BCN「タイ洪水のデジタル家電への影響は震災以上も」

-TV年末商戦は9割減。iPhone 4Sでドコモのシェア半減


BCNの道越一郎アナリスト

 BCNは10日、タイ洪水被害がデジタル家電市場に与える影響や、テレビなどの年末商戦の動向などについての分析と予測を行なった。

 タイで続いている洪水被害の影響で、特にHDDやデジタルカメラ、プリンタといった製品の生産に影響が出ている。BCNの道越一郎アナリストは、その規模について「現地では工場丸ごと被災しているほか、HDDという中心的デバイスが影響を受けていることから、東日本大震災以上のダメージになる恐れもある。メーカーへの取材では、半年くらい影響すると考えている人が多い」とした。

 また、7月24日のデジタル放送移行後(被災3県除く)の薄型テレビ市場については、エコポイントの駆け込み需要があった2010年に比べ、大幅に縮小する見込みとし、11月は前年比で80~90%減少すると予測。テレビの落ち込みなどで、年末商戦全体では60~70%減の恐れがあると見ている。


BCN指数でみたデジタル家電全体の販売動向

 一方、好調なジャンルとしてはiPhone 4Sの複数キャリア展開やAndroid端末のラインナップ増加などを受けたスマートフォンの拡大や、ミラーレス一眼デジタルカメラのシェア拡大などが挙げられた。

 BCNの市場分析は、家電量販店など全国23社、2,354店舗(2011年10月現在)のPOSデータを集計したBCNのデータをもとに行なっている。Amazonなどを中心としたネット店舗のデータも加味した形で前年同月比を算出。メーカー直販店の売上は含まれない。発表データ内の金額は全て税抜きとなる。



■ タイ洪水の影響がHDDを中心に拡大

HDDの需給バランスが10月から崩れ始めたという

 HDDは、世界の6割をタイで生産しているといわれている。BCNのデータによれば、国内では10月10日の週から需給バランスが崩れ、価格が高騰。2.5TB以上のモデルの場合、10月末時点でには8月1日週の1.5倍以上に値上がりしている。

 デジタルカメラは、ニコンの一眼レフやソニーのミラーレスの工場が被害を受けていることなどから、年末商戦への影響を指摘。道越氏は「回復のメドも読みづらく、春くらいまで引っ張るのではという声も聞く。工場のセットアップは来年過ぎになることが懸念される」とした。

 パソコンについては、メーカーのHDD在庫が薄くなるという12月頃から影響が出始めると見ている。市場全体ではタブレット端末の拡大などで需要の吸収も期待できるとし、年末商戦では前年比10%減程度と予測している。そのほか、プリンタについても「最大の商戦期である年末には間に合わないだろう」(道越氏)とした。



■ テレビは前年比8~9割減。レコーダも下落続く

薄型テレビの販売台数/金額の推移

 薄型テレビは、'10年末や'11年7月の駆け込み需要の反動から、8月以降に前年割れが続いている。10月も販売台数/金額ともに前年比マイナスで、台数が28.4%、金額は19.2%となった。特に40型以上が台数/金額ともに大きく減少。単価下落も続き、最も下落率が高いのは売上台数の4割を占める30型台となっている。

 メーカー別台数シェアは、シャープが拡大基調を続け、10月は42.6%となった。これに東芝(18.0%)、パナソニック(17.4%)、ソニー(11.0%)が続いている。

 30型未満/30型台/40型以上に分けてメーカーシェアをみても、全てシャープが首位。同社はいずれのサイズ帯も平均単価が比較的低くなっている。


画面サイズ帯別の台数/金額前年同月比30型台の単価が特に大きく下落しているメーカー別ではシャープのシェアが増加傾向


レコーダの販売台数/金額の推移

 昨年のテレビ販売増に合わせて伸びていたレコーダも、8月からは前年割れが続き、10月は台数が68.5%、金額が51.5%となった。平均単価は5万円を割り込み、'08年の調査以来最も低い水準が続いている。

 メーカー別で見るとトップシェアは昨年首位のシャープを上回ったパナソニック。同社は平均単価でみると東芝に続く高水準だが、シェアを上げた要因の一つとして道越氏は「各メーカーの録画テレビ(USB録画含む)が自社レコーダの売上を奪っているのでは」との見方を示し、台数比率では録画対応モデルの割合が高いソニーとシャープに比べ、録画モデルの割合が低いパナソニックがシェアを伸ばしているとした。

 レコーダの年末商戦については、タイ洪水でHDD品薄の影響が徐々に出てくると見られ、前年比50~60%減になると予測している。

 道越氏は、テレビとレコーダの大幅な売上減少について「急に売れなくなったわけではないが、(エコポイント駆け込みのあった)昨年に比べるとあまりに小さく見える。ただ、テレビの単価下落は止まっておらず、まだ底を打ったとは言えない状況だろう」とした。

平均単価は5万円を割り込んでいる10月はパナソニックがメーカーシェア首位に「録画テレビが自社レコーダの売上を奪っている」と分析


■ スマートフォンはiPhone 4Sでソフトバンク/auがシェア大幅増

スマートフォンやPCなどについて説明した森英二アナリスト

 スマートフォンの販売台数構成比は、10月に携帯電話全体の7割に到達した。

 直近の話題はiPhone 4S発売によるソフトバンクとauのシェア拡大。10月のキャリア別販売台数シェアはソフトバンクが37.4%、auが36.1%と拮抗する一方、9月に56.9%を占めていたNTTドコモは10月に25.0%まで大きく落ち込んだ。

 10月のメーカー別の台数シェアでも、アップルが59.6%と他社を大きくリード。初めてiPhoneが複数キャリアから発売されたこともあり、シェアはキャリア/メーカーともに9月の状態から一変した。販売台数の初速をみても、iPhone 3G/3GS/4に比べて早い立ち上がりを見せている。

 iPhone 4Sにおけるソフトバンク/auの割合はソフトバンクが53.0%、auが47.0%とソフトバンクがやや上回っている。メモリ容量は、16GB/32GB/64GBがほぼ同等の割合だが、auは32GBが40%と、若干高い割合を示している。


iPhone 4S発売前後でキャリアのシェアが大きく変わったメーカーシェアでもアップルが首位に縦軸がメーカーシェア、横軸がキャリアシェア。左のグラフが9月、右が10月。灰色で示されているのがiPhone


ミラーレスは増加傾向、一眼レフは前年割れが続く

 デジタルカメラは、増加傾向のミラーレスに対し、一眼レフは大きく前年を割り込んでいる。メーカー別では、震災の影響から回復したキヤノンがコンパクト/一眼レフともに首位となった。

 レンズ交換型はメーカー別で見るとキヤノンとニコンの2強が首位を争っているが、マウント別で見ると、キヤノンEFマウント、ニコンFマウントのほかにパナソニック/オリンパスのマイクロフォーサーズ陣営が7月より上昇。これら3強の争いとなっている。

 ミラーレス一眼(ユニット交換型/レンジファインダー型を含む)のメーカーシェアはオリンパスの首位が続いている。現在、同社は損失隠し問題が取り沙汰されているが、「株価が大きく下落した10月14日の前と後では、シェア(デジタルカメラ全体)は10.7%から10.0%と1ポイント弱しか下がっていない。現時点では製品に大きな影響は出ていない」(道越氏)としている。

 ミラーレスはレンズ交換型の構成比が台数42.9%、金額33.6%まで上昇。また、フルHD動画対応モデルがHD対応モデルを7月に逆転して上回っていることから「ミラーレスが今後もデジタルカメラの市場を牽引し、動画撮影製品としても市場を作りつつあるのでは」(道越氏)とした。


マウント別のシェア状況一眼レフはキヤノン、ミラーレスはオリンパスが首位ミラーレスの6割以上がフルHD動画撮影対応


(2011年 11月 10日)

[AV Watch編集部 中林暁]