B-CASに変わる新方式導入へ。早期運用開始を目指す

-ソフトウェアなど「仕様開示方式」。B-CASは併存


4月22日発表


 総務相の諮問機関である情報通信審議会は22日、「デジタル・コンテンツの流通の促進等に関する検討委員会第51回」を開催。地上デジタル放送の著作権保護方式の見直しについて、新方式の導入を原則とし、早期の運用開始を目指す方針が報告された。

 2008年6月の情報通信審議会第5次中間答申において、地上デジタル放送のコピー制御やエンフォースメント(実効性の担保)について見直しを継続する方針が示されており、同委員会ではこの方針に基づき、現在のB-CASの「カード方式」の見直しを進めてきた。

 今回、同委員会の技術検討ワーキンググループ(WG)における中間報告が行なわれ、コンテンツ保護方式について、チップ化やソフトウェア化のための技術仕様を開示する方式で検討を進めることを提案した。

 委員会の主査を務める、慶応義塾大学の村井純教授は、「特定の結論に達したという段階ではないが、議論は進歩している。方向性は見えてきた」とし、「基本的な考え方は関係者間では相違ない。WGの中でコンセンサスをまとめ、(6月の第6次)中間報告にどう報告ができるか考えないといけない。残された時間の中で最大の努力をしていきたい」と言及した。


■ 仕様開示方式を前提に、ライセンス管理会社などの詳細を検討

 委員会の事務局から中間報告が行なわれた。前々回の委員会までは、新方式についてチップ方式、ソフトウェア方式としてそれぞれ異なる仕組みとして提案されていたが、保護方式を“開示”し、ライセンス発行/管理機関により、ルールを順守する機器メーカーや半導体メーカーなどに提供するという点で共通している。

 そのため、「基本的にソフトかチップかというのは、実装や商品企画の問題。そのため区分をやめた。この“開示方式”でいくということについてはおおむねコンセンサス(同意)が得られている」とする。

 なお、新方式の導入については、基本的に「基幹放送である地上デジタル放送向け」とし、すでに約5,000万台の機器が普及しているB-CAS方式も存続を前提する。新方式は新たな選択肢として位置づける。

仕様開示方式の
基本的な考え
コンテンツ保護にかかわるルールを順守する者の全てに対し、「コンテンツ保護に係る技術仕様」の開示を制限しない
概要備考課題鍵の管理者
・ライセンス発行・管理機関は、コンテンツ保護にかかわるルール遵守を約する受信機メーカーやチップメーカーなどに対し、コンテンツ保護機能にかかわる仕様を開示
・受信機メーカーは仕様に沿った機能をソフトウェア化あるいはチップ化したものを受信機に搭載して出荷
・視聴者は、購入した受信機で、アンテナ接続やチャンネル設定などを行なえば、そのまま視聴可能
・商品企画の自由度向上
・視聴のための、カード挿入が不要
・カード貸与ではないため、視聴者が認知し、理解する必要のある事項は軽減
・コンテンツ保護に係わるルール遵守を約するすべての受信機メーカーに対して、受信機製造上必要な仕様が開示されていることから、技術的透明性が向上
・ライセンス発行管理機関、チップの製造者、受信機メーカー関係者の間で、目的やスキームに応じた技術方式や、それぞれの役割、役割に応じた責任などについて検討が必要必要

 ライセンスの開示については、「ルールを順守するという約束をした人、会社に対しては分け隔てなく、技術仕様を開示する」という。運用については基幹放送であるという地デジ放送の特性から、善意の視聴者に対し、影響を与えるような運用を行なわないよう確認するとしている。

新方式におけるライセンス発行・管理機関の全体相関図(委員会配布資料)

 新方式において、新たにライセンス発行/管理機関の設定が必要となる。技術WGでは「放送波の暗号化が前提のため、発行機関は必要になる」としており、可能な限り透明性が確保できることを条件に、株式会社ではなく非営利法人としての設置を検討しているという。

 また、不正に鍵を入手し、受信機を販売するなどのケースについては、不正競争防止法や著作権法などの現行法の活用の実効性を確認するほか、補完的制度の制度の必要性も含めて、検討を行なう。

 現在、技術WGでは新方式の導入を前提に議論。その技術方式や、受信機メーカーや放送局などの間で役割や責任応分について、検討しているという。

 技術方式においては、ユーザーの利便性向上や、コンテンツ保護のエンフォースメントの実効性確認、既存方式との整合性などについて議論が続いているという。

 技術方式については、3重鍵方式の導入を予定しており、放送波、受信機、鍵を運ぶためのコンテナの3種類の鍵を使う見込みという。既存機器との互換性を確保しながら、有料放送にも影響を与えないということに留意。新方式のためのコストも最小限化するよう検討する。

 具体的なプロセスについては、新しい「仕様開示方式」について、最低限必要な要件をまずは整理し、その要件に基づき技術方式を策定する。要件に対して、合致する技術を公募するなどし、規格を固めていく方針。また、技術の策定に並行してライセンス機関の在り方も検討を続けていく。

 B-CASカード方式も併存することになるが、「小型化、事前実装については民民(民間の契約)でそれぞれが進めていけばいいのではないか」と説明。すでにARIB(社団法人 電波産業会)において、カードの小型規格化が完了している。


■ 早期導入に向けて、検討課題を確認

 村井主査は、「技術要件や組織の役割分担の基本的な考え方は整理されてきた。しかし、動かしていくには技術的に作業は多く、ライセンス機関をどう機能させるかについても整理が必要」と述べ、委員に意見を求めた。

 消費者団体の代表からは、「“選択肢拡大”、“透明性”と言い続けているが、選択肢を作るだけのことがなぜ合意できないか。B-CASというシステムの疑念は残るし、抵抗が強いのかと思う(河村委員)」と言及。また、別の委員からも「透明性が重要。そもそも論では、TVになんで技術的な制約をという点もあるのだけれど、地デジ移行になんとか協力していただくためにも自由な製品が必要。B-CASが必要ない仕組みを早く実現したい。なんとか地デジに協力しようという製品が出てこない。早く、新しい、シンプルで使い勝手が良くて、ニーズにあうようなものが出てきてほしい。あとはやるべきプロセスをパッパと進めていただいて、どれくらいに実現するというのを示してほしい。いまのままだと、ますます買い替えを“待つ”ことになる(長田委員)」とした。

 権利者団体の代表からは、「権利者は不便がいい、と思っているわけではない。新しい方式に反対する理由はない。利便性はすごく重要なファクターで、技術WGでもその点に留意してほしい。一方、ネットコンテンツにおける不正利用は拡大している。コンテンツ大国、市場拡大を掲げる政府において、有効なコンテンツ保護に対する常識的な配慮をお願いしたい。コンテンツ制作へのお金の流れが縮小している。そういう時期だからこそ、保護されることが製作のインセンティブ、原動力になると再認識していただいたうえで、この問題を考えていただきたい(椎名委員)」とした。

 また、堀委員は「(方式は)どちらでもいい。権利者がB-CASじゃなきゃダメとか、スクランブルが必要なんて言っていない。こだわっていない。技術エンフォースメントについては範疇外です。村井先生をはじめとし、国益になる、コンテンツ大国になるべき技術を決めればいい。コンテンツ保護という点では、最近テレビ各局が画面の右上にマークを入れるようになったが、このマークが入っているものは“動画サイトに挙げじゃいけないよ”といった啓蒙活動もやってほしいし、サイトの運営側にも“マークが入っていればアップできない”というな技術エンフォースメントもやっていただきたい」と訴えた。

 「何が合意できていないか知りたい。早期の実現を目指して何が足りないのか(浅野委員)」といった、具体的な課題と実施時期についての言及を求める声も上がったが、村井主査は「全く新しい技術なので、どういうタイムラインで、どこまでできるかを検討しなければならない」と説明。

 機器メーカーからは、「WGでは真摯に検討をしている。技術の公開性、運用のオペレーション、透明性に一定の方向性ができた。商品企画の自由度を上げるために一刻も早く導入したいという点はメーカーも一緒。大前提で議論してきたつもり。あと具体的には技術の中身と要件。ほぼ出そろってきたが、透明性が求められる契約の母体はどうするか。これは実行あるのみ。どうやって整理して、あとは民民でやれるというところまではやく持っていきたい。一刻も早く運用開始する。それに異存はない(田胡委員)」とした。

 村井主査は、「稚拙なアイデアで仕組みを作ると、消費者への負担がかかる。そのあたりも技術WGでは丁寧に議論している。中間報告になにができるか、どういう報告ができるかも考えないといけない。そもそも地デジの議論をしているわけで、2011年(アナログ停波時期)もタイミング。タイミング感を含めて答申に向けての議論を進めていく。みなさんからいただいた早期取りまとめの強い要望を技術WGにいれていく。残された時間は限られているが、基本的な考え方は関係者間では相違ない。前進して、WGの中でコンセンサスをまとめ、最大の努力をしていきたい」とした。


(2009年 4月 22日)

[AV Watch編集部 臼田勤哉]