■ 改めてMP4カメラを見直してみた
ソニーがハイビジョン対応のMP4カメラをリリースしたことで、改めて米国市場におけるMP4カメラの位置付けを意識することとなった今回のCES。他イメージングメーカーを回って同様の製品を見てきたが、米国では新しい市場としてかなり熱いことになっているようだ。
今のレベルで見ればお話にならないほどプアだが、当時のネット環境から考えれば、これでもネットに動画を上げるという発想がなかなかできなかったのをよく覚えている。 その後MP4カメラは、台湾メーカーが廉価なCMOSを使って大量に似たような製品をリリースしてきた。ピークはおそらく2002年から2003年ぐらいだったのではないかと思う。ただこの頃は結構粗悪な製品も多く、実はZooma!でもレビュー用の貸出機で撮影しているうちに液晶モニタがもげて、記事にできなかったこともあった。CMOSは安かろう悪かろうというイメージが定着したのも、この頃の製品レベルが原因である。 しかしご存じのように、CMOSは今や次世代撮像素子として飛躍的に進歩した。もちろん高画質用のものは設計から全然違うものではあるが、印象の悪さは払拭された形である。さらには液晶モニタ、メモリの破壊的価格下落と条件が整ったことで、再びMP4カメラに注目が集まっている。 もう一つの要因は、アウトプット先ができたことである。YouTubeだ。従来のビデオカメラソリューションでは、動画を撮っても、誰に見せるのかといった点が解消できなかった。ビデオカメラが未だに子供撮り用途から脱却できないのは、「ジジイになった将来の自分に見せるため」という目的にしか帰着できていないからである。 しかしYouTubeの登場で、動画に対する価値観が大きく変化した。日本ではまるでテレビの見逃し対策サイトみたいなことになってしまっているが、米国ではアマチュアが撮影した面白動画が結構な比重を占める。自分撮りもいとわず、ちょっとしたアイデアやTips、ライフハック技などは、テキストで書くのではなく、動画でプレゼンテーションというスタイルが定着した。 これまでも俗に「YouTube画質」と呼ばれるMP4カメラは沢山あったが、ハイビジョン化するにあたって理由付けが持てなかったところがある。ところが昨年暮れにYouTubeが720pのハイビジョン動画対応となったことで、その理由ができた。今回発表されたMP4のハイビジョンカメラは、当然YouTubeへのアップロードを謳っている。
■ Kodakの720pカメラ
撮像素子は1/4.5インチ、1.6メガピクセルのCMOSで、レンズは単焦点。2倍のデジタルズームが付いている。128MBの内蔵メモリのほか、SDHCカードスロットを搭載。USB端子のほか、HDMI端子まで付いている。 記録はH.264のmovファイルで、フレームレートは30pと60pの切り替え、32GB SDHCカードに10時間以上のHDビデオが撮れる。静止画は3Mピクセル。
カラーはブラック、レッド、ピンク、ブルー、イエローの5色で、付属ソフトはArcSoftの「Media Impression」。発売は今年の春を予定、価格は149.95ドルとなっている。
■ Polaroidは1080pのMP4カメラ
MP4カメラは以前から720pモデル「DVC-00725F」は出していたが、今回は1080/30pの縦型モデル「DVG-1080P」を出展した。128MBの内蔵メモリ、SDHCカードスロットを搭載。 レンズは光学5倍ズームで、電子式手ぶれ補正も付いている。撮像素子の解像度は明らかになっていないが、静止画の解像度は5Mピクセルあるということから、手ぶれ補正領域も含めて6Mピクセル弱のものだろう。 また720pの縦型モデル「DVF-0720P」も展示されていた。内蔵64MBメモリとSDHCカードスロットを搭載。ズームは8倍電子ズームのみ。面白いのは、モーションセンサーを搭載しており、動くものを見つけると録画を開始する機能が搭載されている。価格、発売時期などは未定。
■ 既存シリーズも続々HD化
「EZ409HD」は、1080/30p撮影可能な小型モデル。電子手ぶれ補正搭載で、静止画は10メガピクセルとなっている。内蔵メモリは同じく2GBで、MicroSDカードスロット搭載。発売は7月~8月の予定で、価格は199ドル。
CREATIVEは、SDモデル「vado」のHDバージョン、「vado HD」を昨年暮れにリリースした。720/30pの映像を8GBの内蔵メモリに記録する。外部メモリスロットは持たず、USBコネクタを本体に内蔵、PCに直結するスタイルとなっている。ソニー機と同じく本体内にPC用ソフトウェアがビルトインされ、それを使って編集やYouTubeなどへのアップロードが可能。映像出力としてHDMIも装備。既に発売中で、価格は229.99ドル。
■ 「おもちゃ」であることがポイント? 日本でハイビジョンカメラというと1080/60iが必須ということになっているが、それは日本の放送がこのフォーマットを採用しているからである。しかしテレビというものを離れてITベースで考えれば、動画だけでディスプレイ面積全部を使ってしまうほどのピクセル数は必要ない。ましてやインターレースの映像をプログレッシブのディスプレイに突っ込む段階で、なんらかの無理が生じることになる。 それならばITベースのハイビジョンは、画像面積、ビットレートなどの面から考えても720/30pが妥当であり、これが新しいYouTube画質のスタンダードになっていく可能性を秘めている。今回取材した低価格MP4カメラは、多くが1080/30pと720/30pの切り替えが可能で、HDMI出力を装備するものも少なくない。出力先がテレビなのかネットなのかを、まだ決めかねている状況だと言える。
その一つの答えは、ソニーの新ハンディカムに見ることができる。例えば写真撮影では、露出やホワイトバランス、フォーカスなどは、その一瞬だけ正確であれば済む。しかし動画の場合は、撮影中に自分が移動する、被写体が動くなどして、どんどん状況が変化する。それに対して逆光補正の自動化、顔認識、完全な手ぶれ補正など、調整が必要なパラメータをシームレスに追従させ、何もしなくても、どんな環境下でも上手く撮れる、そこにお金を払うという考え方である。 現時点でのMP4カメラは、そこまでの機能はない。写真と同じく、環境が変化しない1ショットならば動画でも上手く撮れるが、通常のビデオカメラ的な撮り方だと、絵が曲がったりするのが現状だ。 ただ中期的に見れば、今のMP4カメラユーザーが、将来のビデオカメラ市場にとっての重要な顧客となる可能性もある。というのも、米国でMP4カメラを購入する中心層は、ティーンエイジャーだからである。若いうちから動画というものに慣れ親しんだ世代が、やがて就職して自由なお金を手に入れる頃には、もう一つ上のステップとして現在のビデオカメラ市場に流入してくることになる。消費者を育てるという観点で見れば、廉価なMP4カメラブームは悪いものではない。 一方日本の事情を振り返ってみると、おそらく3つの理由から、米国のようなYouTube連動型のMP4カメラ市場は形成できないだろうという気がしている。第一に現在日本のティーンエイジャーがもっとも興味があるのはケータイであり、ネットとはケータイサイトを指すという現状では、ハイビジョン動画をネット経由で共有・公開するというソリューションは必要とされない。 第二にネットの使い方の違いである。日本で今後大きなテーマとなるのは、いかにネット上で個人のアイデンティティをマスクする方法を教育していくか、ということである。中高生が自分の顔出しでネットに動画をアップロードなどということはあり得ないだろうし、今後のリテラシー教育でもあまり推奨されないだろう。 第三に日本のネットユーザーの気質の問題である。日本のネットユーザーに対して2ちゃんねるが与えた影響は少なくないが、その代表的なものは、「ツッコミ体質」である。何かのエントリーに対して、本題ではない些細な部分に観客としてボロカスにツッコむというのは誰もが大好きだが、反対に自分がボロカスにツッコまれるという事に関しては、誰も耐性がない。顔出しで動画を載せるなどは、一般人は相当の覚悟がなければ難しい。
意図的にムーブメントが阻止されるのではなく、自然発生的には米国のような市場は産まれない。なにか別の用途や仕掛けが必要になるだろう。
□International CESのホームページ(英文)
(2009年1月11日)
[Reported by 小寺信良]
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