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オーテクから「オープンエアの理想を究めた」約24万円のヘッドフォン

 オーディオテクニカは、オープンエアのハイエンドヘッドフォン「ATH-ADX5000」を11月10日に発売する。価格はオープンプライスで、店頭予想価格は24万円前後。日本製で、職人による手作業で組み立てられている。

オープンエアのハイエンドヘッドフォン「ATH-ADX5000」

 同社のオープンエアヘッドフォンラインナップは、ATH-AD2000XやATH-AD1000Xなど、AD(Air Dynamic)シリーズが存在するが、「ATH-ADX5000」はそれらを超えるトップエンドモデルと位置づけられている。

「ATH-ADX5000」

 ドライバは58mm径と大口径だが、サイズだけでなく形状に特徴がある。一般的なヘッドフォンは、ドライバの前にバッフルがあり、背後にはクランパーがあり……と、パーツを組み合わせて作られるが、ADX5000のドライバは、バッフルと一体型になっている。こうする事で、パーツ構成を絞込み、不要な音の歪みを極限まで抑えられたという。

通常のヘッドフォンのパーツ構成は下の段のようなものだが、ADX5000はバッフル一体型ドライバを採用する事で、パーツが減っている
バッフル一体型ドライバのカットモデル
タングステンコーティング振動板を採用

 磁気回路には、高磁束密度のパーメンジュール磁気回路を使っており、音の純度を保持したまま、レスポンスを向上させるタングステンコーティング振動板へと伝送。磁力が本来持つエネルギーをロス無く伝えられるという。

 ドライバの位置にもこだわっている。性能を発揮するために、バッフルダンパーとイヤーパッドの位置関係を見直し、耳からハウジングまでの音響空間を2分の1に仕切る位置にボイスコイルを配置するような構造になっている。この「コアマウントテクノロジー」により、音源に対して極めて自然な音場と、抜けの良い音を実現できるとする。

 ハウジング部分はメッシュで、ハニカム構造になっており、開口率を高めている。アルミニウムをベースとしており、日本の職人の手によるプレス技術が用いられている。シリアルナンバーも刻印されている。

シリアルナンバーも刻印されている

 装着面の特徴は、オーディオテクニカのヘッドフォンで多く搭載している「3Dウイングサポート」を使っていない事。最適な側圧を目指して調整し、耳を優しく包み込むフィット感を実現。イヤーパッドやヘッドバンドには、肌触りがよく、通気性と耐久性に優れるイタリア製アルカンターラを使っている。

横から見たところ
イヤーパッドやヘッドバンドには、肌触りがよく、通気性と耐久性に優れたアルカンターラを使っている

 フレームやアームは薄く軽く、剛性の高いマグネシウムを使っており、こうした素材を組み合わせる事で、大型のヘッドフォンながら重量は270gと軽量に仕上がっている。

 ケーブルは着脱可能で、独自のA2DCコネクタを採用。左右両出しとなる。付属のケーブルは左右独立4芯構造の3mタイプで、導体は6N-OFCとOFCを組み合わせたハイブリッド。プラグにはステンレスを使っている。入力端子は標準プラグで金メッキ仕上げ。

付属ケーブルは標準プラグのアンバランス

 なお、別売でバランス接続用のケーブル「AT-B1XA/3.0」も発売する。価格はオープンプライスで、店頭予想価格は4万円前後。ヘッドフォン側の端子はA2DC、入力プラグはNeutrik製のXLR端子を使っている。導体は6N-OFC+OFC。長さは3m。

付属ケーブルの入力端子は標準プラグで金メッキ仕上げ
バランス接続用のケーブル「AT-B1XA/3.0」
「AT-B1XA/3.0」のA2DC端子

 ヘッドフォンにはハードケースも付属する。出力音圧レベルは100dB/mW。再生周波数帯域は5Hz~50kHz。最大入力は1,000mW。インピーダンスは420Ω。

ハードケースも付属

 広報宣伝課の松永貴之マネージャーは、オーディオのアクセサリの1つという扱いだった頃から、開放型のヘッドフォンに取り組んできたオーディオテクニカの歴史を振り返りながら、「開放型のヘッドフォンには、それに適した、開放型向けのドライバが必要という考えのもと、様々な技術を開発してきた」と説明。

広報宣伝課の松永貴之マネージャー

 設計技術、知識、アイデア、最先端素材、それらを活用するノウハウの蓄積。こうした経験を重ねる中で、「それらをあますところなく投入した、最高のヘッドフォンを作りたいという想いもずっと持っていた。その想いが結集したのがADX5000」と紹介。

 「目指した音は、何も足さない、何も引かない、原音再生。理想の音を求めて素材や加工、全て一から開発した。高レスポンスでありながら、レンジが広い高音質を実現した。しかし、それだけでは足りない。その音をいかに人の耳に届けるかも重要」とし、ドライバの理想的な配置も追求した「コアマウントテクノロジー」を紹介した。

 なお、製品はすべて成瀬にあるオーディオテクニカで、熟練の社員によるハンドメイドで作られているという。

音を聴いてみる

 短時間ではあるが、発表会で音を聴く事ができたので印象をレポートしたい。なお、別売のバランス接続用ケーブル「AT-B1XA/3.0」を使った試聴となる。

 まず装着して驚くのは、58mm径ユニット搭載の大型ヘッドフォンながら、270gと非常に軽い事。ハイエンドヘッドフォンながら、軽やかなつけ心地で、快適だ。側圧もソフトで、長時間使っていても負担が少なそうだ。

 軽さとは裏腹に、出て来る音は“重厚かつハイスピード”だ。開放型だけあり、音場はどこまでも広く、音が広がる範囲に制約は一切感じられない。バランスも良好で、低域も開放型とは思えないほどしっかりと低く重い音が出る。ハイエンドモデルらしい貫禄だ。

 面白いのは、トランジェントの良いハイスピードな音でありながら、音の1つ1つが“軽くない“事だ。昨今のハイエンドヘッドフォンは、軽量で高剛性な素材の振動板を使って、トランジェントの良い、音がズバッと出て、スッと消えるハイスピードサウンドに進化する傾向がある。ADX5000もその流れにある。

 しかし、ADX5000の場合は、音の1つ1つが自然で実在感があり、良い意味で重厚だ。「軽くてスカスカした音がキビキビと出てくる」のではなく、「リアリティのあるドッシリとした音が、キビキビと出てくる」のだ。今まで聴いた事がない音で、驚かされる。

 タングステンコーティングされた振動板は、剛性が高いのだが、タングステンは金属として“すごく軽い素材”というわけではない。だが、組み合わせる磁気回路が、1テスラ以上という高磁束密度のパーメンジュール磁気回路であり、駆動力が非常に高いため、その振動板をしっかりと駆動できているのが感じられる。

 これにより、重厚なサウンドなのに、モワモワ、ボワボワ、といった”もたついた”部分が一切無い、ストレートで自然なサウンドが実現できている。オープンエアヘッドフォンの新たな世界を感じさせてくれるサウンドは、ヘッドフォンファン必聴の完成度だ。