シャープ、コントラスト1.6倍の新液晶パネル技術「UV2A」

-応答速度2倍で3Dテレビにも対応。20%の省エネも


9月16日発表


 シャープ株式会社は16日、液晶パネルのコントラストや応答速度を向上させる世界初の光配向技術「UV2A技術」を開発し、液晶テレビに採用すると発表した。堺新工場の10月稼動時に全面的に採用されるほか、亀山第2工場の生産ラインにも秋から順次導入される。

堺工場と亀山工場で順次導入される

 特徴は、従来のASVパネルに比べ1.6倍となる5,000:1の高コントラスト化を実現することで、沈み込んだ黒を表現できる点や、開口率を従来比で20%アップさせ、光利用効率を高めて省エネを実現した点など。

 さらに、従来比2倍の応答速度4ms以下とし、今後製品化が見込まれる次世代3Dテレビにも対応可能としている。そのほか、パネル構造をシンプル化したことで生産効率も向上するという。

 同パネルを採用したテレビの発売時期については改めて発表される予定。同社海外工場への導入や、パネルの外販についても順次行なうとしている。


UV2A技術の概要大きく4点の性能を改善している環境性能、高画質、高生産性の次世代テレビ用液晶パネルを実現するとしている

 UV2A(ユーブイツーエー/UltraViolet induced multi-domain Vertical Alignment)技術は、紫外線によって反応する特殊な材料を配向膜に採用し、照射方向によって液晶分子の並びを高精度に制御するもの。学会レベルでは発表されていた技術だが、液晶パネルとしての開発と量産化に世界で初めて成功。「30年来不可能だったものを可能とした」としている。

 同社のASV液晶を含む従来品に比べリブ/スリットを大幅に削減。開口率を20%向上させたことで、液晶テレビで最も電力を使うバックライトの消費電力を抑えられるため、約20%の消費電力低減が見込まれるという。リブやスリットに起因する光漏れを抑えたことでコントラスト(パネルのスタティックコントラスト)従来比1.6倍以上となる5,000:1以上とした。

 高分子薄膜に光を照射し、照射方向によって、液晶分子の傾きを微小領域ごとに異なる方向にすることが可能。液晶分子(2ナノメートル)の配向精度は±20ピコメートル。微小なパターニングを容易に行なえるとし、面で配向を制御することにより、従来のリブ・スリット法に比べパターンに制約が無く、垂直/水平配向の制約も無いことを特徴としている。

光配向技術で、精密かつ均一な配向制御を実現ASVパネルとの比較。リブ/スリットレスで開口率が向上している黒表示の場合、光漏れがなくより締まった黒を表現

 応答速度の性能については、全ての液晶分子に配向規制力を付与することで、従来の“ドミノ倒し的”な伝播応答に比べ2倍の4ms以下という俊敏な応答を可能にした。これにより、今後製品化が見込まれるの3Dテレビにおいて必要とされる高速応答性もカバーするという。

応答速度の比較。黒→白への変化で、従来方式(右)は周辺から次第に白くなるのに対し、新技術では全体的に均一な変化を実現している従来技術とイメージ図で比較

 生産効率面では、リブ/スリットレスによりパネル構造をシンプルにしたことで、従来方式(MVA)の「レジスト塗布→露光→現像」というリブ作成工程を省き、配向膜材料の塗布後に露光して貼り合わせるという生産プロセスの簡略化を実現。

従来方式の特徴生産プロセスの簡略化に大きく貢献している
発表会場では40型パネルを用いたデモも行なわれた。写真では伝わりづらいが、夜景のシーンなどでは、明らかに新方式(右側)において黒が締まっていることが確認できた


■ 「液晶の新世代」。3Dテレビは「市場の要求で対応」

デバイス事業担当の井淵良明副社長

 開発背景について、デバイス事業担当の井淵良明副社長は、「高い輝度やコントラスト、広視野角の特性を同時に実現したASV液晶は、2001年のAQUOSでデビューし、デジタル放送時代にふさわしいテレビ市場を開拓、牽引してきた。一方、昨今の環境性能への関心の高まりという時代の要請にこたえるには従来と次元の異なる進化が必要」とする。

 新パネルについては、「技術者たちが液晶分子の気持ちになって考えた技術」と強い思い入れを表し、「テレビ技術の歴史に残る技術を開発し、シャープの液晶が変わる」と宣言した。


研究開発本部長の水嶋繁光常務執行役員

 研究開発本部長の水嶋繁光常務執行役員は、堺工場での第10世代マザーガラス採用に触れ「まさしく10世代にふさわしい新しい技術」と説明。「全く新しい分子構造の光配向膜材料」と、「従来に無い斜め露光装置」、「全く新しい配向プロセス(前後プロセス)」の3つのブレイクスルーで実現したとする。

 「これまで30年以上取り組んできた夢の技術」という水嶋氏は「この技術は液晶パネルをGeneration Changeするコア・コンピタンスとなる基本技術。これからますます進化する」と自信を見せた。

 なお、同社での3Dテレビの商品化についての質問には「開発は他社に遅れること無くやっている。しかし3Dにはまだ技術課題がたくさんあるので見せていない。市場が要求したら、商品化はすぐにでもしたい」(井淵副社長)と答えた。


これまでの同社液晶テレビの進化「液晶技術者達の30年の夢」とする「第10世代」で新ステージを目指す


(2009年 9月 16日)

[AV Watch編集部 中林暁]