クリックすれば同じスタイルながら別の曲になるのが面白いところだ。

 またデフォルトで使う楽器が指定されているが、ベースとドラムのみとか、シンセを加える、パーカッションを加える……などと使う楽器を指定することも可能だ。とりあえず、著作権フリーのBGMがほしいというユーザーなら、この機能だけでも十分に満足できるかもしれない。


初心者向け自動作曲機能「ソングメーカー」 指定した時間通りの曲を自動で作曲 利用する楽器の手動設定も行なえる

 しかしMusic Makerが面白いのはここから。もちろんミキサーも備えているから、それぞれのトラックのバランスは自由にとることができる。また、このミキサー操作をリモートコントロールしたり、いわゆるオートメーション記録をするということはできないが、トラック上でボリュームカーブを描くといったことは可能だ。


各トラックのバランス調整は自在に行なえる トラック上でボリュームカーブなどの操作が可能

 また、このミキサーを見てもわかるとおり、各トラックにインサーションエフェクトを2つまで設定できるほか、センドリターンのエフェクトも2つ設定できる。Vintage Effect Suiteとしてディレイ、コーラス、ディストーションなどが装備されているほか、VSTプラグイン、DirectXプラグインも使用することができる。


センドリターンのエフェクトを2つ設定できる Vintage Effect Suiteの「ディレイ」 「コーラス」エフェクトも利用可能

 また、このエフェクトとは別に、各トラックごとに、エフェクトのラックが使えるようになっている。ここには10バンドのグラフィックEQ、リバーブ&ディレイ、コンプレッサ、ディストーション&フィルター、アンプシミュレータが搭載されており、これだけでもかなり使える。

 さらに、これらとは独立して、マスタリング専用のエフェクトまで備わっており、パラメトリックEQ、ステレオエンハンサー、マキシマイザーなどが利用できるので、結構本格的な音の作りこみ、仕上げまでできてしまう。そのほか、使う人がどれだけいるかどうかはわからないが、2ch出力だけでなく5.1ch出力まで可能となっており、サラウンドパンなども備えているから、サラウンド作品を作ることも可能だ。


エフェクトのラックが使える マスタリング専用のエフェクトも用意 5.1ch出力にも対応する



■ MIDIレコーディングにも対応。初音ミクは認識できず

 さて、このようにエフェクト、ミキシング機能が充実しているMusic Makerだが、トラックにループ素材だけでなく、オーディオでもMIDIでも並べられる。ここにボーカルや自分の演奏を取り込んでいくこともできるというわけだ。

 利用できるMIDI音源としてはアナログシンセサイザのモデリング・ソフトシンセであるRevolta2とプレイバックサンプラーのVITAの2種類がある。ユーザーはどの音源を使うかではなく、音色名で選択することもできるので、迷わず目的の音で鳴らすことができる。


ソフトシンセ「Revolta2」(左)とプレイバックサンプラ「VITA」(右)などのMIDI音源によるレコーディングが可能

 エディット画面としてはピアノロールが出てくるので、ここで直接マウスで入力していくこともできるし、MIDIキーボードなどから入力することも可能だ。さらに、VSTインストゥルメント(VSTi)にも対応しているので、ここでサードパーティー製のソフトシンセを組み込むこともできる。


エディット時にはピアノロールで直接入力も行なえる MIDIキーボードなどを接続して、入力に利用できる

 ただし、VSTiに対応しているはずの「初音ミク」や「鏡音リン・レン」などはプラグインとして認識できなかった。まあ、これはMusic Makerに限ったことではなく、SONARなどほかのDAWでもうまくいかないケースが多々あるので仕方がないところかもしれない。またMusic MakerにはReWire機能もないので、初音ミクと直接の連携プレイはできない。

【2008年1月22日追記】
 今回使用した製品版のパッケージで発生したVSTiが認識できないという問題は、「一度VSTiの読み込みを失敗すると、それ以降同じVSTiが読み込みできない」(AHS)という現象で、対応パッチをユーザー登録後にダウンロードすることができる。

 とはいえ、初音ミクのユーザーならご存知のとおり、下手にVSTiやReWireで接続して使うよりも、まずWAVで書き出し、それをDAW側の1つのトラックに読み込んで使うほうが、ずっと軽くて扱いやすい。確かにテンポを変更したくなったら、また初音ミク側でテンポを設定してWAVファイルを書き出すところから作業しなくてはならないのが面倒なところではあるが、現実的にはこの方法が正解といったところだろう。

 一方、ボーカルのソロデータを読み込んだところで使えるのが、「Elastic Audio」という機能。いわゆるボーカル用のピッチエディタで、初音ミクが歌った音程を微妙に調整したり、3度、5度などの音を加えたコーラスにするといったことができる。SONARのV-Vocalなどと比較すると、機能的にはだいぶ見劣りするものの、この価格のソフトについてくるという意味では、かなりのものといっていいだろう。

 また、もうひとつユニークで便利な機能が「Remix Agent」。ACIDのBeat Mapperのようなもので、CDやMP3など既存の曲を読み込んだ際、ビートを自動的に検出し、プロジェクトに合わせた形でデータが展開されるのだ。

 しかも、この展開方法がいろいろあるのも面白いところ。単純にテンポがピッタリ合う形で貼り付けられるということのほかに、小節ごとに切り刻んでしまうといったこともできる。さらに、自動リミックス機能によって、切り刻んだ素材を並び替えて、新たなリミックス曲を仕上げてしまうといったことまでできる。

 もちろん、後でそれを組み合わせなおしたり、別のループ素材を合わせるなど、そこから先は自由自在。別の曲と組み合わせたリミックス曲が容易に作れるのも、Music Makerの面白いところだ。


ボーカル用ピッチ修正エディタ 既存楽曲からビートを自動検出しデータ化する「Remix Agent」 自動リミックス機能も備える



■ 機能は豊富だが、日本語マニュアルが不十分などの課題も

 以上、Music Makerを使ってみたが、この価格でこれだけさまざまな機能があるので、なかなかなものだと思う。波形編集機能がなかったり、MIDI編集機能もあまりないなど、データの作りこみの面ではそれほど期待できないが、初心者用のソフトと考えれば当然かもしれない。その一方で、ソングメーカーなど初心者にとっても使い安い機能が用意されているのもうれしいところだ。

 ただ、これだけの機能を使いこなすのはかなり難しいようにも感じた。ヘルプがほとんどないため、使い方がわかり難いのだ。約90ページの日本語マニュアルが同梱されているから、とりあえず使うことはできるが、詳細な使い方については触れられてない。ユーザー登録すると、英語版の詳細マニュアルのPDF版は入手することは可能のようだが、ぜひ日本語版も用意してほしいところ。また、使っていると、結構な頻度でハングアップしてしまうのも気になったところではある。こうした点が改善されていくと、かなり広いユーザーから支持されるソフトになっていくのではないだろうか。

□AHSのホームページ
http://www.ah-soft.com/index.html
□製品情報
http://www.ah-soft.com/musicmaker/index.html
□MAGIXのホームページ(英文)
http://www.magix.com/

(2008年1月21日)


= 藤本健 = リクルートに15年勤務した後、2004年に有限会社フラクタル・デザインを設立。リクルート在籍時代からMIDI、オーディオ、レコーディング関連の記事を中心に執筆している。以前にはシーケンスソフトの開発やMIDIインターフェイス、パソコン用音源の開発に携わったこともあるため、現在でも、システム周りの知識は深い。
最近の著書に「ザ・ベスト・リファレンスブック Cubase SX/SL 2.X」(リットーミュージック)、「音楽・映像デジタル化Professionalテクニック 」(インプレス)、「サウンド圧縮テクニカルガイド 」(BNN新社)などがある。また、All About JapanのDTM・デジタルレコーディング担当ガイドも勤めている。

[Text by 藤本健]


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